80 / 186
78.真実に届かぬもの
しおりを挟む
ここまで言えば、もう誰も隠すことはしないだろう。
そう考えていた王太子の予測はあっさりと裏切られた。
「はい?」
「え?そんなことになっていたの?」
驚きを示したのは、第二王子と第三王子だけではない。
「なんですって?」
まさかの王女まで声を張り上げ驚きを示したのだ。
これには王太子の方がより驚いてしまった。
だが彼はここで追及をやめるわけにはいかない。
弟たちや妹を信じたくも、次期王となる王太子であるからには、私情で彼らから罪を奪うわけにはいかなかった。
これがまだアルメスタが何も知らない時だったなら。罪そのものをこの世から葬り去る選択肢も王族として選べたであろうが。
何もかもが遅過ぎる。
「姫の出先にいたと言っても、うちの別荘で姫と過ごしていたという話ではありませんよね?同じ町にいたということであれば、そのときはたまたま。偶然の一致ということではありませんか?」
第二王子が怪訝にそう言えば、王太子は首を振った。
「私とてそれは考えた。だが繰り返されていれば、偶然では済ませられない。同じ町とは限らないが、謀ったように姫の滞在先の近辺の町にその子を攫っていたとみられるユーリルのところの商会の関係者が滞在していたんだ」
「嘘よね?あの穢れた子がいつもわたくしの近くにいたと言うの?何よそれ気持ち悪い」
王女の発言が、王太子にとっては悲しいかな、提供された情報と一致した。
だが王太子はますます分からなくなっている。
王女のそれが、まるで知らなかったという態度だったからだ。
この子はこんなにも嘘を吐くのが上手かったであろうか。
それならば長年騙されてしまったとしてもおかしくはないが……。
王太子が妹に続き弟二人を観察すれば、こちらの二人も驚いた顔をして今度は妹を眺めていた。
もうそれは何も知らなかったという顔にしか見えて来ない。
真実はどこにあるのだ?
ユーリル侯爵家の抱える商会が関与していたのは事実。
だがそれについてユーリル侯爵に問うわけにもいかない。
本人がもう亡くなってしまったからだ。
そして侯爵夫妻と彼らの嫡男を失ったユーリル侯爵家は、今回の責任を取ってすべてを王家に返すと、そう言ってきた。侯爵位も、その他保有していた爵位も、所領も、家も財産も、すべて要らぬというのだ。
あの商会も取り潰してしまっていいし、使えるところがあるならば王家の好きなようにと。
アルメスタの番に関与していることは、すでにその時点で分かっていたのだから、もっと警戒すべきであったのに。
これをアルメスタに示す彼らへの懲罰にすればいいと、嬉々として受け取ってしまったのが、まだ何も知らなかった王である。
その王もアルメスタの先代当主が登城してくれば、まだ足りぬかと顔色を悪くすることになったのだが、それでもなお王はこの時点でまだ何も知らなかったわけだ。
そこで王が自ら率先して問題解消に動いていれば……少しは現状が良く変わることもあっただろうか。
いや、それでも遅かった、と王太子は首を振る。
もっとも手痛い事実は、有難く受け取ったその元侯爵領を下の弟に与えるつもりで王家が動き出してしまったことだ。
最初からこうなることを望み王家はユーリルを動かし消したのではないか?
こうした疑念は一度生じると、晴らすことが大変に困難なのだ。
この騒ぎのせいで明らかに諸侯らからの王家を見る目が変わっているように王太子は感じている。
だからここでアルメスタを鎮められなければ、それこそ王政の存続危機へと繋がりかねない。
もはや王太子は弟や妹を兄として守っている場合ではなかった。
「頼むから正直に話してくれ。もう本当に頼むから……」
王太子は王女を見詰めて言った。
しかし王女は「本当に知らないわよ。嫌だわお兄さま。今日は何なのよもう!」と可憐な声を大きくし、せっかくの美しい顔を歪ませている。
そう考えていた王太子の予測はあっさりと裏切られた。
「はい?」
「え?そんなことになっていたの?」
驚きを示したのは、第二王子と第三王子だけではない。
「なんですって?」
まさかの王女まで声を張り上げ驚きを示したのだ。
これには王太子の方がより驚いてしまった。
だが彼はここで追及をやめるわけにはいかない。
弟たちや妹を信じたくも、次期王となる王太子であるからには、私情で彼らから罪を奪うわけにはいかなかった。
これがまだアルメスタが何も知らない時だったなら。罪そのものをこの世から葬り去る選択肢も王族として選べたであろうが。
何もかもが遅過ぎる。
「姫の出先にいたと言っても、うちの別荘で姫と過ごしていたという話ではありませんよね?同じ町にいたということであれば、そのときはたまたま。偶然の一致ということではありませんか?」
第二王子が怪訝にそう言えば、王太子は首を振った。
「私とてそれは考えた。だが繰り返されていれば、偶然では済ませられない。同じ町とは限らないが、謀ったように姫の滞在先の近辺の町にその子を攫っていたとみられるユーリルのところの商会の関係者が滞在していたんだ」
「嘘よね?あの穢れた子がいつもわたくしの近くにいたと言うの?何よそれ気持ち悪い」
王女の発言が、王太子にとっては悲しいかな、提供された情報と一致した。
だが王太子はますます分からなくなっている。
王女のそれが、まるで知らなかったという態度だったからだ。
この子はこんなにも嘘を吐くのが上手かったであろうか。
それならば長年騙されてしまったとしてもおかしくはないが……。
王太子が妹に続き弟二人を観察すれば、こちらの二人も驚いた顔をして今度は妹を眺めていた。
もうそれは何も知らなかったという顔にしか見えて来ない。
真実はどこにあるのだ?
ユーリル侯爵家の抱える商会が関与していたのは事実。
だがそれについてユーリル侯爵に問うわけにもいかない。
本人がもう亡くなってしまったからだ。
そして侯爵夫妻と彼らの嫡男を失ったユーリル侯爵家は、今回の責任を取ってすべてを王家に返すと、そう言ってきた。侯爵位も、その他保有していた爵位も、所領も、家も財産も、すべて要らぬというのだ。
あの商会も取り潰してしまっていいし、使えるところがあるならば王家の好きなようにと。
アルメスタの番に関与していることは、すでにその時点で分かっていたのだから、もっと警戒すべきであったのに。
これをアルメスタに示す彼らへの懲罰にすればいいと、嬉々として受け取ってしまったのが、まだ何も知らなかった王である。
その王もアルメスタの先代当主が登城してくれば、まだ足りぬかと顔色を悪くすることになったのだが、それでもなお王はこの時点でまだ何も知らなかったわけだ。
そこで王が自ら率先して問題解消に動いていれば……少しは現状が良く変わることもあっただろうか。
いや、それでも遅かった、と王太子は首を振る。
もっとも手痛い事実は、有難く受け取ったその元侯爵領を下の弟に与えるつもりで王家が動き出してしまったことだ。
最初からこうなることを望み王家はユーリルを動かし消したのではないか?
こうした疑念は一度生じると、晴らすことが大変に困難なのだ。
この騒ぎのせいで明らかに諸侯らからの王家を見る目が変わっているように王太子は感じている。
だからここでアルメスタを鎮められなければ、それこそ王政の存続危機へと繋がりかねない。
もはや王太子は弟や妹を兄として守っている場合ではなかった。
「頼むから正直に話してくれ。もう本当に頼むから……」
王太子は王女を見詰めて言った。
しかし王女は「本当に知らないわよ。嫌だわお兄さま。今日は何なのよもう!」と可憐な声を大きくし、せっかくの美しい顔を歪ませている。
77
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる