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AFTER
AFTER-未来の点心は脳波で買え
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NULLが背後で淡々と告げる。
「私はここで幸福庁の動向をチェックする。PATCHの家に向かえ」
レイスが片手を上げて、振り向かずに返す。
「はいはい、頼むぜサーチ担当」
ほんの数歩進んだところで、通りの片隅に奇妙な自販機が立っていた。
赤と金のデザイン。やけに艶っぽいフォントで“AI点心”と書かれている。
上部のホログラムには、湯気の立つ肉まんと笑顔のロボがくるくる回っていた。
レイスが眉をひそめる。
「……なんだこの無駄に陽気な機械」
注文はタッチパネル式。
だが、近づいた瞬間、パネルがふっと光り、AIボイスがハイテンションで喋り出した。
「ようこそ点心の殿堂へ!
迷っているあなたの“幸福度”をAIがスキャンします!」
PATCHが笑う。
「うわ、出たよこれ。選ばせる気ゼロのタイプ」
レイスが「何にしようかな」と指を動かしかけた時。
パネル上部のセンサーがじわりと青く光った。
「脳波スキャン開始――」
「おい、勝手にスキャンすんな!」
と抗議する間もなく、AIが元気よく結果を宣言する。
「今のあなたに最適な点心は――“カスタードまん”です!幸福度予測97%!」
「……は?」
レイスが顔をしかめ、即ツッコミを入れる。
「違う……!俺は甘党じゃねぇし!!」
ヴィヌスが肘をついて、わざとらしく微笑んだ。
「あら、意外と可愛いとこあるじゃない。
レイス、カスタードまん好きだったの?」
「ちげーっての!俺は“肉まん”派だっつの!」と叫び。
強引に肉まんのボタンを押した。
AI音声が明るく応答する。
「“反抗期モード”検知。おすすめ変更をキャンセルします!」
「……誰が反抗期だ!!」
彼は受け取った肉まんを片手で雑に開封しながらぼやく。
「師匠(アモン)が好きだっただけだ……AIの誤作動だろコレ!」
ヴィヌスが首をかしげ、唇に指を当てた。
「“師匠が好き”を想像してたら、そのまま脳波スキャンされたのね。
AIの親切、便利なようで不便だわ♡」
フォウが小首をかしげながら、純粋な瞳で言った。
「じゃあ、レイスさんがカスタードまん嫌いなら、私がもらう!」
レイスは溜息をつき、半分笑いながらそのカスタードまんをフォウに手渡した。
「……どーぞどーぞ。俺は“肉”だ、“肉”!!」
次はPATCH。
腕を組み、真剣な顔をしていた。
「うーん……餃子にするのは決まってんだけど。
何味か悩むなー。ま、せっかくだし“スキャン”来るまで待つか!」
レイスが煙草をくわえたまま眉を上げる。
「お前、自販機に人生相談すんのかよ……」
PATCHは気にも留めず、タッチパネルの前で仁王立ち。
10秒、20秒……その時――AI音声が上機嫌に鳴り響いた。
「スキャン完了――あなたの現在の疲労度を分析し。
カプサイシン摂取による新陳代謝促進が推奨されます。
本日のおすすめ:四川風麻辣味餃子!」
PATCHは、無表情のまま購入ボタンを押した。
「……よし!」
「PATCH、ああ見えて一番サイバー屋台と相性いいな……」
ユピテルが遠くからニヤつきながらコメントを投げる。
「単純思考、最適化適性MAXってヤツだな」
PATCHは熱々の餃子袋を片手に掲げ、ドヤ顔で一同を見回した。
「悩むだけ時間のムダ!AIが推すなら、それ食って“新陳代謝バフ”もらっとくわ!」
AI点心自販機の前。
虹色の光が路地を照らし、湯気と電子音が混ざり合う中。
フォウは目をキラキラさせながら前を行ったり来たりしていた。
「全部おいしそうだなぁ……ひとつに選べない……」
パネルの前を右へ、左へ。
悩むこと10秒、さらに20秒――。
すると、自販機の上部が突如“虹色にピカピカ”と光りはじめた。
