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AVALON
AVALON-神に捨てられた人々
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かつてここには人々の暮らしがあったはずだ。
割れたガラス、ひしゃげた標識、崩れ落ちかけたビルの骨組みだけが、今も風に揺れている。
そのどこにも、“未来”の気配は残されていなかった。
だが、フォウの目には違うものが映っていた。
青く透きとおる羽をふるふる揺らしながら、彼女は瓦礫の谷間に目を凝らす。
「ここ……街? ナノシティの外に街があったんだぁ……」
声は驚きと感嘆が混ざり、どこか懐かしさすら帯びている。
レイスが少しだけ目を細めて答えた。
「あぁ。ここは昔、“市街地”って呼ばれてた場所さ」
「ナノシティの外……つまり、“旧世界”の端っこだ」
フォウが指さすのは、ひび割れた鉄製の看板。
“DEUS”――かすれてなお主張し続ける四文字のロゴ。
レイスはニヤリと笑い、皮肉をたっぷり込めて言う。
「この四文字はな、“パリ”だけを守って、外側は全部見捨てたんだ」
「……これが“神の名前”ってやつよ。笑えるだろ?」
フォウは小さくうなずき、静かな声で返す。
「でも……誰かがここを歩いて、話して、覚えてるなら……この街は“忘れられてない”んだよ」
レイスは一瞬だけ目を見開き――やがて、心からの笑みを浮かべた。
「“天使の輪”は、飾りじゃねぇらしいな」
「ここって……ほんとに昔、街だったの?」
フォウが埃まみれの標識を見上げる。
その金属板には、うっすらと《RÉPUBLIQUE FRANÇAISE》の文字が残っていた――
消され、塗り潰され、何度も引っ掻かれた跡と共に。
レイスは手をポケットに突っ込みながら、ぽつりと答える。
「あぁ。ここはな、昔“フランス”って国だった場所だ」
「でももう地図には載ってねぇよ」
フォウはぽかんとした顔で、続ける。
「……じゃあ、なくなっちゃったの?」
「あぁ。DEUS(デウス)コーポが国の上に立って」
「政権はただの飾りになった。最終的には“フランス”の名ごと消しやがったのさ」
「企業が国を喰ったんだ」
レイスは肩をすくめ、細い路地へと足を向ける。
廃墟路地裏、壁一面にびっしりと残されたスプレーの落書き。
鏡や洗面台まで赤黒く染め上げられて、かつての「清潔さ」は微塵も残っていない。
プルトが、まるで年頃の少女のような無邪気な顔で振り向いた。
「ユピテル、ヴェルサイユもいいけど、この落書きを見てください」
その声は、どこか嬉しそうで――「いいものを見つけたから、あなたにも見てほしい」
そんな純粋な気持ちがにじんでいた。
廊下の向こうでサタヌスが小さくつぶやく。
「こういう顔の時はかわいいんだけどな」
そこには、小さな公共トイレがぽつんと残っていた。
外壁も鏡も便器も、全てがスプレーで覆われている。
だが、ただの落書きではない。あらゆる言語で“呪詛”が刻まれている。
ヴィヌスはプルトの隣に歩み寄り、壁の文字列を指でなぞる。
「これ、フランス語だけじゃないわよ?」
「ほら、ここはロシア語。ここは中国語」
レイスが鏡の落書きに目を向けて、低く呟いた。
「それだけ多くのやつが、DEUSに切り捨てられたってことだな」
異国の言葉で残された、誰かの怒り、誰かの悲しみ。
この国境なき“呪詛”こそが、忘れられちまった世界の「本当の歴史」だった。
プルトはいつもの冷めた仮面を少しだけ崩して、鏡越しに仲間たちと目を合わせる。
