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14.公爵は頻繁に泣く
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「主さま。お手伝いを」
侍女長の声にはっとしたジェラルドは、セイディの手を取った。
番の感情に同調して、放心している場合ではなかったのである。
「セイディ、大丈夫だよ。ルドが食べ方を教えるからね。すぐに匙の使い方も上手になる」
「せいでぃ、たべる」
「うん、これで少し練習したら、新しいプリンを貰おうか」
「ぷりん、ぷりん、たべる」
「これも食べて、新しいプリンもか。セイディは欲張りでいいね。よしよし。ルドも一緒に持って動かすから、セイディは力を抜いて任せてくれるかな?」
崩れたプリンをほとんどジェラルドの力で口に運んで貰ったセイディは、昨日までよりずっと明るく瞳を輝かせた。
「せいでぃ、いっしょたべる」
「そうだね、セイディ。ルドとセイディが一緒に食べた」
まだしばらく食事中の役目がありそうなことにもほっとしていたジェラルドは次の言葉で身体から魂が抜けた。
「るど、いっしょたべる」
「っ!!!」
「主さま」
感動して震えるジェラルドに、侍女長は間髪入れず淡々と声を掛ける。
侍女長の表情がどこか冷たく感じるのは気のせいだろうか。
「今度は主さまがご一緒にという意味ではございませんか?」
ひとたび息を吐けば号泣しそうで、ジェラルドは息を止めていた。
だが、すぐに限界はやって来るし、侍女長も容赦がない。
「主さま?」
「うっ。うん、そうだな。セイディ。ルドにも食べさせてくれるかな?」
なんとか涙腺の崩壊を耐えたアルメスタ公爵は、震える声でセイディにお願いした。
「るど、いっしょたべる」
二度目の呼び掛けには、涙腺は耐えられなかった。
目を潤ませながら自分で口に運んだプリンの味は、少し塩辛かったジェラルドである。
「せいでぃ、たべる」
「うん、セイディ。ルドはもういいから、沢山お食べ」
悟られないように、侍女長から渡されたハンカチでぐいぐいと目元を拭ったジェラルドは、それからも熱心にセイディの口にプリンを運んだ。
今朝が違っているのは、プリンの形が乱れクリームと攪拌されていることと、匙との間にセイディの手が挟まれていることだ。
そして潰れたプリンがあと一口となったとき。
「じじょちょのそふぃあ、いっしょたべる」
「えっ!」
感激していたジェラルドは、驚きを示したあとに、今度はショックで放心した。
「まぁ、セイディさま。わたくしにも食べさせてくださるのですか」
いや、断れよ。と放心が解けたあとにはジェラルドもそう思ったものだが。
今はショックが強過ぎて、侍女長を睨むことも出来ない。
「ではセイディさま、後ほどお願いしてもよろしいですか?実は今はお腹がいっぱいで、もう少しあとでお願いしたいのです」
「あと」
「そうです。あとでです。そのときは、わたくし侍女長のソフィアと一緒に食べましょうね」
「じじょちょのそふぃあ、いっしょたべる」
さすがに同じ匙を使うことだけは遠慮した侍女長だったが、ちゃっかりお代わりのプリンを用意したときに新しい匙を二本も持ってきて、「侍女長のソフィアもお腹が空いて参りました」と宣い、主人の前で堂々とセイディと一緒にプリンを賞味していた。
おのれ、侍女長。許すまじ。
初めての感動に浸っていたかったジェラルドは、侍女長へのライバル心をめらめらと燃やす。
一方この話が広まった頃、庭でピクニックの計画を進言しようと、庭師のまとめ役の男ヘンリーが若い庭師たちを集めてめらめらと燃えていた。
ちなみにジェラルドの侍従トットは、侍女長のあとにしれっとプリンを貰っている。
侍女長ともプリンを一緒に食べて満足したセイディがすぐに「とっと」と呼んだからだ。
呼べば現れる男トットは、晴れやかな顔で何故か匙を持参しており、セイディと一緒にプリンを食べるとその場から消えていた。
おのれ、トット。あとで覚えておけ。
ジェラルドは恨みを募らせる。
何にせよ、成長を見られ何よりと、後からすべてを聞いた医者はそう言った。
そしてこちらもしれっと、「医者であるこのカールも、セイディさまとプリンをご一緒に食べたいですな」とセイディに伝えている。
そしてすぐにそれは叶ってしまった。
セイディが「いっしょたべる」と言えば、プリンが出て来ると覚えてしまったから。
しばらくアルメスタ公爵邸は、仕事中にプリンと匙を持ち歩く不届き者で溢れていた。
一体何本の匙をセイディのために用意したのか。
それは当主の堪忍袋の緒がついに切れたあとにも続き、セイディが食事を取らずにプリンばかり食べるようになってしまったことから、やっと自主的に控えられるようになった。
「せいでぃ、いっしょたべる」
ついにアルメスタ公爵家がセイディに教育を始めていく。
「セイディさま、プリンはお食事のあとにございますよ」
「ぷりん、せいでぃ、いっしょたべる」
「先にプリンは特別な時だけです。ねぇ、主さま?」
「…………今日は」
「主さま?」
「うん、セイディ。先に食事をしようね」
