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76.懐かしいお兄さまを思い出しました
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やっとジンが顔から手を離したのですが。
「ご褒美をありがとう──」
え?ありがとう?
ご褒美をありがとう?
ご褒美となりそうなデザートはこれからですし、ジンにあげる予定はなかったのですが。
そんな約束をして手合わせをしていたかしら?
ジンがごほんと咳をしました。
少し控えるようにすると言っていたのに、まだその癖は治らないようです。
「ミシェルはすでに立派な侯爵夫人だ」
「本当ですか?」
「うん、だからこれからも好きなように過ごして欲しい」
好きなように……とは?
私としてはこちらでは侯爵夫人としてお役に立てると有難いのですが。
従姉妹たちが王都に行ってから、どうしましょう?
「今度、騎士団を見る約束をしたな?」
はっ。そういうことですか。
もう分かりましたよ。
私はそこで頑張ればいいのですね?
「いや、毎日は──たまににしてくれ」
毎日ではいけませんか。
それは少々残念に思います。
「その代わりに私と鍛錬をしよ──」
「します!」
淑女らしからず即答してしまいましたわ。おほほ。
だって思いのほか、ジンとの手合わせが楽しかったのです。
ジンが今までよく鍛錬してきたことはすぐに分かりましたし、私の記憶にはない大きな身体で、私の記憶に近くもありながら変化している太刀筋を読むことがとても楽しくて。
レーネとミーネが休憩を取る間に、夢中でジンと手合わせを楽しんでしまいました。
それもこれもハルが二人を見ておくと名乗り出てくれたおかげかもしれません。
ハルも二人を捕えて王都に連れていく役目があるので、従姉妹たちをよく監視する必要があるのかもしれませんね。
「侯爵。こちらの地での通常の夫人としての務めがあれば、それも是非ご指導のうえ娘にさせてくださいませ。仔細説明すれば、それをすることは出来ますからね」
お母さまがぴしゃりと言われました。
そうですね、夫人としての務めがあるなら、私はそれを頑張らねばなりません。
「検討はしますが、それほどの仕事はありませんから」
え?ないのですか?
もしやそれは私が不出来だから任せられな──。
「いや、任せたいことはある。それはおいおい説明しよう」
ぷっと吹き出したのは、ハルです。
本当に昔からよく笑う人ですね。
「これだからジンはどっちつかずで駄目なんだよな」
「なんだと?」
「ミシェルを守りたいのか、戦わせたいのか、もう僕にはよく分からないや」
「どちらもで何が悪い?」
「何が悪いって……はぁ。夫人、こいつに嫁がせて本当に良かったの?」
「王命を使う強引さは気に入りましたので、ぎりぎり合格と致しました」
お母さまは合否を判断されていたのですか。
え?何の合否を?
「まぁ、いいけどさぁ。あ、そうそう。ミシェル。兄の子がもう少し大きくなったら、こちらで鍛えて欲しいってさ。それも夫人の仕事としてお願いするよ」
え?こちらとは?
「これまで通り伯のところにと思っていたらしいんだけどね。つい兄も僕もミシェルの話をしたせいで、甥っ子たちが興味を持ってしまって……まぁ、頼むよ」
「ハルにはお兄さんがいたの?」
「あれ?それも気付いていなかったんだ。あー、えぇと」
「エリクと名乗っておりましたよ。ミシェルは覚えていますね?」
「エリクお兄さまですね!まぁ、ハルのお兄さまだったのですか。そういえば髪色は同じでしたね」
でも目の色は違ったように思います。
確かに少し似た感じはありますが、ハルよりも濃く、ハルほどに珍しい感じはありません。
「「え?」」
ジンとハルの声が重なっておりました。
「エリクお兄さまと呼ぶように強要されていたのか?」
どうしてジンの声が少し低くなっているのかしら?
それに強要とは?
「兄のことをそう呼び始めたのは、ミシェルからかい?」
えぇと……違いますね。
エリクお兄さまが『僕のことはお兄さまと呼んでくれるね!』と言ったあとに、抱き上げてくださって、それからでした。
「へぇ。お兄さま呼びだけに留まらず。そうか──」
「ジン、落ち着いて。子どもの頃の話だから。そして君はまだミシェルを知らないから」
何でしょう、この殺気に満ちた気配は。
もしや敵襲が?
気配はありませんが、ジンは何かを察して──。
「ほら。ミシェルがおかしなことを考えて飛び出す前に落ち着けって。そんな大昔の話をしたところで、今は君の妻なのだから」
「くっ。もう少し早く家を出ておくべきだった──」
何やら分からない会話が続きますが、ジンからの殺気は収まったようでした。
敵襲でなければ、食事を味わいましょう。
「ご褒美をありがとう──」
え?ありがとう?
