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AVALON
AVALON-贅沢で深刻な悩み
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喧騒が遠ざかるなか、フォウとレイスが並ぶには少し距離がある。
ユピテルが何気なく声をかける。
「ていうかさ、お前ちゃんと健康なのか?顔色悪いぞ」
レイスは肩をすくめて小さく笑う。
「いやこれ血色いい方なんだよ」
「ヘビ系魔族ってのは色白っていうか青白いっていうか……」
「まあ“死人カラー”って言われたこともあるけどな」
後ろでPATCHが爆笑する。
「死人カラーってwww 自虐すぎるだろ!」
フォウは真剣な顔でレイスの顔を覗き込む。
「でも……ほんとに顔色、悪く見えるよ?目の下もちょっと暗いし……」
「心配すんな。これが俺の“デフォルト”なんだよ」
レイスは手を振って見せる。
「“体重増やせって医者に言われたことある”くらいには太れねぇ体質でもある」
フォウはさらに目を大きくし、焦ったように両手を握る。
「それ、病気じゃないの!?栄養とか、吸収できてないとか……」
「腸とかお腹とか、痛くならないの!?」
「うお、急に医者モード入ったな!?落ち着け、フォウ!」
「だって……“太りたいけど太れない”って、本当につらい症状なんだよ!」
「代謝が過剰だったり、ストレス性の吸収不良とかもあるし!」
「ねえ、ちゃんと食べてる?眠れてる?たんぱく質は?ビタミンは!?」
「えっ、あ、いや……そこそこ、食っては……寝てはいるけど……」
レイスはタジタジになりながら視線を逸らす。
その時、姐さん――OBSOLETEが缶コーヒーを片手に近づいてきた。
「そうそう。“痩せたい”って悩みはよく聞くくせに」
「“太りたい”って悩みはスルーされがちなのよね」
「実際、後者のほうが深刻な場合だってあるのに」
彼女はふっと笑い、夜空に視線を向ける。
「……高校時代にいた。“太りたいのに太れない”って、ずっと悩んでる子」
みんな、静かに足を止めて耳を傾ける。
フォウがうるんだ目で頷く。
「……うん、いる。今でも、そういう子いるよ」
「誰にも“真剣に”心配してもらえないんだよね」
OBSOLETEは肩をすくめる。
「みんな“痩せたい”って言うからさ」
「“太りたい”って悩みは、笑われるか、“自慢かよ”ってスルーされんの」
レイスは少し気まずそうに、ポケットの中で手をぎゅっと握る。
「……努力が、“見えねぇ悩み”ってのはあるな」
風が一瞬だけ優しくなり、誰もその沈黙を破ろうとしなかった。
夕暮れのナノシティの路地裏、フォウが小さく首を傾げて尋ねる。
「レイスさん……“体重が増える”ってどんな感じなのか、覚えてる?」
レイスはふと立ち止まり、言葉に詰まった。
「……は?いや、それは……」
少しだけ考えて、肩をすくめる。
「……たぶん、最後に体重計乗ったの、300年前くらいだな」
遠くでPATCHがすかさずツッコミを飛ばす。
「時空がバグってんだよお前のライフスタイル!!」
フォウはしょんぼりしつつ、瞳を伏せて呟く。
「……“幸せに太る”って、けっこう大事なんだよ」
「食べたものがちゃんと身体になるって、安心感なんだもん」
レイスはちょっとだけ笑い、フォウの頭を軽く撫でる。
「……お前、医療アンドロイドってより、“お母さん”っぽくねぇか?」
「ちがうもん!“やさしい医者”なだけだもん!」
フォウはむくれて、両手をぎゅっと握る。
「……じゃあ今度、“太れるメニュー”でも考えてくれよ」
レイスは少し目を伏せて、照れ隠しの声で言う。
フォウは満面の笑顔になる。
「うんっ!レイスさんが“体重1キロ増えた”って報告くれる日、楽しみにしてる!」
