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第一章 厄災の王女
43.夜空に輝いて
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侯爵夫人の話した内容は、ほとんどがゼインの知らぬ情報だった。
国一番の情報収集力があったとして。
王としては、実際に領地を運営している人間が誰か、というところまで把握する必要がないからである。
国を治めているのがゼインだとして、実際にそれぞれの土地を見ている者が別にいるように。
領主たちもまた領地の管理を誰に任せようと自由であり、領主としての責任を果たしていれば問題はない。
だが聞く限り、彼らは領主としての責任も果たせていないのだろう。
国にとってもはた迷惑な貴族たちは、家族にも、そして領民たちにもまた迷惑な存在だということ。
そして……ゼインは惜しいと思い始めていた。
幼い頃から当主になるために学んできた者たちよりずっと立派に領地を支えてきた人材があるとすれば、それを今この不安定な国の状況で切り捨ててしまうことは勿体ないのだ。
しかしゼインの許可なく他国と通じ、ゼインに退位を迫ろうと謀ってきた者たちを出した一族を何も罰せず終わることもまた難しかった。
だから今のゼインに言える精一杯はこれだけ。
「助けるとは言えぬが。正しく見極めて裁くことだけは約束しよう」
いずれにせよ、それぞれの領地にいる民らが困らぬように、仕事の引継ぎ期間は必要となる。
無能な当主らは即刻処刑しても構わないであろうが、罰を受ける貴族が多くありそうな気配もあって、ゼインはそれなりの時間を掛けて、その後の混乱を避ける裁き方をすることになるだろう。
──場合によってはフロスティーンを使うか。
王の結婚という国の一大事が控えているのだ。
慶事だろうと使えるものは使うつもりで、ゼインはあらゆる道筋を検討する。
しかしまずは証拠品の改めと、貴族たちへの尋問の結果が出ないことには、いくらゼインでもこの場で何も決定することは出来ない。
その後は各領地に調査官を派遣することになるが、おそらくは人数の問題でこれも短期間では終わらないだろう。
それでも、侯爵夫人はゼインから掛けられた言葉に、とても満足そうに微笑んだ。
「そのお言葉を頂けただけで、わたくしは嬉しゅうございます。最後に王女様に改めて御礼をお伝えしても?」
ゼインが許せば、夫人はフロスティーンを見て、優しく眉を下げるのだった。
「先ほど我が領地の小麦についてお言葉を掛けて頂きましたこと。ありがたく受け取りまして、星の世に持ってまいりたいと思います。最後の最後にわたくしの行いが認められたようで大変嬉しゅうございました。本当にありがとうございました、王女様。婚姻式を直接に見ることは叶いませんが、星の世よりお二人のご結婚を祝し、輝かしい未来をお祈りしております。どうかアウストゥールの民に良き世をお導きくださいませ」
夫人の発言の途中から、フロスティーンの表情に変化が現れた。
笑顔が消えて、急に無表情に戻ったのだ。
そうして無表情のまま夫人を見詰め、何度も目を瞬いたのち。
夫人の言葉が終わったことを理解すると、今度はゼインに視線を移して、じーっと長くその目を見詰めてきたのである。
──今日の二度目……。だめだ、分からん。何故そんな目で俺を見る?こやつを許せということか?
祖国から連れて来た者たちをばっさり切り捨てていた王女。
今宵も一人すでに消えてしまったが、それで動揺を示すこともない。
他人に至極興味がないように見受けられていたというのに。
今宵最初に同じような目をしたとき。
ゼインはフロスティーンが自分に侯爵らと話をさせろという意味で見詰めてきたのだと思っていた。
しかしそれは正しかったのだろうか?
同じ目で長く見詰められいると、ゼインの背中を不思議な汗が伝っていく。
──俺の考え通りなら、検討しようというところだ。
──だがそれが違うとしても、これについては後で聞く。だから今はそれで許せ?
