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番外編
死を喰え2025-6
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ラボに戻ったクロノチームは、埃っぽい廊下を抜け、カイネス博士の待つ研究室へと戻ってきた。
相変わらず無造作に書類の積まれた机の前で、博士は顕微鏡を覗いていたが。
彼らの足音に気づくと軽く顎を動かして問いかけてきた。
「どうだったね? 君たち、囚われの王子の手がかりは掴めたかい」
その口調はあくまで静かで、日常の延長のようだった。
だが、地獄を覗いてきた連中には、その落ち着きこそが異様に見えた。
サタヌスが肩をすくめ、土産代わりにパンの包みを無造作に放り投げる。
「残念ながら、直接の手がかりはなかったぜ。代わりと言っちゃなんだが」
包み紙が机に落ちると、表面に貼られたラベルがはっきりと露出した。そこにはこう記されている。
《抽出者:カリスト・クリュオス》
「カリストが食えるキャンペーン実施中だ」
誰も驚かなかった。誰も突っ込まなかった。
もう慣れてしまったのだ。
この世界が“そういうもの”だということに。
レイスが、苦々しげに鼻を鳴らす。
「……なぁ博士。あれって、やっぱマジでヤバかったんだろ」
「“しっとりしてる理由”がさ……魔力浸潤と発酵体内保存?どんな構造してんだよあのパン……」
ウラヌスは満面の笑みを浮かべ。
すでにスマホのカメラロールに撮り溜めたパンの写真をスクロールしていた。
「パン、脈打ってた♡ しかも超うまかった♡」
「てか、説明パネルに“献体番号”載ってたのおかしくね? あれ絶対教育用じゃないよね☆」
サタヌスがラベルの裏側を指でなぞりながら声を上げる。
「成分:魔素タンパク、嫉妬霊核抽出液、情念凝縮脂……って、オイ!」
「こっちが情緒発酵するわバカヤロウ。マジで死人がパンになって蘇ってんじゃねぇか!!」
室内に、ひときわ乾いた沈黙が流れる。
パンの包みだけが、テーブルの上で小さく“ぴくっ”と脈を打っていた。
テーブルに置かれたカップから、ほのかに香ばしい匂いが立ち上っていた。
中身はコーヒー。苦味と微かな焦げの香りが。
先ほどまで彼らが歩いていた地獄の残滓を洗い流すには丁度よい。
ユピテルが、その湯気を楽しむように一口すすり、言った。
「うまけりゃいいんだよ。死人の味、上出来だったし」
まるで何でもないような口調で。
あのパンを“素材”として捉えているような、無遠慮で無感情な響きだった。
「で、博士。いつから知ってた?」
カイネスは、その問いにまるで待っていたかのように、にこりと笑う。
その笑顔は柔和で、理知的で、そして何より悪びれていない。
「ん? 最初から知ってたよ?あのパン、“発酵型感情喰種保存体”って研究名で呼んでたし」
「でもねぇ……美味しかったろう?」
あまりにも軽い。
あまりにも真顔で。
それがこの研究者の本性だということを、クロノチームはもう知っている。
レイスが一口、冷めかけたコーヒーを飲み、静かに呟いた。
「……普通、ここビビるとこだよな」
目の前で死人の情念をパンにして食った話を、誰も眉1つ動かさず続けている。
この異常な空気に対して、ツッコミというよりは、自嘲に近い独白だった。
サタヌスが真顔で言い放つ。
「倫理は死んだ」
刹那、ユピテルが間髪入れず突っ込んだ。
「ニーチェみたいなノリで言うな」
「“神は死んだ”つったけど、うちはパンで殺したな」
誰も笑わなかった。
誰も驚かなかった。
それでも、このラボの空気だけは、どこか楽しげに澱んでいた。
ウラヌスがキャッキャと声を上げながらリュックを漁っていた。
ラボの空気は、狂気を含んだ会話の応酬で静まりきっていたというのに。
