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♦一度目
28.割り込む婦人
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「まずは聞いていただき助かりました。ここからはあなたに分かっていただけるよう努めますので、もうしばしお付き合い願います。国が海域を持つことは知っていますね?」
ここでイルハは僅かに体を横向け、岸壁に対して背中を向けた。
シーラの視界からは、イルハが立ち塞がったことで王城が見えにくくなる。
「それは知っているよ!目印の旗が立っている!」
「そうです。その旗の内側では、航海に関する魔術のみ、特例として初訪問者に限っては許可なく使うことを許可しているのです。まさにシーラがこちらに来たときの状態がこれに該当します」
「許可なく……許可……?」
「初めて来る方に対しては、特別に船の上で魔術を使ってもいいですよ、と許しているということです。そうしなければ、あなたのように初めてとなる方がタークォンに来ることも叶いませんからね」
「それはそうだね。魔術を使ったらいけないと言われたら、タークォンには近付けなかった!」
「えぇ。そもそも初回の方は、タークォンの法などご存知ではないでしょうし、この国の民でもない方に対して我が国の法を知っておきなさいというのも横暴な話です。けれども、この国の領内にある限りはこの国の法を知って、従って頂かなければなりません。だからこそ、先ほどもいたあの守り人たちが、初回の来訪者に対しては仔細説明する規則になっているのですがね」
「最初に会ったお兄さんなら、紙をくれたし、何か言っていたよ?」
イルハはシーラが困らないようほどほどに微笑んだが、それは何の確約でもない。
ご愁傷様ね、でも自業自得だわ、とリタは心の中で呟いた。
「彼らについては、こちらの問題ですから。あなたは気にしなくていいですよ」
その彼らに、守り人以外が含まれていることは、リタも知らないところだ。
昨夜シーラを取り囲んでいた警備兵たちも、音楽を楽しむ前にすべきことがあったのだ。
「あなたに知って頂きたいことは、タークォンに初めて来た者だけが、許可なく魔術を使用出来るという点です」
「それなら使っていいの?タークォンは初めてだよ?」
「いえ、来訪登録後であれば、許可を得たという認識に変わります」
「……つまり?」
「改めも終わりましたし、あなたの来訪登録もすみやかに受理されるでしょう。航海のための魔術であれば、いくら使っても構いません」
「もうずっと難しいよ、イルハ。本は手で運ばないと駄目だということ?」
イルハがにこりと微笑んだとき、何も言う前からシーラは喜んだ。
「安全な航海のための準備、ということにして、船上に限っては特別に許可しましょう。何か言われたら、私の名を存分に使うと良いですよ」
イルハの言葉を最後まで聞き終えると、喜んでいたシーラの顔色は陰ってしまった。
「それでイルハは困らない?」
「大丈夫です。私は彼らに変わって、十分な説明責任を果たしましたから。どこの誰もとやかく言えないでしょう」
シーラは「やったぁ」と手を上げて今度こそ心から喜ぶ。
「許してくれてありがとう、イルハ。今のうちに本をまとめちゃうね!」
そこでずいっと身を乗り出すようにして、リタが言った。
「ねぇ、シーラちゃん。ついでにこちらのお部屋を片付けちゃいけないかしら?」
「えー?」
口を尖らせたシーラの顔はとても幼く、完全に子どもに見えて、思わずイルハがリタと目を合わせてしまうほどだった。
ここでイルハは僅かに体を横向け、岸壁に対して背中を向けた。
シーラの視界からは、イルハが立ち塞がったことで王城が見えにくくなる。
「それは知っているよ!目印の旗が立っている!」
「そうです。その旗の内側では、航海に関する魔術のみ、特例として初訪問者に限っては許可なく使うことを許可しているのです。まさにシーラがこちらに来たときの状態がこれに該当します」
「許可なく……許可……?」
「初めて来る方に対しては、特別に船の上で魔術を使ってもいいですよ、と許しているということです。そうしなければ、あなたのように初めてとなる方がタークォンに来ることも叶いませんからね」
「それはそうだね。魔術を使ったらいけないと言われたら、タークォンには近付けなかった!」
「えぇ。そもそも初回の方は、タークォンの法などご存知ではないでしょうし、この国の民でもない方に対して我が国の法を知っておきなさいというのも横暴な話です。けれども、この国の領内にある限りはこの国の法を知って、従って頂かなければなりません。だからこそ、先ほどもいたあの守り人たちが、初回の来訪者に対しては仔細説明する規則になっているのですがね」
「最初に会ったお兄さんなら、紙をくれたし、何か言っていたよ?」
イルハはシーラが困らないようほどほどに微笑んだが、それは何の確約でもない。
ご愁傷様ね、でも自業自得だわ、とリタは心の中で呟いた。
「彼らについては、こちらの問題ですから。あなたは気にしなくていいですよ」
その彼らに、守り人以外が含まれていることは、リタも知らないところだ。
昨夜シーラを取り囲んでいた警備兵たちも、音楽を楽しむ前にすべきことがあったのだ。
「あなたに知って頂きたいことは、タークォンに初めて来た者だけが、許可なく魔術を使用出来るという点です」
「それなら使っていいの?タークォンは初めてだよ?」
「いえ、来訪登録後であれば、許可を得たという認識に変わります」
「……つまり?」
「改めも終わりましたし、あなたの来訪登録もすみやかに受理されるでしょう。航海のための魔術であれば、いくら使っても構いません」
「もうずっと難しいよ、イルハ。本は手で運ばないと駄目だということ?」
イルハがにこりと微笑んだとき、何も言う前からシーラは喜んだ。
「安全な航海のための準備、ということにして、船上に限っては特別に許可しましょう。何か言われたら、私の名を存分に使うと良いですよ」
イルハの言葉を最後まで聞き終えると、喜んでいたシーラの顔色は陰ってしまった。
「それでイルハは困らない?」
「大丈夫です。私は彼らに変わって、十分な説明責任を果たしましたから。どこの誰もとやかく言えないでしょう」
シーラは「やったぁ」と手を上げて今度こそ心から喜ぶ。
「許してくれてありがとう、イルハ。今のうちに本をまとめちゃうね!」
そこでずいっと身を乗り出すようにして、リタが言った。
「ねぇ、シーラちゃん。ついでにこちらのお部屋を片付けちゃいけないかしら?」
「えー?」
口を尖らせたシーラの顔はとても幼く、完全に子どもに見えて、思わずイルハがリタと目を合わせてしまうほどだった。
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