思い切り陰る瞳。
ジェラルドは辛くて辛くて、セイディが寝静まったあとによく泣いた。
侍女長の声にはっとしたジェラルドは、セイディの手を取った。
番の感情に同調して、放心している場合ではなかったのである。
「セイディ、大丈夫だよ。ルドが食べ方を教えるからね。すぐに匙の使い方も上手になる」
「せいでぃ、たべる」
「うん、これで少し練習したら、新しいプリンを貰おうか」
「ぷりん、ぷりん、たべる」
「これも食べて、新しいプリンもか。セイディは欲張りでいいね。よしよし。ルドも一緒に持って動かすから、セイディは力を抜いて任せてくれるかな?」
崩れたプリンをほとんどジェラルドの力で口に運んで貰ったセイディは、昨日までよりずっと明るく瞳を輝かせた。
「せいでぃ、いっしょたべる」
「そうだね、セイディ。ルドとセイディが一緒に食べた」
まだしばらく食事中の役目がありそうなことにもほっとしていたジェラルドは次の言葉で身体から魂が抜けた。
「るど、いっしょたべる」
「っ!!!」
「主さま」
感動して震えるジェラルドに、侍女長は間髪入れず淡々と声を掛ける。
侍女長の表情がどこか冷たく感じるのは気のせいだろうか。
「今度は主さまがご一緒にという意味ではございませんか?」
ひとたび息を吐けば号泣しそうで、ジェラルドは息を止めていた。
だが、すぐに限界はやって来るし、侍女長も容赦がない。
「主さま?」
「うっ。うん、そうだな。セイディ。ルドにも食べさせてくれるかな?」
なんとか涙腺の崩壊を耐えたアルメスタ公爵は、震える声でセイディにお願いした。
「るど、いっしょたべる」
二度目の呼び掛けには、涙腺は耐えられなかった。
目を潤ませながら自分で口に運んだプリンの味は、少し塩辛かったジェラルドである。
「せいでぃ、たべる」
「うん、セイディ。ルドはもういいから、沢山お食べ」
悟られないように、侍女長から渡されたハンカチでぐいぐいと目元を拭ったジェラルドは、それからも熱心にセイディの口にプリンを運んだ。
今朝が違っているのは、プリンの形が乱れクリームと攪拌されていることと、匙との間にセイディの手が挟まれていることだ。
そして潰れたプリンがあと一口となったとき。
「じじょちょのそふぃあ、いっしょたべる」
「えっ!」
感激していたジェラルドは、驚きを示したあとに、今度はショックで放心した。
「まぁ、セイディさま。わたくしにも食べさせてくださるのですか」
いや、断れよ。と放心が解けたあとにはジェラルドもそう思ったものだが。
今はショックが強過ぎて、侍女長を睨むことも出来ない。
「ではセイディさま、後ほどお願いしてもよろしいですか?実は今はお腹がいっぱいで、もう少しあとでお願いしたいのです」
「あと」
「そうです。あとでです。そのときは、わたくし侍女長のソフィアと一緒に食べましょうね」
「じじょちょのそふぃあ、いっしょたべる」
さすがに同じ匙を使うことだけは遠慮した侍女長だったが、ちゃっかりお代わりのプリンを用意したときに新しい匙を二本も持ってきて、「侍女長のソフィアもお腹が空いて参りました」と宣い、主人の前で堂々とセイディと一緒にプリンを賞味していた。
おのれ、侍女長。許すまじ。
初めての感動に浸っていたかったジェラルドは、侍女長へのライバル心をめらめらと燃やす。
一方この話が広まった頃、庭でピクニックの計画を進言しようと、庭師のまとめ役の男ヘンリーが若い庭師たちを集めてめらめらと燃えていた。
ちなみにジェラルドの侍従トットは、侍女長のあとにしれっとプリンを貰っている。
侍女長ともプリンを一緒に食べて満足したセイディがすぐに「とっと」と呼んだからだ。
呼べば現れる男トットは、晴れやかな顔で何故か匙を持参しており、セイディと一緒にプリンを食べるとその場から消えていた。
おのれ、トット。あとで覚えておけ。
ジェラルドは恨みを募らせる。
何にせよ、成長を見られ何よりと、後からすべてを聞いた医者はそう言った。
そしてこちらもしれっと、「医者であるこのカールも、セイディさまとプリンをご一緒に食べたいですな」とセイディに伝えている。
そしてすぐにそれは叶ってしまった。
セイディが「いっしょたべる」と言えば、プリンが出て来ると覚えてしまったから。
しばらくアルメスタ公爵邸は、仕事中にプリンと匙を持ち歩く不届き者で溢れていた。
一体何本の匙をセイディのために用意したのか。
それは当主の堪忍袋の緒がついに切れたあとにも続き、セイディが食事を取らずにプリンばかり食べるようになってしまったことから、やっと自主的に控えられるようになった。
「せいでぃ、いっしょたべる」
ついにアルメスタ公爵家がセイディに教育を始めていく。
「セイディさま、プリンはお食事のあとにございますよ」
「ぷりん、せいでぃ、いっしょたべる」
「先にプリンは特別な時だけです。ねぇ、主さま?」
「…………今日は」
「主さま?」
「うん、セイディ。先に食事をしようね」
思い切り陰る瞳。
ジェラルドは辛くて辛くて、セイディが寝静まったあとによく泣いた。
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