60 / 90
AVALON
AVALON-滅びの美
しおりを挟む
翌朝、午前の診察が始まって間もなく。
闇病院の自動ドアが静かに開いた。
まるでこの瞬間を待ち構えていたかのように、男が一人。
カメラを大事そうに胸に抱えながら現れる。
受付が声をかける。
「診察ですか?面会ですか?」
男は食い気味に答えた。
「面会です。外界に出たものがいるって……本当ですか?」
ナノシティの外――それは誰もが知っている“デスゾーン”。
幸福値が年間を通してマイナス80のものが送られる。
文字通り“死の大地”だ。
だが、そこから「無傷で」帰還した者がいるという噂が。
都市の裏路地でささやかれ始めていた。
男は病院内を歩きながら、壁や天井のひび割れ。
廊下の隅に咲く野草さえも、フィルム越しに観察する。
彼の手にあるのは、AIとアナログを合体させたごついカメラ。
その目は、ただの好奇心ではなく。
“美しい滅び”を記録しようとする本気の執念に満ちていた。
「院長!彼らはどこにいますか!?すぐにでも会いたいのですが」
ルイ院長は青い薔薇の造花を揺らしながら、絶妙な微笑を浮かべる。
「彼らはヴェルサイユを見たか?私としてはそれも重要だ」
「案内するよ、彼らは3-07号室にいる」
受付カウンターの奥で看護師が苦笑する。
「また始まった……ヴェルサイユチェック」
「けどまあ、あの規模の遺跡を“記録”するって、実はガチで大事なんだよな」
クロノチームに会いたがっているのは、ただの面会希望者じゃない。
“外界の写真集”――ナノシティの外側。
“幸福圏”の外に広がる終末の美を、本気で記録しようとしている変人。
筋金入りの廃墟マニアで、危険も、常識も吹き飛ばした“滅びの芸術家”だった。
ヴィヌスが眉をひそめる。
「外界を撮る? 正気?」
カメラマンは肩をすくめ、少しだけ誇らしげに言った。
「俺は下層エリアのしがないカメラマンだ。一度だけ、外界を見たことがあってな」
その言葉に、一同が一瞬息を呑む。
あのデスゾーンは、通常の人間なら十分で死ぬと言われるほどの汚染地帯。
不死身や超再生の怪物でもなければ、生還はまず不可能な場所。
この男、ただ者じゃない。
「もちろん直接見たわけじゃない」
「幸福値が年間マイナス50以下のものは、バリア越しにあの景色を見せられる」
「“これ以上下がれば、あの地に送る”って脅し文句だ」
「だが俺は……見入られた。あの死の世界に」
カメラマンの目は、どこかうっとりしていた。
「やっぱり“滅ぶもの”が、いちばん美しいんだよ」
「完成した美にはない、終わるものだけが持つ“きらめき”……」
サタヌスが思わず真顔で割り込む。
「おい待て、お前ゾーマ様みたいなこと言い出してんぞ!?」
「『滅びこそ美』って、どっかの大魔王かよ!」
ユピテルはなぜか妙に嬉しそうにニヤリ。
「わァるくないセンスしてるじゃねぇか……!」
その横でフォウが首をかしげる。
「ゾーマってなに?」
「まぁ、日本人の中じゃ……大魔王って言ったら最初に浮かべる人だよ」
「“滅びを愛している”ってキャラ」
そのまま“ゾーマポーズ”を完コピしてみせる。
「凍てつく波動~~~~!!!」
両腕を思いっきり広げ。
伝説の大魔王ゾーマを完全再現したポーズ。
指先までしっかり“魔王のオーラ”宿してドヤ顔全開。
フォウはキラキラした目で大拍手。
「すごい!ほんとにビーム撃てそう!もう一回やって!」
背後でカメラマンが「これぞ終末芸術ッ!!」とシャッター切りまくり。
ナース陣は「あれ絶対またSNSでバズるやつじゃん……」とボソッと溜息。
「漆黒の朝は、凍てつく波動で始まるのだ――」
レイスが無駄にカッコつけて決めると。
廊下の奥から「診察優先でお願いします!」とガチ注意が飛ぶ。
「やはり美しい世界も、やがて滅びるからこそ尊い……」
闇病院の薄暗い廊下、空気が妙な温度に揺れる。
サタヌスは露骨に焦って叫ぶ。
「お前。ココにガイウス居たら、ドン引きしたあと剣抜いてるからな」
プルトがジト目で斜め上から呟く。
「お前は抜かないんですね」