ご褒美をありがとう?
ご褒美となりそうなデザートはこれからですし、ジンにあげる予定はなかったのですが。
そんな約束をして手合わせをしていたかしら?
ジンがごほんと咳をしました。
少し控えるようにすると言っていたのに、まだその癖は治らないようです。
「ミシェルはすでに立派な侯爵夫人だ」
「本当ですか?」
「うん、だからこれからも好きなように過ごして欲しい」
好きなように……とは?
私としてはこちらでは侯爵夫人としてお役に立てると有難いのですが。
従姉妹たちが王都に行ってから、どうしましょう?
「今度、騎士団を見る約束をしたな?」
はっ。そういうことですか。
もう分かりましたよ。
私はそこで頑張ればいいのですね?
「いや、毎日は──たまににしてくれ」
毎日ではいけませんか。
それは少々残念に思います。
「その代わりに私と鍛錬をしよ──」
「します!」
淑女らしからず即答してしまいましたわ。おほほ。
だって思いのほか、ジンとの手合わせが楽しかったのです。
ジンが今までよく鍛錬してきたことはすぐに分かりましたし、私の記憶にはない大きな身体で、私の記憶に近くもありながら変化している太刀筋を読むことがとても楽しくて。
レーネとミーネが休憩を取る間に、夢中でジンと手合わせを楽しんでしまいました。
それもこれもハルが二人を見ておくと名乗り出てくれたおかげかもしれません。
ハルも二人を捕えて王都に連れていく役目があるので、従姉妹たちをよく監視する必要があるのかもしれませんね。
「侯爵。こちらの地での通常の夫人としての務めがあれば、それも是非ご指導のうえ娘にさせてくださいませ。仔細説明すれば、それをすることは出来ますからね」
お母さまがぴしゃりと言われました。
そうですね、夫人としての務めがあるなら、私はそれを頑張らねばなりません。
「検討はしますが、それほどの仕事はありませんから」
え?ないのですか?
もしやそれは私が不出来だから任せられな──。
「いや、任せたいことはある。それはおいおい説明しよう」
ぷっと吹き出したのは、ハルです。
本当に昔からよく笑う人ですね。
「これだからジンはどっちつかずで駄目なんだよな」
「なんだと?」
「ミシェルを守りたいのか、戦わせたいのか、もう僕にはよく分からないや」
「どちらもで何が悪い?」
「何が悪いって……はぁ。夫人、こいつに嫁がせて本当に良かったの?」
「王命を使う強引さは気に入りましたので、ぎりぎり合格と致しました」
お母さまは合否を判断されていたのですか。
え?何の合否を?
「まぁ、いいけどさぁ。あ、そうそう。ミシェル。兄の子がもう少し大きくなったら、こちらで鍛えて欲しいってさ。それも夫人の仕事としてお願いするよ」
え?こちらとは?
「これまで通り伯のところにと思っていたらしいんだけどね。つい兄も僕もミシェルの話をしたせいで、甥っ子たちが興味を持ってしまって……まぁ、頼むよ」
「ハルにはお兄さんがいたの?」
「あれ?それも気付いていなかったんだ。あー、えぇと」
「エリクと名乗っておりましたよ。ミシェルは覚えていますね?」
「エリクお兄さまですね!まぁ、ハルのお兄さまだったのですか。そういえば髪色は同じでしたね」
でも目の色は違ったように思います。
確かに少し似た感じはありますが、ハルよりも濃く、ハルほどに珍しい感じはありません。
「「え?」」
ジンとハルの声が重なっておりました。
「エリクお兄さまと呼ぶように強要されていたのか?」
どうしてジンの声が少し低くなっているのかしら?
それに強要とは?
「兄のことをそう呼び始めたのは、ミシェルからかい?」
えぇと……違いますね。
エリクお兄さまが『僕のことはお兄さまと呼んでくれるね!』と言ったあとに、抱き上げてくださって、それからでした。
「へぇ。お兄さま呼びだけに留まらず。そうか──」
「ジン、落ち着いて。子どもの頃の話だから。そして君はまだミシェルを知らないから」
何でしょう、この殺気に満ちた気配は。
もしや敵襲が?
気配はありませんが、ジンは何かを察して──。
「ほら。ミシェルがおかしなことを考えて飛び出す前に落ち着けって。そんな大昔の話をしたところで、今は君の妻なのだから」
「くっ。もう少し早く家を出ておくべきだった──」
何やら分からない会話が続きますが、ジンからの殺気は収まったようでした。
敵襲でなければ、食事を味わいましょう。
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