「おすすめ判定中……判定中……。
ユーザーの購買意欲が多数同時に検出されました。
複数の“幸福値MAX”メニューを提案します――」
画面いっぱいに点滅する“おすすめ”アイコン。
餃子、焼売、肉まん、カスタードまん、チャーシューまん、果ては“AI割引点心”まで。
――すべて“オススメ”。
ヴィヌスがくすくす笑いながら肩をすくめた。
「さすがフォウ、AIも選択肢絞り切れなくて困ってるみたいね♡」
フォウは目を輝かせ、両手を合わせた。
「やったぁ! じゃあ……おすすめ全部ください!」
PATCHが腹を抱えて笑う。
「それただの“全種類買い”だろ!でも、たまにはいいか!」
レイスは呆れたように煙草をくわえる。
「……エラーズの名は伊達じゃねぇな。AIもお手上げだ」とぼやく。
その横で、サタヌスが屋台に突撃してきた。
「あー!フォウが大人買いしたから俺スキャン体験できなかったー!」
プルトがジト目で即座に刺す。
「したかったんですか?お前……」
サタヌスは鼻をかきながら、照れ隠しのように呟いた。
「だって、興味あるじゃん?
AIが“お前に合う点心”選んでくれるとか、ちょっとワクワクするじゃんかよ!」
PATCHがその言葉に笑いながら袋を整理する。
「AI点心童貞かよ、お前。まぁ次は順番な」
フォウは点心の山を前に、ほわほわと悩んだ顔になる。
「うーん、買い過ぎちゃったかも……。
オブ祖さんも呼んで、みんなで食べようよ!」
ヴィヌスがぱっと手を叩く。
「いいわね。それならついでに聞くけど、あの人、何が好きなの?」
PATCHは餃子袋を抱えながら答えた。
「姐さん、小籠包好きなんだよなー。
あの“じゅわ~”ってスープ出てくる感じ、めっちゃ好きらしい」
PATCHは自分の分を手に取りながら、苦笑いする。
「俺は苦手。うまいけどさ、あちぃじゃん?
油断して食うと口ん中ベロベロにやられんのよ」
ヴィヌスは楽しげに笑い、フォウの頭を撫でた。
「じゃあ、姐さんには小籠包多めで盛り付けておきましょ。
……PATCHは四川餃子ね、“辛いものは汗をかくために食べる”んでしょう?」
フォウはコクコクと頷きながら、包みを抱えた。
「うん、みんなで分ければ、いっぱいあっても楽しいもん!」
「……いや、あの量は物理的に食い切れねェだろ」
「幸福値MAXの先に、満腹値MAXが見えるぜ……」
「それも悪くないでしょ?この街で“満たされる”なんて、贅沢なことよ」
AIはフォウの欲を“エラー”と呼び、仲間たちはそれを“幸福”と呼んだ。
ナノシティの夜に、湯気と笑い声がひとしずく、こぼれた。
パリ地下鉄――閉鎖されたホームの奥、錆びた線路とジャンクの山。
天井から吊るされた照明はバッテリー駆動、ちらちらと不安定な光を放っていた。
PATCHの家――それは、廃線の終着駅を改造したハッカー基地。
脇には屋台で買った点心の包みが山積みになっていた。
フォウが両手いっぱいに点心を抱えながら入ってくる。
「わぁ……なんか、すごいにおい! 機械とごはんの匂い!」
レイスが周囲を見渡し、思わず口笛を吹いた。
「ここがお前んち? まるでハッカーの家じゃん」
PATCHはあっけらかんと笑って肩をすくめる。
「いや、ハッカーだぞ俺?」
ヴィヌスが素で二度見し、思わず声が裏返った。
「は!!?そんなバカなのに!?」
わりと本気のトーン。
プルトがジト目で腕を組む。
「“バカは隠れ蓑”ってやつですね……?」
NULLがモニター前で静かに分析を述べる。
「幸福庁との戦いにおいて極めて有益なスキルだ。なぜ今まで伏せていた?」
PATCHは頬をかいて、照れくさそうに笑った。
「え~?だってさ、大ピンチの時だけ“かっこよくなるやつ”ってさ。
一番カッコいいじゃん?ドーン!って決めたかったんだよなー」
フォウが目をキラキラさせて手を叩く。
「すごーい!PATCHって、いろいろ出来るんだね!」
