嫉妬帝国エンヴィニア

兜坂嵐

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番外編

ENVY FESTIVAL1

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 魔界・エンヴィニアの大地が崩れ、過去が燃え、未来が軋んだ。
 その果てにようやくたどり着いた「現代」。
 現代に無事帰還したクロノチーム五名は、今日も平和な魔界ライフを過ごしている。
 ――だが、その空気は、妙だった。
 風が無い。感情の温度も妙に低い。
 誰もが気づいていた。何かが、狂っている。
 サタヌスが叫ぶ。

「死ねって言ってんだろ!!!!」
 怒号とともに跳びかかる小柄な少年の脚が、邪神の腹を抉るようにヒットした。
 ぐえっ、という音がした。にもかかわらず。
「私は君たちの無意識……嫌うのは当然さ(ドヤァ)」
 蹴られたまま、腹に足がめり込んでいる状態で笑っている黒スーツの男。
 顔面だけはカメラ目線、完全に“俺、面白いこと言ったぞ”の顔だ。

「蹴っ飛ばされてもドヤ顔なのはバグだろ。」
 呆れたように呟いたのは、雷神ユピテル。
 剣を抜く気配すらなく、コンビニ袋片手に立っている。
「社長♡このチュロスうまいよ♡」
 ウラヌスがクルクル回りながら。
 何故かフェス会場で配られていた焼き菓子を頬張っていた。
 背景では、謎の移動販売屋台が営業中。
 レイスが深いため息をつく。

「……おかしいな。殺すつもりだったのに、始まってみたらフェス回みたいな空気してる……」
 そして視線を落とす。サタヌスがまだ腹に足を突き刺したまま。
 地面でアンラ様をぐりぐりしているのだ。止める者はいない。
 空気は、完全に「おかしい」。

 クラゲ型バルーンが揺れる、魔界の浜辺。
 BGMはテンション高めのサマーチューン。
 チュロスをかじる者、パフェを頬張る者、そして邪神を蹴る者。
 ――砂浜に、黒スーツの男が倒れていた。
 アンラ・マンユ。
 自他ともに認める“万物の嘲笑”、だが今はボロ雑巾のようにサタヌスに蹴られている。
「ドヤ顔やめろ!!!神の顔じゃねぇそれ!!!」
 その言葉にも、笑みは崩れない。
 顔面に影を落としながら、アンラは静かに起き上がった。
「……ふふ、私は舞台を演出する神……」
「うるせぇ!!喋るな!!!」
 ゴスゴス。サタヌスの蹴りが止まらない。
 しかしそんな中、神は動じず――砂に、そっと指を走らせた。

「……我が神託、ここに記す……」
 緊張が走る。
 レイスも煙草の火を消し、ユピテルはポテチを食べるのを止めた。
 カリストはうっかりスムージーを落としかけ、ウラヌスはカメラのシャッターを切る手を止めた。
 誰もが、その文字を見つめた。
 ――そこに、書かれていたのは。

「犯人はヤス」

「……は?」
 最初に反応したのは、レイスだった。
「なんの犯人だよ。時空犯罪?時空ヤス?」
「時空ヤスwww」
 ウラヌスが吹き出す。
「推理ゲー脳すぎて笑うwwwてか誰だよヤス!」
 ユピテルは呆れた顔で鼻を鳴らす。
「……お前、真顔でそれ書いてたのか。バカなのか神なのかハッキリしろ。」
 カリストがカメラを片手に寄ってくる。
「……これ、後で“ギャラリー”に投稿します。#意味不明 #神が暇」
「おぉいィィ!!やめろォォ!!!」
 サタヌスがさらに一蹴。アンラ様、神託の上に倒れる。

「……ていうか。俺ら、なんでコイツと再会してんの?現代だよなここ」
 周囲を見渡せば、確かに。
 フードトラックが並び、チュロスの香りが漂い、空にはカラフルな紙吹雪。
 明らかに夏フェス会場である。
「もちろん」
 ウラヌスがにっこり笑ってチュロスを振る。
「なんなら今日は“ジェラシー☆サマーフェス”だよ!
 ティニ店主のアイス屋台、めっちゃ並んでる♡」

「……私にかまっている場合かい?」
 蹴られながら、邪神がゆっくりと手を上げた。
「ほら、アイドルグループが踊り出したよ。……あれは……“THE・嫉妬ーズ”だね」
 舞台裏から、ビキニ+嫉妬カラー(緑×赤)衣装のアイドルユニットが登場していた。
 完全に地獄の風景である。
「行きましょう、ユピテル様」
 冷静にそう呟いたのはカリスト。
 冷気をまとう貴族の手には、なぜかミントスムージー。

「このままだと我々、当初の目的を忘れそうです」
「ンだな……」
 ユピテルが立ち上がり、口元のアイスを拭って言い捨てた。
「じゃな、社長。せいぜい砂に字でも書いてな」
 そのまま、クロノチームはアイドルステージへと去っていった。

 灼熱の陽光が降り注ぐ浜辺フェスティバル。
 神は蹴られ、チュロスはうまく、アイドルが踊る。
 そのステージの上では、“THE・嫉妬ーズ”が最高のキメポーズを見せていた。
「せーのっ!インヴィ~~デェェェェ!!」
 観客のボルテージが最高潮に達するその瞬間。
 ――観客席の最前列、クロノチームの5人もノリでコールを入れていた。

「インヴィーデー!!!!!!」
 地獄である。
 ※ついさっきまで邪神を倒そうとしてた面々です。
 サタヌスが、チュロスの棒を空に向けて叫ぶ。
「なぁ……アンラ・マンユってよ。“集合的無意識”の化身だよな。
 最終決戦で確かに聞いたぜ、“お前らの無意識が私だ”って。あの時」
「うはwwwww改めてスケールでっっっっかwwwwww」
 ウラヌスがかき氷で頭キーンさせながら爆笑。

「無意識の神てなに!?www じゃあアレ!
 ウラヌスたちの深層心理が形になっただけってこと!?wwww
 え、集合無意識があの社長!?wwwww」
 レイスが、ふと真顔でつぶやく。
「じゃあ……なんで“褐色で黒髪で金色の目”になったんだ?」
 ふざける空気が、一瞬だけ止まる。
 みんながアイドルを見上げながら、少しだけ真面目な顔をする。
 褐色の肌。
 黒いスーツ。
 金の眼。
 あれが、集合的無意識の“理想的な外観”だとしたら。
 カリストが、冷静な声で言う。

「……褐色は、人類の根源的審美ってことでしょうか?」
 周囲の風が、止まった気がした。
 ウラヌスが氷のスプーンを落とす。
「……ガチで言ってる……?」
「理屈としては合ってる」
 レイスが煙を吐く。
「黒髪=原初性、金眼=神性、褐色=審美の起点……ありえる。」
 そして、その言葉へ重なるように。
 ユピテルが一言、だけ。
「日焼けサロン行くしかねぇな。」

「おい、日サロ行くぞ。」
 ユピテルがサンダルでパタパタしながら叫ぶ。手には予約票。もう支払いは済ませた。
「焼けてからが本番だろォが!!こっちは無意識に対抗すんだよ!!」
 だが、彼の声は届かなかった。
 BGMが流れている。フェスステージから響いてくるのは、あのバラード曲。
『好きって言えたら 少しは変われたのかな……』
 The嫉妬ーズ『告白より先に泣いちゃった』
 今、まさにライブパートのクライマックス。

「……あぁ……」
 レイスが、缶チューハイ片手に座り込んだ。
「元カノ……引っ越してったなぁ……」
「付き合ってたのか?」とサタヌスが聞くと、間髪容れず。
「付き合ってねぇ」
「じゃあ元カノじゃねぇよ!!」
 全力の自覚ある片思い型メンタルです。

 「須藤元帥……」
 隣で、カリストがしゃくりあげていた。
「あの時、駐屯地で手を取ってくれた……でも私は軍服を選んでしまった……」
「いや誰だよ須藤……」
 サタヌスが一歩下がりつつ頭を抱える。
「こいつらめんどくせえ!!!」
 ウラヌスはその隣で、フェス飯コーナーのチーズバーガーにかぶりついていた。

「うんめえぇぇ!!!!!嫉妬フェスのハンバーガーこんなにうめえの!?」
 場の空気がメチャクチャである。
 ユピテルはしばらく黙っていたが、ふと真顔になって一言。
「情緒ぶっ壊れてんなこのチーム」
 音楽は、クライマックスに入る。

 告白より先に 泣いちゃった。
 それも僕だった。

 レイスがタバコを落とし、カリストが軍帽を外して胸に当てる。
 ユピテルが深くため息をついて言った。
「……おい、泣いてねえで日サロ行くぞ。フェス割20%だぞコラ。」
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