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我ら全て、舞台にあれ
翠から白へ
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茨の扉が、レイスの叫びと共にガチガチと音を立てて開いた。
クロノチームは一瞬だけ、息を呑む。
その奥、かつて王と花嫁が“永遠”を誓い合うために用意された最奥の空間。
そこに広がるのは、“狂った祝福”の世界だった。
部屋の中央、カリスト――いや、“ロト・エンヴィニア”。
目を閉じ、両手を胸の前で組み、静かに――しかし機械のような滑らかさで。
「病めるときも……健やかなる時も……」
誓いの言葉を繰り返し続けている。
床には翡翠色のバラが咲き乱れ、機械仕掛けの花弁が絶えず降り注ぐ。
壁際には偽物の“祝福する観客”――マネキン人形が整列し、無表情に拍手だけを送り続ける。
天井のステンドグラスは、まるで流血のように緑の光を投げかけ。
空間全体が「祝福」という名の虚無で満たされていた。
その光景に、クロノチーム全員が“言葉を失う”……。
いや、一番に声を出したのは、レイスだった。
「……こわれてる」
乾いた声が室内に落ちる。
「こわれてる」
サタヌスもすぐに追い打ち。
普段の野生児も、この空間の異常さには真顔。
「ロールバックして♡」
ウラヌスはあえて明るく、わざとテンション高めに手を振る。
だけど、その声もどこか空虚に吸い込まれていった。
「……病めるときも……健やかなる時も……」
またループ。
壊れたレコードのような祝福。
式を繰り返しながら、カリストの目は微動だにしない。
そこには“意思”も“感情”もなく、ただ“王”という役割だけが残されている。
その時――ユピテルが、これまでにないマジトーンで一歩、前へ。
「……副官」
静かだが、芯のある声。
その一言が、部屋全体の空気をピタリと止めた。
「それは、心から言ってるのか?」
祝福の言葉が、ピタッ……と止まる。
静寂。
花弁の舞う音だけが、永遠の一瞬を切り裂く。
今まで誰も止められなかった“無限ループ”が、一言で静止した。
まるで舞台上、主演が観客の心臓を握った瞬間――。
クロノチームは一斉にユピテルに目を向ける。
あのフワフワの剥製野郎が、今だけは本気だった。
カリスト――ロトの唇が、かすかに震えた。
閉じたままの瞳。その奥に、“副官”としての記憶がよぎる。
“心から言ってるのか”
問いかけが、何重にも塗り固められた“王”の呪いを一瞬だけ揺らす。
静止した“誓いの言葉”の空間で。
カリスト(ロト)はまるでガラス細工みたいに微かに揺れる。
「……お前たちは。叛逆者として神竜塔に入れられたと“妻”より聞いた」
言葉の端が、機械仕掛けの王の仮面を浮かび上がらせる。
「いや、駆け上がってきた……のか?そんなばかな……」
自分でも混乱してるのがわかる。
現実が信じられない。「処刑されたはず」「絶対に会えないはず」――
なのに、目の前で“お前たち”は生きていて、笑ってる。
ウラヌスが即座に割って入る。
「そっ♪ちょっとガチでやばかったけど、最高に脳汁出たよ!」
サイコな明るさで答えるが、瞳の奥には本物の“安堵”が一瞬だけ混じる。
(生きている――? いや、違う。
これは夢だ、幻だ。自分は“王”だ。“ロト”だ。副官カリストはもういない――)
だが、あまりにも現実味を持って“彼ら”がそこに立っている。
その中でも、ユピテルの声だけが、魂をえぐるように刺さってくる。
「……副官」
問いかけが、王の呪いを引き裂くナイフになる。
(ユピテル様が、私のために――本気で来てくれた。でも私は……私は……)
あの日、鏡越しの“自分”が壊れる音。
ユピテルを、錯乱のまま斬ってしまった“あの手”。
罪悪感、歓喜、恐怖、そして未練。
全部スパゲティみたいに絡み合って、もうどれが本物の自分かわからない。