その時、遠くのAI看板がぱっと点灯した。
「本日おすすめ:高カロリーチーズまん・幸福値+12」
PATCHがギラギラの看板を指差して叫ぶ。
「なあ、チーズまんは太るぞ!レイス、食え!今だ!!」
レイスはため息をつきながら、それでも少しだけ口元を緩めて歩き出す。
「……しゃあねぇな、じゃあチーズまんで“幸せ太り”でも目指してみるか」
路地裏に、ほんのりとチーズの匂いと、笑い声が残った。
ユピテルがふいに遠い目で呟く。
「そういやレイス、お前東京住んでたろ?滅ぶ前の」
「日本の中心だろ?カロリー天国じゃねぇか」
レイスは煙草をくわえたまま、わずかに目を細める。
「ああ。住んでたよ。けどな……実はメシ、そんな好きじゃなかったんだ」
PATCHが驚きで目を丸くする。
「えっ、まじで!?チーズとか!肉汁とか!あんな“飯テロ”国で!?」
レイスは思い返すように呟く。
「チーズ……半熟卵……肉汁……ああいうの、見ただけでちょっと……な」
「まあ俺の生まれた時代、半人半魔の迫害えぐくてさ」
「“同じ皿で食うな”って言われたこと、何回もあったぜ」
いつか――自分がまだ幼かったころ。
半分人間なんて気持ち悪いから、とパンを取り上げられて投げられた。
仕方なく、地面に落ちたパンを拾って食べた。
憎しみは沸かなかった。
“そういうものだ”と、幼心に無理やり理解してしまった。
フォウの輪っかが“ピィィン!”と高く澄んだ音を立てる。
「それって……“共食拒否”……?」
フォウが目を見開いて言う。
「一緒に食べちゃダメって、心と身体を切り離す一番つらい偏見だよ……!」
フォウはぐっとレイスの手を握りしめる。
「ごはんって、“誰かと食べる”から幸せなんだよ!」
「それを否定されたら、“食べること”そのものが痛くなっちゃう……!」
レイスは照れくさそうに目をそらし、小さく笑う。
「……いやまあ、もう昔の話だし。今は別に、誰とでも食えるけどな」
だが、その横顔をじっと見つめ、OBSOLETEが静かに言葉を差し挟む。
「でも、“食べられる”と“味わえる”は、別物よ」
「それ、たぶん、あなた自身が一番わかってるでしょ?」
レイスは、ふと視線を落とす。
「……“味”が分かんなかった時期は……あった」
フォウは真剣な瞳で、まっすぐにレイスを見つめる。
「じゃあ、今から始めよ?“食べるのが幸せ”って、もう一度知ってく」
「だってレイスさん、今は“共に食べる仲間”が、いるんだから」
PATCHは泣きそうな顔で叫ぶ。
「俺……AI社会で生まれたけど……めっちゃ得してんのかもしんね……!」
ヴィヌスは鼻をすんと鳴らしつつ、そっぽを向く。
「バカだけど……こういう時のPATCH、わりと本物よね」
NULLが淡々とAI音声で報告した。
「幸福値、全員上昇中。数値異常だが、良性反応」
誰も言葉を返さなかった。
ただ、それぞれの手の中に、温かいパンの記憶が残っていた。
放課後の教室。窓の向こうには、まぶしいほどの夕日が斜めに差し込んでいた。
「あの子」は静かにパンの耳をちぎる。
「……また残しちゃった。頑張って食べようと思ったのに。……私、ホント、ダメだな」
隣で、鞄を肩にかけたOBSOLETE(転生前)が、さらりと声をかける。
「……ねえ、今日さ、牛丼食べに行こうよ」
あの子が驚いた顔で振り向く。
「えっ?……急に高カロリーすぎない?」
OBSOLETEは少しだけ口角を上げて、机に手を置く。
「急にケーキとかじゃなくてさ、“生活の中にあるカロリー”って大事じゃん?」
あの子は、照れくさそうに小さく笑う。
「……そういう言い方、なんか優しいね」
「てか、私も食べたかっただけだけどね」
肩を並べて、教室を後にするふたり。その記憶は、そこで止まる。