サタヌスが思わず全力で突っ込む。
「そのトーンで言うと別の抜くに聞こえる!!やめろ!!!」
フォウは真面目顔で、うんうん頷く。
「抜く……あぁ、だいじだよね。テストステロン増加とかED防止に」
サタヌスは慌てて首を振る。
「いや、勇者ズのリーダーが下ネタ暴走組にいたら社会崩壊するから!!」
フォウはピュアな顔でさらに畳みかける。
「みんな、適度な“抜く”は大切だよ。睡眠の質も上がるし……」
サタヌスはもう限界。
「やめろ!!!!」
そんなバカ騒ぎのなかで、ユピテルはすっと眼を細めてカメラマンに尋ねる。
「なぁお前。地平線に何が見えた?俺らが出た外界は市街地側じゃなくてナァ」
カメラマンが少し熱を帯びた声で答える。
「……美術館が見えた、ガラスのピラミッド」
「間違いない。もうひとつは……宮殿」
ユピテルは指を鳴らして身を乗り出す。
「ルーヴルとヴェルサイユか!?」
「おいおいマジか、ルーヴルもヴェルサイユも外界に?」
「じゃあ最高の写真集ができそうじゃねぇか!!」
サタヌスがツッコミ半分で肩をすくめる。
「外はデスゾーンだぞ、お前マジで行く気かよ?」
ユピテルは口の端を上げ、薄ら笑い。
「いいねぇ、危険と美が両方詰まってる場所って、一番ゾクゾクするんだよなぁ」
ヴィヌスは呆れたように鼻を鳴らす。
「不法侵入で撮るアングルが最高にバズるやつね」
サタヌスは深々とため息をつきながらも笑みを浮かべる。
「犯罪ギリギリだけど、まあ確かにバカみたいにエモいだろうな」
廊下には笑い声と、危険の予感が混ざりあって漂っていた。
磁気嵐が轟き、雷がビルの残骸を叩く。
今日も外界の天候は最悪だ。
今までなら、下層エリアの住人たちがフルーツやミュータント肉のためだけに。
命懸けで繰り出す“生存の土地”。
だが今日は違う――かつて“パリ”だった場所を、クロノチームが歩いていた。
レイスが頭を抱える。
「いやいやいや!マジで頭おかしいだろ依頼主!滅びの美撮れって、陰キャの発想だって!」
サタヌスは真顔で肉片を見つめながら呟く。
「写真に残すなら肉の焼けてるとこだけで十分だろ……」
フォウはぶるぶる震えていた。
「お外こわいよぉ~……ミュータントに襲われたくない……」
そんな中、プルトが静かに言う。
「ダメですよ」
「ウラヌスが、自分がエモいと思うものにレンズ向けろって言ってました」
プルトの脳裏によぎるのは山積みの廃タイヤ、サビたフェンス、雑多なパーツの海。
ウラヌスはスマホ片手に、テンションMAXで連写中。
「なにこれエモッ!この並び、バイブス感じるんですけどぉ!」
プルトはガチびっくり猫顔で問い返す。
「ただのタイヤだよね……?」
ウラヌスは満面のドヤ顔。
「いやぁ~この規則的に積まれてるの、絶対誰かの努力の結晶だから!」
「……崩れないように積んだだけでは……」
「こーゆー“意図の外にある整然さ”がエモいのっ!」
「エモ……なの……?」
ゴミ捨て場で片目だけとれたぬいぐるみを発見し。
「はいエモーー!」と叫んでスマホを構えるウラヌス。
プルトは青ざめる。
「怖いんだけど……」
ウラヌスは謎の満足顔で説教を始める。
「雑巾ちゃん、エモいってのはなァ~……人が価値を見出した瞬間なんだぞ!!」
「……うん……」
“よくわからないが肯定しておこう”という表情で頷くプルトだった。
レイスは荒れ果てた外界でカメラを構え。
きょろきょろと周囲を見まわす。
その手には、依頼人が「俺の分身」と呼んだ愛機が収まっている。
「エモいもん撮れ……あれかな?」
視線の先、廃液湖にクマのぬいぐるみがぷかぷかと浮かんでいる。
狙いすましたような“この世の終わり感”。
しかもそのぬいぐるみが、やたら満足げな顔をしていた。
サタヌスが顔をしかめる。
「生きてるのか、死んでるのか分かんねぇ……」
ヴィヌスは片眉を上げ「エモいのあれ……?ドザエモンじゃない?」
プルトがジト目でツッコミを入れる。
「それ言っちゃ台無しです」
ウラヌスの教え。
“自分がエモいと思うものを撮る”を胸に、六人は“滅亡エモ”を探し続ける。
