国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

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♥選ぶもの

82.友人への道

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「アイリーン嬢も綺麗ですものね?」

「うん、とても綺麗。アイリーンじょう?」

「はい。アルバーン・シュミットが長女、アイリーンと申します」

 もう一度名乗ったアイリーンにも、シーラはうっとりと見惚れていて、話を聞いていないようだった。

 しかしもしここで熱心にアイリーンの話を聞いていたとしても、シーラは聞き流していただろう。
 シーラにとってはアイリーンはアイリーンでしかなく、それが誰の娘であろうと関係ない話だ。

 海では出会って早々に、その身の上を語る者はそういない。
 己の武勇を誇張して語る者なら数多いようが、それはまた別の話だ。

「ねぇ、キリム。この国には綺麗な人が沢山いるの?」

 シータが聞いたとき、アイリーンの長い睫で縁取られた瞳が大きく揺れた。

「私が許可しているから問題ないわ。シーラとはお友だちなのよ」

「左様でございますか」

 微笑むキリムを前に、伝えたい言葉を呑み込んだアイリーンは、淡々とそう言った。
 余韻のないはっきりとした口調は爽やかで、嫌味がない。

「えぇ、それでね、アイリーン嬢。もしよろしければ、あなたも私たちのお友だちにならないかしら?」

 アイリーンは間を空けず「身に過ぎる光栄です」と答えて辞退したが、シーラはそれを自分への拒絶と受け取ったようである。
 明らかに落ち込んだ顔を見せたシーラに、アイリーンは思わずキリムに視線で助けを求めてしまった。

 キリムは一人、楽しそうだ。

「うふふ。とても可愛い子でしょう?」

「……はい」

「これは命ではないし、強制はしていないわ。でもそうね、お返事は今日のお茶会の最後にお願いするわね。私たちの仲を見ていたら、あなたも気が変わるかもしれないもの。さぁ、シーラ、落ち込んでいられないわよ。アイリーン嬢とお友だちになれるよう、今日は私と一緒に頑張りましょうね?」

 シーラの瞳がキラキラと輝いて、「頑張ったら私とお友だちになってくれるの!」なんて言うものだから。
 アイリーンは困った。

 シーラはともかく、第一王子妃と友だちなんて、タークォンで生まれ育った娘からすれば畏れ多いことである。
 そしてアイリーンには、シーラと仲良くしにくい事情もあった。

「そういえば、キリム!あのいつもの布はどうしたの?それにアイリーン嬢もしていないよ!」

 急に思いついた!という勢いでシーラが訪ねる。

 それは本当にたった今想い出したことだったのだろう。
 ただの興味で聞いたシーラに、キリムは思わず、いつもとは違う柔らかい笑みを零してしまうのだった。


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