──時空が重なる。
かつてパンを地面から拾い、一人で食べた少年レイスと。
“あの子”を松屋に誘った少女だったOBSOLETE。
レイスが静かに振り向く。
「……そいつ、救えたのか?」
OBSOLETEはほんのわずかだけ、遠くを見て笑う。
「分かんない。転生しちまったから、確かめようもない」
「けどあの時の自分の判断だけは、今でも後悔してない」
フォウの輪っかが“しゅん……”と静かに下がる。
「……その子、今でもきっと覚えてるよ」
「“一緒に食べよう”って言ってくれた、その言葉を」
しばらく黙っていたレイスが、ゆっくりと餃子を口に運ぶ。
「……じゃあ俺も、その恩に預かるぜ」
「“太るための飯”、一緒に食ってくれよ」
「お前らとなら……味、分かる気がすんだ」
OBSOLETEはかすかに微笑む。
「……了解。松屋は無いけど、餃子ならたっぷりあるからな」
夜のテーブルに、温かい湯気と、かすかな救いが満ちていた。
チャイナタウン裏のベンチ。
屋台の明かりに照らされながら。
レイスはまだ餃子の丼を膝に乗せたまま、食後の余韻に浸っている。
フォウが真顔で身を乗り出し、健康チェックモードでレイスの顔を覗き込んでいた。
ジャンク屋台の影でサタヌスがニヤつく。
「昔から言うだろ、悪魔に優しくした天使は喰われちまうんだぞ?気を付けろよフォウ~」
フォウはその言葉に一切表情を崩さず。
「わァ……その時はよろしく……」と返す。
レイスは湯気の残る丼を見つめたまま苦笑する。
「えっ、俺フォウ食べる!?やだよ……水餃子の方がうまい」
PATCHはスマホを構え、満面の悪ノリ。
「はい出た。“人類最後のピュア漫才”。マジでちいかわだわこいつ……」
ヴィヌスは遠くのベンチから吹き出し声を飛ばす。
「どんな地獄でも胃袋で落とすスタイルね。最強の和平交渉術じゃない」
OBSOLETEは煙草をくわえながら小さく笑う。
「……あの会話に“世界救済”の未来が繋がってるんだから、ほんとバカみたいで尊いわ」
夜のチャイナタウン。
人と人が“同じものを食べて笑い合う”。
ただそれだけの瞬間が、誰かの心を救う奇跡になっていた。
ユピテルが何気なく声をかける。
「ていうかさ、お前ちゃんと健康なのか?顔色悪いぞ」
レイスは肩をすくめて小さく笑う。
「いやこれ血色いい方なんだよ」
「ヘビ系魔族ってのは色白っていうか青白いっていうか……」
「まあ“死人カラー”って言われたこともあるけどな」
後ろでPATCHが爆笑する。
「死人カラーってwww 自虐すぎるだろ!」
フォウは真剣な顔でレイスの顔を覗き込む。
「でも……ほんとに顔色、悪く見えるよ?目の下もちょっと暗いし……」
「心配すんな。これが俺の“デフォルト”なんだよ」
レイスは手を振って見せる。
「“体重増やせって医者に言われたことある”くらいには太れねぇ体質でもある」
フォウはさらに目を大きくし、焦ったように両手を握る。
「それ、病気じゃないの!?栄養とか、吸収できてないとか……」
「腸とかお腹とか、痛くならないの!?」
「うお、急に医者モード入ったな!?落ち着け、フォウ!」
「だって……“太りたいけど太れない”って、本当につらい症状なんだよ!」
「代謝が過剰だったり、ストレス性の吸収不良とかもあるし!」
「ねえ、ちゃんと食べてる?眠れてる?たんぱく質は?ビタミンは!?」
「えっ、あ、いや……そこそこ、食っては……寝てはいるけど……」
レイスはタジタジになりながら視線を逸らす。
その時、姐さん――OBSOLETEが缶コーヒーを片手に近づいてきた。
「そうそう。“痩せたい”って悩みはよく聞くくせに」
「“太りたい”って悩みはスルーされがちなのよね」
「実際、後者のほうが深刻な場合だってあるのに」