しばらく歩くと、レイスが劣化した笑顔のピエロ像を見つける。
口元は裂け、塗料が剥げ、片目は取れて“リアル世紀末ホラー”と化していた。
レイスがシャッターを切りながら褒める。
「やば、このピエロ、笑顔キマってんじゃん」
ヴィヌスは思わず吹き出す。
「怖すぎ♡特殊メイクでもここまでやらないわよ!」
「アバンギャルド感ある……ファッション誌に出したいわ~」
ピエロ像を撮りながら。
「今の世代、この不完全さにむしろ惹かれるのよ」と本気で目を輝かせる。
ユピテルは真顔で像の歪んだ笑顔をじっと見つめる。
「いいねぇ……この凄味、“芸術”って言葉が一番似合う。
怖いものほど、目が離せなくなる。
人間も、作品も――“壊れかけ”が一番ゾクゾクするんだよなァ」
ヴィヌスがにやりと笑う。「分かってるじゃない、ユピテル」
二人は、そのピエロ像の前でポージングまで考え始める。
サタヌスが遠くで溜息をつく。
「どんな地獄も美意識ひとつでパリコレになるってか……」
ピエロ像の裂けた口が、二人の熱量に当てられ。
ほんの少し笑みを深めたようだった。
「ドザエモン、ピエロ……誰か“普通の思い出”撮ろうぜ?」
灰色の光が曇天を割り、廃墟の看板だけがぼんやりと浮かび上がっている。
終末の都市を歩きながら、六人は“美の定義”を手探りで探していた。
廃墟ビルが連なる街区、コンクリートの瓦礫と鉄骨の山。
ユピテルが高揚した声で叫ぶ。
「てーかよ!?ヴェルサイユ!パリつったらヴェルサイユだろうが!探すぞ」
ヴィヌスが肩をすくめる。
「きたわ、芸術スイッチ……」
サタヌスは苦笑いでぼそっと。
「カリスト言ってたな。このモードのユピテル様は絶対止まらないと」
そんな一同の前に、巨大な「DEUS」のロゴ看板が瓦礫の中に現れた。
レイスが皮肉混じりに口を開く。
「デウス・エクス・マキナか。駄作のお約束だ」
「マジで機械仕掛けの神様を作っちまったわけだな」
プルトが看板を見上げて言う。
「私がウラヌスだったら、あのDEUS看板で足をぶらぶらしているでしょう……」
フォウがにっこり笑って「していいんだよ?」
プルトは耳まで赤くして目をそらす。
「恥ずかしい。子供じゃないんだから」
「じゃ、わたしが代わりに座るね」
フォウがふわりと飛び乗り、朽ちたDEUSロゴの上で足をぶらぶらさせる。
廃墟と化した都市のど真ん中。
黒い雲が空を覆い、時おり雷が閃光となって廃ビルの影を切り取っていく。
崩れたコンクリートの山、その頂に、ひときわ大きな鉄看板が転がっている。
錆びた文字で“DEUS”。
この都市のかつての“神”――あらゆる機械仕掛けの救済を約束した人工の名残だ。
看板の隣には、放射線マークの黄色い標識が斜めに突き立てられている。
その足元には、虹色に染まった汚水が細い川を作り、瓦礫の隙間を這っていく。
DEUS――神の名の上で、天使はただ、足をぶらぶらさせている。
荒廃した世界の真ん中で、それでも微笑む。
だが、神の残骸の上で微笑む天使は、どこまでも穏やかに世界を見下ろしている。
その光景は、どこか滑稽で、どこか神聖だった。
レイスは小さく息を吐き、シャッターを切る。
「なんか美しいな?」
廃墟の都市、神の名の残骸と、無邪気な天使。
滅びの世界で、ほんの一瞬だけ“本物の美”が空に浮かんだ。
闇病院の自動ドアが静かに開いた。
まるでこの瞬間を待ち構えていたかのように、男が一人。
カメラを大事そうに胸に抱えながら現れる。
受付が声をかける。
「診察ですか?面会ですか?」
男は食い気味に答えた。
「面会です。外界に出たものがいるって……本当ですか?」
ナノシティの外――それは誰もが知っている“デスゾーン”。
幸福値が年間を通してマイナス80のものが送られる。
文字通り“死の大地”だ。
だが、そこから「無傷で」帰還した者がいるという噂が。
都市の裏路地でささやかれ始めていた。
男は病院内を歩きながら、壁や天井のひび割れ。
廊下の隅に咲く野草さえも、フィルム越しに観察する。
