国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

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♦一度目

7.手厚いもてなし

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「一人でも平気だよ」

 シーラは子どものように口を尖らせ、初めて不満気な顔を見せた。
 本気で怒っているわけではないが、一人前の旅人としては心外だというように。

 これを受けてもイルハの淡々とした態度は何も変わらず、リタとオルヴェはまた顔を合わせ今度はそれぞれに頷いた。

「この国には沢山の法があります。あなたはいつ法に触れて、警備兵に連行されるか分かりません。そうすると私の仕事が増えてしまいますから、王宮には必ずリタと共に来てください」

「そんなに沢山の法があるの?」

「法で守られている国ですからね。厳しい法があるからこそ、皆が安心して暮らしていけるというものです」

「ちょっと厳し過ぎるところはあるがね」

 オルヴェは軽快に笑い、ブランデーを煽った。すっかり寛いでいて、使用人らしさはない。

「シーラちゃんには、居心地が悪い国じゃないかしら?」

「まだ来たばかりだから、この国のことは分からないよ」

「せっかく来てくれたんだもの。居心地良く感じて欲しいわ。ねぇ、坊ちゃま」

「今はとても居心地がいいよ。リタもオルヴェも素敵な人だから!」

 取って付け加えたように、シーラは続けた。

「イルハも素敵だよ!」

「それはどうも」

 素っ気なく返したイルハを、オルヴェとリタが温かい眼差しで見詰めている。それがイルハにはとても居心地が悪かった。

「食べ終わったら、お湯を使ってね、シーラちゃん。お着替えも用意しておくわ。坊ちゃま、奥様のお洋服を使っても?」

「そうですね。少し大きいかもしれませんが」

「奥様って?もしかしてイルハの奥さん?」

「いえ、私の母のことです」

「お母さんの服!そんな大事な服は着られないよ」

「誰も使っていませんから、構いませんよ」

「私はすぐに服を汚すんだ!そうしたら困るでしょう?」

「汚しても構いませんよ」

「いいよ。着替えなら船から取って来るから!」

「未成年のあなたにこれから外出されては私が困りますね」

「でも」

「本当にいいんですよ、シーラ。そろそろ処分しようと考えていましたから、存分に汚してください」

 イルハは果実酒を口に含み、さらりと言った。
 シーラに酒を提供しないと宣言していたのに、気遣いを忘れ、リタが用意した酒をいつも通り飲んでいるくらいには、イルハも自宅に戻ったことで気が抜けている。

「最後にあなたに使って頂けたと知れば、母も喜ぶでしょう」

 シーラは困った顔をしていたけれど、やがて「そういうことなら、有難く」とこれを受け入れた。
 何故かイルハが、この場で最も満足そうに頷いている。


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