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165.みんなで一緒に育てていく おおきくなぁれ
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──まおうよりちいさいです。
えっへん。今のセイディは、小さいと大きいの違いも分かるのだ。
ピーマンとしては大分大きいが。比べてみれば、セイディよりもずっと小さい。
なんだか弱そうに見えてきたぞ。
──ぴーまんは、せいでぃがたおします。
だけどセイディ、あの鞭はまだ怖かった。
いや、セイディは鞭というものを知らないから、怖いのは打ち損じたときに見える真っ黒い紐の先端。
あれは宿敵ピーマンより恐ろしいものとして、セイディの記憶の奥深くに刻まれている。
縄跳びに用意した縄が黒く細いものではなかったことは、アルメスタ家の者たちのお手柄か。
されどだからこそ、まだ誰もがセイディの恐怖するものに気付いていない状況で。
この先いつか誰かがやらかしてしまうかもしれないけれど。
でも大丈夫。
セイディはもう強い子で、勇者だから!
それに一人じゃない!
セイディはぐぐっとお腹に力を込めた。
ここにぐーっと力を入れると、強くなれると教えてくれたのは、庭師のヘンリー。
本当だ。力が漲る。
「しゅくじょはつよいのよ。おかあしゃまはいいます!」
自信を持って、セイディは叫んだ。
「ゆうしゃせいでぃはとてもつよいこだと、おとうしゃ……まおうはいいます!」
魔王の正体は知らない振りをしておかなければならない。
セイディがこの大事な務めを守ることは、おかあしゃまと侍女長のソフィアと交わした内緒の約束。
「とのがたにはおしえませんわ。おとめのひみつですわ。おほほほほ!」
この台詞は近頃のセイディのお気に入りだった。『誰だ、妙な言葉を教えているのは』と、現実でも誰かが叫んだとか。
「せいでぃはつよくていいこです。きれいでかわいいです。そふぃあはいいます。くれあはいいます。りさはいいます。めありはいいます────とっとはつよくなるたしなみをしっています!せいでぃもたしなみました!せいでぃはつよいこです!」
またしても現実で『妙なことを嗜ませるな!』と叫んだ誰かがいたとか。いたとか。
「せいでぃはたくさんたべるからつよいこです。るーすはいいます。おにわのおやさいは、せいでぃがそだてるとつよいこになります。へんりがいいます。ぴーまんはそだてます。ぴーまんはいりません。ぴーまんはわるいこですか?せいでぃはぴーまんはわるいこだとおもうのです。おくちがぴーまんになるからです。おおきくそだてたぴーまんはないないします。たくさんねているから、せいでぃはもっとおおきくなります。かーるはいいます。おおきなぴーまんもたくさんねましたか?──」
侍女の名が延々続き。侍従だ、庭師だ、料理長だ、医者だ……と名が続くなか、途中ピーマンがやたらと主張をしていたが。それからも次々とアルメスタ家の者たちの名前が出された。
誰かが言う。『お前たち、誰の番か分かっているのか!』と。
どうやら現実も騒がしくなっているようだ。
すーっと息を吸い込んだのは、夢か現か。
ほわり。
セイディの身体が緩んだ。
嬉しい。楽しい。綺麗になった。温かい。美味しい。美味しい。美味しい。
セイディの知る限りの良い感情が心をいっぱいに満たしていく。
胸がぽかぽかと温かくて。
本当の記憶の中に並ぶどの部屋でも感じていたあの冷たさも寂しさも苦しさも痛みも。
もうどこにもなければ、仮面の男改めピーマンなんか何も怖くはない。
だがそこに、新たなる譲れぬ戦いが勃発した。
「ゆうしゃはせいでぃです!」
強気で主張したのに、もうピーマンは何も答えない。
それでもセイディは宣言した。
「ゆうしゃはせいでぃです!したっぱはせいでぃがたおします!ぴーまんはせいでぃがたおします。まおうもせいでぃがたおします!」
るどはだめです!みているだけです!