彼の手にあるのは、AIとアナログを合体させたごついカメラ。
その目は、ただの好奇心ではなく。
“美しい滅び”を記録しようとする本気の執念に満ちていた。
「院長!彼らはどこにいますか!?すぐにでも会いたいのですが」
ルイ院長は青い薔薇の造花を揺らしながら、絶妙な微笑を浮かべる。
「彼らはヴェルサイユを見たか?私としてはそれも重要だ」
「案内するよ、彼らは3-07号室にいる」
受付カウンターの奥で看護師が苦笑する。
「また始まった……ヴェルサイユチェック」
「けどまあ、あの規模の遺跡を“記録”するって、実はガチで大事なんだよな」
クロノチームに会いたがっているのは、ただの面会希望者じゃない。
“外界の写真集”――ナノシティの外側。
“幸福圏”の外に広がる終末の美を、本気で記録しようとしている変人。
筋金入りの廃墟マニアで、危険も、常識も吹き飛ばした“滅びの芸術家”だった。
ヴィヌスが眉をひそめる。
「外界を撮る? 正気?」
カメラマンは肩をすくめ、少しだけ誇らしげに言った。
「俺は下層エリアのしがないカメラマンだ。一度だけ、外界を見たことがあってな」
その言葉に、一同が一瞬息を呑む。
あのデスゾーンは、通常の人間なら十分で死ぬと言われるほどの汚染地帯。
不死身や超再生の怪物でもなければ、生還はまず不可能な場所。
この男、ただ者じゃない。
「もちろん直接見たわけじゃない」
「幸福値が年間マイナス50以下のものは、バリア越しにあの景色を見せられる」
「“これ以上下がれば、あの地に送る”って脅し文句だ」
「だが俺は……見入られた。あの死の世界に」
カメラマンの目は、どこかうっとりしていた。
「やっぱり“滅ぶもの”が、いちばん美しいんだよ」
「完成した美にはない、終わるものだけが持つ“きらめき”……」
サタヌスが思わず真顔で割り込む。
「おい待て、お前ゾーマ様みたいなこと言い出してんぞ!?」
「『滅びこそ美』って、どっかの大魔王かよ!」
ユピテルはなぜか妙に嬉しそうにニヤリ。
「わァるくないセンスしてるじゃねぇか……!」
その横でフォウが首をかしげる。
「ゾーマってなに?」
「まぁ、日本人の中じゃ……大魔王って言ったら最初に浮かべる人だよ」
「“滅びを愛している”ってキャラ」
そのまま“ゾーマポーズ”を完コピしてみせる。
「凍てつく波動~~~~!!!」
両腕を思いっきり広げ。
伝説の大魔王ゾーマを完全再現したポーズ。
指先までしっかり“魔王のオーラ”宿してドヤ顔全開。
フォウはキラキラした目で大拍手。
「すごい!ほんとにビーム撃てそう!もう一回やって!」
背後でカメラマンが「これぞ終末芸術ッ!!」とシャッター切りまくり。
ナース陣は「あれ絶対またSNSでバズるやつじゃん……」とボソッと溜息。
「漆黒の朝は、凍てつく波動で始まるのだ――」
レイスが無駄にカッコつけて決めると。
廊下の奥から「診察優先でお願いします!」とガチ注意が飛ぶ。
「やはり美しい世界も、やがて滅びるからこそ尊い……」
闇病院の薄暗い廊下、空気が妙な温度に揺れる。
サタヌスは露骨に焦って叫ぶ。
「お前。ココにガイウス居たら、ドン引きしたあと剣抜いてるからな」
プルトがジト目で斜め上から呟く。
「お前は抜かないんですね」
サタヌスが思わず全力で突っ込む。
「そのトーンで言うと別の抜くに聞こえる!!やめろ!!!」
フォウは真面目顔で、うんうん頷く。
「抜く……あぁ、だいじだよね。テストステロン増加とかED防止に」
サタヌスは慌てて首を振る。
「いや、勇者ズのリーダーが下ネタ暴走組にいたら社会崩壊するから!!」
フォウはピュアな顔でさらに畳みかける。
「みんな、適度な“抜く”は大切だよ。睡眠の質も上がるし……」
サタヌスはもう限界。
「やめろ!!!!」
そんなバカ騒ぎのなかで、ユピテルはすっと眼を細めてカメラマンに尋ねる。
「なぁお前。地平線に何が見えた?俺らが出た外界は市街地側じゃなくてナァ」
カメラマンが少し熱を帯びた声で答える。
「……美術館が見えた、ガラスのピラミッド」
「間違いない。もうひとつは……宮殿」
