追放勇者ガイウス

兜坂嵐

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2章-華のデリンクォーラ帝国

異国の武闘家

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---会場・大広間

(あの野郎ぉ…この国を乗っ取ったらすぐにでもギロチン送りにしてやる)
「ユピテル、あのね……」
「ン?ルチア、どうしたンだい」
「わたしも……挙式はみんなに見せたほうがいいと思う、な…
 あ。ユピテルがイヤならいいよ?でもお父様や宰相の人たちにも……」
 ルチアもバルトロメオに「後ろめたくないなら皆に挙式を見せるべき」と言われ気が変わったのか。
 言いづらそうに両手の人差し指同士をつんつんしながら提案をする。
 だがユピテルは先ほどと違い、その提案に表情を険しくさせた。
「それはできない」
「どうして!?お父様達だって心配してると思うよ?きっと……」
「俺はねルチア……君がいればそれでいいンだ。
 だから君に余計な心配をかけたくないンだ」
「……でも」
 あぁまただ、ユピテルの目が据わった。怖い。
 この人の目は時々怖い、そしてこの目をしているときはいつも決まってる。
 自分がこの人の思い通りにならなくなる時だと、ルチアは直感で感じ取っていた。
 だから彼女は自分の意思を引っ込める、ユピテルが望む言葉を吐くのだ。

 自分はこのままユピテルの言いなりなんだろうか、そんな不安がよぎった時。
 バルトロメオの隣にいたメイドの女の子とチャイナドレスの……お姉さん?が歩いてきた。
 とっても目立つから覚えていた顔ぶれだ、彼らは何の用だろう。

「先ほどぶりです。私はシン、バルトロメオぼっちゃんのボディガードを務めさせていただいております」
「はぁ……」
「それで、隣のこの子はメイドのエーア」
 ルッツは言い淀みを偽名にされた羞恥心から、そっぽをむいてカーテシーをしてみせる。
 しかし、そのまま動く気配がない。どうしたんだろう。
「バルトロメオさんの従者さんが、わたしとユピテルに何の用事が?」
「ユピテル殿下の噂を耳に入れていただきたいと」
「……どうぞ」
「下々の民が、ユピテル殿下は夜な夜な浮浪者を甚振っているとか」
「ッ!?」
 その言葉にルチアは顔が凍りつく。
 ユピテルがそんなことするはずない、そう信じているのに。
 そんなことしないよね?と顔を見上げると、ユピテルは青ざめた顔をしていた。

「ユピテル……?」
「違う!俺はそんなことしてないよルチア!」
「あぁあともうひとつ……轟雷将軍はまだ生きている、とか……。
 そして轟雷将軍は弱い者いじめが好きだそうですよ?そう、浮浪者とか」
 最初は正体を悟られぬよう、扇で顔を隠すように喋っていた。
 しかし言い終わるころには扇を閉じ、不敵に笑っていた。
「そして、轟雷将軍の名はケラヴノス。もっと正しい言い方をすれば」
 次の瞬間、ユピテルは行動を開始した。
 懐に手を入れ、そこから拳銃を取り出すと それをシン目掛け撃つ!
 突然の凶行に令嬢の悲鳴があがり、銃声が響く!

「……ルチア怖がらせてすまないね、この中華女が鬱陶しかったもンでさ」
「殿下、私の話はまだ終わっていませんよ?」
「な……」
 シンは其処に変わらず立っていた。
 軽く曲げた人差し指と親指の間で弾丸を挟んで止めたまま、うっすら笑みさえ浮かべている。
「いけませんよ。社交の場で銃を抜くなんて次期皇帝がやることではありません」
 口調こそ冷静だが、指の弾丸は握力にギシギシと音を立て潰れていく。
 人間離れした光景に、ルチアは何が起きているのかと赤い瞳をまんまるくする。
 彼女の姿は獣同士の威嚇に巻き込まれた雪兎のようだ。