その顔は、きっとこの廃墟でしか見せない、素直な微笑みだった。
フォウは小さく呟く。
「……こんなの、ひどいよ……」
レイスは鏡に映る“DEUS”のロゴを見つめ、低く笑った。
「正直だろ? この国を殺した名前だよ」
「でもまぁ――皮肉な話さ。そいつらが“人類の楽園”なんてモンを造ったんだぜ」
鏡の前で立ち止まり、レイスは小さく肩を揺らす。
「これは“呪詛”じゃねぇ。“記録”だよ。忘れられちまった国の、最後の叫びさ」
瓦礫の森を抜けて、一同はついにたどり着いた。
そこにあったのは、かつてのヴェルサイユ宮殿。
だが、荘厳なファサードは黒ずみ、金箔の装飾もほとんどはがれ。
屋根は半壊、欄干には無数の弾痕や亀裂。
入り口には落書きと“KEEP OUT”テープが幾重にも巻かれている。
その惨状を前にして、ユピテルは両腕を広げ、眩しい笑顔で叫ぶ。
「おいおいおい!なンだコレ!最高ダァ~!!!」
彼の目は、むしろ生き生きと輝いていた。
滅びの美、混沌の芸術、終末にしか咲かない“狂気の華”を全身で味わっている。
「本当に来ちまったな……。カリスト見たら泣きそうだわ」
「最期のヴェルサイユ。皮肉だけど、これが本当の“唯一無二の美”なんだろうな」
大理石の階段も、鏡の回廊も、朽ちかけたバルコニーも。
“滅び”と“かつての栄華”が重なりあう。
フォウは瓦礫の上に立ち、しげしげと宮殿のファサードを見上げた。
「ねぇ、あの宮殿……窓のとこだけ、弾痕だらけだよ? なんで?」
レイスは首を傾げて、廃墟に沈んだヴェルサイユの正面をゆっくり見渡す。
「暴徒が適当に撃ちまくったなら、壁やドアにも痕が残るはずだろ?」
「だけど、窓だけ集中的に撃たれてる――これは“標的”があった証拠だ」
「つまり、中の人間と外の誰かが、窓越しに本気で撃ち合った」
「乱射じゃない。“狙い撃ち”の痕なんだよ」
ヴィヌスは息を呑む。
「これ、ただの廃墟じゃなくて……本気の戦場の痕跡なのね」
と、そっと指で弾痕をなぞる。
「“中に入ろうとした誰か”を撃ったか――逆に、中の人間を外から狙ったか……」
と、指で弾痕をなぞる。
レイスがさらに低く続ける。
「この宮殿の中、たぶん“最後の砦”だったんだろうな」
「KEEP OUTのテープは後付けだ。真の“KEEP OUT”は、あの窓の弾痕のほうさ」
レイスとフォウは黙って弾痕だらけの宮殿を見上げていた。
その時、不意に空気が揺れる。
――何かの叫びが、瓦礫をすり抜けて響いてくる。
フランス語で怒鳴る男の声、かき消すような女の悲鳴。
「Non ! Arrêtez !」(やめろ!)
「Ils arrivent ! Ils arrivent !!」(奴らが来るぞ!!)
「Ouvre la porte ! Ouvre !」(開けろ!ドアを開けてくれ!)
それが誰に向けてのものなのか、二人にはわからない。
DEUSか?敵か?仲間か?
ただ“ここで何かが終わった”という気配だけが、肌を刺すように伝わってくる。
フォウがそっとレイスの袖を掴む。
「……ねぇ、なんか聞こえなかった?」
レイスも一瞬だけ息を呑む。
「……いや、気のせいだ。もう誰もいないはずだろ」
そう言いながらも、二人の目は離せない。
景色が、黙ってすべてを語り続けていた。
ユピテルは相変わらず満面の笑顔で叫んでいるが。
その足元には、砕けた大理石と割れた窓、そして人の気配だけが残る。
ヴィヌスがため息をつきながら呟く。
「こんな場所でさえ、“滅びの美”はちゃんと記録されるのね」
窓だけに密集する銃痕。
「誰かがどこまでも抵抗した」証なのか?