彼女はふっと笑い、夜空に視線を向ける。
「……高校時代にいた。“太りたいのに太れない”って、ずっと悩んでる子」
みんな、静かに足を止めて耳を傾ける。
フォウがうるんだ目で頷く。
「……うん、いる。今でも、そういう子いるよ」
「誰にも“真剣に”心配してもらえないんだよね」
OBSOLETEは肩をすくめる。
「みんな“痩せたい”って言うからさ」
「“太りたい”って悩みは、笑われるか、“自慢かよ”ってスルーされんの」
レイスは少し気まずそうに、ポケットの中で手をぎゅっと握る。
「……努力が、“見えねぇ悩み”ってのはあるな」
風が一瞬だけ優しくなり、誰もその沈黙を破ろうとしなかった。
夕暮れのナノシティの路地裏、フォウが小さく首を傾げて尋ねる。
「レイスさん……“体重が増える”ってどんな感じなのか、覚えてる?」
レイスはふと立ち止まり、言葉に詰まった。
「……は?いや、それは……」
少しだけ考えて、肩をすくめる。
「……たぶん、最後に体重計乗ったの、300年前くらいだな」
遠くでPATCHがすかさずツッコミを飛ばす。
「時空がバグってんだよお前のライフスタイル!!」
フォウはしょんぼりしつつ、瞳を伏せて呟く。
「……“幸せに太る”って、けっこう大事なんだよ」
「食べたものがちゃんと身体になるって、安心感なんだもん」
レイスはちょっとだけ笑い、フォウの頭を軽く撫でる。
「……お前、医療アンドロイドってより、“お母さん”っぽくねぇか?」
「ちがうもん!“やさしい医者”なだけだもん!」
フォウはむくれて、両手をぎゅっと握る。
「……じゃあ今度、“太れるメニュー”でも考えてくれよ」
レイスは少し目を伏せて、照れ隠しの声で言う。
フォウは満面の笑顔になる。
「うんっ!レイスさんが“体重1キロ増えた”って報告くれる日、楽しみにしてる!」
その時、遠くのAI看板がぱっと点灯した。
「本日おすすめ:高カロリーチーズまん・幸福値+12」
PATCHがギラギラの看板を指差して叫ぶ。
「なあ、チーズまんは太るぞ!レイス、食え!今だ!!」
レイスはため息をつきながら、それでも少しだけ口元を緩めて歩き出す。
「……しゃあねぇな、じゃあチーズまんで“幸せ太り”でも目指してみるか」
路地裏に、ほんのりとチーズの匂いと、笑い声が残った。
ユピテルがふいに遠い目で呟く。
「そういやレイス、お前東京住んでたろ?滅ぶ前の」
「日本の中心だろ?カロリー天国じゃねぇか」
レイスは煙草をくわえたまま、わずかに目を細める。
「ああ。住んでたよ。けどな……実はメシ、そんな好きじゃなかったんだ」
PATCHが驚きで目を丸くする。
「えっ、まじで!?チーズとか!肉汁とか!あんな“飯テロ”国で!?」
レイスは思い返すように呟く。
「チーズ……半熟卵……肉汁……ああいうの、見ただけでちょっと……な」
「まあ俺の生まれた時代、半人半魔の迫害えぐくてさ」
「“同じ皿で食うな”って言われたこと、何回もあったぜ」
いつか――自分がまだ幼かったころ。
半分人間なんて気持ち悪いから、とパンを取り上げられて投げられた。
仕方なく、地面に落ちたパンを拾って食べた。
憎しみは沸かなかった。
“そういうものだ”と、幼心に無理やり理解してしまった。
フォウの輪っかが“ピィィン!”と高く澄んだ音を立てる。
「それって……“共食拒否”……?」
フォウが目を見開いて言う。
「一緒に食べちゃダメって、心と身体を切り離す一番つらい偏見だよ……!」
フォウはぐっとレイスの手を握りしめる。
「ごはんって、“誰かと食べる”から幸せなんだよ!」
「それを否定されたら、“食べること”そのものが痛くなっちゃう……!」
レイスは照れくさそうに目をそらし、小さく笑う。
「……いやまあ、もう昔の話だし。今は別に、誰とでも食えるけどな」