(そうか、そうだよなァ……!虹色の目ェした人間なんて、
アイツしか見たことがねェ、 そうかこいつァ……!)
 ユピテルは目を見開くと同時に笑い出す。
 そして指を鳴らしながら部下を呼びつけるとこう言った。
「おい、こいつらを捕らえろ!多少痛めつけても構わンッ!」
 退屈なダンスホールは闖入者にぶち壊され、一気に騒々しくなる。
 先程しつこくいいよっていた成金男も貴族の令嬢も全員が我先に逃げ出し。

「あっ……あ……待って……わたし、まだ……」
 ユピテルすら完全に頭に血が上り、おろおろするルチアに気づかない。
 そんな彼女の前にシンは風のごとく駆け寄ると抱きかかえる。
 バルコニーまで跳躍し、下ろすと粗相をしたと言わんばかりに頭を下げる。
 徹底してフーロンの武闘家になりきってるのか、挨拶も拱手礼のままだ。
 ルチアはおずおずと挨拶を真似……そして思う。
 この人、女性にしては胸も硬いなと、更にさっきの声は明らかに女性としては低すぎたのだ。
「もしかして……殿方で、ございますか……?」
「えぇ、事情がございましてね」
「……その事情とは?」
「秘密です」
 口元に指を添え微笑むとすぐ真剣な顔になり、バルコニーから軽やかに飛び降りた。
 飛び上がった拍子に赤いチャイナドレスが、まるで炎のように翻り揺らめく。
「綺麗……」
 皇女はひとりごちる、あれが噂に聞く舞というものだろうか。
 そんなことを考えている間にダンスホールでは戦いが始まっていた。

「ユピテル殿下はどうされたのかしら!?フーロンの民にあんなに激昂するなんて」
「確かにフーロンの民は独自の文化があると聞いたけど
 …思い当たるものがありません、むむむ」
「ユピテルは国賊だ、証拠は掴んだ」
「ヴァンクリーフ卿!?こ、これはお久しゅうございます!」
 貴族たちの前にバルトロメオの父親ことヴァンクリーフ公爵が現れる。
 思い思いに騒ぎ立てていたのが一斉に静まり一斉に跪く。
 ヴァンクリーフ公爵家といえば代々続く由緒正しい家柄であり、皇帝の右腕である。
 その影響力は絶大で皇帝ですら頭が上がらないと言われている程だ。
 そんな彼が現れたということは即ち皇帝の意思を伝える使者であることを意味する。

「し、しかし国賊とは……?あの方は皇女様の婚約者候補」
「息子とその同伴者から、ユピテルは陛下を洗脳し皇女を手込めにして操ろうとしていると聞いた。
 よって反逆罪とし、この場で処断する!」
「なんですと!?」
「そ、それはまことですかな!?」
「ああ、そうだ。今から私が証人になろう、誰か異論はあるか?」
「……」
 沈黙、誰も異議を唱えない……いや、唱えられないというのが正解だろう。
 なにせ相手はこの国の重鎮、逆らえばどうなるか分からないからだ。
 誰もが恐れている中、一人手を挙げる者がいた。それは……。
「……ヴァンクリーフ卿、少しだけ時間をください」
「ルチア様……」
「ユピテルが本当に悪魔か、この目で見届けてからに致しましょう」
「……うむ、まだ憶測でしかない。なら最後まで見届けよう、あの者が暴く真実を」
 そう言って二人は頷き合う、そんな二人を見て他の面々も覚悟を決めるのだった。

 一方その頃、ダンスホールでは戦闘が激化していた。
 ユピテルはその間もいかにも毅然としたプリンスという顔を崩さずに居た。
 だが踊るように掻い潜るシンへ苛立ちが勝ってきたのか、眉や指先が痙攣している。
 あいつが怒る前の癖だ、どんなに紳士的にふるまおうと無意識の内に動いてしまうのだ。
(さあ来いゲス野郎!お前の正体を暴いてやる!)
 ユピテルの動きは速かった、素早いステップで距離を詰めてくる。
 いかにも舞踏会を荒らした不届き者を討つという顔で。

