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番外編
父と息子は似て非なるもの?②
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アルメスタ家の領地に、奇妙な店が増えて不気味だ。
そんな噂が王都に届いたのは、それから半年後のことだった。
隠居したあとも王城に残り息子である新王の治世を支えているとされる先代王が、これを聞くや喚いていたそうで。
「なぁ、ついに謀叛ではないか?謀叛のために準備を始めたのだろう?王として放っておいて良いのか?」
「うるさいですよ、父上。働かないなら母上のところへどうぞ」
「ちょっ。そんなっ。息子が冷たいっ。だが聞いただろう?どう使うかも分からない商品を扱っている怪しい店だと言うんだ。それも一店や二店の話ではないようでな。恐ろしいではないか」
「はいはいはい、働いてくださいね。その書類の山を崩したら聞いてあげますよ。でないと母上のところへ送りますからね。これが王としての決定です」
「酷い。これでも私は父上なのだよ?もう少し優しくしないか?」
「そんなことだから母上に愛想を尽かされたのです」
「違うぞ!あちらにいるよりは王都にいた方がきっと役に立つだろうと、そう提案されただけだ」
「はいはいはい。あなたは口を動かしながら書類を読めませんよね?そろそろ黙れ?」
「息子が怖いし冷たい。だがな、アルメスタの話ぞ?あの恐ろしいアルメスタが、怪しい武器でも集めていたらどうするのだ?」
「それはいよいよ父上が倒されるときが来たかもしれませんねぇ。娘さんも順調に元気になっているそうですし」
「ななな。私も?え?私も倒されちゃうの?あの子たちだけでなく?」
「王家ごと裁くと言っていたではありませんか。現当主夫妻……まだ届け出はないが夫婦と思っていいな?そもそも届ける気があるかどうか……んん、当主夫妻に対しては、その機が来たら、私たちも責任を取らねばなりません。父上も当然その中に含まれる」
「そんなっ。私はまたあんな恐ろしい時間をっ。なぁ、冗談だよね?そうだと言って?」
「よくまだそんなことが聞けますね?先代公から頂いた指示書には、お二人が元気に剣を振るっていると書いてありましたよ。誰に振る剣の練習かなぁ?」
「ひぃぃ。そんなっ!恐ろしいことをさせなくてもっ!」
「先代公は、もうしばらく領地で過ごされたあとに夫人と一緒にこちらに戻られるそうですよ。そのときまでに……分かりますね?」
「ひぃぃ。働きますっ。働きますからっ。再教育だけはっ!お願いやめてっ!」
「それは私が決めることではないので」
「これでは王が誰かも分からんっ!アルメスタの方が王、いや魔王のようではないかっ!貴族らもアルメスタの話しか聞かん。王家としてこれは良くないのではないか?王としてどうなのだ?」
「私たちはアルメスタの恩情で生かされているのですよ。父上にはまだ分かりませんか……これは再教育間違いなしだな」
「ちょっ。不穏な言葉を囁かないでっ。年老いた父親には優しくだよ!」
「そんなお歳ではないでしょう!ほら、きりきり働けっ。はい、この書類もよろしく。そこの全部期限に間に合わなかったら、くれぐれも父上の再教育をよろしくと私からもお願いしますからね?」
「ひぃぃ。息子も恐ろしいっ!誰かっ!誰か助けてくれっ!私の味方はいないかっ!」
いっとき王城が騒がしかったという噂の方は、アルメスタ家の領地にまで届けられることはなかった。
それはある日の領主館にて。
「囚われのお姫さまは、優しい言葉を掛けてくれる王子さまに恋をしました……」
セイディは絵本を読む声に真剣な顔で耳を傾けていた。
「……外の世界を知ったお姫さまは、優しい言葉を掛けるだけの王子さまが、とても役に立たないことを知りました。そこでお姫さまは、結婚をなかったことにしようと戦うことにしたのです……なんだっ、この話はっ!」
首を傾げたセイディは、それは不思議そうに教えてあげた。
「『とらわれのひめは、ゆうしゃにこいをする』です!はやくっ!つづき、よみましゅっ!ゆうしゃですっ!」
物語の序盤で大騒ぎするジェラルドに、セイディは不満そうだ。
勇者の仲間になったお姫さまが大活躍するところが大好きで、この話に限りセイディは勇者を離脱して『せいでぃはおひめさまです!』と宣言することもあるというのに。
それは素晴らしい淑女の戦略──。
しかし息子にはこれが伝わらなかった。
