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NANO
NANO-消えた国
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騒がしい革命ソングの余韻が残るロビーを抜け。
六人は朝食を求めて食堂へと足を運ぶ。
廊下にはカルテを抱えた看護師たち。
夜勤明けのスタッフが忙しなく行き交い、かすかに漂う出汁とコンソメの匂いが胃袋を刺激する。
そんな中、会話の流れは自然と「これからの暮らし」へと向かっていた。
レイスがふと歩みを止め、カウンターの端でバインダーを抱える看護師たちを横目に見やる。
「なあ、俺達、病院に居候ってことは……医療スタッフ扱いなのか?」
どこか他人事のような声色だが、実際は妙に現実的な疑問だ。
フォウがにこっと微笑みながら答える。
「うん、院長さんにみんなのことお話したんだ」
「そしたらね、庭の掃除とかエージェントを倒すのとか」
「看護師さんだけじゃ手が回らないことを手伝ってくれたら、何日いてもいいって」
その無邪気な言い方に、廊下の空気が少しだけ柔らかくなる。
ヴィヌスはふうっと息をつき、安心したような微笑を浮かべる。
「助かるわ。何の対価も求められないって、逆に居心地悪いのよ」
「“お手伝い=居場所の保証”って、いい取引じゃない?」
舞台女優らしい立ち居振る舞いのまま、さりげなく自分の居場所を確認する。
サタヌスはニヤリとし、両手を頭の後ろで組んでみせる。
「じゃあ今日から焼きそば係と夜警係でいい?俺、それなら一生いるけど?」
生きることに全力な“底辺勇者”らしい、妙に現実味のあるジョーク。
プルトは変わらぬ無表情で短く答える。
「……私はエージェント対策専門で構いません」
その言葉に、一瞬みんなの足が止まる。だが、すぐに笑いがこぼれた。
レイスは肩をすくめて締めくくる。
「まあ、院長の方針なら文句ねぇや。朝の歌よりは得意分野だしな」
軽い言い回しに、どこか居心地のよさが滲んでいた。
食堂のドアを押し開けると、パンとスープの香りがふわりと広がる。
革命の歌のあとに続く、“現実”という名の朝ごはんが待っている。
食堂のドアを開けると、バターと小麦の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
壁際のトレイ台には、カゴ盛りのバゲット。
焼きたてのクロワッサン、ちょっと形のいびつなパン・オ・ショコラが無造作に並ぶ。
銀色のスープポットからは湯気が立ちのぼり。
厨房の奥ではピンク髪の女性が大鍋をゆっくりかき混ぜている。
スープの隣には、小さなグラスに入ったコンポート。
ヨーグルトに蜂蜜を垂らしたカップも置かれている。
どこか田舎町のビストロのような、温かくてざっくばらんな空気が満ちていた。
奥のテーブルでは、入院患者のおじいさんが両手でカップを包み。
ゆっくりとスープを啜っている。
「ミカのスープはジャポネーズ式で沁みるねぇ。噛むのが苦手だから、ありがたいよ」
その言葉に、ヴィヌスがパンを手に取りながら小首を傾げる。
「ジャポネーズ、てことは日本人?」
ミカが厨房から笑顔で顔を出す。
「うん、母さんが日本の人でね。パリに来てからずっと“スープは出汁”って教わってきたんだ」
「今はフランスの野菜で作るけど、味のベースはやっぱり日本の出汁が一番だと思ってるよ」
レイスはバゲットをひとかじりして、にやりと笑う。
「へぇ、ナノシティってフランス人だけじゃないんだな」
パンの香りと魚介のブイヨンが絶妙に混ざり合う朝。
テーブルにはクロワッサン、カフェ・オ・レ。
オレンジ色の温かいスープが並び。
それぞれのやり方で、朝ごはんに手を伸ばしていく。
サタヌスはクロワッサンを両手でむしり取り、スープに浸しては豪快にかき込む。