たおしたらだめです!ゆうしゃはせいでぃです!
いけません!しーっです!るどはしーっ!!!
ぴーまんはあげますっ!るどがたべます!
大人気なく、誰よりもいいところを見せようとするからこうなる。
誰かが現実で泣いた。『そんな……夢でも……』
泣いているその人に、いつか誰かが教えてあげたらいい。
セイディが泣き顔を一番に見せる人も。
セイディが冷たく突き放してその愛情を試す人も。
セイディがこうして理不尽に怒りをぶつけられる人も。
セイディの固まる心がふにゃふにゃに解けるきっかけとなる人も。
セイディが美味しいときにたまには思い出すその人も。
こうしてセイディが恐ろしい夢を見ていても。
その人の温もりが、その人の香りが、ちゃんと届いて、支えになって。
負けずに戦えているということを。
全部同じ人の話。
気付けていないのは、セイディと誰かさんだけ。
さぁ、早く。
目覚めてしまうよ。
急いで倒さないと。
きっとまもなく目覚めれば。
幸せな温もりに包まれてはじまる一日が待っている。
朝食のあとにプリンを食べたあとなんか。
もうすっかりこの夢のことも忘れてしまうから。
だから早く。
そう今日こそは。
「えい、やぁ、えいですっ!えいっ!えいっ!えいっ!」
セイディがお気に入りの大剣を振る。
早く、早く。
急いでやっつけて。
早くしないと。
特別なプリンが食べられない。
あぁ、世界がぼんやりしてきた。
巨大ピーマンの真緑色も薄くなっていき。
意識が浮上したあとには。
アルメスタ家の明るく賑やかな──幸福溢れる一日がまた始まる。
彼女は今日も今日とて戦っている。
大好きな人たちといつも一緒。
ご褒美には大きな大きな特別なプリンをいくつでも。
めでたし、めでたし。これにておしま……い?
──勇者と仲間たちの冒険はつづく──
えっへん。今のセイディは、小さいと大きいの違いも分かるのだ。
ピーマンとしては大分大きいが。比べてみれば、セイディよりもずっと小さい。
なんだか弱そうに見えてきたぞ。
──ぴーまんは、せいでぃがたおします。
だけどセイディ、あの鞭はまだ怖かった。
いや、セイディは鞭というものを知らないから、怖いのは打ち損じたときに見える真っ黒い紐の先端。
あれは宿敵ピーマンより恐ろしいものとして、セイディの記憶の奥深くに刻まれている。
縄跳びに用意した縄が黒く細いものではなかったことは、アルメスタ家の者たちのお手柄か。
されどだからこそ、まだ誰もがセイディの恐怖するものに気付いていない状況で。
この先いつか誰かがやらかしてしまうかもしれないけれど。
でも大丈夫。
セイディはもう強い子で、勇者だから!
それに一人じゃない!