ユピテルは指を鳴らして身を乗り出す。
「ルーヴルとヴェルサイユか!?」
「おいおいマジか、ルーヴルもヴェルサイユも外界に?」
「じゃあ最高の写真集ができそうじゃねぇか!!」
サタヌスがツッコミ半分で肩をすくめる。
「外はデスゾーンだぞ、お前マジで行く気かよ?」
ユピテルは口の端を上げ、薄ら笑い。
「いいねぇ、危険と美が両方詰まってる場所って、一番ゾクゾクするんだよなぁ」
ヴィヌスは呆れたように鼻を鳴らす。
「不法侵入で撮るアングルが最高にバズるやつね」
サタヌスは深々とため息をつきながらも笑みを浮かべる。
「犯罪ギリギリだけど、まあ確かにバカみたいにエモいだろうな」
廊下には笑い声と、危険の予感が混ざりあって漂っていた。
磁気嵐が轟き、雷がビルの残骸を叩く。
今日も外界の天候は最悪だ。
今までなら、下層エリアの住人たちがフルーツやミュータント肉のためだけに。
命懸けで繰り出す“生存の土地”。
だが今日は違う――かつて“パリ”だった場所を、クロノチームが歩いていた。
レイスが頭を抱える。
「いやいやいや!マジで頭おかしいだろ依頼主!滅びの美撮れって、陰キャの発想だって!」
サタヌスは真顔で肉片を見つめながら呟く。
「写真に残すなら肉の焼けてるとこだけで十分だろ……」
フォウはぶるぶる震えていた。
「お外こわいよぉ~……ミュータントに襲われたくない……」
そんな中、プルトが静かに言う。
「ダメですよ」
「ウラヌスが、自分がエモいと思うものにレンズ向けろって言ってました」
プルトの脳裏によぎるのは山積みの廃タイヤ、サビたフェンス、雑多なパーツの海。
ウラヌスはスマホ片手に、テンションMAXで連写中。
「なにこれエモッ!この並び、バイブス感じるんですけどぉ!」
プルトはガチびっくり猫顔で問い返す。
「ただのタイヤだよね……?」
ウラヌスは満面のドヤ顔。
「いやぁ~この規則的に積まれてるの、絶対誰かの努力の結晶だから!」
「……崩れないように積んだだけでは……」
「こーゆー“意図の外にある整然さ”がエモいのっ!」
「エモ……なの……?」
ゴミ捨て場で片目だけとれたぬいぐるみを発見し。
「はいエモーー!」と叫んでスマホを構えるウラヌス。
プルトは青ざめる。
「怖いんだけど……」
ウラヌスは謎の満足顔で説教を始める。
「雑巾ちゃん、エモいってのはなァ~……人が価値を見出した瞬間なんだぞ!!」
「……うん……」
“よくわからないが肯定しておこう”という表情で頷くプルトだった。
レイスは荒れ果てた外界でカメラを構え。
きょろきょろと周囲を見まわす。
その手には、依頼人が「俺の分身」と呼んだ愛機が収まっている。
「エモいもん撮れ……あれかな?」
視線の先、廃液湖にクマのぬいぐるみがぷかぷかと浮かんでいる。
狙いすましたような“この世の終わり感”。
しかもそのぬいぐるみが、やたら満足げな顔をしていた。
サタヌスが顔をしかめる。
「生きてるのか、死んでるのか分かんねぇ……」
ヴィヌスは片眉を上げ「エモいのあれ……?ドザエモンじゃない?」
プルトがジト目でツッコミを入れる。
「それ言っちゃ台無しです」
ウラヌスの教え。
“自分がエモいと思うものを撮る”を胸に、六人は“滅亡エモ”を探し続ける。
しばらく歩くと、レイスが劣化した笑顔のピエロ像を見つける。
口元は裂け、塗料が剥げ、片目は取れて“リアル世紀末ホラー”と化していた。
レイスがシャッターを切りながら褒める。
「やば、このピエロ、笑顔キマってんじゃん」
ヴィヌスは思わず吹き出す。
「怖すぎ♡特殊メイクでもここまでやらないわよ!」
「アバンギャルド感ある……ファッション誌に出したいわ~」
ピエロ像を撮りながら。
「今の世代、この不完全さにむしろ惹かれるのよ」と本気で目を輝かせる。
ユピテルは真顔で像の歪んだ笑顔をじっと見つめる。
「いいねぇ……この凄味、“芸術”って言葉が一番似合う。
怖いものほど、目が離せなくなる。
人間も、作品も――“壊れかけ”が一番ゾクゾクするんだよなァ」
