国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

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♦一度目

18.誰にでも欠点があるもので

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 山奥にひっそりと佇むような、可憐な小屋の外観から、どうしてこれを想像出来ただろう。

「全部見ていくのでしょう?まずはこの部屋からどうぞ!」

 シーラが何の躊躇もなく、その小屋の中へと続く木製の扉を開けた瞬間。

 …………。


 まず誰も予想していなかった臭いが漂い、おかしさを覚えながら部屋の中を覗き込んだ一同は揃って絶句することになった。


 扉の密閉具合が素晴らしい点は褒められるだろうか。
 この場で二番目に若手の役人が、一時匂いを完全に封じ込める扉の技巧に称賛を送っていたのは、完全に現実逃避だ。


 こういった場合、誰が動くべきかは明白である。

 一番若手の役人は意を決し、袖で鼻を隠しながら部屋の中に足を踏み入れた。
 だが、足はそう進まない。というより、進められなかった。


 まず小屋の床の様子が見えない。

 扉の近くの床には、紙や布などが散乱し、空いた缶詰の容器がいくつも転げていた。不快な臭いの元は、まずこれだろう。

 壁際に視線を移せば、積まれた木箱に気付くも、酒の空き瓶が無造作に投げ入れられていて、そこから溢れた瓶もまた床へと転がっている。
 先陣を切った彼が、足元に細心の注意を払わねばと心に刻んだのは、欠けた瓶とその破片を視界の端に捉えたからだった。航海中の揺れで豪快に割れたと思われる。



 しばし現実逃避に身を浸していた下から二番手の役人も続き部屋に入った。
 彼はまず、左手の壁際を見ては絶句する。
 
 元から机が備えてあるのだが、その上は床に劣らず惨憺たる状況だった。
 空いた缶詰の容器や本が積み重なっていて、机としてはとても使える状態にはない。

 机の前の壁には大きな地図が貼ってあり、遠目から見てもこれがかなり古いものだと認識出来た。
 今は亡き国の名が堂々と記載されていたからである。
 まだこれを使っているのだろうか、それとも放置しているだけか。後者だろうな、とこの役人は予測した。

 この彼はまた、机の前に何か積み上がったものがあることには気付いていたが、それが床に固定された丸椅子だと気付くまでには相当な時間を要した。
 椅子の上にも、器用にも本が積み重なっていたからである。
 これはどうして、航海中に倒れなかったのだろう。それとも一部倒れ、残った分がこの量か。

 周囲にも書の山が出来ていて、よく見れば、机の隣に本棚があることも分かった。
 しかしその本棚も、床に高く積み重なった本によって全貌は隠されている。棚の高い位置が覗いているから、そこに棚があるのだな、と分かった程度だ。


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