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♠国にあるもの
5.国にあれば価値ある娘
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タークォンの主要な街道は夜でも明るかった。
火を使わない特殊な街灯が煌々と道を照らしているからである。
連れ立って歩いたあの日、明るい夜をシーラはとても珍しがっていたが。
それは月夜でなければ、真っ暗闇に包まれる国を見て来たからだ。
これを聞いた時、むしろイルハが驚かされた。
いくら本や資料で他国の情報を知ろうとも。
夜の明るさまでに言及した書面にはなかなか出会うことが出来ない。
実際を見てきた者にしか、知り得ぬ情報は数多あり、だからこそ海にある情報屋は重宝されて、高値でその情報を取引しているというわけだ。
そんな情報を意図せず沢山抱えたシーラは、本人は知らず偉大な価値を持っている。
そのうえタークォンではまず見ない、珍しい魔術を使えるのだ。
だから簡単だった。
王宮の堅苦しい古い考えを持つ者たちに、シーラを魔術師として王宮に取り込む提案に賛同させることは。
これがどこかの国に帰属した魔術師だったなら、簡単に許されることはなかっただろう。
シーラが海にあると最初から宣言してくれたことが、思わずイルハの助けになっている。
そんなイルハであるのに、今は前提を根本から壊そうとしていた。
海にあるから出会えた。
海にあるから雇えた。
その海から離れろと願う。
なんという矛盾。
懐かしい思い出から一人思考を発展させていたイルハは、まだ不思議そうにこちらを見ていたシーラに優しく微笑むと語り掛けた。
「あなたは私から見ても、とてもよく働いておりますよ」
「イルハがそう言ってくれるなら、もう大丈夫かな?そろそろテンを連れていける?」
「その件については調整中ですので、もう少々お待ちいただければと。ですが、あなたの頑張りが足りないということではありませんからね。完全にこちらの都合で、時間が掛かっているのです」
シーラが働くことについては随分前からイルハが根回し済みであったが、テンは違う。
魔術師の卵であれば、まだ話を通しやすかったところだが。テンは魔術も使えず。
子どもを働かせるなんて!という声は、身内とも言える王子に近しい者たちからも聞かれていた。
タークォンの常識として、あのくらいの年齢の子どもを働かせることはあり得ないことなのだ。
実は王子もあれだけ少年の心を解すようなことをしておきながら、テンの王宮通いについては消極的である。
レンスター邸で楽しく過ごしているならそれでいいのではないか、とはっきりとイルハに伝えたくらいだ。
イルハとてそれで済むならいいと思っているが。
隣を歩く娘から期待を込めた瞳で今のように見詰められた回数は数えきれず。
こうなれば、少年のために尽力せずにもいられない。
それでもイルハはまた戻ってしまった少年の話をすぐに終えることにした。
小柄なシーラの歩みに合わせたという体で、出来るだけゆっくりと足を運ぶ。
「それよりも、あなたは無理をしていませんか?頑張ってくださるのは有難いのですが、王宮にいる者たちにはあなたがよく働ける人だということはもう十分に伝わっておりますからね。疲れているときは、好きに休んで平気なのですよ?」
シーラはここで嬉しそうに胸を張るのだ。
その両腕で大き過ぎるバスケットを抱えて。
火を使わない特殊な街灯が煌々と道を照らしているからである。
連れ立って歩いたあの日、明るい夜をシーラはとても珍しがっていたが。
それは月夜でなければ、真っ暗闇に包まれる国を見て来たからだ。
これを聞いた時、むしろイルハが驚かされた。
いくら本や資料で他国の情報を知ろうとも。
夜の明るさまでに言及した書面にはなかなか出会うことが出来ない。
実際を見てきた者にしか、知り得ぬ情報は数多あり、だからこそ海にある情報屋は重宝されて、高値でその情報を取引しているというわけだ。
そんな情報を意図せず沢山抱えたシーラは、本人は知らず偉大な価値を持っている。
そのうえタークォンではまず見ない、珍しい魔術を使えるのだ。
だから簡単だった。
王宮の堅苦しい古い考えを持つ者たちに、シーラを魔術師として王宮に取り込む提案に賛同させることは。
これがどこかの国に帰属した魔術師だったなら、簡単に許されることはなかっただろう。
シーラが海にあると最初から宣言してくれたことが、思わずイルハの助けになっている。
そんなイルハであるのに、今は前提を根本から壊そうとしていた。
海にあるから出会えた。
海にあるから雇えた。
その海から離れろと願う。
なんという矛盾。
懐かしい思い出から一人思考を発展させていたイルハは、まだ不思議そうにこちらを見ていたシーラに優しく微笑むと語り掛けた。
「あなたは私から見ても、とてもよく働いておりますよ」
「イルハがそう言ってくれるなら、もう大丈夫かな?そろそろテンを連れていける?」
「その件については調整中ですので、もう少々お待ちいただければと。ですが、あなたの頑張りが足りないということではありませんからね。完全にこちらの都合で、時間が掛かっているのです」
シーラが働くことについては随分前からイルハが根回し済みであったが、テンは違う。
魔術師の卵であれば、まだ話を通しやすかったところだが。テンは魔術も使えず。
子どもを働かせるなんて!という声は、身内とも言える王子に近しい者たちからも聞かれていた。
タークォンの常識として、あのくらいの年齢の子どもを働かせることはあり得ないことなのだ。
実は王子もあれだけ少年の心を解すようなことをしておきながら、テンの王宮通いについては消極的である。
レンスター邸で楽しく過ごしているならそれでいいのではないか、とはっきりとイルハに伝えたくらいだ。
イルハとてそれで済むならいいと思っているが。
隣を歩く娘から期待を込めた瞳で今のように見詰められた回数は数えきれず。
こうなれば、少年のために尽力せずにもいられない。
それでもイルハはまた戻ってしまった少年の話をすぐに終えることにした。
小柄なシーラの歩みに合わせたという体で、出来るだけゆっくりと足を運ぶ。
「それよりも、あなたは無理をしていませんか?頑張ってくださるのは有難いのですが、王宮にいる者たちにはあなたがよく働ける人だということはもう十分に伝わっておりますからね。疲れているときは、好きに休んで平気なのですよ?」
シーラはここで嬉しそうに胸を張るのだ。
その両腕で大き過ぎるバスケットを抱えて。
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