プルトは黙ってサラダとバゲットを一口ずつ。
ユピテルはカフェ・オ・レのカップを手に、ぼんやりと窓の外を眺めている。
ヴィヌスはパンを二枚に裂き、優雅にスープをすくって口元へ。
レイスはパンとベーコンを重ねてサンドイッチ風に頬張る。
ミカのスープには、ほんのり醤油とコンソメが混ざったやさしい出汁の香り。
どこか懐かしく、異国でも懐が深い味だった。
それぞれの“当たり前”が交差する、ディストピアの朝――
バゲットの音、スープの湯気、誰かの静かな笑い声。
そのすべてが、今ここでだけ許される“ささやかな幸せ”だった。
キッチンの奥、巨大なスープ鍋の前に立つのは、ピンク髪の女性――ミカ・ヤマネ。
エプロンには“THANK YOU”の手書き文字と、色とりどりのワッペン。
胸には青いバラのバッジ、厨房のスチームと朝の光が混ざり合い。
湯気の向こうで彼女は忙しそうにレシピメモを読み上げ、木べらをくるくる回していた。
レイスがふと窓際で尋ねる。
「ん?日本って30世紀じゃどうなったの」
NULLは変わらぬ機械声で淡々と返す。
「日本はメガコーポ同士の企業戦争で消滅した」
サタヌスが素で口を開く。
「さらっとえぐい情報きたな……」
NULLは続ける。
「日本人という人種は絶滅していない」
「各地に帰化して生き残り、今も多国籍都市で暮らしている」
ミカが手を止めて、こちらに顔を向けた。
「あ、おはよう。昨日やってきた人たちだよね」
ヴィヌスが興味深げに問う。
「あなた、日本人ってほんと?」
ミカは軽くうなずき、微笑む。
「うちは父さんも母さんも、パリに仕事で来てそのまま」
「鰹節も昆布も手に入らないから、自然と“コンソメ系出汁”が得意になっちゃって」
サタヌスはスープを指差して「日本人ってやっぱ出汁が命なん?」
ミカは少し懐かしそうに笑う。
「うん。おばあちゃんは“出汁さえあれば大抵のものは美味しくなる”って口癖だった。
今はスープの素と野菜、肉の切れ端でどうにかやってるよ」
NULLが無機質にまとめる。
「日本人=出汁文化。適応力と工夫もまた、消滅を免れた要因だ」
サタヌスは考え込むように言う。
「和食って全部出汁入ってんの?」
ミカはスープを味見しながら答える。
「大体ね。無理ならその場の出汁を作るのも日本人の特技だよ」
サタヌスはパンをかじりながらにやりと笑う。
「そう考えると、ナノシティの雑煮もアリかもな」
ミカはお玉をくるりと回し。
「意外とイケるかも。次は病院食で試してみようかな?」と小さく呟いた。
朝のキッチンには、スチームと異国の文化が入り混じる。
一杯のスープの中に、戦争を越えて繋がる味と記憶。
ディストピアでも絶えない工夫と優しさが息づいていた。
食堂の片隅で、ナースがカートから何やら。
A3サイズのパネルを取り出し、壁にペタリと貼り付ける。
四隅を軽く押さえ、コンセントに細いコードを差し込むと。
パネルがふわりと発光しはじめた。
「おはようございます。CYBER SCRAMBLE-3000の時間です」
「今日も30世紀の今を切る情報を、皆様にお届けいたします」
天気予報もニュースも、サイバー味マシマシのテンションで流れ出す。
「ナノシティ本日も快晴。幸福指数、下層エリア平均42パーセントです」
「朝食のおすすめは“ジャポネーズスープ”!」
レイスはパンをかじりながら、無遠慮に壁際の“テレビ”をじっと見つめる。
「今のテレビって貼るんだな」
ヴィヌスは目を細めてモニタ越しのニュースキャスターを見やる。
「……普通に便利ね、収納も楽だし、壁さえあれば見られるじゃない」
サタヌスは「剥がしたら家ごとバレそうだな」と半分本気、半分冗談で笑う。
プルトはコーヒー片手に画面の映像チェック。
「…画質は上等」
朝食の空気がひとしきり落ち着いたタイミングで、向こうからNSTがやってくる。
「フォウ、おはよう!」
フォウがうれしそうに手を振る。