「……わからない……私は……どっちだ……」
口元が震え、目が潤む。
王の仮面がヒビ割れて、内側からカリストが滲み出しかける。
「やべぇ、バグってるぞ。リセットボタンどこ?」
「バグは殴って直す!とか無理そうな雰囲気だな……」
「ほらほら~現実だよ♡戻ってきてくんないと次は私らが壊れる番なんだけど~!」
けれど誰も、“今ここでカリストを見捨てる”という選択肢は持っていない。
(自分は、何者なんだ――)
ロトとカリスト、そのどちらでもない「硝子の王子」
今ここで、“舞台の中心”で震えている。
カリストの声は、今にも壊れそうなほど細い。
「ユピテル……さま……」
ユピテルが、いつもと変わらぬ調子で返す。
「おう」
「私は自分の意志で、貴方を斬ってしまいました。
アレは命じられたものではない、私自身の意思です。
そんな男を、再び副官と呼ぶなんて……」
震える吐息。
罪悪感と自己否定、全部を“王”の仮面で隠し切れずに漏れ出していた。
だがユピテルは一歩、カリストに近づくとニヤリと笑って、いつもの調子で言い放つ。
「お前マジでアホだな。俺ら不死身だぞ」
「袈裟切りにされるより、お前が戻ってこないほうがこたえるわ」
そして、懐から「あの軍帽」を、そっと取り出してみせる。
金色の指先が、白い軍帽をくるりと回し。
まるで「本物の副官」に返すため、ここまで運んできたかのような仕草。
「……あんま待たせンな」
「お前は翠の芸術じゃない」
――ユピテルは、やや強めに、だが優しさを含んだ声で突きつける。
サタヌスが口を尖らせて言う。
「やっぱ軍帽ねぇと物足りねぇわお前。つーか緑似合ってねぇ」
この野生児の悪友ぶりが、逆に“日常”を引き戻す。
ウラヌスは小悪魔スマイル全開で手を振る。
「イメチェンは眼福だけど、やっぱカー君は白いほうがいいよ♪」
あえて茶化すが、声の奥には“心底ホッとした”響きが混じっていた。
レイスは、軍帽越しにカリストの目を見る。
「駆け上がってきた時点でわかるだろ?いまさら帰る気はねぇ」
その目だけは、絶対に“諦めてない”という意志で満ちている。
手を伸ばせば届く距離。
自分の罪、後悔、全部さらけ出しても、このバカどもは全然離れていかない。
“王”として、じゃない。
“副官カリスト”として、ここに戻ることを、みんなが望んでくれている。
軍帽が、掌に重みを伝える。
それは「罰」じゃない。
「戻ってこい」の、みんなからのメッセージだった。
涙が、無意識のうちに頬を伝う。
「……戻って、いいのか……?」
「“許す”とかじゃねぇ。ただ、そうしろ。お前は俺の副官だろ?」
カリストは無言で軍帽を受け取る。
まるで儀式のように、そっと頭に乗せ……後ろ手で微かに整えた瞬間。
――世界が凍り始めた。
空間の温度が一気に急降下し、ステンドグラスはバリバリと音を立てて砕け散る。
絨毯の上に白い霜が一瞬で広がり、豪奢なスイートルームは“極寒地獄”へと変貌する。
「さっむ!さっむ!?誰だ冷房つけたの!!」
サタヌスがぶるぶる震えながら叫ぶ。
ウラヌスはツインテールの先がカッチカチに凍って。
「誰かぁ~温度上げて~♡」とギャグモード全開。
レイスの口元も凍りつく。
「この冷気は……!」
ユピテルは、じっとカリストを見つめて微笑む。
「あぁ、戻ってきた……あいつが」
王子服の上に霜がぱきぱきと走り、氷結の魔力が“本来の姿”を呼び起こしていく。
次の瞬間には、ファー付きの白い軍服――。
あの“六花将軍カリスト・クリュオス”の軍装が、完璧に現れる。
カリストは静かに、顔を上げる。
氷のように澄んだ視線。
そして――ゆっくりと、かつてと変わらぬ敬礼。
「六花将軍、カリスト・クリュオス」
「ただいま……戻りました」
その声は、極寒の空間にだけ確かに響く。
“副官”が完全復活したことを全員が本能で理解した瞬間だった。