サタヌスが点心を口いっぱいにほおばりながら叫ぶ。
「俺もハッカーごっこしたい!」
ヴィヌスは呆れ顔でため息をつく。
「カッコつけてる暇があったら、次からは早めに助けなさいよ?」
レイスが苦笑して肩をすくめた。
「ま、頼りにしてるぜPATCH。次の“ドーン!”はちょっと早めに頼むな」
ホーム中央に置かれた丸テーブルの上には、それぞれの“推し点心”がずらりと並ぶ。
四川餃子、発光焼売、カスタードまん、小籠包、謎肉まん。
パリの地下とは思えないほど、温かく賑やかな空気が満ちていた。
PATCHはジャンクパーツを寄せ集め、数分で「自動餃子あたため機」を組み上げた。
コンセント代わりに使っているのは、旧式の鉄道電源ケーブル。
点心を入れると、ランプが光り、ゆるく湯気を吐いた。
「ほら見ろ、完璧だろ? DIYってのは勢いが命!」
ユピテルが半笑いで突っ込む。
「いや、勢いだけで電力繋ぐなよ。マジで爆発すンぞ」
PATCHはケラケラ笑いながらPCの前に座り、キーボードを叩いた。
「ちなみに、みんなのデバイス、幸福庁の追跡アプリ抜いといたから!
今夜だけは好きに食って、好きに笑えよ。
明日からまた大変だけどさ――“今”はウチが一番自由だぜ!」
彼の言葉に、一瞬だけ場が静かになった。
ヴィヌスがそっと微笑んで、頷く。
「……バカだけど、本物ね」
レイスが煙草の煙を吐きながら、小さく笑った。
「やっぱ下層は、面白ぇ連中の宝庫だな」
NULLは端末を閉じ「幸福値:測定不能」と呟いた。
笑い声と蒸気が地下のトンネルに響く。
幸福炉の光が消えた世界でも、人間たちはこうして“夜”を、作り直していた。
賑やかな地下鉄ホーム。
古い線路の上に並べられたテーブル。
湯気を上げるサイバー点心、笑い声、そして金属の響き。
PATCHはみんなに焼売を配りながらPCラックに腰をかけ、ターミナルを開いていた。
指先がリズミカルにキーボードを叩き、青い光が彼の横顔を照らす。
「これおいしい!PATCHくんすごい!」と無邪気に笑う。
その明るさが、暗いホームに灯りをともしていた。
――ただ一人、プルトを除いて。
彼女はその賑やかさの中で、静かに視線をPCラックの奥に滑らせていた。
PATCHのメインPC。
古びた筐体の角――そこに、かすかに残る刻印。
DEUS.
剥がれかけたロゴの金属プレート。
長い年月を経て、文字の半分は消えていた。
だが、それでも読み取れる。
プルトは餃子をつまみながら、低い声で呟いた。
「……デウス」
ひとつ息を吐き、鼻で笑う。
「神、か。ふ……」
「この並行世界の神は――お世辞にも、善神ではないようですね」
誰にも聞こえない声。表情は変わらない。
だが、その瞳だけが、氷のように冷たく光った。
PATCHの明るい笑い声、ヴィヌスの冗談、レイスの煙草の煙、フォウの無垢な微笑み。
そのすべての裏で、古びたPCの“DEUS”ロゴが青く光った。
プルトは視線を外さず、餃子をひとくち。
その小さな動作の裏に――誰にも見えない“警戒”と“覚悟”があった。
“DEUS”――
かつて、この世界を造り変えた最大手の“神”にして“黒幕”。
幸福炉も、幸福値も、管理AIも。すべてはこの企業から始まった。
PATCHの手元にある古いマシン。それはただのPCではない。
“神の遺産”だ。
「私はここで幸福庁の動向をチェックする。PATCHの家に向かえ」
レイスが片手を上げて、振り向かずに返す。
「はいはい、頼むぜサーチ担当」
ほんの数歩進んだところで、通りの片隅に奇妙な自販機が立っていた。
赤と金のデザイン。やけに艶っぽいフォントで“AI点心”と書かれている。
上部のホログラムには、湯気の立つ肉まんと笑顔のロボがくるくる回っていた。
レイスが眉をひそめる。
「……なんだこの無駄に陽気な機械」
注文はタッチパネル式。
だが、近づいた瞬間、パネルがふっと光り、AIボイスがハイテンションで喋り出した。
「ようこそ点心の殿堂へ!