画面の向こうでは「次は幸福庁からのお知らせです!」とアナウンスが流れているが、
この瞬間だけは、食堂の誰も画面に目を向けようとしなかった。
玄関ホールを抜けると、朝の光とスモッグが混じり合う駐車場に出た。
フォウの隣で、NSTが点検を終えつつ、微笑みながら声をかけてくる。
「せっかくだから今のナノシティも見てきな」と、NSTの一人が優しく勧める。
フォウが目を丸くして「え?いいの!」と跳ねるように喜ぶと、
「案内したそうな顔してるから、今日は私たちで回すから楽しんできて」
とスタッフたちは軽く手を振る。
ヴィヌスがふと尋ねる。
「NSTのみんなと仲いいの?」
フォウは頷き、目を細める。
「うん、NSTのみんなと一緒に患者さんのリクエスト聞くことも多いから」
言葉の端々に、人と人の間に“壁”の薄いこの病院ならではの温かさが滲んでいた。
フォウがはしゃいだ声で言う。
「案内したい場所がいっぱいあるの!」
サタヌスやレイスは顔を見合わせて苦笑し。
「どうせディストピアだろ?」と毒を吐くが、期待も隠しきれない。
ヴィヌスは片眉を上げ、舞台女優のように気取って言う。
「時代が変わっても、都市の美意識は消えないものよ」
駐車場の出入り口では、すでにOBSOLETEとPATCHが待っていた。
PATCHは手を振りながら「おぉ、こっちから会う手間省けたぜ」と満面の笑み。
OBSOLETEはスリムなコートの襟を直しつつ。
「ちょうどジャポネーズの店見つけてさ、昼どうだい?」と提案する。
サタヌスが「ジャポネーズってさっき食べたやつ?」と首を傾げると、
NULLが即座にデータを引き出し、無機質な声で答える。
「ナノシティでは、ジャポネーズ式は外れがないと言われている」
「栄養価、満足感などが保証される」
ヴィヌスはにやりと笑い。
「じゃ堪能しましょうか、900年後のパリ♪」と、軽やかに歩き出す。
こうして、“ロートル+フォウ&エラー組”の初ナノシティツアーが幕を開けた。
ディストピアのリアルと、900年越しの美食と事件が、すぐ目の前で待っている。
六人は朝食を求めて食堂へと足を運ぶ。
廊下にはカルテを抱えた看護師たち。
夜勤明けのスタッフが忙しなく行き交い、かすかに漂う出汁とコンソメの匂いが胃袋を刺激する。
そんな中、会話の流れは自然と「これからの暮らし」へと向かっていた。
レイスがふと歩みを止め、カウンターの端でバインダーを抱える看護師たちを横目に見やる。
「なあ、俺達、病院に居候ってことは……医療スタッフ扱いなのか?」
どこか他人事のような声色だが、実際は妙に現実的な疑問だ。
フォウがにこっと微笑みながら答える。
「うん、院長さんにみんなのことお話したんだ」
「そしたらね、庭の掃除とかエージェントを倒すのとか」
「看護師さんだけじゃ手が回らないことを手伝ってくれたら、何日いてもいいって」
その無邪気な言い方に、廊下の空気が少しだけ柔らかくなる。
ヴィヌスはふうっと息をつき、安心したような微笑を浮かべる。
「助かるわ。何の対価も求められないって、逆に居心地悪いのよ」
「“お手伝い=居場所の保証”って、いい取引じゃない?」
舞台女優らしい立ち居振る舞いのまま、さりげなく自分の居場所を確認する。
サタヌスはニヤリとし、両手を頭の後ろで組んでみせる。
「じゃあ今日から焼きそば係と夜警係でいい?俺、それなら一生いるけど?」
生きることに全力な“底辺勇者”らしい、妙に現実味のあるジョーク。
プルトは変わらぬ無表情で短く答える。
「……私はエージェント対策専門で構いません」
その言葉に、一瞬みんなの足が止まる。だが、すぐに笑いがこぼれた。
レイスは肩をすくめて締めくくる。
「まあ、院長の方針なら文句ねぇや。朝の歌よりは得意分野だしな」
軽い言い回しに、どこか居心地のよさが滲んでいた。
食堂のドアを押し開けると、パンとスープの香りがふわりと広がる。
