【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実

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5.泣き虫令嬢は己を知る

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「シェリーは、迷い子なのかもしれないね」


 泣き腫らした目を氷で冷やしながら、私は父に問い直します。


「迷い子?迷子のことですか?」


 すると背中を撫でてくれていた兄が、父に代わり説明をしてくれました。
 いつも変わらぬ優しい兄の声を聴くと、とても落ち着きます。


「人は皆、幾重もの生を繰り返している、という話は聞いたことがあるね?」


 それはもちろん。
 この世界では常識となっている考え方ですから。


 この世界では──。


 私は何を思い出しているか、改めて実感させられました。
 そして父が言いたいことも分かったのです。


「通常は赤ん坊のうちに前の記憶が消えてしまうと考えられているんだ」


 え?それでは生まれたときには皆が以前の生の記憶を保有しているのでしょうか?


「そうだと言われているけれど、確認のしようがないね。何せ忘れてしまうのだから。そして赤ん坊に聞いたって、彼らは言葉を知らない」


 私の疑問に答えてくれたのは父です。
 そしてまた兄が説明をしてくれます。


「新しい世界の言葉を覚え、新しい世界に馴染んでいく頃には、全部忘れてしまうように決まっていると言われているんだよ」


 私はそれに失敗したということでしょうか?


「失敗ではないよ。そうですよね、父上?」


「あぁ、稀にシェリーのように一部分あるいはすべてを覚えている者が存在しているんだ。彼らは皆、神様からギフトを与えられた者として、周りの人たちからも祝福されているんだよ。だからシェリー、君は失敗したんじゃない」


「ギフト……」


「うん、だけどギフトを得た人は、かつてと今が内に同居してしまうだろう?それで今という生に馴染めずに苦労することが多いことも事実で、それで時を迷う人という意味で、迷い子と呼ぶ人たちが現われたんだ」


 時の迷い子。
 それはとてもしっくりくる言葉でした。

 今まで漠然と感じてきた不安も、時を迷っていた結果だと思えば、そう怖いものではなくなります。


 そしてお父さまはあの物語に対する記憶について、素晴らしい予測を立ててくださいました。


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