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♦一度目
1.音楽が導いた先
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塩気と湿り気を帯びた夏の空気が肌にじっとりとまとわりつく。
ついこの間まで冬だったから、まだ体が慣れない。
「こんな時間に?」
疲れているのかと思いつつ、イルハは耳を澄ました。
波の音に紛れて、どこからか聞き慣れぬ楽器の音色と若い女性の歌声が流れて来る。
どうも幻聴ではなさそうだと思ったイルハは、声を辿りながら歩みを進めた。
少しすれば、ふ頭に並ぶ沢山の船と、石積みの倉庫に挟まれた道の真ん中に、人だかりが見えて来る。
シャラシャラと遠くまでよく響く音色と、美しく紡がれたソプラノの歌声。
体で感じる波音と潮風はそれまでにない心地の好いものへとたちまちに変化した。
同時になぜか思い出された、大切な記憶。幼少期に確かに見たはずの懐かしい情景。
どこまでも続く星空に向かって、奏でる音が調和しては舞い上がる。
すべてがそこに存在しているようで、何もないような、不思議な感覚。
確かにひととき、イルハは歩みを止めて音楽に聴き入った。
そんな自分を恥じながら、さらに近付いて言う。
「ここで何をしているのですか?」
すぐに音が止んだ。そのせいか、急に波音が大きく感じられる。
とても勿体ないことをしたように感じていても、イルハはそうせざるを得ない。
振り返った男たちは、慌てて背筋を伸ばし、敬礼をした。
あろうことか、集まっていたのは警備兵である。
月明かりは弱く、ふ頭は街頭も少ないために、近付かなければ容易に顔は確認出来なかったが、その堅い声色で誰がいるかすぐに分かったのだろう。
「わ、我々は、警備中に通りかかりまして……。この者を、たった今、注意しようとしていたところであります!」
彼らのうちの一人が、震えるようなか細い声で話し出し、最後はなかば叫ぶように大きな声で言った。
イルハは彼らをきつく睨み付けてから、少しのため息を漏らす。
「私が対応しましょう。あなたたちは仕事に戻りなさい」
「は!」
頭を下げてから、警備兵たちは逃げるように去っていった。
ついこの間まで冬だったから、まだ体が慣れない。
「こんな時間に?」
疲れているのかと思いつつ、イルハは耳を澄ました。
波の音に紛れて、どこからか聞き慣れぬ楽器の音色と若い女性の歌声が流れて来る。
どうも幻聴ではなさそうだと思ったイルハは、声を辿りながら歩みを進めた。
少しすれば、ふ頭に並ぶ沢山の船と、石積みの倉庫に挟まれた道の真ん中に、人だかりが見えて来る。
シャラシャラと遠くまでよく響く音色と、美しく紡がれたソプラノの歌声。
体で感じる波音と潮風はそれまでにない心地の好いものへとたちまちに変化した。
同時になぜか思い出された、大切な記憶。幼少期に確かに見たはずの懐かしい情景。
どこまでも続く星空に向かって、奏でる音が調和しては舞い上がる。
すべてがそこに存在しているようで、何もないような、不思議な感覚。
確かにひととき、イルハは歩みを止めて音楽に聴き入った。
そんな自分を恥じながら、さらに近付いて言う。
「ここで何をしているのですか?」
すぐに音が止んだ。そのせいか、急に波音が大きく感じられる。
とても勿体ないことをしたように感じていても、イルハはそうせざるを得ない。
振り返った男たちは、慌てて背筋を伸ばし、敬礼をした。
あろうことか、集まっていたのは警備兵である。
月明かりは弱く、ふ頭は街頭も少ないために、近付かなければ容易に顔は確認出来なかったが、その堅い声色で誰がいるかすぐに分かったのだろう。
「わ、我々は、警備中に通りかかりまして……。この者を、たった今、注意しようとしていたところであります!」
彼らのうちの一人が、震えるようなか細い声で話し出し、最後はなかば叫ぶように大きな声で言った。
イルハは彼らをきつく睨み付けてから、少しのため息を漏らす。
「私が対応しましょう。あなたたちは仕事に戻りなさい」
「は!」
頭を下げてから、警備兵たちは逃げるように去っていった。
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