「もう誰も入れないようにした」絶望の記号なのか。
どちらであっても“終末の戦場”だったことだけは確かだ。
その真相はもう誰も語らない。
だが、景色そのものが、歴史よりも雄弁に語り続けている。
ヴィヌスが廃墟の階段を軽やかに下りながらレイスに声をかけた。
「レイス、まだフィルムある?」
レイスはカメラを掲げて残量を確かめる。
「まだ半分くらいある、アイツ本気だぞ」
ユピテルは悪戯っぽく口角を上げる。
「じゃ決まりだ。ペリフェリック歩くぞ」
フォウが首をかしげる。
「ペリフェリックってなに?」
ヴィヌスは髪をかきあげ、肩越しにフォウへ微笑んだ。
「道路みたいなものよ。パリの外側をぐるっと回る輪っかの道」
「歩いてるうちに、いくらでも撮れるはずよ」
ペリフェリック――かつての都市を囲む巨大な環状道路。
いまや瓦礫と草に覆われ、文明の輪郭だけが残る“終末の回廊”。
彼らの歩みとカメラが、その忘れられた風景を新たに刻んでいく。
環状線沿いの廃墟ゾーン――
一行はペリフェリックを歩きながら、次々と現れる瓦礫と廃ビルにカメラを向けていた。
景色があまりに濃すぎて、レイスの持つフィルムは想定の二倍の速さで消えていく。
「ヤバい、もう4本目だぞ……こんなスピードで使ったことねぇ」
レイスが眉をひそめると、フォウがキョロキョロと周りを見渡しながら言う。
「どこも全部、違う顔してるね」
ヴィヌスは一歩前に出て、遠くの高架を見上げる。
「シャッターチャンスは今しかないって顔してるわよ」
やがて一行はルーヴル美術館の廃墟へたどり着いた。
ユピテルが腕を組み、「ルーヴル撮るか?」と持ちかける。
「ありがちすぎ。誰でも撮るわ」
ヴィヌスがバッサリ切り捨て、サタヌスが指差す。
「だったら“あれ”だろ」
遠くに見えるガラスのピラミッド。
誰もが知るあのランドマークを、“終末の象徴”としてだけ撮影する。
レイスは納得顔でファインダーを覗く。
「この違和感、終末都市の象徴って感じで悪くねぇな」
みんな、それぞれ自分なりのアングルで、カシャカシャとシャッターを切る。
進行ルートにやや飽きてきた頃、サタヌスがぽつりと呟く。
「シャルルドゴール空港は? 外界に残ってるなら見てみたい」
ユピテルは目を細めて空を見上げた。
「空港か……いいな。終わりかけの空は撮りごたえある」
一行は進路を変え、かつての空港を目指して歩き出す。
廃墟都市の空は、どこまでも重たく。
それでも彼らのレンズは“今しかない美しさ”を切り取ろうとしていた。
割れたガラス、ひしゃげた標識、崩れ落ちかけたビルの骨組みだけが、今も風に揺れている。
そのどこにも、“未来”の気配は残されていなかった。
だが、フォウの目には違うものが映っていた。
青く透きとおる羽をふるふる揺らしながら、彼女は瓦礫の谷間に目を凝らす。
「ここ……街? ナノシティの外に街があったんだぁ……」
声は驚きと感嘆が混ざり、どこか懐かしさすら帯びている。
レイスが少しだけ目を細めて答えた。
「あぁ。ここは昔、“市街地”って呼ばれてた場所さ」
「ナノシティの外……つまり、“旧世界”の端っこだ」
フォウが指さすのは、ひび割れた鉄製の看板。
“DEUS”――かすれてなお主張し続ける四文字のロゴ。
レイスはニヤリと笑い、皮肉をたっぷり込めて言う。
「この四文字はな、“パリ”だけを守って、外側は全部見捨てたんだ」
「……これが“神の名前”ってやつよ。笑えるだろ?」
フォウは小さくうなずき、静かな声で返す。
「でも……誰かがここを歩いて、話して、覚えてるなら……この街は“忘れられてない”んだよ」
レイスは一瞬だけ目を見開き――やがて、心からの笑みを浮かべた。
「“天使の輪”は、飾りじゃねぇらしいな」
「ここって……ほんとに昔、街だったの?」
フォウが埃まみれの標識を見上げる。
その金属板には、うっすらと《RÉPUBLIQUE FRANÇAISE》の文字が残っていた――
消され、塗り潰され、何度も引っ掻かれた跡と共に。
レイスは手をポケットに突っ込みながら、ぽつりと答える。
「あぁ。ここはな、昔“フランス”って国だった場所だ」
「でももう地図には載ってねぇよ」
フォウはぽかんとした顔で、続ける。