迷っているあなたの“幸福度”をAIがスキャンします!」
PATCHが笑う。
「うわ、出たよこれ。選ばせる気ゼロのタイプ」
レイスが「何にしようかな」と指を動かしかけた時。
パネル上部のセンサーがじわりと青く光った。
「脳波スキャン開始――」
「おい、勝手にスキャンすんな!」
と抗議する間もなく、AIが元気よく結果を宣言する。
「今のあなたに最適な点心は――“カスタードまん”です!幸福度予測97%!」
「……は?」
レイスが顔をしかめ、即ツッコミを入れる。
「違う……!俺は甘党じゃねぇし!!」
ヴィヌスが肘をついて、わざとらしく微笑んだ。
「あら、意外と可愛いとこあるじゃない。
レイス、カスタードまん好きだったの?」
「ちげーっての!俺は“肉まん”派だっつの!」と叫び。
強引に肉まんのボタンを押した。
AI音声が明るく応答する。
「“反抗期モード”検知。おすすめ変更をキャンセルします!」
「……誰が反抗期だ!!」
彼は受け取った肉まんを片手で雑に開封しながらぼやく。
「師匠(アモン)が好きだっただけだ……AIの誤作動だろコレ!」
ヴィヌスが首をかしげ、唇に指を当てた。
「“師匠が好き”を想像してたら、そのまま脳波スキャンされたのね。
AIの親切、便利なようで不便だわ♡」
フォウが小首をかしげながら、純粋な瞳で言った。
「じゃあ、レイスさんがカスタードまん嫌いなら、私がもらう!」
レイスは溜息をつき、半分笑いながらそのカスタードまんをフォウに手渡した。
「……どーぞどーぞ。俺は“肉”だ、“肉”!!」
次はPATCH。
腕を組み、真剣な顔をしていた。
「うーん……餃子にするのは決まってんだけど。
何味か悩むなー。ま、せっかくだし“スキャン”来るまで待つか!」
レイスが煙草をくわえたまま眉を上げる。
「お前、自販機に人生相談すんのかよ……」
PATCHは気にも留めず、タッチパネルの前で仁王立ち。
10秒、20秒……その時――AI音声が上機嫌に鳴り響いた。
「スキャン完了――あなたの現在の疲労度を分析し。
カプサイシン摂取による新陳代謝促進が推奨されます。
本日のおすすめ:四川風麻辣味餃子!」
PATCHは、無表情のまま購入ボタンを押した。
「……よし!」
「PATCH、ああ見えて一番サイバー屋台と相性いいな……」
ユピテルが遠くからニヤつきながらコメントを投げる。
「単純思考、最適化適性MAXってヤツだな」
PATCHは熱々の餃子袋を片手に掲げ、ドヤ顔で一同を見回した。
「悩むだけ時間のムダ!AIが推すなら、それ食って“新陳代謝バフ”もらっとくわ!」
AI点心自販機の前。
虹色の光が路地を照らし、湯気と電子音が混ざり合う中。
フォウは目をキラキラさせながら前を行ったり来たりしていた。
「全部おいしそうだなぁ……ひとつに選べない……」
パネルの前を右へ、左へ。
悩むこと10秒、さらに20秒――。
すると、自販機の上部が突如“虹色にピカピカ”と光りはじめた。
「おすすめ判定中……判定中……。
ユーザーの購買意欲が多数同時に検出されました。
複数の“幸福値MAX”メニューを提案します――」
画面いっぱいに点滅する“おすすめ”アイコン。
餃子、焼売、肉まん、カスタードまん、チャーシューまん、果ては“AI割引点心”まで。
――すべて“オススメ”。
ヴィヌスがくすくす笑いながら肩をすくめた。
「さすがフォウ、AIも選択肢絞り切れなくて困ってるみたいね♡」
フォウは目を輝かせ、両手を合わせた。
「やったぁ! じゃあ……おすすめ全部ください!」
PATCHが腹を抱えて笑う。
「それただの“全種類買い”だろ!でも、たまにはいいか!」
レイスは呆れたように煙草をくわえる。
「……エラーズの名は伊達じゃねぇな。AIもお手上げだ」とぼやく。
その横で、サタヌスが屋台に突撃してきた。
「あー!フォウが大人買いしたから俺スキャン体験できなかったー!」
プルトがジト目で即座に刺す。
「したかったんですか?お前……」
サタヌスは鼻をかきながら、照れ隠しのように呟いた。
「だって、興味あるじゃん?
