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今もなお成長しています
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マリアが母との決別を選んだ理由。
それは貴族用の更生施設職員の指導によって、母が何をしてきたか、多少は理解出来たマリアが、それで母に恨みを持ったからというわけではなかった。
そこにオリヴィアの強い影響がある。
更生施設で再会したオリヴィアは、姉と信じた人との違いに打ちのめされていたマリアにこう言ったのだ。
「有難いことに、私は幼い頃に沢山の先生に教わることが出来ました。あなたはその教育の機会を奪われていただけです」
「でも、お姉さまは凄いです。私、何も知らなくて……だから……その……あの……」
言葉に詰まろうとも、怪しい貴族言葉を使わず、真面に人と話せるようになっただけ、マリアは短期間で成長していた。
しかしこれはマリアの努力というより、施設の職員たちの成果と言えよう。
何故ならこの時点のマリアは、自ら謝罪の言葉を口にすることも出来なかったのだから。
そんなマリアに、オリヴィアは先に言っていた。
「何も知らなかったのも、教わらなかったからですよ。ごめんなさいね、マリア」
「え?」
「本当ならば、私が姉としてあなたに教えなければならない立場にありました。ごめんなさい、マリア。何も出来ない姉で、本当にごめんなさい」
オリヴィアの方が先に謝ったこと。それはマリアに強い衝撃を与えたのだ。
易々と謝ってはいけない。わたくしたちは高貴な身の上にあるのだから。謝るのは卑しい下々の役目なの。
マリアにそう教えてきた母親が施設で見せた姿は、オリヴィアとは対照的にマリアでも分かるほど酷いものだった。
自分がどれだけ可哀想かと泣くばかりで、マリアには謝罪の言葉ひとつとして出て来ない。
その上すべてはあなたのためだったのにと言い始め、そのうちそれがあなたのせいでに変わり、しまいには母を連れて逃げてくれと懇願して泣き崩れる。
私は母のようになりたくない。
姉のような立派な人間になりたい。
こうして自身の想いを自覚したマリアは、母と決別し、期間を区切りながら各労働施設を転々としているところだ。
貴族社会だけでなく、市井にも詳しくないマリアだから、色々な仕事をしてみたいと本人が望んだのである。
マリアはどの労働施設でも、無償で働くことに何の不満も見せず、新しく習うことが楽しくて仕方がないという顔をしている。
周りの者たち(多くは罪人であるが、一部、指導役としての善良な庶民もあれば、見張りや見廻りのための騎士たちもある)ともよく関わり、彼らが一般常識を教えてくれることもまた楽しいのだとか。
ちなみにマリアの選択を聞いた時、はじめてマリアの母は絶望した顔を見せていたので、母親としての想いも多少は持っていたようである。
実の娘から選ばれなかった悲しみにくれたあと、母もまた娘とは違う場所で働き始めた。
パンの工房に落ち着くまでは、いくつもの施設を転々としていた母親だったが、こちらはマリアとは違って不満たらたら、役に立たないことで職員から願われての移動だった。
施設でよく変わったように思えたが、長い時を掛け人を騙して生きてきたこちらの女は、完全にはその性格を矯正されなかったようだ。
そしてようやく、今のパン作りの工房にて落ち着きを見せている。
意外にもパン作りはその性分にあっていたようで、日々の労働を終えたあとも楽しそうに新作のパン作りに没頭しているのだとか。
よく褒める面倒見の良い指導役がいて、それも彼女の性格に合っていたのだろう。
ただし彼女については、オリヴィアたちが現れてもマリアのようには喜ばない。
始終平身低頭に努め、早く帰れと願っているようにも見受けられる余所余所しい態度でオリヴィアを迎えるのだった。
けれどもオリヴィアに自分で作ったパンを託す時の顔は、確かに母親の顔であったから。
このまま良く変わってくれればいいが、とレオンはただオリヴィアのためだけにそう願っているのだった。
それは今も。
目のまえで繰り広げられる女性たちの会話に耳を澄ませながら、レオンはこの娘が今後は真面に生きられるようにと願う。
「お母さまが落ち着いたみたいで良かったわ。ふふ。いつか会えるかしら?」
「前から言っているように、いつでも面会は可能なのですよ?」