彼女の明るさだけは、どこまでもブレることがなかった。
「笑いすぎて腹減ってきた~~! 工場でもらったパン食べようっと♪」
そう言って彼女が取り出したのは―パンだった。
しかも、袋を開いた瞬間、誰の目にも明らかだった。
それは、さっきまで「死人の魂と情念を練りこんだソイレントパン」として。
ギリギリの理性で笑っていた“アレ”だった。
全員が、一斉に動きを止めた。
「……………………」
0.5秒の、完全な沈黙。
そして。
「あっははははははははは!!!!!!」
笑いが弾け、爆発した。
理性も倫理も、魔素濃度も関係なく、そこにいた全員が腹を抱えて笑い出した。
「それ、食うの!?」
「いやまじで?」
「さっきのやつやん!?」
「笑うしかない!」
それまで背を向けていたカイネス博士が、ふと振り返った。
その表情は、いつもの冷静で無機質なもの。
声もまた、落ち着き払っていた。
「……そうだろう、そうだろう……」
だが。
次の瞬間、その声が変わった。
「……クスクス……ふふっ、あはっ……」
その口元が緩む。肩が、震えている。
「……ッふふ、あっははは……あははは!」
感情が、崩れた。
あの博士が。あの冷笑と実験とメスと資料でできたような男が。
肩を震わせて、目元を細めて、笑っていた。
「え、博士そんな笑い方できたの!?」
ウラヌスが素で驚く。
レイスが指を差す。
「いや待て、お前が一番倫理死んでたな今の」
サタヌスは目を細めながらぼそり。
「……思ってた10倍カワイイ声してんな」
ユピテルは真顔で言う。
「目なくなんのがポイント高いな」
カイネスは、まだ笑っていた。
だがその笑みは、どこか、ほんの少しだけ――嬉しそうだった。
笑った。
あの男が。
感情という単語を辞書でしか見ないような研究者、カイネス・ヴィアンが。
肩を震わせて、口元を崩して、明らかに“楽しそうに”笑っていた。
それは、もはや事件だった。
ならば―祝え。
たとえここが死体と嫉妬で焼かれたパン工場の地続きであろうとも。
感情が芽吹いた瞬間を、クロノチームが見逃すわけがなかった。
ユピテルが最初に声を上げた。
目を見開き、真顔のまま、グラスを掲げる。
「よぉし!眼帯喜べ、正式に6人目のクロノって認めてやる!」
「酒持ってこい!宴だ!!」
ウラヌスは床に転がって腹筋を押さえていた。
リュックから出したのは、あの工場で配られた“見学用スナック”。
「ちょwwwwwツマミこれww」
ラベルにはこう書かれていた。
《試供用/死体チップス(のりしお味)/賞味期限:死後120時間以内》
「賞味期限“死後120時間”って書いてあるのやばすぎwww」
「もう全部がダメすぎて逆に尊いwww」
サタヌスは大声で笑いながら、缶ビールを開けた。
「死体で酒飲むとか最低過ぎて笑うわ俺等!!」
「倫理が地底のマグマに沈んでるぞ!?」
レイスは笑いつつ、何故かグラス片手に“哲学”っぽい空気を醸し出す。
「“メメント・モリ”は……“死を忘れるな”だったな」
「じゃあ、今俺達がしているのは……なんだ?」
全員、耐えきれずに吹き出した。
死を食べながら、笑って祝う。
この地に倫理はない。だが、友情はある。
そして、カイネス。
彼は笑っていた。未だに、どこかくすくすと笑いながら。
瓶の封を無言で切り、グラスに静かに注いだ。
「……食肉とは、そもそも家畜の死骸だ」
「我々は常に、“誰かの死”を喰って生きている。問題ない」
「問題しかないよ博士ぉ!!」
目元が緩んでいる。
研究者の癖に、感情に浸っている。
たぶん、彼にとってもこれは“研究結果”だったのだろう。
笑ってもいい、と証明された夜。
感情を交わしても、世界は崩壊しないと知った夜。
カイネス・ヴィアンが、完全にクロノチームと打ち解けた瞬間だった。
問題があるとすれば、ただ一つ。
