国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

文字の大きさ
29 / 349
♦一度目

28.割り込む婦人

しおりを挟む
「まずは聞いていただき助かりました。ここからはあなたに分かっていただけるよう努めますので、もうしばしお付き合い願います。国が海域を持つことは知っていますね?」

 ここでイルハは僅かに体を横向け、岸壁に対して背中を向けた。
 シーラの視界からは、イルハが立ち塞がったことで王城が見えにくくなる。

「それは知っているよ!目印の旗が立っている!」

「そうです。その旗の内側では、航海に関する魔術のみ、特例として初訪問者に限っては許可なく使うことを許可しているのです。まさにシーラがこちらに来たときの状態がこれに該当します」

「許可なく……許可……?」

「初めて来る方に対しては、特別に船の上で魔術を使ってもいいですよ、と許しているということです。そうしなければ、あなたのように初めてとなる方がタークォンに来ることも叶いませんからね」

「それはそうだね。魔術を使ったらいけないと言われたら、タークォンには近付けなかった!」

「えぇ。そもそも初回の方は、タークォンの法などご存知ではないでしょうし、この国の民でもない方に対して我が国の法を知っておきなさいというのも横暴な話です。けれども、この国の領内にある限りはこの国の法を知って、従って頂かなければなりません。だからこそ、先ほどもいたあの守り人たちが、初回の来訪者に対しては仔細説明する規則になっているのですがね」

「最初に会ったお兄さんなら、紙をくれたし、何か言っていたよ?」

 イルハはシーラが困らないようほどほどに微笑んだが、それは何の確約でもない。
 ご愁傷様ね、でも自業自得だわ、とリタは心の中で呟いた。

については、こちらの問題ですから。あなたは気にしなくていいですよ」

 その彼らに、守り人以外が含まれていることは、リタも知らないところだ。
 昨夜シーラを取り囲んでいた警備兵たちも、音楽を楽しむ前にすべきことがあったのだ。

「あなたに知って頂きたいことは、タークォンに初めて来た者だけが、許可なく魔術を使用出来るという点です」

「それなら使っていいの?タークォンは初めてだよ?」

「いえ、来訪登録後であれば、許可を得たという認識に変わります」

「……つまり?」

「改めも終わりましたし、あなたの来訪登録もすみやかに受理されるでしょう。航海のための魔術であれば、いくら使っても構いません」

「もうずっと難しいよ、イルハ。本は手で運ばないと駄目だということ?」

 イルハがにこりと微笑んだとき、何も言う前からシーラは喜んだ。

「安全な航海のための準備、ということにして、船上に限っては特別に許可しましょう。何か言われたら、私の名を存分に使うと良いですよ」

 イルハの言葉を最後まで聞き終えると、喜んでいたシーラの顔色は陰ってしまった。

「それでイルハは困らない?」

「大丈夫です。私はに変わって、十分な説明責任を果たしましたから。とやかく言えないでしょう」

 シーラは「やったぁ」と手を上げて今度こそ心から喜ぶ。

「許してくれてありがとう、イルハ。今のうちに本をまとめちゃうね!」

 そこでずいっと身を乗り出すようにして、リタが言った。

「ねぇ、シーラちゃん。ついでにこちらのお部屋を片付けちゃいけないかしら?」

「えー?」

 口を尖らせたシーラの顔はとても幼く、完全に子どもに見えて、思わずイルハがリタと目を合わせてしまうほどだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い

雲乃琳雨
恋愛
 バートン侯爵家の跡取りだった父を持つニナリアは、潜伏先の家から祖父に連れ去られ、侯爵家でメイドとして働いていた。18歳になったニナリアは、祖父の命令で従姉の代わりに元平民の騎士、アレン・ラディー子爵に嫁ぐことになる。  ニナリアは母のもとに戻りたいので、アレンと離婚したくて仕方がなかったが、結婚は国王の命令でもあったので、アレンが離婚に応じるはずもなかった。アレンが初めから溺愛してきたので、ニナリアは戸惑う。ニナリアは、自分の目的を果たすことができるのか?  元平民の侯爵令嬢が、自分の人生を取り戻す、溺愛から始まる物語。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

処理中です...