カリストの頬には、まだ涙の痕がかすかに残っている。
でも、その瞳にはもはや迷いはない。
副官としての矜持、仲間としての誇り。
すべてを“軍帽”に込めて――ついに帰還。
「カー君おかえり~!でも急に凍らせるのやめろww」
ウラヌスが氷のツインテをぶんぶん振って文句を言う。
「マジで俺風邪ひきそうだからな!? お前の魔力、全身にくるって!」
サタヌスは鼻まで赤くして、凍った床をジャンプしながら暖を取ろうと必死。
カリストは真顔で頭を下げる。
「申し訳ありません……洗脳されている間、ずっと魔力を抑え込まれていて」
「その、弾けてしまいました」
“副官のはじけ”で現れた光景はまさに地獄の氷界。
完全に神曲のコキュートス。
バラのステンドグラスが砕け、城の調度は氷像に。
ベッドすら氷柱に貫かれて“休むどころじゃない極寒地獄”。
ユピテルは頬を緩めて、愛刀「舞雷(ぶらい)」をトントンと鞘で叩く。
「いいさ、こンくらい派手ぐらいが“取り返してやった”感あるだろ? なぁ舞雷」
雷の刀身が一瞬スパークし、久しぶりだねと言うように。
カリストの刀「氷哭(ひょうこく)」へと稲妻をチラつかせる。
氷哭も、空気を裂くような小さな音で「カキン」と反応。
“再会”を喜ぶように、空間がほんの一瞬だけ青白く輝く。
全員が“生きていてよかった”の温度差と。
副官カリストの“帰還バグ”に笑いが止まらない。
でも、氷の世界にあっても、仲間の絆と熱だけは絶対に凍らない。
極寒のスイートルームに、まだ生きてる実感とガヤが響く。
カリスト復活の感動もそこそこに、ユピテルがふと腕を組み。
「さァ、あとはマナ・デストロイヤーの発動を控えるだけか……」
ちらりとレイスに視線を投げる。
「レイス、今何日だ?」
レイスは窓越しに、ボロボロのスケジュール帳(ほぼ冷凍)を引っ張り出す。
「待ってくれ、エンヴィニアに転移してから……んあ?あと1日ある?」
目をしょぼしょぼさせてカレンダーを確認する。
ウラヌス、凍ったツインテを両手でぶん回す。
「トゥルーエンド開通って奴じゃん!裏ボス出てくる奴ぅ~~!!」
テンションMAXで、床をスケートみたいに滑りまくる。
サタヌスは膝を抱えて凍えつつも。
「よっしゃ!!最後の最後でギャグできる余裕あんのヤベーな!!」
レイスはスケジュール帳をバン!と閉じてニヤリ。
「人生でこんなに“日数残っていて良かった”と思ったの初めてだわ……」
まるで“本番はここから”と言わんばかりに全員の目が輝き始める。
絶望だった王の塔が、仲間の力で“お祭り会場”のように生き返る。
でも、本当のラストバトルはこれから。
「トゥルーエンド」へ続く“運命の最終日”が、ここから始まる。
サタヌスが声を張り上げる。
「さあ!カリストも奪い返せた、大聖堂に帰るぜ!インマールが待ってる!」
だがレイスが眉をひそめて現実に引き戻す。
「いやいやいや、階段溶けてるんだが。メロンソーダ(無の泡)まみれなんだが」
足元からじゅくじゅく泡立つ“死の泡”が、いまや塔の半分を飲み込んでいた。
ユピテルはおもむろに、頭上のガラスドーム天井を指差す。
「じゃ、あれぶち破って屋根から帰ればいいじゃねぇか」
ウラヌス、すぐさまノッてきた!
「クロノブラザーズじゃ~ん!!バナナの次はキノコか!?キノコ出して~!」
ノリは完全に某配管兄弟、ついに脱・螺旋階段。
カリストは腕をぐるぐる回しながら。
「体がなまっておりますので……」と小さく頷く。
その“副官モード”はもはや別格のオーラ。
「では、ドームの破壊は私が行います」
氷の魔力がカリストの手に集束し、氷の槍が生成される。
次の瞬間、振りかぶって、氷の槍が天井のドームを直撃した。
バラのステンドグラスが砕け散り。
極寒の爆風と共に塔の頂上に巨大な“脱出口”が開く!
ギラギラの夕陽が、割れたドームから降り注ぐ。
泡まみれの閉塞空間が、一瞬で“世界の開放”へと変わった!