「もう黙ってはいられないっ!母上っ!すべての絵本は私が選びます!もう母上は──はっ、父上。これは違うのです。母上を責めたいのではなく、私はただセイディの番相手として──」
もちろんこの騒ぎについて、王都まで届くことはなかった。
時候のあいさつ代わりにレイモンドが伝えているのは、自分たち夫妻に関わるちょっとした自慢話に限るから。
年下の誰かさんと、意外にも気が合いお友だちになったレイモンド。
相手は番を知る者の使い方をよーく分かっているお利巧な王様だった。
たとえばこうして長く王都に行かずに済むよう、脅せば……ごほん、自らの意思でいくらでも協力してくれて。
王城に招待されたときには、もう圧を掛けなくても夫妻揃って過ごせるよう手配したうえ、妻の好きなものばかり並べて手厚くもてなしてくれるのだから。
レイモンドが気に入らないはずがない。
加えて出来は雲泥の差ではあるものの、面倒な父親がいるという共通点が、二人の気を合わせた。
「お互い父親には苦労するねぇ」
「えぇ、本当に。また再教育を頼んでいいか?」
「もちろんだとも。うちの爺さんにも再教育を施せたらいいんだが。もう王都に送ろうかな?」
「ははは……御年の方に長距離移動は大変だろう」
「片道の一度で済ませれば問題ない。こちらに来ても暇だろうし、王城で引き取っていただくのはどうか?すぐに忘れるお父上にも、側に置けば良き常備薬になると思うよ?」
「はは……大好きな祖父殿を取り上げては可哀想ではないか?」
「それだ。そこが気に入らん……が、一理ある。少し時期は置くか」
(……よかった。時間稼ぎは出来そうだ。次の手を考えよう。二人が王都に来たくなるよう夫人の好きな菓子だけを出す店を興すか。ついでに王都でしか買えない子ども向けの商品を扱う店もあるといいな。いつも大量の土産を持ち帰ると聞くから、買う方も貰う方も二代ともに喜ぶものを……。また絵本作家を発掘させるか。王家主催のコンテストを行うのもいいな。文化の発展は大事。庶民の識字率向上に繋げるか。それから……)
番を知る者たちの扱いやすさを覚えた王は、アルメスタの先々代当主がやって来ることには断固反対の姿勢を取り続けたのだった。
この王は、年月を重ねるほどに、表舞台に立つことなくそのまま歴史の闇に葬られた弟たちがいつまでも抱え続けたあの思想が、心から理解出来くなっていった。
(『父と息子は似て非なるもの?』 完)
そんな噂が王都に届いたのは、それから半年後のことだった。
隠居したあとも王城に残り息子である新王の治世を支えているとされる先代王が、これを聞くや喚いていたそうで。
「なぁ、ついに謀叛ではないか?謀叛のために準備を始めたのだろう?王として放っておいて良いのか?」
「うるさいですよ、父上。働かないなら母上のところへどうぞ」
「ちょっ。そんなっ。息子が冷たいっ。だが聞いただろう?どう使うかも分からない商品を扱っている怪しい店だと言うんだ。それも一店や二店の話ではないようでな。恐ろしいではないか」
「はいはいはい、働いてくださいね。その書類の山を崩したら聞いてあげますよ。でないと母上のところへ送りますからね。これが王としての決定です」
「酷い。これでも私は父上なのだよ?もう少し優しくしないか?」
「そんなことだから母上に愛想を尽かされたのです」
「違うぞ!あちらにいるよりは王都にいた方がきっと役に立つだろうと、そう提案されただけだ」
「はいはいはい。あなたは口を動かしながら書類を読めませんよね?そろそろ黙れ?」
「息子が怖いし冷たい。だがな、アルメスタの話ぞ?あの恐ろしいアルメスタが、怪しい武器でも集めていたらどうするのだ?」
「それはいよいよ父上が倒されるときが来たかもしれませんねぇ。娘さんも順調に元気になっているそうですし」
「ななな。私も?え?私も倒されちゃうの?あの子たちだけでなく?」
「王家ごと裁くと言っていたではありませんか。現当主夫妻……まだ届け出はないが夫婦と思っていいな?そもそも届ける気があるかどうか……んん、当主夫妻に対しては、その機が来たら、私たちも責任を取らねばなりません。父上も当然その中に含まれる」
「そんなっ。私はまたあんな恐ろしい時間をっ。なぁ、冗談だよね?そうだと言って?」
「よくまだそんなことが聞けますね?先代公から頂いた指示書には、お二人が元気に剣を振るっていると書いてありましたよ。誰に振る剣の練習かなぁ?」
「ひぃぃ。そんなっ!恐ろしいことをさせなくてもっ!」