 シンは身を翻し避け、バルトロメオたちが積み重ねたイスの上に立つと。
「はいっ殿下、まだ甘いですよぉ!」
 力強く声を上げ、片足をあげ両手を高々と掲げた独特のポーズを取る。
 鶴が翼をひろげているかのようなポーズだ。
 しかし、それも束の間のこと。次の瞬間には目にも留まらぬ速さで駆け出す。
 助走をつけて高く跳び上がり、宙返りをしながら両足で着地する。
 だがそれだけでは終わらない、今度はその場で回転しながら足を突き出すようにして蹴りを放つ。

「ぐっ……!」
 咄嗟にガードしたユピテルだが、衝撃で後方へと吹き飛ばされ壁に激突する。
 そのままズルズルと崩れ落ちていき、肩で息をし始める。
 その光景を見た貴族達は唖然としていた、ただ一人を除いて。
「ユピテル……貴様は皇帝陛下に呪言を囁いて操っていたというのは真か?」
「ヴァンクリーフ……卿」
「確かめねばならん、もしも真実なら……おまえを反逆罪で処断する、答えよ!」
「……く……くく、くくく……この……この中華女ぁ……」
「ユピテル!?」
「ついに本性出しやがったなァ……王子様、いや。轟雷将軍ユピテルッ!」
 シン-ガイウスが怒鳴る、同時にユピテルはゆらりと起き上がった。
 先程後頭部を強打したにも関わらず口角は不気味なほど吊り上がり、瞳孔は開き切っている。

「こうなったら仕方ねぇっ……皆殺しにしてやるよ!人間どもおおおおっ!」
 ユピテルが叫ぶと同時に全身に雷を纏う、バチバチと音を立てて迸る。
 雷光はまるで彼の怒りを表しているようだった。
 その顔は先程の、ガイウス目線にすれば気持ち悪いほど猫を被っていたものでない。
 彼がよく知る、傲岸不遜で、自分の思い通りにならないと癇癪を起こし。
 そして気に入らない人間を片っ端から殴り倒す、あのユピテルだ。

「クソッ、ふざけやがってぇ!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがってええぇぇぇ!」
「ユピテル!最初から私たちを騙してたのか!」
「黙れ!死ね、今すぐ死ンで詫びろ!てめえらもそこの女も、
 全員まとめて焼き殺す!死ねええぇ!」
 彼は怒鳴り散らしながら両腕を前に突き出し、手のひらを開く。
 するとそこから黒い雷が走る。
 それを握り潰すように拳を握ると、一気に解放した。
 轟音と共に稲妻の嵐が巻き起こり、辺り一帯を破壊する、直撃すれば即死は免れない。
 ルッツが咄嗟にバリアを張ったお陰でヴァンクリーフ卿は守られたもの。
 彼の周囲に居た貴族たちはわけもわからぬまま黒雷に焼かれる。

「ひいいいいー!?バケモノめええええ!」
「ひゃぁはっはっはっは!!人間焼き殺すのは楽しいなああああああ!!
ホントは皇帝の就任式でやるつもりだったがねええええ!」
 ユピテルは完全に本性を剥き出しにし、先ほどまでの貴公子然とした微笑みでなく。
 口元を歪め、悪魔のような哄笑を上げる。
 もはやそこに慈悲の心は一切無く、ただ人間を恐怖に陥れ、弄び殺すことを愉しんでいる。
「アレが……おじいちゃまが言ってた、ホンモノの悪魔……」
「……みたいだね」
 ルッツとバルトロメオも表情を固くする。
 今まで「悪魔」というのは民話やおとぎ話の中での存在だと思っていた。
 しかし目の前にいるのは紛れもなく、本物の「悪魔」。
 彼は本気だ、本気で皇帝を暗殺しようとし、更に自分達を殺そうとしている。

「ガイ君、あの雷見るからにヤバイよ。どうやって近づく!?」
「ああ。ユピテルの雷はそこらの魔物の比じゃねぇ、食らったら即死だ。……が、やるしかないな」
「避雷針でもあれば……避雷針?」
「どうしたヒスエルフ!」
「連絡船でやったアレ!またできる?」
「……ああ!」
 ルッツの作戦をすぐ理解し、ガイウスは雷で即死してしまった騎士に十字を切ると剣を拝借する。
 武器にするためでない。この剣を避雷針にしてユピテルの雷を誘導するのだ。