全員、倫理をドブに投げ捨てているということだ。
ラボの照明は、いつもよりほんのりと暖かかった。
もともと白く冷たい光に照らされる空間だったのに、いまは何故か空気が柔らかい。
グラスが鳴り、酒が注がれ、笑い声が交錯する。
「おい、これ本気でツマミになるのか?」
サタヌスが訝しげに手に取ったのは、見覚えのある小袋。
ラベルには血文字のようなフォントでこう記されていた。
《死体チップス(のりしお味)/非売品/試供品》
ウラヌスが満面の笑みで差し出す。
「食べてみなって♡死後120時間以内ってことは、ほぼ新鮮♪」
「サクサクで、情念がフレッシュ☆!」
パキッと開けた袋から、緑がかった半透明のチップスが数枚。
サタヌスが1枚つまんで口に運ぶ。
「……あ、やべ。これ……」
その瞬間。
「死!うめぇぇぇ~~~!!!!!」
叫んだ、叫ばずにはいられなかった。
脳に直撃する“味覚と背徳のマリアージュ”。
のりしお味に、かすかに混ざる魔素のビリビリした後味。
その背後でユピテルがワイン片手に笑っていた。
「こいつぁ……魂のコンソメパンチってヤツだな」
レイスは耐えきれずにテーブルをバンバン叩いた。
「やばい……地獄の味が……クセになる……ッ!」
ウラヌスは口いっぱいにチップスを頬張りながら、うっすら涙を流していた。
「うっま!死ってこんな美味しかったの!?
うそ、死にたい!いや死んでチップスになりたい!」
カイネス博士もチップスを1枚、試しに口へ運ぶ。
一度噛むと、そのまま静かに目を伏せ─そしてまた笑った。
「……ふふ……“しょっぱい”のは……死者の涙かな」
誰かが言った。
「死を喰って笑うとか……俺たち、ほんと終わってんな」
でも、誰も止まらなかった。
グラスは空になり、チップスの袋はもう1つ、もう1つと開封されていく。
気がつけば、地獄のラボに吹き抜けるのは、笑い声ばかりだった。
倫理など、最初からどこにもなかった。
でもそこには――確かに、“仲間”と呼べる空気があった。
宴は、地獄でも灯る。さあ乾杯を。
死を喰え2,025。
相変わらず無造作に書類の積まれた机の前で、博士は顕微鏡を覗いていたが。
彼らの足音に気づくと軽く顎を動かして問いかけてきた。
「どうだったね? 君たち、囚われの王子の手がかりは掴めたかい」
その口調はあくまで静かで、日常の延長のようだった。
だが、地獄を覗いてきた連中には、その落ち着きこそが異様に見えた。
サタヌスが肩をすくめ、土産代わりにパンの包みを無造作に放り投げる。
「残念ながら、直接の手がかりはなかったぜ。代わりと言っちゃなんだが」
包み紙が机に落ちると、表面に貼られたラベルがはっきりと露出した。そこにはこう記されている。
《抽出者:カリスト・クリュオス》
「カリストが食えるキャンペーン実施中だ」
誰も驚かなかった。誰も突っ込まなかった。
もう慣れてしまったのだ。
この世界が“そういうもの”だということに。
レイスが、苦々しげに鼻を鳴らす。
「……なぁ博士。あれって、やっぱマジでヤバかったんだろ」
「“しっとりしてる理由”がさ……魔力浸潤と発酵体内保存?どんな構造してんだよあのパン……」
ウラヌスは満面の笑みを浮かべ。
すでにスマホのカメラロールに撮り溜めたパンの写真をスクロールしていた。
「パン、脈打ってた♡ しかも超うまかった♡」
「てか、説明パネルに“献体番号”載ってたのおかしくね? あれ絶対教育用じゃないよね☆」
サタヌスがラベルの裏側を指でなぞりながら声を上げる。
「成分:魔素タンパク、嫉妬霊核抽出液、情念凝縮脂……って、オイ!」
「こっちが情緒発酵するわバカヤロウ。マジで死人がパンになって蘇ってんじゃねぇか!!」
室内に、ひときわ乾いた沈黙が流れる。
パンの包みだけが、テーブルの上で小さく“ぴくっ”と脈を打っていた。