ヴィヌスがにやりと笑う。「分かってるじゃない、ユピテル」
二人は、そのピエロ像の前でポージングまで考え始める。
サタヌスが遠くで溜息をつく。
「どんな地獄も美意識ひとつでパリコレになるってか……」
ピエロ像の裂けた口が、二人の熱量に当てられ。
ほんの少し笑みを深めたようだった。
「ドザエモン、ピエロ……誰か“普通の思い出”撮ろうぜ?」
灰色の光が曇天を割り、廃墟の看板だけがぼんやりと浮かび上がっている。
終末の都市を歩きながら、六人は“美の定義”を手探りで探していた。
廃墟ビルが連なる街区、コンクリートの瓦礫と鉄骨の山。
ユピテルが高揚した声で叫ぶ。
「てーかよ!?ヴェルサイユ!パリつったらヴェルサイユだろうが!探すぞ」
ヴィヌスが肩をすくめる。
「きたわ、芸術スイッチ……」
サタヌスは苦笑いでぼそっと。
「カリスト言ってたな。このモードのユピテル様は絶対止まらないと」
そんな一同の前に、巨大な「DEUS」のロゴ看板が瓦礫の中に現れた。
レイスが皮肉混じりに口を開く。
「デウス・エクス・マキナか。駄作のお約束だ」
「マジで機械仕掛けの神様を作っちまったわけだな」
プルトが看板を見上げて言う。
「私がウラヌスだったら、あのDEUS看板で足をぶらぶらしているでしょう……」
フォウがにっこり笑って「していいんだよ?」
プルトは耳まで赤くして目をそらす。
「恥ずかしい。子供じゃないんだから」
「じゃ、わたしが代わりに座るね」
フォウがふわりと飛び乗り、朽ちたDEUSロゴの上で足をぶらぶらさせる。
廃墟と化した都市のど真ん中。
黒い雲が空を覆い、時おり雷が閃光となって廃ビルの影を切り取っていく。
崩れたコンクリートの山、その頂に、ひときわ大きな鉄看板が転がっている。
錆びた文字で“DEUS”。
この都市のかつての“神”――あらゆる機械仕掛けの救済を約束した人工の名残だ。
看板の隣には、放射線マークの黄色い標識が斜めに突き立てられている。
その足元には、虹色に染まった汚水が細い川を作り、瓦礫の隙間を這っていく。
DEUS――神の名の上で、天使はただ、足をぶらぶらさせている。
荒廃した世界の真ん中で、それでも微笑む。
だが、神の残骸の上で微笑む天使は、どこまでも穏やかに世界を見下ろしている。
その光景は、どこか滑稽で、どこか神聖だった。
レイスは小さく息を吐き、シャッターを切る。
「なんか美しいな?」
廃墟の都市、神の名の残骸と、無邪気な天使。
滅びの世界で、ほんの一瞬だけ“本物の美”が空に浮かんだ。
0
あなたにおすすめの小説
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~
厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」
ダンジョン出現から10年。
攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。
かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。
ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。
すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。
アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。
少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。
その結果――
「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」
意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。
静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