「死にに行くおつもり!?おやめなさい!」
「殿下は雷魔法の名手ですぞ!避雷針など何の意味も……!」
「いいえ、意味ならあります!」
「!?」
 ルッツは叫ぶ。その目には強い意志が宿っている。
 二人の制止を振り切り、彼女は走り続ける、そしてついに辿り着いた。

「あんたがユピテル!?」
「あぁ?いひひひっ……確かにそうだよ?何の用かな、半人前のハーフエルフちゃン?」
「あんたに頼みがある!それだけ叶えてくれたら、大人しく捕まってやる!」
その言葉にユピテルは怪訝な顔をする。しかしルッツの目には強い意志が宿っていた。
「あんたを……あんたの雷で、あたしを殺せ」
「ひひっ……あはははははっ!何それ?ここで自殺するって!?いひひひっ!!馬鹿じゃないのォ?」
「ああそうさ、馬鹿なこと言ってるよあたしは。でも本気だよ」
「……そうかい。じゃあ飛び切り高電圧で殺ってやるよ」
 ユピテルが再び黒い雷を放つ、ルッツが黒焦げになるのを想像し全員がきゅっと目を瞑る。
 しかしその時は訪れなかった、いや確かに雷が直撃した時の爆音と煙があがったのだ。
 その煙の中にいたのは無傷のまま立っているルッツだった。
「……な!?なンで……なンで、俺の雷を食らって無傷なンだよぉっ」
「ふん、オツム悪いの?避雷針もわからないなんて」
「……まさか」
 ルッツの杖に嵌め込まれた青い宝石は音を立てながら光り輝いている。
 その光はやがて黒い雷を引き寄せ、自らの中へと取り込んでいった。
 そして、そのまま自らのエネルギーとして変換していく。
 しかしユピテルもただ吸収されるだけでない、鬱陶しそうに顔を歪め腕を振るい。

「小賢しいエルフだなっ!」
「ぐぇ!くそ……顔殴るこたないでしょーが!?」
「いや殴るねぇ?俺は男女差別しねぇ主義なンだよぉ!」
 そう言って再び腕を振るう、放たれた黒い雷撃は今度は直接ルッツを襲うべく迫り来る。
 だが彼女に焦りはなかった、何故なら彼女が狙っているのは回避ではなく迎撃だからだ。

(このまま防いでばかりいたらジリ貧になっちゃうわね……なら!)
 相手は五魔将のひとり、単純な魔力では勝ちようがない。
 ならどうするか?答えはこうだ!と杖を振り上げ砂嵐が局地的に巻き起こる。
 雷が砂に掻き消されて行く、舌打ちしキョロキョロし出した間にルッツは接近を試みていた。
(奴の攻撃が強力なのはあの黒い雷だけじゃない、あの体そのものが武器だわ)
 まともに攻撃したところで大したダメージは入らないだろう。
 ならばどうするべきか?……決まっている、弱点を直接叩けばいいのだ!
(多分、あの胸の黄色いクリスタルみたいなのが弱点、なら……)
 ルッツは懐から一本の小瓶を取り出すと中に入っていた液体をユピテルに投げつけた。
 それは目潰し用の薬品、ユピテルが目を覆い怯んでいる隙に胸へ攻撃を叩き込む。

「よし!これで……!」
「……っだああっ!」
 だが相手は並の魔物ではない、視界を奪われながらもルッツを掴み上げ壁に向かって放り投げた。
 壁に叩きつけられバランスを崩したところに追い打ちをかけるように黒い雷撃を放つ。
「がああああああ!」
「ルッツ!?」
 ルッツは全身が焼かれる激痛に叫び声をあげる。
 なんとか痛みを耐え、目を開けるとユピテルが再びこちらに近づいてくるのが見えた。