革命の歌のあとに続く、“現実”という名の朝ごはんが待っている。
食堂のドアを開けると、バターと小麦の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
壁際のトレイ台には、カゴ盛りのバゲット。
焼きたてのクロワッサン、ちょっと形のいびつなパン・オ・ショコラが無造作に並ぶ。
銀色のスープポットからは湯気が立ちのぼり。
厨房の奥ではピンク髪の女性が大鍋をゆっくりかき混ぜている。
スープの隣には、小さなグラスに入ったコンポート。
ヨーグルトに蜂蜜を垂らしたカップも置かれている。
どこか田舎町のビストロのような、温かくてざっくばらんな空気が満ちていた。
奥のテーブルでは、入院患者のおじいさんが両手でカップを包み。
ゆっくりとスープを啜っている。
「ミカのスープはジャポネーズ式で沁みるねぇ。噛むのが苦手だから、ありがたいよ」
その言葉に、ヴィヌスがパンを手に取りながら小首を傾げる。
「ジャポネーズ、てことは日本人?」
ミカが厨房から笑顔で顔を出す。
「うん、母さんが日本の人でね。パリに来てからずっと“スープは出汁”って教わってきたんだ」
「今はフランスの野菜で作るけど、味のベースはやっぱり日本の出汁が一番だと思ってるよ」
レイスはバゲットをひとかじりして、にやりと笑う。
「へぇ、ナノシティってフランス人だけじゃないんだな」
パンの香りと魚介のブイヨンが絶妙に混ざり合う朝。
テーブルにはクロワッサン、カフェ・オ・レ。
オレンジ色の温かいスープが並び。
それぞれのやり方で、朝ごはんに手を伸ばしていく。
サタヌスはクロワッサンを両手でむしり取り、スープに浸しては豪快にかき込む。
プルトは黙ってサラダとバゲットを一口ずつ。
ユピテルはカフェ・オ・レのカップを手に、ぼんやりと窓の外を眺めている。
ヴィヌスはパンを二枚に裂き、優雅にスープをすくって口元へ。
レイスはパンとベーコンを重ねてサンドイッチ風に頬張る。
ミカのスープには、ほんのり醤油とコンソメが混ざったやさしい出汁の香り。
どこか懐かしく、異国でも懐が深い味だった。
それぞれの“当たり前”が交差する、ディストピアの朝――
バゲットの音、スープの湯気、誰かの静かな笑い声。
そのすべてが、今ここでだけ許される“ささやかな幸せ”だった。
キッチンの奥、巨大なスープ鍋の前に立つのは、ピンク髪の女性――ミカ・ヤマネ。
エプロンには“THANK YOU”の手書き文字と、色とりどりのワッペン。
胸には青いバラのバッジ、厨房のスチームと朝の光が混ざり合い。
湯気の向こうで彼女は忙しそうにレシピメモを読み上げ、木べらをくるくる回していた。
レイスがふと窓際で尋ねる。
「ん?日本って30世紀じゃどうなったの」
NULLは変わらぬ機械声で淡々と返す。
「日本はメガコーポ同士の企業戦争で消滅した」
サタヌスが素で口を開く。
「さらっとえぐい情報きたな……」
NULLは続ける。
「日本人という人種は絶滅していない」
「各地に帰化して生き残り、今も多国籍都市で暮らしている」
ミカが手を止めて、こちらに顔を向けた。
「あ、おはよう。昨日やってきた人たちだよね」
ヴィヌスが興味深げに問う。
「あなた、日本人ってほんと?」
ミカは軽くうなずき、微笑む。
「うちは父さんも母さんも、パリに仕事で来てそのまま」
「鰹節も昆布も手に入らないから、自然と“コンソメ系出汁”が得意になっちゃって」
サタヌスはスープを指差して「日本人ってやっぱ出汁が命なん?」
ミカは少し懐かしそうに笑う。
「うん。おばあちゃんは“出汁さえあれば大抵のものは美味しくなる”って口癖だった。
今はスープの素と野菜、肉の切れ端でどうにかやってるよ」
NULLが無機質にまとめる。
「日本人=出汁文化。適応力と工夫もまた、消滅を免れた要因だ」
サタヌスは考え込むように言う。