「うーん。まだ早い気がするのよね。お母さまは私に会ったら、また甘えて駄目になってしまう気がするわ。それに私も、今はまだ会うと嫌なことを沢山言ってしまいそうだから。そうね。やっぱりまだ辞めておくわ。お姉さまは私が酷い娘だとお思いになります?」
「あなたが酷い娘なら、私はもっと酷い娘だと言えるでしょうね」
「えぇ?」
オリヴィアはぐつぐつと煮込まれる鍋の中身を眺めながら、さらに言う。
「母のことはいつまでも分かりませんし、分かろうともしていないのですから。それでも──」
それからオリヴィアは、いつの間にか横に立っていたレオンに向けて微笑んだ。
「母なりに私を想ってくれていたと思えるようにはなりました。感謝も出来るようになったのです。母のおかげで公爵夫人になるための教育を受け、本当にそうなれたのですから」
その顔に咲いた華をレオンに見せてから、またオリヴィアはマリアに視線を向けた。
マリアは先からヘラを持つ手を止めてしまっている。
「先日、母のお墓参りに行ってきました。私はそこで嫌な言葉を山ほど伝えてきたのですよ」
「まぁ!お姉さまが?」
「えぇ。それはもう、口に出来ないようなことを沢山伝えてきました。マリアは私を酷い娘だと思いますか?」
マリアはおかしそうに笑っていたのだが。
「きゃあ!大変!焦げてきたわ」
「ごめんなさい!私が邪魔をしてしまったから!」
果物の甘い香りから一変、厨房内に焦げの匂いが充満し。
二人揃って、いや、レオンも含め、三人はこの工房の管理者に叱られることになった。
公爵として来なかったレオンが悪い……ということになろうか。
そしてまた、公爵夫妻は領内を巡る。
広くなった公爵領には管理すべき場所があり過ぎて、二人は邸に長く留まることがなくなった。
しかし前とは違って。
執事長や侍女長が夫妻の不在中もよく邸を守ってくれているし、夫妻もまた邸に戻るたびによく彼らと会話をして、その労をねぎらっている。
だから以前のような問題は、この二人が当主夫妻である限り、もう二度と起きることがないだろう。
いや、二人は起こさない。
そしてレオンは朝に嘆く。
妻と邸でのんびりと過ごしたいのに──と。
二人は確かに罰を受け取り、その罪を償っているのだった。
それは貴族用の更生施設職員の指導によって、母が何をしてきたか、多少は理解出来たマリアが、それで母に恨みを持ったからというわけではなかった。
そこにオリヴィアの強い影響がある。
更生施設で再会したオリヴィアは、姉と信じた人との違いに打ちのめされていたマリアにこう言ったのだ。
「有難いことに、私は幼い頃に沢山の先生に教わることが出来ました。あなたはその教育の機会を奪われていただけです」
「でも、お姉さまは凄いです。私、何も知らなくて……だから……その……あの……」
言葉に詰まろうとも、怪しい貴族言葉を使わず、真面に人と話せるようになっただけ、マリアは短期間で成長していた。
しかしこれはマリアの努力というより、施設の職員たちの成果と言えよう。
何故ならこの時点のマリアは、自ら謝罪の言葉を口にすることも出来なかったのだから。
そんなマリアに、オリヴィアは先に言っていた。
「何も知らなかったのも、教わらなかったからですよ。ごめんなさいね、マリア」
「え?」
「本当ならば、私が姉としてあなたに教えなければならない立場にありました。ごめんなさい、マリア。何も出来ない姉で、本当にごめんなさい」
オリヴィアの方が先に謝ったこと。それはマリアに強い衝撃を与えたのだ。
易々と謝ってはいけない。わたくしたちは高貴な身の上にあるのだから。謝るのは卑しい下々の役目なの。
マリアにそう教えてきた母親が施設で見せた姿は、オリヴィアとは対照的にマリアでも分かるほど酷いものだった。
自分がどれだけ可哀想かと泣くばかりで、マリアには謝罪の言葉ひとつとして出て来ない。
その上すべてはあなたのためだったのにと言い始め、そのうちそれがあなたのせいでに変わり、しまいには母を連れて逃げてくれと懇願して泣き崩れる。
私は母のようになりたくない。
姉のような立派な人間になりたい。
こうして自身の想いを自覚したマリアは、母と決別し、期間を区切りながら各労働施設を転々としているところだ。
貴族社会だけでなく、市井にも詳しくないマリアだから、色々な仕事をしてみたいと本人が望んだのである。
