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♦三度目
4.その記憶鮮明過ぎやしないか
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「だから、これでは通りませんよ!」
大声響く廊下にてイルハは立ち止まると、あえて遠くから受付所を眺めた。
何度も目を瞬いたのは、現実を疑ったから。
あれはいつもの幻影ではなかろうか。
イルハには覚えがあり過ぎたのだ。
共に過ごした部屋では彼女の声が聞こえ、一緒に歩いた場所では彼女の姿が見えた。
それも一度や二度の話ではなく、期待し過ぎてついに頭がおかしくなったのだと思えば、考えまいと徹してきたイルハである。
それらの抑え込んできた何かがついに爆発し、今まさに現実とも取れる完璧な姿となって、目の前に現れただけではないか。
イルハはどうしても、目に映るものが信じられなかった。
しかし不思議なことには、それはイルハが何度も見てきた幻像とは重ならない。
大人びて、少女らしさが影を薄くした姿は、それでもまだほんのりと幼さを残し。
確かに彼女の本来の年齢と合致した姿へと変わっている。
イルハは気付かずにほぅっと息を吐いた後、目を細めてさらに観察を続けた。
背丈はそう変わっていないから、もう縦への成長は止まっているようだ。これはリタが大いに喜ぶ情報となろう。
相変わらず無造作に後ろで束ねられた髪は、以前より少し短くなっていることが分かった。
旅人らしいタークォンではあまり見ない服装もまた、前とは変わっている。
長袖の上着に長ズボンという似たような出で立ちに違いなくも、色が微妙に濃く変わり、上着のポケットの位置も違っているから、旅の途中で新調したものだと思われた。
その上着の長い袖から覗く白い部分が目に入ったとき、イルハの胸はぎゅんと強く痛む。
なんだ、そうか。
やはりあれは重荷となったか。
賑やかな旅人は相変わらずで、イルハが一人拗ねる暇さえ与えまいと動いていた。
「そんなこと言われても。嘘は書いていないよ!全部本当のことなんだからね!」
よく通るその声に、イルハは自然目を閉じる。
美しい音色を紡ぎ出すあの声がイルハの耳にありありと蘇るも、その声と今の声は僅かにずれが生じている。
幼さが消えつつある大人に向かう少女の声は、以前よりさらに美しくなっていた。
この声で奏でる音楽をどうか聞かせて欲しい。
歓喜と期待に震えようというところで、イルハは心に影を落とす不穏な声を聞いてしまう。
「嘘だらけでしょう。あなたたち二人だけで帆船に乗って来ただなんて。そんな話は聞いたことが無い」
二人?
ここでイルハの目にまったく映っていなかったものが見えるようになった。
あれは誰か。
大声響く廊下にてイルハは立ち止まると、あえて遠くから受付所を眺めた。
何度も目を瞬いたのは、現実を疑ったから。
あれはいつもの幻影ではなかろうか。
イルハには覚えがあり過ぎたのだ。
共に過ごした部屋では彼女の声が聞こえ、一緒に歩いた場所では彼女の姿が見えた。
それも一度や二度の話ではなく、期待し過ぎてついに頭がおかしくなったのだと思えば、考えまいと徹してきたイルハである。
それらの抑え込んできた何かがついに爆発し、今まさに現実とも取れる完璧な姿となって、目の前に現れただけではないか。
イルハはどうしても、目に映るものが信じられなかった。
しかし不思議なことには、それはイルハが何度も見てきた幻像とは重ならない。
大人びて、少女らしさが影を薄くした姿は、それでもまだほんのりと幼さを残し。
確かに彼女の本来の年齢と合致した姿へと変わっている。
イルハは気付かずにほぅっと息を吐いた後、目を細めてさらに観察を続けた。
背丈はそう変わっていないから、もう縦への成長は止まっているようだ。これはリタが大いに喜ぶ情報となろう。
相変わらず無造作に後ろで束ねられた髪は、以前より少し短くなっていることが分かった。
旅人らしいタークォンではあまり見ない服装もまた、前とは変わっている。
長袖の上着に長ズボンという似たような出で立ちに違いなくも、色が微妙に濃く変わり、上着のポケットの位置も違っているから、旅の途中で新調したものだと思われた。
その上着の長い袖から覗く白い部分が目に入ったとき、イルハの胸はぎゅんと強く痛む。
なんだ、そうか。
やはりあれは重荷となったか。
賑やかな旅人は相変わらずで、イルハが一人拗ねる暇さえ与えまいと動いていた。
「そんなこと言われても。嘘は書いていないよ!全部本当のことなんだからね!」
よく通るその声に、イルハは自然目を閉じる。
美しい音色を紡ぎ出すあの声がイルハの耳にありありと蘇るも、その声と今の声は僅かにずれが生じている。
幼さが消えつつある大人に向かう少女の声は、以前よりさらに美しくなっていた。
この声で奏でる音楽をどうか聞かせて欲しい。
歓喜と期待に震えようというところで、イルハは心に影を落とす不穏な声を聞いてしまう。
「嘘だらけでしょう。あなたたち二人だけで帆船に乗って来ただなんて。そんな話は聞いたことが無い」
二人?
ここでイルハの目にまったく映っていなかったものが見えるようになった。
あれは誰か。
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