20 / 349
♦一度目
19.まだ彼は知らない
しおりを挟む
残る三名の役人たちは甲板の上から動こうとしなかった。
すでに見たマストを囲むように立ち、やたらと念入りに建付け具合などを確認している。
イルハもまたしばし扉の外から小屋の内部を窺っていたが、そこには彼ら三人と共通した思惑は存在していなかった。
ただ単に、広くない小屋の床がこの惨状では、大の男が何人も入ることが憚れたのだ。
さすれば、小屋内にいた若手二人は見張られている気分となるもので。
無駄口を一切叩かず、二人は黙々と小屋内部の検分を進めていく。
あるところで、一番若手の役人が、部屋の最奥にベッドらしきハンモックがつり下がっていることに気が付いた。
しかしこちらは着古した服がバサバサと積んであって、とてもベッドとして機能していないように見受けられる。
航海中は、どこで眠っているのだろう。
そもそも一人きりでの航海中に、ぐっすりと眠る暇などあるのだろうか。
と考え始めた彼は、ハタと気付く。
これでも一応女性の部屋だ。それも若い娘の部屋である。
このまま検分を続けても良いのだろうか?
一瞬、振り返った彼は、固く引き締まったイルハの表情を見て、すぐに体ごとイルハから顔を背けることにした。
指示を仰ぐ勇気なく、事態に気付かれぬよう徹底する方を選択したのだ。
しかしこの件に関してはイルハも配慮が足りなかったと言えよう。
だが、タークォンにおいては、これは仕方のないことでもある。
何せタークォンには、女性の役人が一人もいなかったのだ。
ここでシーラが、少しでも不安の色や不快感を示していたら。
イルハは気付くことが出来たかもしれないし、いずれはタークォンの監査体制にも変化が生じていたかもしれない。
しかしその娘が小屋を放って、外で高々と手を伸ばし、呑気に空を仰いでいるようでは……。
扉側から俯瞰していたことで、実はいち早くハンモックの存在に気付いていたイルハは、女性に対する気が回ることもなかったし、ハンモック周りの検分を始めた役人を止めることもしなかった。
すでに見たマストを囲むように立ち、やたらと念入りに建付け具合などを確認している。
イルハもまたしばし扉の外から小屋の内部を窺っていたが、そこには彼ら三人と共通した思惑は存在していなかった。
ただ単に、広くない小屋の床がこの惨状では、大の男が何人も入ることが憚れたのだ。
さすれば、小屋内にいた若手二人は見張られている気分となるもので。
無駄口を一切叩かず、二人は黙々と小屋内部の検分を進めていく。
あるところで、一番若手の役人が、部屋の最奥にベッドらしきハンモックがつり下がっていることに気が付いた。
しかしこちらは着古した服がバサバサと積んであって、とてもベッドとして機能していないように見受けられる。
航海中は、どこで眠っているのだろう。
そもそも一人きりでの航海中に、ぐっすりと眠る暇などあるのだろうか。
と考え始めた彼は、ハタと気付く。
これでも一応女性の部屋だ。それも若い娘の部屋である。
このまま検分を続けても良いのだろうか?
一瞬、振り返った彼は、固く引き締まったイルハの表情を見て、すぐに体ごとイルハから顔を背けることにした。
指示を仰ぐ勇気なく、事態に気付かれぬよう徹底する方を選択したのだ。
しかしこの件に関してはイルハも配慮が足りなかったと言えよう。
だが、タークォンにおいては、これは仕方のないことでもある。
何せタークォンには、女性の役人が一人もいなかったのだ。
ここでシーラが、少しでも不安の色や不快感を示していたら。
イルハは気付くことが出来たかもしれないし、いずれはタークォンの監査体制にも変化が生じていたかもしれない。
しかしその娘が小屋を放って、外で高々と手を伸ばし、呑気に空を仰いでいるようでは……。
扉側から俯瞰していたことで、実はいち早くハンモックの存在に気付いていたイルハは、女性に対する気が回ることもなかったし、ハンモック周りの検分を始めた役人を止めることもしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる