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61.後はおとうしゃまに任せなさい
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十年も続いた辛い日々に、恐怖や痛みと結ばれたいくつかの言葉。
その最たる重い鎖がついに切り離された。
セイディが今日この場に足を運ぶことが出来たのも、この結果あってのこと。
人が集まるところに行けば、セイディは確実に『番』という言葉を耳にすることになる。
ジェラルドが番を知る者であること。
幼い頃に番を見付ける幸運を得ながらもそれをあっさり奪われたこと。
十年過ぎてやっとその番を見付け出しこのたび保護したこと。
そのすべてが、王都では知れ渡っていた。
人々の口を完全に閉ざすことは難しい。
覚悟のうえで、アルメスタ公爵家はセイディをこの場に連れて来た。
大丈夫と思えるセイディの変化を確かに受け止めたからだ。
とは言っても、不安は残る。
大勢の見知らぬ人間がいる場所に、セイディは不慣れだ。
それでパニックを起こし、また心を閉じてしまう可能性は十分に考えられたから。
ジェラルドや先代公爵夫妻、表立って付き添ってきた侍従だけでなく。
姿を見せずにこの場に潜むアルメスタ公爵家の関係者たちは、それぞれセイディの様子をはらはらしながら見守っていた。
何かあってジェラルドや先代公爵夫妻が身動きを取れない不測の事態に陥った場合にも、全力でセイディをこの場から遠ざける計画はいくつも立てたところでなお、彼らの心配は尽きない。
そんな心配など要らないよと、明るく吹き飛ばしたのは、その憂いの対象者であるセイディだった。
アルメスタ公爵家の者たちはこれからが大変だろう。
不謹慎にも葬儀の後であることをすっかり忘れ、彼らは祝福のパーティーを開催しなければならない。
それも連日となる。
つまり特別なプリンは、さらなる特別なプリンへと進化する必要があって、最も結果を出さなければならない料理長のルースは、気が休まる日は来ないだろう。
だが彼は必ず心からこの結果を祝福する。
仲間に知らせたな?
俺たちも早く帰ろうぜ。
用意があるからな。
なんてこそこそ話している連中もいたが。
さすがに王女の耳には届かなかったので。
「……まぁ、まるでというより、本当にまだ子どもなのね。これが公爵夫人に収まるだなんておかしなこともあるわ」
可憐なその声は、最初のときとは違って、僅かな震えと共に届けられた。
感情を抑えきれなかったようである。
「それは王族から我が公爵家への正式なご意見として受け止めてよろしいですかな?」
アルメスタ公爵家の先代当主は、初見では穏やかな人柄として捉えられることが多い。
元々優し気な顔付きがあって、そこにいつも笑みを絶やさなければ、優しく善良な人に違いないと初対面の相手は勝手に思い込んでくれるのだ。
だがよく知る人々は、彼がそう優しい人間ではないことを知っている。
知ってはいるけれど。
今のように彼の口からこうも低い声が出れば、ぎょっとはするし、警戒もするだろう。
それは王女も同じだったようだ。
ドレスの裾に隠れた片足が後ろに引かれた。
なお息子である当代のアルメスタ公爵に対して人々が持つ印象は真逆。
顔の造形は親子らしく似ているはずなのだが、何故か息子の方は元から険のある顔付きをしていたし、そのうえ番を奪われていたこともあって今までずっと笑顔を喪失してきた。
さらに人から喜ばれるような仕事をして来なかった影響もあって、人々、特に貴族たちからは恐ろしい怪物のように避けられているきらいがある。
ジェラルドの顔の話はさておき。
レイモンドの低く地を這う声に、逃げるようにこの場を去る者、距離を置く者がさらに増えた。
重ねて言うが、すでに葬儀が終わったのだから退場は自由だ。
むしろ残ろうとする者たちは野次馬であろうし、怖いもの見たさで残り後悔する前に去れ、とある侍従は笑顔を浮かべながら思っている。
見ない方が良いもの。
聞かない方が幸せなこと。
知らなければ生きられること。
そんなことは世の中に沢山あるのだ。
貴族ほどそれをよーく理解しているはずだけれど?
まだここにいていいのかい?
その最たる重い鎖がついに切り離された。
セイディが今日この場に足を運ぶことが出来たのも、この結果あってのこと。
人が集まるところに行けば、セイディは確実に『番』という言葉を耳にすることになる。
ジェラルドが番を知る者であること。
幼い頃に番を見付ける幸運を得ながらもそれをあっさり奪われたこと。
十年過ぎてやっとその番を見付け出しこのたび保護したこと。
そのすべてが、王都では知れ渡っていた。
人々の口を完全に閉ざすことは難しい。
覚悟のうえで、アルメスタ公爵家はセイディをこの場に連れて来た。
大丈夫と思えるセイディの変化を確かに受け止めたからだ。
とは言っても、不安は残る。
大勢の見知らぬ人間がいる場所に、セイディは不慣れだ。
それでパニックを起こし、また心を閉じてしまう可能性は十分に考えられたから。
ジェラルドや先代公爵夫妻、表立って付き添ってきた侍従だけでなく。
姿を見せずにこの場に潜むアルメスタ公爵家の関係者たちは、それぞれセイディの様子をはらはらしながら見守っていた。
何かあってジェラルドや先代公爵夫妻が身動きを取れない不測の事態に陥った場合にも、全力でセイディをこの場から遠ざける計画はいくつも立てたところでなお、彼らの心配は尽きない。
そんな心配など要らないよと、明るく吹き飛ばしたのは、その憂いの対象者であるセイディだった。
アルメスタ公爵家の者たちはこれからが大変だろう。
不謹慎にも葬儀の後であることをすっかり忘れ、彼らは祝福のパーティーを開催しなければならない。
それも連日となる。
つまり特別なプリンは、さらなる特別なプリンへと進化する必要があって、最も結果を出さなければならない料理長のルースは、気が休まる日は来ないだろう。
だが彼は必ず心からこの結果を祝福する。
仲間に知らせたな?
俺たちも早く帰ろうぜ。
用意があるからな。
なんてこそこそ話している連中もいたが。
さすがに王女の耳には届かなかったので。
「……まぁ、まるでというより、本当にまだ子どもなのね。これが公爵夫人に収まるだなんておかしなこともあるわ」
可憐なその声は、最初のときとは違って、僅かな震えと共に届けられた。
感情を抑えきれなかったようである。
「それは王族から我が公爵家への正式なご意見として受け止めてよろしいですかな?」
アルメスタ公爵家の先代当主は、初見では穏やかな人柄として捉えられることが多い。
元々優し気な顔付きがあって、そこにいつも笑みを絶やさなければ、優しく善良な人に違いないと初対面の相手は勝手に思い込んでくれるのだ。
だがよく知る人々は、彼がそう優しい人間ではないことを知っている。
知ってはいるけれど。
今のように彼の口からこうも低い声が出れば、ぎょっとはするし、警戒もするだろう。
それは王女も同じだったようだ。
ドレスの裾に隠れた片足が後ろに引かれた。
なお息子である当代のアルメスタ公爵に対して人々が持つ印象は真逆。
顔の造形は親子らしく似ているはずなのだが、何故か息子の方は元から険のある顔付きをしていたし、そのうえ番を奪われていたこともあって今までずっと笑顔を喪失してきた。
さらに人から喜ばれるような仕事をして来なかった影響もあって、人々、特に貴族たちからは恐ろしい怪物のように避けられているきらいがある。
ジェラルドの顔の話はさておき。
レイモンドの低く地を這う声に、逃げるようにこの場を去る者、距離を置く者がさらに増えた。
重ねて言うが、すでに葬儀が終わったのだから退場は自由だ。
むしろ残ろうとする者たちは野次馬であろうし、怖いもの見たさで残り後悔する前に去れ、とある侍従は笑顔を浮かべながら思っている。
見ない方が良いもの。
聞かない方が幸せなこと。
知らなければ生きられること。
そんなことは世の中に沢山あるのだ。
貴族ほどそれをよーく理解しているはずだけれど?
まだここにいていいのかい?
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