「……じゃあ、なくなっちゃったの?」
「あぁ。DEUS(デウス)コーポが国の上に立って」
「政権はただの飾りになった。最終的には“フランス”の名ごと消しやがったのさ」
「企業が国を喰ったんだ」
レイスは肩をすくめ、細い路地へと足を向ける。
廃墟路地裏、壁一面にびっしりと残されたスプレーの落書き。
鏡や洗面台まで赤黒く染め上げられて、かつての「清潔さ」は微塵も残っていない。
プルトが、まるで年頃の少女のような無邪気な顔で振り向いた。
「ユピテル、ヴェルサイユもいいけど、この落書きを見てください」
その声は、どこか嬉しそうで――「いいものを見つけたから、あなたにも見てほしい」
そんな純粋な気持ちがにじんでいた。
廊下の向こうでサタヌスが小さくつぶやく。
「こういう顔の時はかわいいんだけどな」
そこには、小さな公共トイレがぽつんと残っていた。
外壁も鏡も便器も、全てがスプレーで覆われている。
だが、ただの落書きではない。あらゆる言語で“呪詛”が刻まれている。
ヴィヌスはプルトの隣に歩み寄り、壁の文字列を指でなぞる。
「これ、フランス語だけじゃないわよ?」
「ほら、ここはロシア語。ここは中国語」
レイスが鏡の落書きに目を向けて、低く呟いた。
「それだけ多くのやつが、DEUSに切り捨てられたってことだな」
異国の言葉で残された、誰かの怒り、誰かの悲しみ。
この国境なき“呪詛”こそが、忘れられちまった世界の「本当の歴史」だった。
プルトはいつもの冷めた仮面を少しだけ崩して、鏡越しに仲間たちと目を合わせる。
その顔は、きっとこの廃墟でしか見せない、素直な微笑みだった。
フォウは小さく呟く。
「……こんなの、ひどいよ……」
レイスは鏡に映る“DEUS”のロゴを見つめ、低く笑った。
「正直だろ? この国を殺した名前だよ」
「でもまぁ――皮肉な話さ。そいつらが“人類の楽園”なんてモンを造ったんだぜ」
鏡の前で立ち止まり、レイスは小さく肩を揺らす。
「これは“呪詛”じゃねぇ。“記録”だよ。忘れられちまった国の、最後の叫びさ」
瓦礫の森を抜けて、一同はついにたどり着いた。
そこにあったのは、かつてのヴェルサイユ宮殿。
だが、荘厳なファサードは黒ずみ、金箔の装飾もほとんどはがれ。
屋根は半壊、欄干には無数の弾痕や亀裂。
入り口には落書きと“KEEP OUT”テープが幾重にも巻かれている。
その惨状を前にして、ユピテルは両腕を広げ、眩しい笑顔で叫ぶ。
「おいおいおい!なンだコレ!最高ダァ~!!!」
彼の目は、むしろ生き生きと輝いていた。
滅びの美、混沌の芸術、終末にしか咲かない“狂気の華”を全身で味わっている。
「本当に来ちまったな……。カリスト見たら泣きそうだわ」
「最期のヴェルサイユ。皮肉だけど、これが本当の“唯一無二の美”なんだろうな」
大理石の階段も、鏡の回廊も、朽ちかけたバルコニーも。
“滅び”と“かつての栄華”が重なりあう。
フォウは瓦礫の上に立ち、しげしげと宮殿のファサードを見上げた。
「ねぇ、あの宮殿……窓のとこだけ、弾痕だらけだよ? なんで?」
レイスは首を傾げて、廃墟に沈んだヴェルサイユの正面をゆっくり見渡す。
「暴徒が適当に撃ちまくったなら、壁やドアにも痕が残るはずだろ?」
「だけど、窓だけ集中的に撃たれてる――これは“標的”があった証拠だ」
「つまり、中の人間と外の誰かが、窓越しに本気で撃ち合った」
「乱射じゃない。“狙い撃ち”の痕なんだよ」
ヴィヌスは息を呑む。
「これ、ただの廃墟じゃなくて……本気の戦場の痕跡なのね」
と、そっと指で弾痕をなぞる。
「“中に入ろうとした誰か”を撃ったか――逆に、中の人間を外から狙ったか……」
と、指で弾痕をなぞる。
レイスがさらに低く続ける。
「この宮殿の中、たぶん“最後の砦”だったんだろうな」
「KEEP OUTのテープは後付けだ。真の“KEEP OUT”は、あの窓の弾痕のほうさ」
レイスとフォウは黙って弾痕だらけの宮殿を見上げていた。
その時、不意に空気が揺れる。
――何かの叫びが、瓦礫をすり抜けて響いてくる。
フランス語で怒鳴る男の声、かき消すような女の悲鳴。
「Non ! Arrêtez !」(やめろ!)