テーブルに置かれたカップから、ほのかに香ばしい匂いが立ち上っていた。
中身はコーヒー。苦味と微かな焦げの香りが。
先ほどまで彼らが歩いていた地獄の残滓を洗い流すには丁度よい。
ユピテルが、その湯気を楽しむように一口すすり、言った。
「うまけりゃいいんだよ。死人の味、上出来だったし」
まるで何でもないような口調で。
あのパンを“素材”として捉えているような、無遠慮で無感情な響きだった。
「で、博士。いつから知ってた?」
カイネスは、その問いにまるで待っていたかのように、にこりと笑う。
その笑顔は柔和で、理知的で、そして何より悪びれていない。
「ん? 最初から知ってたよ?あのパン、“発酵型感情喰種保存体”って研究名で呼んでたし」
「でもねぇ……美味しかったろう?」
あまりにも軽い。
あまりにも真顔で。
それがこの研究者の本性だということを、クロノチームはもう知っている。
レイスが一口、冷めかけたコーヒーを飲み、静かに呟いた。
「……普通、ここビビるとこだよな」
目の前で死人の情念をパンにして食った話を、誰も眉1つ動かさず続けている。
この異常な空気に対して、ツッコミというよりは、自嘲に近い独白だった。
サタヌスが真顔で言い放つ。
「倫理は死んだ」
刹那、ユピテルが間髪入れず突っ込んだ。
「ニーチェみたいなノリで言うな」
「“神は死んだ”つったけど、うちはパンで殺したな」
誰も笑わなかった。
誰も驚かなかった。
それでも、このラボの空気だけは、どこか楽しげに澱んでいた。
ウラヌスがキャッキャと声を上げながらリュックを漁っていた。
ラボの空気は、狂気を含んだ会話の応酬で静まりきっていたというのに。
彼女の明るさだけは、どこまでもブレることがなかった。
「笑いすぎて腹減ってきた~~! 工場でもらったパン食べようっと♪」
そう言って彼女が取り出したのは―パンだった。
しかも、袋を開いた瞬間、誰の目にも明らかだった。
それは、さっきまで「死人の魂と情念を練りこんだソイレントパン」として。
ギリギリの理性で笑っていた“アレ”だった。
全員が、一斉に動きを止めた。
「……………………」
0.5秒の、完全な沈黙。
そして。
「あっははははははははは!!!!!!」
笑いが弾け、爆発した。
理性も倫理も、魔素濃度も関係なく、そこにいた全員が腹を抱えて笑い出した。
「それ、食うの!?」
「いやまじで?」
「さっきのやつやん!?」
「笑うしかない!」
それまで背を向けていたカイネス博士が、ふと振り返った。
その表情は、いつもの冷静で無機質なもの。
声もまた、落ち着き払っていた。
「……そうだろう、そうだろう……」
だが。
次の瞬間、その声が変わった。
「……クスクス……ふふっ、あはっ……」
その口元が緩む。肩が、震えている。
「……ッふふ、あっははは……あははは!」
感情が、崩れた。
あの博士が。あの冷笑と実験とメスと資料でできたような男が。
肩を震わせて、目元を細めて、笑っていた。
「え、博士そんな笑い方できたの!?」
ウラヌスが素で驚く。
レイスが指を差す。
「いや待て、お前が一番倫理死んでたな今の」
サタヌスは目を細めながらぼそり。
「……思ってた10倍カワイイ声してんな」
ユピテルは真顔で言う。
「目なくなんのがポイント高いな」
カイネスは、まだ笑っていた。
だがその笑みは、どこか、ほんの少しだけ――嬉しそうだった。
笑った。
あの男が。
感情という単語を辞書でしか見ないような研究者、カイネス・ヴィアンが。
肩を震わせて、口元を崩して、明らかに“楽しそうに”笑っていた。
それは、もはや事件だった。
ならば―祝え。
たとえここが死体と嫉妬で焼かれたパン工場の地続きであろうとも。
感情が芽吹いた瞬間を、クロノチームが見逃すわけがなかった。
ユピテルが最初に声を上げた。
目を見開き、真顔のまま、グラスを掲げる。