「和食って全部出汁入ってんの?」
ミカはスープを味見しながら答える。
「大体ね。無理ならその場の出汁を作るのも日本人の特技だよ」
サタヌスはパンをかじりながらにやりと笑う。
「そう考えると、ナノシティの雑煮もアリかもな」
ミカはお玉をくるりと回し。
「意外とイケるかも。次は病院食で試してみようかな?」と小さく呟いた。
朝のキッチンには、スチームと異国の文化が入り混じる。
一杯のスープの中に、戦争を越えて繋がる味と記憶。
ディストピアでも絶えない工夫と優しさが息づいていた。
食堂の片隅で、ナースがカートから何やら。
A3サイズのパネルを取り出し、壁にペタリと貼り付ける。
四隅を軽く押さえ、コンセントに細いコードを差し込むと。
パネルがふわりと発光しはじめた。
「おはようございます。CYBER SCRAMBLE-3000の時間です」
「今日も30世紀の今を切る情報を、皆様にお届けいたします」
天気予報もニュースも、サイバー味マシマシのテンションで流れ出す。
「ナノシティ本日も快晴。幸福指数、下層エリア平均42パーセントです」
「朝食のおすすめは“ジャポネーズスープ”!」
レイスはパンをかじりながら、無遠慮に壁際の“テレビ”をじっと見つめる。
「今のテレビって貼るんだな」
ヴィヌスは目を細めてモニタ越しのニュースキャスターを見やる。
「……普通に便利ね、収納も楽だし、壁さえあれば見られるじゃない」
サタヌスは「剥がしたら家ごとバレそうだな」と半分本気、半分冗談で笑う。
プルトはコーヒー片手に画面の映像チェック。
「…画質は上等」
朝食の空気がひとしきり落ち着いたタイミングで、向こうからNSTがやってくる。
「フォウ、おはよう!」
フォウがうれしそうに手を振る。
画面の向こうでは「次は幸福庁からのお知らせです!」とアナウンスが流れているが、
この瞬間だけは、食堂の誰も画面に目を向けようとしなかった。
玄関ホールを抜けると、朝の光とスモッグが混じり合う駐車場に出た。
フォウの隣で、NSTが点検を終えつつ、微笑みながら声をかけてくる。
「せっかくだから今のナノシティも見てきな」と、NSTの一人が優しく勧める。
フォウが目を丸くして「え?いいの!」と跳ねるように喜ぶと、
「案内したそうな顔してるから、今日は私たちで回すから楽しんできて」
とスタッフたちは軽く手を振る。
ヴィヌスがふと尋ねる。
「NSTのみんなと仲いいの?」
フォウは頷き、目を細める。
「うん、NSTのみんなと一緒に患者さんのリクエスト聞くことも多いから」
言葉の端々に、人と人の間に“壁”の薄いこの病院ならではの温かさが滲んでいた。
フォウがはしゃいだ声で言う。
「案内したい場所がいっぱいあるの!」
サタヌスやレイスは顔を見合わせて苦笑し。
「どうせディストピアだろ?」と毒を吐くが、期待も隠しきれない。
ヴィヌスは片眉を上げ、舞台女優のように気取って言う。
「時代が変わっても、都市の美意識は消えないものよ」
駐車場の出入り口では、すでにOBSOLETEとPATCHが待っていた。
PATCHは手を振りながら「おぉ、こっちから会う手間省けたぜ」と満面の笑み。
OBSOLETEはスリムなコートの襟を直しつつ。
「ちょうどジャポネーズの店見つけてさ、昼どうだい?」と提案する。
サタヌスが「ジャポネーズってさっき食べたやつ?」と首を傾げると、
NULLが即座にデータを引き出し、無機質な声で答える。
「ナノシティでは、ジャポネーズ式は外れがないと言われている」
「栄養価、満足感などが保証される」
ヴィヌスはにやりと笑い。
「じゃ堪能しましょうか、900年後のパリ♪」と、軽やかに歩き出す。
こうして、“ロートル+フォウ&エラー組”の初ナノシティツアーが幕を開けた。
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