ウラヌスが歓声を上げながら氷柱を滑り降り。
「マジでクロノ兄弟~!次はゴールポール探さなきゃ!!」
サタヌスも「うおおお!下界の空気うめぇ!!」と全力ジャンプ。
レイスは肩をすくめつつも、口元は緩みっぱなし。
「ま、これぞ俺たちのやり方ってやつだな」
ユピテルはニヤッと笑いながら。
「おい副官、出口まで競争な」
舞雷の刀身がきらめき、まるで「面白くなってきた」と言いたげに。
クロノチームは一瞬だけ、息を呑む。
その奥、かつて王と花嫁が“永遠”を誓い合うために用意された最奥の空間。
そこに広がるのは、“狂った祝福”の世界だった。
部屋の中央、カリスト――いや、“ロト・エンヴィニア”。
目を閉じ、両手を胸の前で組み、静かに――しかし機械のような滑らかさで。
「病めるときも……健やかなる時も……」
誓いの言葉を繰り返し続けている。
床には翡翠色のバラが咲き乱れ、機械仕掛けの花弁が絶えず降り注ぐ。
壁際には偽物の“祝福する観客”――マネキン人形が整列し、無表情に拍手だけを送り続ける。
天井のステンドグラスは、まるで流血のように緑の光を投げかけ。
空間全体が「祝福」という名の虚無で満たされていた。
その光景に、クロノチーム全員が“言葉を失う”……。
いや、一番に声を出したのは、レイスだった。
「……こわれてる」
乾いた声が室内に落ちる。
「こわれてる」
サタヌスもすぐに追い打ち。
普段の野生児も、この空間の異常さには真顔。
「ロールバックして♡」
ウラヌスはあえて明るく、わざとテンション高めに手を振る。
だけど、その声もどこか空虚に吸い込まれていった。
「……病めるときも……健やかなる時も……」
またループ。
壊れたレコードのような祝福。
式を繰り返しながら、カリストの目は微動だにしない。
そこには“意思”も“感情”もなく、ただ“王”という役割だけが残されている。
その時――ユピテルが、これまでにないマジトーンで一歩、前へ。
「……副官」
静かだが、芯のある声。
その一言が、部屋全体の空気をピタリと止めた。
「それは、心から言ってるのか?」
祝福の言葉が、ピタッ……と止まる。
静寂。
花弁の舞う音だけが、永遠の一瞬を切り裂く。
今まで誰も止められなかった“無限ループ”が、一言で静止した。
まるで舞台上、主演が観客の心臓を握った瞬間――。
クロノチームは一斉にユピテルに目を向ける。
あのフワフワの剥製野郎が、今だけは本気だった。
カリスト――ロトの唇が、かすかに震えた。
閉じたままの瞳。その奥に、“副官”としての記憶がよぎる。
“心から言ってるのか”
問いかけが、何重にも塗り固められた“王”の呪いを一瞬だけ揺らす。
静止した“誓いの言葉”の空間で。
カリスト(ロト)はまるでガラス細工みたいに微かに揺れる。
「……お前たちは。叛逆者として神竜塔に入れられたと“妻”より聞いた」
言葉の端が、機械仕掛けの王の仮面を浮かび上がらせる。
「いや、駆け上がってきた……のか?そんなばかな……」
自分でも混乱してるのがわかる。
現実が信じられない。「処刑されたはず」「絶対に会えないはず」――
なのに、目の前で“お前たち”は生きていて、笑ってる。
ウラヌスが即座に割って入る。
「そっ♪ちょっとガチでやばかったけど、最高に脳汁出たよ!」
サイコな明るさで答えるが、瞳の奥には本物の“安堵”が一瞬だけ混じる。
(生きている――? いや、違う。
これは夢だ、幻だ。自分は“王”だ。“ロト”だ。副官カリストはもういない――)
だが、あまりにも現実味を持って“彼ら”がそこに立っている。
その中でも、ユピテルの声だけが、魂をえぐるように刺さってくる。
「……副官」
問いかけが、王の呪いを引き裂くナイフになる。
(ユピテル様が、私のために――本気で来てくれた。でも私は……私は……)
あの日、鏡越しの“自分”が壊れる音。
ユピテルを、錯乱のまま斬ってしまった“あの手”。
罪悪感、歓喜、恐怖、そして未練。
全部スパゲティみたいに絡み合って、もうどれが本物の自分かわからない。
「……わからない……私は……どっちだ……」
口元が震え、目が潤む。
王の仮面がヒビ割れて、内側からカリストが滲み出しかける。
「やべぇ、バグってるぞ。リセットボタンどこ?」