マリアはどの労働施設でも、無償で働くことに何の不満も見せず、新しく習うことが楽しくて仕方がないという顔をしている。
周りの者たち(多くは罪人であるが、一部、指導役としての善良な庶民もあれば、見張りや見廻りのための騎士たちもある)ともよく関わり、彼らが一般常識を教えてくれることもまた楽しいのだとか。
ちなみにマリアの選択を聞いた時、はじめてマリアの母は絶望した顔を見せていたので、母親としての想いも多少は持っていたようである。
実の娘から選ばれなかった悲しみにくれたあと、母もまた娘とは違う場所で働き始めた。
パンの工房に落ち着くまでは、いくつもの施設を転々としていた母親だったが、こちらはマリアとは違って不満たらたら、役に立たないことで職員から願われての移動だった。
施設でよく変わったように思えたが、長い時を掛け人を騙して生きてきたこちらの女は、完全にはその性格を矯正されなかったようだ。
そしてようやく、今のパン作りの工房にて落ち着きを見せている。
意外にもパン作りはその性分にあっていたようで、日々の労働を終えたあとも楽しそうに新作のパン作りに没頭しているのだとか。
よく褒める面倒見の良い指導役がいて、それも彼女の性格に合っていたのだろう。
ただし彼女については、オリヴィアたちが現れてもマリアのようには喜ばない。
始終平身低頭に努め、早く帰れと願っているようにも見受けられる余所余所しい態度でオリヴィアを迎えるのだった。
けれどもオリヴィアに自分で作ったパンを託す時の顔は、確かに母親の顔であったから。
このまま良く変わってくれればいいが、とレオンはただオリヴィアのためだけにそう願っているのだった。
それは今も。
目のまえで繰り広げられる女性たちの会話に耳を澄ませながら、レオンはこの娘が今後は真面に生きられるようにと願う。
「お母さまが落ち着いたみたいで良かったわ。ふふ。いつか会えるかしら?」
「前から言っているように、いつでも面会は可能なのですよ?」
「うーん。まだ早い気がするのよね。お母さまは私に会ったら、また甘えて駄目になってしまう気がするわ。それに私も、今はまだ会うと嫌なことを沢山言ってしまいそうだから。そうね。やっぱりまだ辞めておくわ。お姉さまは私が酷い娘だとお思いになります?」
「あなたが酷い娘なら、私はもっと酷い娘だと言えるでしょうね」
「えぇ?」
オリヴィアはぐつぐつと煮込まれる鍋の中身を眺めながら、さらに言う。
「母のことはいつまでも分かりませんし、分かろうともしていないのですから。それでも──」
それからオリヴィアは、いつの間にか横に立っていたレオンに向けて微笑んだ。
「母なりに私を想ってくれていたと思えるようにはなりました。感謝も出来るようになったのです。母のおかげで公爵夫人になるための教育を受け、本当にそうなれたのですから」
その顔に咲いた華をレオンに見せてから、またオリヴィアはマリアに視線を向けた。
マリアは先からヘラを持つ手を止めてしまっている。
「先日、母のお墓参りに行ってきました。私はそこで嫌な言葉を山ほど伝えてきたのですよ」
「まぁ!お姉さまが?」
「えぇ。それはもう、口に出来ないようなことを沢山伝えてきました。マリアは私を酷い娘だと思いますか?」
マリアはおかしそうに笑っていたのだが。
「きゃあ!大変!焦げてきたわ」
「ごめんなさい!私が邪魔をしてしまったから!」
果物の甘い香りから一変、厨房内に焦げの匂いが充満し。
二人揃って、いや、レオンも含め、三人はこの工房の管理者に叱られることになった。
公爵として来なかったレオンが悪い……ということになろうか。
そしてまた、公爵夫妻は領内を巡る。
広くなった公爵領には管理すべき場所があり過ぎて、二人は邸に長く留まることがなくなった。
しかし前とは違って。
執事長や侍女長が夫妻の不在中もよく邸を守ってくれているし、夫妻もまた邸に戻るたびによく彼らと会話をして、その労をねぎらっている。
だから以前のような問題は、この二人が当主夫妻である限り、もう二度と起きることがないだろう。
いや、二人は起こさない。
そしてレオンは朝に嘆く。
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二人は確かに罰を受け取り、その罪を償っているのだった。
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