目で伝わったかどうかは怪しいが。
フロスティーンは思い出したようににこりと微笑むと、ゼインから目を逸らして、再び夫人を見詰めるのだった。
夫人も頭を下げたのち顔を上げるとまた柔らかく微笑んで。
それから後ろに控える娘へと自分から歩み寄り、そっと娘の背中に手を回す。
もう娘は涙していた。
「連れて行け」
乱暴に連れて行かれたのは侯爵だけ。
夫人と娘は拘束されることもなく、騎士たちに続いて会場を出て行った。
こうしてゼインの本意ではなく、夜会は終了となる。
フロスティーンのお披露目を兼ねた祝宴としての夜会は、もう一度日を改めて開催することが宣言された。
それまでにかなりの期間が空くことになり、貴族たちの多くは、一度それぞれの領地へと戻っていった。
しかしこの夜会の後に城から出られた貴族は、夜会前に入った者たちよりもずっと少ない数だったと言う。
国一番の情報収集力があったとして。
王としては、実際に領地を運営している人間が誰か、というところまで把握する必要がないからである。
国を治めているのがゼインだとして、実際にそれぞれの土地を見ている者が別にいるように。
領主たちもまた領地の管理を誰に任せようと自由であり、領主としての責任を果たしていれば問題はない。
だが聞く限り、彼らは領主としての責任も果たせていないのだろう。
国にとってもはた迷惑な貴族たちは、家族にも、そして領民たちにもまた迷惑な存在だということ。
そして……ゼインは惜しいと思い始めていた。
幼い頃から当主になるために学んできた者たちよりずっと立派に領地を支えてきた人材があるとすれば、それを今この不安定な国の状況で切り捨ててしまうことは勿体ないのだ。
しかしゼインの許可なく他国と通じ、ゼインに退位を迫ろうと謀ってきた者たちを出した一族を何も罰せず終わることもまた難しかった。
だから今のゼインに言える精一杯はこれだけ。
「助けるとは言えぬが。正しく見極めて裁くことだけは約束しよう」
いずれにせよ、それぞれの領地にいる民らが困らぬように、仕事の引継ぎ期間は必要となる。
無能な当主らは即刻処刑しても構わないであろうが、罰を受ける貴族が多くありそうな気配もあって、ゼインはそれなりの時間を掛けて、その後の混乱を避ける裁き方をすることになるだろう。
──場合によってはフロスティーンを使うか。
王の結婚という国の一大事が控えているのだ。
慶事だろうと使えるものは使うつもりで、ゼインはあらゆる道筋を検討する。
しかしまずは証拠品の改めと、貴族たちへの尋問の結果が出ないことには、いくらゼインでもこの場で何も決定することは出来ない。
その後は各領地に調査官を派遣することになるが、おそらくは人数の問題でこれも短期間では終わらないだろう。
それでも、侯爵夫人はゼインから掛けられた言葉に、とても満足そうに微笑んだ。
「そのお言葉を頂けただけで、わたくしは嬉しゅうございます。最後に王女様に改めて御礼をお伝えしても?」
ゼインが許せば、夫人はフロスティーンを見て、優しく眉を下げるのだった。
「先ほど我が領地の小麦についてお言葉を掛けて頂きましたこと。ありがたく受け取りまして、星の世に持ってまいりたいと思います。最後の最後にわたくしの行いが認められたようで大変嬉しゅうございました。本当にありがとうございました、王女様。婚姻式を直接に見ることは叶いませんが、星の世よりお二人のご結婚を祝し、輝かしい未来をお祈りしております。どうかアウストゥールの民に良き世をお導きくださいませ」
夫人の発言の途中から、フロスティーンの表情に変化が現れた。
笑顔が消えて、急に無表情に戻ったのだ。
そうして無表情のまま夫人を見詰め、何度も目を瞬いたのち。
夫人の言葉が終わったことを理解すると、今度はゼインに視線を移して、じーっと長くその目を見詰めてきたのである。
──今日の二度目……。だめだ、分からん。何故そんな目で俺を見る?こやつを許せということか?
祖国から連れて来た者たちをばっさり切り捨てていた王女。
今宵も一人すでに消えてしまったが、それで動揺を示すこともない。
他人に至極興味がないように見受けられていたというのに。
今宵最初に同じような目をしたとき。
ゼインはフロスティーンが自分に侯爵らと話をさせろという意味で見詰めてきたのだと思っていた。
しかしそれは正しかったのだろうか?
同じ目で長く見詰められいると、ゼインの背中を不思議な汗が伝っていく。
──俺の考え通りなら、検討しようというところだ。
──だがそれが違うとしても、これについては後で聞く。だから今はそれで許せ?
目で伝わったかどうかは怪しいが。
フロスティーンは思い出したようににこりと微笑むと、ゼインから目を逸らして、再び夫人を見詰めるのだった。
夫人も頭を下げたのち顔を上げるとまた柔らかく微笑んで。
それから後ろに控える娘へと自分から歩み寄り、そっと娘の背中に手を回す。
もう娘は涙していた。
「連れて行け」
乱暴に連れて行かれたのは侯爵だけ。
夫人と娘は拘束されることもなく、騎士たちに続いて会場を出て行った。
こうしてゼインの本意ではなく、夜会は終了となる。
フロスティーンのお披露目を兼ねた祝宴としての夜会は、もう一度日を改めて開催することが宣言された。
それまでにかなりの期間が空くことになり、貴族たちの多くは、一度それぞれの領地へと戻っていった。
しかしこの夜会の後に城から出られた貴族は、夜会前に入った者たちよりもずっと少ない数だったと言う。
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