「先代公は、もうしばらく領地で過ごされたあとに夫人と一緒にこちらに戻られるそうですよ。そのときまでに……分かりますね?」
「ひぃぃ。働きますっ。働きますからっ。再教育だけはっ!お願いやめてっ!」
「それは私が決めることではないので」
「これでは王が誰かも分からんっ!アルメスタの方が王、いや魔王のようではないかっ!貴族らもアルメスタの話しか聞かん。王家としてこれは良くないのではないか?王としてどうなのだ?」
「私たちはアルメスタの恩情で生かされているのですよ。父上にはまだ分かりませんか……これは再教育間違いなしだな」
「ちょっ。不穏な言葉を囁かないでっ。年老いた父親には優しくだよ!」
「そんなお歳ではないでしょう!ほら、きりきり働けっ。はい、この書類もよろしく。そこの全部期限に間に合わなかったら、くれぐれも父上の再教育をよろしくと私からもお願いしますからね?」
「ひぃぃ。息子も恐ろしいっ!誰かっ!誰か助けてくれっ!私の味方はいないかっ!」
いっとき王城が騒がしかったという噂の方は、アルメスタ家の領地にまで届けられることはなかった。
それはある日の領主館にて。
「囚われのお姫さまは、優しい言葉を掛けてくれる王子さまに恋をしました……」
セイディは絵本を読む声に真剣な顔で耳を傾けていた。
「……外の世界を知ったお姫さまは、優しい言葉を掛けるだけの王子さまが、とても役に立たないことを知りました。そこでお姫さまは、結婚をなかったことにしようと戦うことにしたのです……なんだっ、この話はっ!」
首を傾げたセイディは、それは不思議そうに教えてあげた。
「『とらわれのひめは、ゆうしゃにこいをする』です!はやくっ!つづき、よみましゅっ!ゆうしゃですっ!」
物語の序盤で大騒ぎするジェラルドに、セイディは不満そうだ。
勇者の仲間になったお姫さまが大活躍するところが大好きで、この話に限りセイディは勇者を離脱して『せいでぃはおひめさまです!』と宣言することもあるというのに。
それは素晴らしい淑女の戦略──。
しかし息子にはこれが伝わらなかった。
「もう黙ってはいられないっ!母上っ!すべての絵本は私が選びます!もう母上は──はっ、父上。これは違うのです。母上を責めたいのではなく、私はただセイディの番相手として──」
もちろんこの騒ぎについて、王都まで届くことはなかった。
時候のあいさつ代わりにレイモンドが伝えているのは、自分たち夫妻に関わるちょっとした自慢話に限るから。
年下の誰かさんと、意外にも気が合いお友だちになったレイモンド。
相手は番を知る者の使い方をよーく分かっているお利巧な王様だった。
たとえばこうして長く王都に行かずに済むよう、脅せば……ごほん、自らの意思でいくらでも協力してくれて。
王城に招待されたときには、もう圧を掛けなくても夫妻揃って過ごせるよう手配したうえ、妻の好きなものばかり並べて手厚くもてなしてくれるのだから。
レイモンドが気に入らないはずがない。
加えて出来は雲泥の差ではあるものの、面倒な父親がいるという共通点が、二人の気を合わせた。
「お互い父親には苦労するねぇ」
「えぇ、本当に。また再教育を頼んでいいか?」
「もちろんだとも。うちの爺さんにも再教育を施せたらいいんだが。もう王都に送ろうかな?」
「ははは……御年の方に長距離移動は大変だろう」
「片道の一度で済ませれば問題ない。こちらに来ても暇だろうし、王城で引き取っていただくのはどうか?すぐに忘れるお父上にも、側に置けば良き常備薬になると思うよ?」
「はは……大好きな祖父殿を取り上げては可哀想ではないか?」
「それだ。そこが気に入らん……が、一理ある。少し時期は置くか」
(……よかった。時間稼ぎは出来そうだ。次の手を考えよう。二人が王都に来たくなるよう夫人の好きな菓子だけを出す店を興すか。ついでに王都でしか買えない子ども向けの商品を扱う店もあるといいな。いつも大量の土産を持ち帰ると聞くから、買う方も貰う方も二代ともに喜ぶものを……。また絵本作家を発掘させるか。王家主催のコンテストを行うのもいいな。文化の発展は大事。庶民の識字率向上に繋げるか。それから……)
番を知る者たちの扱いやすさを覚えた王は、アルメスタの先々代当主がやって来ることには断固反対の姿勢を取り続けたのだった。
この王は、年月を重ねるほどに、表舞台に立つことなくそのまま歴史の闇に葬られた弟たちがいつまでも抱え続けたあの思想が、心から理解出来くなっていった。
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