AIが“お前に合う点心”選んでくれるとか、ちょっとワクワクするじゃんかよ!」
PATCHがその言葉に笑いながら袋を整理する。
「AI点心童貞かよ、お前。まぁ次は順番な」
フォウは点心の山を前に、ほわほわと悩んだ顔になる。
「うーん、買い過ぎちゃったかも……。
オブ祖さんも呼んで、みんなで食べようよ!」
ヴィヌスがぱっと手を叩く。
「いいわね。それならついでに聞くけど、あの人、何が好きなの?」
PATCHは餃子袋を抱えながら答えた。
「姐さん、小籠包好きなんだよなー。
あの“じゅわ~”ってスープ出てくる感じ、めっちゃ好きらしい」
PATCHは自分の分を手に取りながら、苦笑いする。
「俺は苦手。うまいけどさ、あちぃじゃん?
油断して食うと口ん中ベロベロにやられんのよ」
ヴィヌスは楽しげに笑い、フォウの頭を撫でた。
「じゃあ、姐さんには小籠包多めで盛り付けておきましょ。
……PATCHは四川餃子ね、“辛いものは汗をかくために食べる”んでしょう?」
フォウはコクコクと頷きながら、包みを抱えた。
「うん、みんなで分ければ、いっぱいあっても楽しいもん!」
「……いや、あの量は物理的に食い切れねェだろ」
「幸福値MAXの先に、満腹値MAXが見えるぜ……」
「それも悪くないでしょ?この街で“満たされる”なんて、贅沢なことよ」
AIはフォウの欲を“エラー”と呼び、仲間たちはそれを“幸福”と呼んだ。
ナノシティの夜に、湯気と笑い声がひとしずく、こぼれた。
パリ地下鉄――閉鎖されたホームの奥、錆びた線路とジャンクの山。
天井から吊るされた照明はバッテリー駆動、ちらちらと不安定な光を放っていた。
PATCHの家――それは、廃線の終着駅を改造したハッカー基地。
脇には屋台で買った点心の包みが山積みになっていた。
フォウが両手いっぱいに点心を抱えながら入ってくる。
「わぁ……なんか、すごいにおい! 機械とごはんの匂い!」
レイスが周囲を見渡し、思わず口笛を吹いた。
「ここがお前んち? まるでハッカーの家じゃん」
PATCHはあっけらかんと笑って肩をすくめる。
「いや、ハッカーだぞ俺?」
ヴィヌスが素で二度見し、思わず声が裏返った。
「は!!?そんなバカなのに!?」
わりと本気のトーン。
プルトがジト目で腕を組む。
「“バカは隠れ蓑”ってやつですね……?」
NULLがモニター前で静かに分析を述べる。
「幸福庁との戦いにおいて極めて有益なスキルだ。なぜ今まで伏せていた?」
PATCHは頬をかいて、照れくさそうに笑った。
「え~?だってさ、大ピンチの時だけ“かっこよくなるやつ”ってさ。
一番カッコいいじゃん?ドーン!って決めたかったんだよなー」
フォウが目をキラキラさせて手を叩く。
「すごーい!PATCHって、いろいろ出来るんだね!」
サタヌスが点心を口いっぱいにほおばりながら叫ぶ。
「俺もハッカーごっこしたい!」
ヴィヌスは呆れ顔でため息をつく。
「カッコつけてる暇があったら、次からは早めに助けなさいよ?」
レイスが苦笑して肩をすくめた。
「ま、頼りにしてるぜPATCH。次の“ドーン!”はちょっと早めに頼むな」