「Ils arrivent ! Ils arrivent !!」(奴らが来るぞ!!)
「Ouvre la porte ! Ouvre !」(開けろ!ドアを開けてくれ!)
それが誰に向けてのものなのか、二人にはわからない。
DEUSか?敵か?仲間か?
ただ“ここで何かが終わった”という気配だけが、肌を刺すように伝わってくる。
フォウがそっとレイスの袖を掴む。
「……ねぇ、なんか聞こえなかった?」
レイスも一瞬だけ息を呑む。
「……いや、気のせいだ。もう誰もいないはずだろ」
そう言いながらも、二人の目は離せない。
景色が、黙ってすべてを語り続けていた。
ユピテルは相変わらず満面の笑顔で叫んでいるが。
その足元には、砕けた大理石と割れた窓、そして人の気配だけが残る。
ヴィヌスがため息をつきながら呟く。
「こんな場所でさえ、“滅びの美”はちゃんと記録されるのね」
窓だけに密集する銃痕。
「誰かがどこまでも抵抗した」証なのか?
「もう誰も入れないようにした」絶望の記号なのか。
どちらであっても“終末の戦場”だったことだけは確かだ。
その真相はもう誰も語らない。
だが、景色そのものが、歴史よりも雄弁に語り続けている。
ヴィヌスが廃墟の階段を軽やかに下りながらレイスに声をかけた。
「レイス、まだフィルムある?」
レイスはカメラを掲げて残量を確かめる。
「まだ半分くらいある、アイツ本気だぞ」
ユピテルは悪戯っぽく口角を上げる。
「じゃ決まりだ。ペリフェリック歩くぞ」
フォウが首をかしげる。
「ペリフェリックってなに?」
ヴィヌスは髪をかきあげ、肩越しにフォウへ微笑んだ。
「道路みたいなものよ。パリの外側をぐるっと回る輪っかの道」
「歩いてるうちに、いくらでも撮れるはずよ」
ペリフェリック――かつての都市を囲む巨大な環状道路。
いまや瓦礫と草に覆われ、文明の輪郭だけが残る“終末の回廊”。
彼らの歩みとカメラが、その忘れられた風景を新たに刻んでいく。
環状線沿いの廃墟ゾーン――
一行はペリフェリックを歩きながら、次々と現れる瓦礫と廃ビルにカメラを向けていた。
景色があまりに濃すぎて、レイスの持つフィルムは想定の二倍の速さで消えていく。
「ヤバい、もう4本目だぞ……こんなスピードで使ったことねぇ」
レイスが眉をひそめると、フォウがキョロキョロと周りを見渡しながら言う。
「どこも全部、違う顔してるね」
ヴィヌスは一歩前に出て、遠くの高架を見上げる。
「シャッターチャンスは今しかないって顔してるわよ」
やがて一行はルーヴル美術館の廃墟へたどり着いた。
ユピテルが腕を組み、「ルーヴル撮るか?」と持ちかける。
「ありがちすぎ。誰でも撮るわ」
ヴィヌスがバッサリ切り捨て、サタヌスが指差す。
「だったら“あれ”だろ」
遠くに見えるガラスのピラミッド。
誰もが知るあのランドマークを、“終末の象徴”としてだけ撮影する。
レイスは納得顔でファインダーを覗く。
「この違和感、終末都市の象徴って感じで悪くねぇな」
みんな、それぞれ自分なりのアングルで、カシャカシャとシャッターを切る。
進行ルートにやや飽きてきた頃、サタヌスがぽつりと呟く。
「シャルルドゴール空港は? 外界に残ってるなら見てみたい」
ユピテルは目を細めて空を見上げた。
「空港か……いいな。終わりかけの空は撮りごたえある」
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(⋈◍>◡<◍)。✧💖
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