だが、その横顔をじっと見つめ、OBSOLETEが静かに言葉を差し挟む。
「でも、“食べられる”と“味わえる”は、別物よ」
「それ、たぶん、あなた自身が一番わかってるでしょ?」
レイスは、ふと視線を落とす。
「……“味”が分かんなかった時期は……あった」
フォウは真剣な瞳で、まっすぐにレイスを見つめる。
「じゃあ、今から始めよ?“食べるのが幸せ”って、もう一度知ってく」
「だってレイスさん、今は“共に食べる仲間”が、いるんだから」
PATCHは泣きそうな顔で叫ぶ。
「俺……AI社会で生まれたけど……めっちゃ得してんのかもしんね……!」
ヴィヌスは鼻をすんと鳴らしつつ、そっぽを向く。
「バカだけど……こういう時のPATCH、わりと本物よね」
NULLが淡々とAI音声で報告した。
「幸福値、全員上昇中。数値異常だが、良性反応」
誰も言葉を返さなかった。
ただ、それぞれの手の中に、温かいパンの記憶が残っていた。
放課後の教室。窓の向こうには、まぶしいほどの夕日が斜めに差し込んでいた。
「あの子」は静かにパンの耳をちぎる。
「……また残しちゃった。頑張って食べようと思ったのに。……私、ホント、ダメだな」
隣で、鞄を肩にかけたOBSOLETE(転生前)が、さらりと声をかける。
「……ねえ、今日さ、牛丼食べに行こうよ」
あの子が驚いた顔で振り向く。
「えっ?……急に高カロリーすぎない?」
OBSOLETEは少しだけ口角を上げて、机に手を置く。
「急にケーキとかじゃなくてさ、“生活の中にあるカロリー”って大事じゃん?」
あの子は、照れくさそうに小さく笑う。
「……そういう言い方、なんか優しいね」
「てか、私も食べたかっただけだけどね」
肩を並べて、教室を後にするふたり。その記憶は、そこで止まる。
──時空が重なる。
かつてパンを地面から拾い、一人で食べた少年レイスと。
“あの子”を松屋に誘った少女だったOBSOLETE。
レイスが静かに振り向く。
「……そいつ、救えたのか?」
OBSOLETEはほんのわずかだけ、遠くを見て笑う。
「分かんない。転生しちまったから、確かめようもない」
「けどあの時の自分の判断だけは、今でも後悔してない」
フォウの輪っかが“しゅん……”と静かに下がる。
「……その子、今でもきっと覚えてるよ」
「“一緒に食べよう”って言ってくれた、その言葉を」
しばらく黙っていたレイスが、ゆっくりと餃子を口に運ぶ。
「……じゃあ俺も、その恩に預かるぜ」
「“太るための飯”、一緒に食ってくれよ」
「お前らとなら……味、分かる気がすんだ」
OBSOLETEはかすかに微笑む。
「……了解。松屋は無いけど、餃子ならたっぷりあるからな」
夜のテーブルに、温かい湯気と、かすかな救いが満ちていた。
チャイナタウン裏のベンチ。
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レイスはまだ餃子の丼を膝に乗せたまま、食後の余韻に浸っている。
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フォウはその言葉に一切表情を崩さず。
「わァ……その時はよろしく……」と返す。
レイスは湯気の残る丼を見つめたまま苦笑する。
「えっ、俺フォウ食べる!?やだよ……水餃子の方がうまい」
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「はい出た。“人類最後のピュア漫才”。マジでちいかわだわこいつ……」
ヴィヌスは遠くのベンチから吹き出し声を飛ばす。
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