ホーム中央に置かれた丸テーブルの上には、それぞれの“推し点心”がずらりと並ぶ。
四川餃子、発光焼売、カスタードまん、小籠包、謎肉まん。
パリの地下とは思えないほど、温かく賑やかな空気が満ちていた。
PATCHはジャンクパーツを寄せ集め、数分で「自動餃子あたため機」を組み上げた。
コンセント代わりに使っているのは、旧式の鉄道電源ケーブル。
点心を入れると、ランプが光り、ゆるく湯気を吐いた。
「ほら見ろ、完璧だろ? DIYってのは勢いが命!」
ユピテルが半笑いで突っ込む。
「いや、勢いだけで電力繋ぐなよ。マジで爆発すンぞ」
PATCHはケラケラ笑いながらPCの前に座り、キーボードを叩いた。
「ちなみに、みんなのデバイス、幸福庁の追跡アプリ抜いといたから!
今夜だけは好きに食って、好きに笑えよ。
明日からまた大変だけどさ――“今”はウチが一番自由だぜ!」
彼の言葉に、一瞬だけ場が静かになった。
ヴィヌスがそっと微笑んで、頷く。
「……バカだけど、本物ね」
レイスが煙草の煙を吐きながら、小さく笑った。
「やっぱ下層は、面白ぇ連中の宝庫だな」
NULLは端末を閉じ「幸福値:測定不能」と呟いた。
笑い声と蒸気が地下のトンネルに響く。
幸福炉の光が消えた世界でも、人間たちはこうして“夜”を、作り直していた。
賑やかな地下鉄ホーム。
古い線路の上に並べられたテーブル。
湯気を上げるサイバー点心、笑い声、そして金属の響き。
PATCHはみんなに焼売を配りながらPCラックに腰をかけ、ターミナルを開いていた。
指先がリズミカルにキーボードを叩き、青い光が彼の横顔を照らす。
「これおいしい!PATCHくんすごい!」と無邪気に笑う。
その明るさが、暗いホームに灯りをともしていた。
――ただ一人、プルトを除いて。
彼女はその賑やかさの中で、静かに視線をPCラックの奥に滑らせていた。
PATCHのメインPC。
古びた筐体の角――そこに、かすかに残る刻印。
DEUS.
剥がれかけたロゴの金属プレート。
長い年月を経て、文字の半分は消えていた。
だが、それでも読み取れる。
プルトは餃子をつまみながら、低い声で呟いた。
「……デウス」
ひとつ息を吐き、鼻で笑う。
「神、か。ふ……」
「この並行世界の神は――お世辞にも、善神ではないようですね」
誰にも聞こえない声。表情は変わらない。
だが、その瞳だけが、氷のように冷たく光った。
PATCHの明るい笑い声、ヴィヌスの冗談、レイスの煙草の煙、フォウの無垢な微笑み。
そのすべての裏で、古びたPCの“DEUS”ロゴが青く光った。
プルトは視線を外さず、餃子をひとくち。
その小さな動作の裏に――誰にも見えない“警戒”と“覚悟”があった。
“DEUS”――
かつて、この世界を造り変えた最大手の“神”にして“黒幕”。
幸福炉も、幸福値も、管理AIも。すべてはこの企業から始まった。
PATCHの手元にある古いマシン。それはただのPCではない。
“神の遺産”だ。
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