「よぉし!眼帯喜べ、正式に6人目のクロノって認めてやる!」
「酒持ってこい!宴だ!!」
ウラヌスは床に転がって腹筋を押さえていた。
リュックから出したのは、あの工場で配られた“見学用スナック”。
「ちょwwwwwツマミこれww」
ラベルにはこう書かれていた。
《試供用/死体チップス(のりしお味)/賞味期限:死後120時間以内》
「賞味期限“死後120時間”って書いてあるのやばすぎwww」
「もう全部がダメすぎて逆に尊いwww」
サタヌスは大声で笑いながら、缶ビールを開けた。
「死体で酒飲むとか最低過ぎて笑うわ俺等!!」
「倫理が地底のマグマに沈んでるぞ!?」
レイスは笑いつつ、何故かグラス片手に“哲学”っぽい空気を醸し出す。
「“メメント・モリ”は……“死を忘れるな”だったな」
「じゃあ、今俺達がしているのは……なんだ?」
全員、耐えきれずに吹き出した。
死を食べながら、笑って祝う。
この地に倫理はない。だが、友情はある。
そして、カイネス。
彼は笑っていた。未だに、どこかくすくすと笑いながら。
瓶の封を無言で切り、グラスに静かに注いだ。
「……食肉とは、そもそも家畜の死骸だ」
「我々は常に、“誰かの死”を喰って生きている。問題ない」
「問題しかないよ博士ぉ!!」
目元が緩んでいる。
研究者の癖に、感情に浸っている。
たぶん、彼にとってもこれは“研究結果”だったのだろう。
笑ってもいい、と証明された夜。
感情を交わしても、世界は崩壊しないと知った夜。
カイネス・ヴィアンが、完全にクロノチームと打ち解けた瞬間だった。
問題があるとすれば、ただ一つ。
全員、倫理をドブに投げ捨てているということだ。
ラボの照明は、いつもよりほんのりと暖かかった。
もともと白く冷たい光に照らされる空間だったのに、いまは何故か空気が柔らかい。
グラスが鳴り、酒が注がれ、笑い声が交錯する。
「おい、これ本気でツマミになるのか?」
サタヌスが訝しげに手に取ったのは、見覚えのある小袋。
ラベルには血文字のようなフォントでこう記されていた。
《死体チップス(のりしお味)/非売品/試供品》
ウラヌスが満面の笑みで差し出す。
「食べてみなって♡死後120時間以内ってことは、ほぼ新鮮♪」
「サクサクで、情念がフレッシュ☆!」
パキッと開けた袋から、緑がかった半透明のチップスが数枚。
サタヌスが1枚つまんで口に運ぶ。
「……あ、やべ。これ……」
その瞬間。
「死!うめぇぇぇ~~~!!!!!」
叫んだ、叫ばずにはいられなかった。
脳に直撃する“味覚と背徳のマリアージュ”。
のりしお味に、かすかに混ざる魔素のビリビリした後味。
その背後でユピテルがワイン片手に笑っていた。
「こいつぁ……魂のコンソメパンチってヤツだな」
レイスは耐えきれずにテーブルをバンバン叩いた。
「やばい……地獄の味が……クセになる……ッ!」
ウラヌスは口いっぱいにチップスを頬張りながら、うっすら涙を流していた。
「うっま!死ってこんな美味しかったの!?
うそ、死にたい!いや死んでチップスになりたい!」
カイネス博士もチップスを1枚、試しに口へ運ぶ。
一度噛むと、そのまま静かに目を伏せ─そしてまた笑った。
「……ふふ……“しょっぱい”のは……死者の涙かな」
誰かが言った。
「死を喰って笑うとか……俺たち、ほんと終わってんな」
でも、誰も止まらなかった。
グラスは空になり、チップスの袋はもう1つ、もう1つと開封されていく。
気がつけば、地獄のラボに吹き抜けるのは、笑い声ばかりだった。
倫理など、最初からどこにもなかった。
でもそこには――確かに、“仲間”と呼べる空気があった。
宴は、地獄でも灯る。さあ乾杯を。
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