セイディはぐぐっとお腹に力を込めた。
ここにぐーっと力を入れると、強くなれると教えてくれたのは、庭師のヘンリー。
本当だ。力が漲る。
「しゅくじょはつよいのよ。おかあしゃまはいいます!」
自信を持って、セイディは叫んだ。
「ゆうしゃせいでぃはとてもつよいこだと、おとうしゃ……まおうはいいます!」
魔王の正体は知らない振りをしておかなければならない。
セイディがこの大事な務めを守ることは、おかあしゃまと侍女長のソフィアと交わした内緒の約束。
「とのがたにはおしえませんわ。おとめのひみつですわ。おほほほほ!」
この台詞は近頃のセイディのお気に入りだった。『誰だ、妙な言葉を教えているのは』と、現実でも誰かが叫んだとか。
「せいでぃはつよくていいこです。きれいでかわいいです。そふぃあはいいます。くれあはいいます。りさはいいます。めありはいいます────とっとはつよくなるたしなみをしっています!せいでぃもたしなみました!せいでぃはつよいこです!」
またしても現実で『妙なことを嗜ませるな!』と叫んだ誰かがいたとか。いたとか。
「せいでぃはたくさんたべるからつよいこです。るーすはいいます。おにわのおやさいは、せいでぃがそだてるとつよいこになります。へんりがいいます。ぴーまんはそだてます。ぴーまんはいりません。ぴーまんはわるいこですか?せいでぃはぴーまんはわるいこだとおもうのです。おくちがぴーまんになるからです。おおきくそだてたぴーまんはないないします。たくさんねているから、せいでぃはもっとおおきくなります。かーるはいいます。おおきなぴーまんもたくさんねましたか?──」
侍女の名が延々続き。侍従だ、庭師だ、料理長だ、医者だ……と名が続くなか、途中ピーマンがやたらと主張をしていたが。それからも次々とアルメスタ家の者たちの名前が出された。
誰かが言う。『お前たち、誰の番か分かっているのか!』と。
どうやら現実も騒がしくなっているようだ。
すーっと息を吸い込んだのは、夢か現か。
ほわり。
セイディの身体が緩んだ。
嬉しい。楽しい。綺麗になった。温かい。美味しい。美味しい。美味しい。
セイディの知る限りの良い感情が心をいっぱいに満たしていく。
胸がぽかぽかと温かくて。
本当の記憶の中に並ぶどの部屋でも感じていたあの冷たさも寂しさも苦しさも痛みも。
もうどこにもなければ、仮面の男改めピーマンなんか何も怖くはない。
だがそこに、新たなる譲れぬ戦いが勃発した。
「ゆうしゃはせいでぃです!」
強気で主張したのに、もうピーマンは何も答えない。
それでもセイディは宣言した。
「ゆうしゃはせいでぃです!したっぱはせいでぃがたおします!ぴーまんはせいでぃがたおします。まおうもせいでぃがたおします!」
るどはだめです!みているだけです!
たおしたらだめです!ゆうしゃはせいでぃです!
いけません!しーっです!るどはしーっ!!!
ぴーまんはあげますっ!るどがたべます!
大人気なく、誰よりもいいところを見せようとするからこうなる。
誰かが現実で泣いた。『そんな……夢でも……』
泣いているその人に、いつか誰かが教えてあげたらいい。
セイディが泣き顔を一番に見せる人も。
セイディが冷たく突き放してその愛情を試す人も。
セイディがこうして理不尽に怒りをぶつけられる人も。
セイディの固まる心がふにゃふにゃに解けるきっかけとなる人も。
セイディが美味しいときにたまには思い出すその人も。
こうしてセイディが恐ろしい夢を見ていても。
その人の温もりが、その人の香りが、ちゃんと届いて、支えになって。
負けずに戦えているということを。
全部同じ人の話。
気付けていないのは、セイディと誰かさんだけ。
さぁ、早く。
目覚めてしまうよ。
急いで倒さないと。
きっとまもなく目覚めれば。
幸せな温もりに包まれてはじまる一日が待っている。
朝食のあとにプリンを食べたあとなんか。
もうすっかりこの夢のことも忘れてしまうから。
だから早く。
そう今日こそは。
「えい、やぁ、えいですっ!えいっ!えいっ!えいっ!」
セイディがお気に入りの大剣を振る。
早く、早く。
急いでやっつけて。
早くしないと。
特別なプリンが食べられない。
あぁ、世界がぼんやりしてきた。
巨大ピーマンの真緑色も薄くなっていき。
意識が浮上したあとには。
アルメスタ家の明るく賑やかな──幸福溢れる一日がまた始まる。
彼女は今日も今日とて戦っている。
大好きな人たちといつも一緒。
ご褒美には大きな大きな特別なプリンをいくつでも。
めでたし、めでたし。これにておしま……い?
──勇者と仲間たちの冒険はつづく──
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