「バグは殴って直す!とか無理そうな雰囲気だな……」
「ほらほら~現実だよ♡戻ってきてくんないと次は私らが壊れる番なんだけど~!」
けれど誰も、“今ここでカリストを見捨てる”という選択肢は持っていない。
(自分は、何者なんだ――)
ロトとカリスト、そのどちらでもない「硝子の王子」
今ここで、“舞台の中心”で震えている。
カリストの声は、今にも壊れそうなほど細い。
「ユピテル……さま……」
ユピテルが、いつもと変わらぬ調子で返す。
「おう」
「私は自分の意志で、貴方を斬ってしまいました。
アレは命じられたものではない、私自身の意思です。
そんな男を、再び副官と呼ぶなんて……」
震える吐息。
罪悪感と自己否定、全部を“王”の仮面で隠し切れずに漏れ出していた。
だがユピテルは一歩、カリストに近づくとニヤリと笑って、いつもの調子で言い放つ。
「お前マジでアホだな。俺ら不死身だぞ」
「袈裟切りにされるより、お前が戻ってこないほうがこたえるわ」
そして、懐から「あの軍帽」を、そっと取り出してみせる。
金色の指先が、白い軍帽をくるりと回し。
まるで「本物の副官」に返すため、ここまで運んできたかのような仕草。
「……あんま待たせンな」
「お前は翠の芸術じゃない」
――ユピテルは、やや強めに、だが優しさを含んだ声で突きつける。
サタヌスが口を尖らせて言う。
「やっぱ軍帽ねぇと物足りねぇわお前。つーか緑似合ってねぇ」
この野生児の悪友ぶりが、逆に“日常”を引き戻す。
ウラヌスは小悪魔スマイル全開で手を振る。
「イメチェンは眼福だけど、やっぱカー君は白いほうがいいよ♪」
あえて茶化すが、声の奥には“心底ホッとした”響きが混じっていた。
レイスは、軍帽越しにカリストの目を見る。
「駆け上がってきた時点でわかるだろ?いまさら帰る気はねぇ」
その目だけは、絶対に“諦めてない”という意志で満ちている。
手を伸ばせば届く距離。
自分の罪、後悔、全部さらけ出しても、このバカどもは全然離れていかない。
“王”として、じゃない。
“副官カリスト”として、ここに戻ることを、みんなが望んでくれている。
軍帽が、掌に重みを伝える。
それは「罰」じゃない。
「戻ってこい」の、みんなからのメッセージだった。
涙が、無意識のうちに頬を伝う。
「……戻って、いいのか……?」
「“許す”とかじゃねぇ。ただ、そうしろ。お前は俺の副官だろ?」
カリストは無言で軍帽を受け取る。
まるで儀式のように、そっと頭に乗せ……後ろ手で微かに整えた瞬間。
――世界が凍り始めた。
空間の温度が一気に急降下し、ステンドグラスはバリバリと音を立てて砕け散る。
絨毯の上に白い霜が一瞬で広がり、豪奢なスイートルームは“極寒地獄”へと変貌する。
「さっむ!さっむ!?誰だ冷房つけたの!!」
サタヌスがぶるぶる震えながら叫ぶ。
ウラヌスはツインテールの先がカッチカチに凍って。
「誰かぁ~温度上げて~♡」とギャグモード全開。
レイスの口元も凍りつく。
「この冷気は……!」
ユピテルは、じっとカリストを見つめて微笑む。
「あぁ、戻ってきた……あいつが」
王子服の上に霜がぱきぱきと走り、氷結の魔力が“本来の姿”を呼び起こしていく。
次の瞬間には、ファー付きの白い軍服――。
あの“六花将軍カリスト・クリュオス”の軍装が、完璧に現れる。
カリストは静かに、顔を上げる。
氷のように澄んだ視線。
そして――ゆっくりと、かつてと変わらぬ敬礼。
「六花将軍、カリスト・クリュオス」
「ただいま……戻りました」
その声は、極寒の空間にだけ確かに響く。
“副官”が完全復活したことを全員が本能で理解した瞬間だった。
カリストの頬には、まだ涙の痕がかすかに残っている。
でも、その瞳にはもはや迷いはない。
副官としての矜持、仲間としての誇り。
すべてを“軍帽”に込めて――ついに帰還。
「カー君おかえり~!でも急に凍らせるのやめろww」
ウラヌスが氷のツインテをぶんぶん振って文句を言う。
「マジで俺風邪ひきそうだからな!? お前の魔力、全身にくるって!」
サタヌスは鼻まで赤くして、凍った床をジャンプしながら暖を取ろうと必死。
カリストは真顔で頭を下げる。
「申し訳ありません……洗脳されている間、ずっと魔力を抑え込まれていて」