「ひひっ……エルフちゃん、もう終わり?俺つまンないなぁ」
「……っ、あんたこそ……もう終わりなんじゃないの?」
「はぁ?何言ってンの?」
 ルッツの言葉にユピテルは首を傾げる。
 しかし次の瞬間には合点がいったとばかりに手を打った。
「ああ!もしかして俺の弱点のこと言ってる?馬鹿だなぁ~そんなのないよぉ!」
「嘘ね、だってあんたの胸のクリスタルが光ってるもの。弱点なんでしょ?」
「これはエルフちゃんのチャチな魔法じゃ割れないよ?五魔将の命なンだから」
「バカね、割れるなんて思っちゃいないわあたしも」
 そう、これは時間稼ぎだ、シン-もといガイウスが到達するまでの。
ルッツはやれるだけはやってやるとユピテルに組み付く。

「いいねぇ、エルフちゃん!俺興奮しちまうよぉ!」
「くっ……!イケメンでも下種野郎はイヤ」
「ああいいわぁ、この声……今すぐ泣かせてやりてぇ!
 手足もいで、出血で死にかけた腹ぶち破って腸引きずり出して……」
「うわー……えげつないこというなあ」
「そしたら命乞いしてくれるよねぇ!死にたくない!もうやめてぇ……!って!」
「そうだね。死にたくはないね」
「いひひっ……そうかいそうかい」
 ユピテルは下卑た笑い声を上げるとルッツの首を摑み持ち上げる。
 そのまま宙吊りにされながら彼女は苦痛の表情を浮かべた。
 同時にチャンスだった。ユピテルの核が目前に迫っている。
「じゃあさ……死ねよ」
「……まだ死なない!」
 ルッツは悪あがきとして魔力で風の刃を作り出し、袈裟懸けにするようにユピテルの核へと突き立てた。
「あがあああっ!」
「やった!?」
 ルッツは勝利を確信した、だがそれは早計だったとすぐに知ることになる。
 風の刃は核に傷1つつけることなく砕け散ったのだ。
 そしてそのまま彼女は地面に叩きつけられる、受け身を取ることもできず無様に転がった。
 そんな彼女の姿を見てユピテルはゲラゲラ笑う、まるで喜劇でも見ているかのように。

「ひひっ!馬鹿だねぇ……エルフちゃん。俺の核はこンぐらいじゃ傷つくことはない。
 傷つかないンだよねぇ! ひひっ……でもちょっと痛ぇな。お返しに……」
 ハーフエルフ、人間とエルフの混血に胸のコアを傷つけられた。
 その事実にユピテルのプライドは音を立て砕ける音がした。
 こいつは奴隷として生かす価値すらない、むごたらしく殺す、と。

「エルフちゃん……半人風情が……!このユピテル様に逆らうんじゃねぇえええええ!!」
「あ、ガイウス。あたし死ぬ」
「させるかあああっ!」
 シン-ガイウスが走る、チャイナドレスを激しく靡かせ風より速く、全速力で走り抜ける。
 ユピテルの全力の拳がルッツの心臓を貫く寸前ガイウスの手が、正しくは扇が少し先に届き。
 ぶすっと音をたて、扇が悪魔の拳に貫かれた。
「あ……?」
「あらやだ♪フーロンで扇は貴人の象徴ですのに」
 今まで聞いた事のないオカマ口調だったが、シンの声は自分が聞いたことある声だった。
 いや聞いた事がある程度じゃない、この耳障りなハスキーボイスは……。

「が…いうす…てめ…」
「弁償してくださらないと、なあああああああああ!!!!」
 怒りを籠めた拳、いや点穴を突く一撃がユピテルのみぞおちを貫いた。
 その瞬間、彼は吐血して膝から崩れ落ちてしまう。
 そして先程の怒り狂った様子が嘘のように、全身の力が抜け落ちたように崩れ落ちた。

「ふー……」
「ガイ君、何したの?掌で打っただけに見えたけど」
「点穴だ。やるのは初めてだが」
「テンケツ?」
「えーとな、人体の急所のことだ。ここを打つと一発で動けなくなる」
「へぇーすごいねぇ、そんなことまで知ってるのかい」
「フーロンに居た時な、ちょっと学んだんだよ。まあ、あんま使いたくなかったけどな」
 シン-ガイウスは自嘲気味に笑いながら言う、事実彼には必要のない知識だった。
 彼は剣聖であって、武闘家のスキルなど覚えて何になるのか?と思ったものだ。
 まさか回りに回ってこんな所で役に立つとは思わなかった。
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