「その、弾けてしまいました」
“副官のはじけ”で現れた光景はまさに地獄の氷界。
完全に神曲のコキュートス。
バラのステンドグラスが砕け、城の調度は氷像に。
ベッドすら氷柱に貫かれて“休むどころじゃない極寒地獄”。
ユピテルは頬を緩めて、愛刀「舞雷(ぶらい)」をトントンと鞘で叩く。
「いいさ、こンくらい派手ぐらいが“取り返してやった”感あるだろ? なぁ舞雷」
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カリストの刀「氷哭(ひょうこく)」へと稲妻をチラつかせる。
氷哭も、空気を裂くような小さな音で「カキン」と反応。
“再会”を喜ぶように、空間がほんの一瞬だけ青白く輝く。
全員が“生きていてよかった”の温度差と。
副官カリストの“帰還バグ”に笑いが止まらない。
でも、氷の世界にあっても、仲間の絆と熱だけは絶対に凍らない。
極寒のスイートルームに、まだ生きてる実感とガヤが響く。
カリスト復活の感動もそこそこに、ユピテルがふと腕を組み。
「さァ、あとはマナ・デストロイヤーの発動を控えるだけか……」
ちらりとレイスに視線を投げる。
「レイス、今何日だ?」
レイスは窓越しに、ボロボロのスケジュール帳(ほぼ冷凍)を引っ張り出す。
「待ってくれ、エンヴィニアに転移してから……んあ?あと1日ある?」
目をしょぼしょぼさせてカレンダーを確認する。
ウラヌス、凍ったツインテを両手でぶん回す。
「トゥルーエンド開通って奴じゃん!裏ボス出てくる奴ぅ~~!!」
テンションMAXで、床をスケートみたいに滑りまくる。
サタヌスは膝を抱えて凍えつつも。
「よっしゃ!!最後の最後でギャグできる余裕あんのヤベーな!!」
レイスはスケジュール帳をバン!と閉じてニヤリ。
「人生でこんなに“日数残っていて良かった”と思ったの初めてだわ……」
まるで“本番はここから”と言わんばかりに全員の目が輝き始める。
絶望だった王の塔が、仲間の力で“お祭り会場”のように生き返る。
でも、本当のラストバトルはこれから。
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サタヌスが声を張り上げる。
「さあ!カリストも奪い返せた、大聖堂に帰るぜ!インマールが待ってる!」
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「いやいやいや、階段溶けてるんだが。メロンソーダ(無の泡)まみれなんだが」
足元からじゅくじゅく泡立つ“死の泡”が、いまや塔の半分を飲み込んでいた。
ユピテルはおもむろに、頭上のガラスドーム天井を指差す。
「じゃ、あれぶち破って屋根から帰ればいいじゃねぇか」
ウラヌス、すぐさまノッてきた!
「クロノブラザーズじゃ~ん!!バナナの次はキノコか!?キノコ出して~!」
ノリは完全に某配管兄弟、ついに脱・螺旋階段。
カリストは腕をぐるぐる回しながら。
「体がなまっておりますので……」と小さく頷く。
その“副官モード”はもはや別格のオーラ。
「では、ドームの破壊は私が行います」
氷の魔力がカリストの手に集束し、氷の槍が生成される。
次の瞬間、振りかぶって、氷の槍が天井のドームを直撃した。
バラのステンドグラスが砕け散り。
極寒の爆風と共に塔の頂上に巨大な“脱出口”が開く!
ギラギラの夕陽が、割れたドームから降り注ぐ。
泡まみれの閉塞空間が、一瞬で“世界の開放”へと変わった!
ウラヌスが歓声を上げながら氷柱を滑り降り。
「マジでクロノ兄弟~!次はゴールポール探さなきゃ!!」
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レイスは肩をすくめつつも、口元は緩みっぱなし。
「ま、これぞ俺たちのやり方ってやつだな」
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「おい副官、出口まで競争な」
舞雷の刀身がきらめき、まるで「面白くなってきた」と言いたげに。
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