16 / 19
chapter3_02
しおりを挟む
翌日、大家が鍵を受け取りに鷹取の部屋を訪れた。濃い隈と腫れた瞼で出迎えた鷹取に、大家は一瞬たじろいだ。
「追い出しておいてこんなことを言うのもなんだが……大丈夫かい?」
「……はい」
大丈夫なわけがない。鷹取は上辺だけの肯定と共に「お前のせいだ」というような目で大家を睨んだが、言い争えるほど十分な言い訳も気力も持ち合わせていなかった。
鍵を返還し、鷹取は再び心安らぐ我が家を失う事となる。十代で実家を出たときと違うのは、今回は全く未来が見えないという事だ。
もう一度実家に世話になることも考えなくはなかったが、麻薬に手を出していることを隠し通せるとは思えなかった。そうでなくとも、もはやあの家は他人の家なのだ。
家賃という家計を最も圧迫する出費がなくなったとは言え、すぐにネットカフェなどを仮の住まいにするのは憚られた。ただでさえ金がないのだ。温存しておくに越したことはない。
鷹取はひとまず近くの公園に行き、拾ってきた段ボールを敷いて新たな住処とした。
二日ほど経過して、烏丸との約束の曜日になった。幸か不幸か、この日は朝から天候が悪く、鷹取は濡れ鼠になっていた。
バックパックを背負い、烏丸の自宅に向けて歩き出す。濡れた段ボールは使い物にならなくなったため、「次に雨が降ったらおとなしくネットカフェに行こう」などと、ぼんやり考えていた。
初めて訪れた日よりも一層みすぼらしい姿をする鷹取を、スカイハイの住人は皆、一様に驚いた様子で振り返る。
目的地に到着し、エレベーターを降りると、出迎えた部屋の主も例に漏れず、一際驚いた表情を見せた。
「どうしたんだい? 大きな荷物まで抱えて……」
「すみません……」
「とにかく、入って。早くシャワーを浴びておいで。話はあとで聞くから」
*****
「で、何があったの?」
烏丸は依然心配そうな面持ちで尋ねる。
いつものように鷹取は身を清め、ダイニングで烏丸が注文した食事を胃に収めていた。相変わらず必要以上に量が多い。
鷹取は前回烏丸の部屋を出てからの顛末をぽつぽつと語り出した。あまりの無様さで顔を上げられず、終始テーブルの上で組まれた烏丸の手だけを見ていた。
「んー、なるほどね。じゃあ僕の家に居ればいい」
烏丸の言葉は、鷹取の予想通りだった。
「もうこれ以上お世話になれません……」
これは鷹取の本心である。
「いいんだよ。世話をしたくてしているんだから。それに、ずっと一人でいるより話せる人間が居たほうが、君の心にもいいんじゃないかな。僕も一人で家に居ても暇だし、むしろここに居てよ」
罪悪感はどうしても拭えなかったが、考えうる幸福を全て失っていた鷹取は、正直なところ烏丸のこの強引さに抗う余地がなかった。
――少しくらいなら甘えても……いい、よな……。
鷹取は必ず恩を返すと言って、烏丸の提案を受け入れたのだった。
「追い出しておいてこんなことを言うのもなんだが……大丈夫かい?」
「……はい」
大丈夫なわけがない。鷹取は上辺だけの肯定と共に「お前のせいだ」というような目で大家を睨んだが、言い争えるほど十分な言い訳も気力も持ち合わせていなかった。
鍵を返還し、鷹取は再び心安らぐ我が家を失う事となる。十代で実家を出たときと違うのは、今回は全く未来が見えないという事だ。
もう一度実家に世話になることも考えなくはなかったが、麻薬に手を出していることを隠し通せるとは思えなかった。そうでなくとも、もはやあの家は他人の家なのだ。
家賃という家計を最も圧迫する出費がなくなったとは言え、すぐにネットカフェなどを仮の住まいにするのは憚られた。ただでさえ金がないのだ。温存しておくに越したことはない。
鷹取はひとまず近くの公園に行き、拾ってきた段ボールを敷いて新たな住処とした。
二日ほど経過して、烏丸との約束の曜日になった。幸か不幸か、この日は朝から天候が悪く、鷹取は濡れ鼠になっていた。
バックパックを背負い、烏丸の自宅に向けて歩き出す。濡れた段ボールは使い物にならなくなったため、「次に雨が降ったらおとなしくネットカフェに行こう」などと、ぼんやり考えていた。
初めて訪れた日よりも一層みすぼらしい姿をする鷹取を、スカイハイの住人は皆、一様に驚いた様子で振り返る。
目的地に到着し、エレベーターを降りると、出迎えた部屋の主も例に漏れず、一際驚いた表情を見せた。
「どうしたんだい? 大きな荷物まで抱えて……」
「すみません……」
「とにかく、入って。早くシャワーを浴びておいで。話はあとで聞くから」
*****
「で、何があったの?」
烏丸は依然心配そうな面持ちで尋ねる。
いつものように鷹取は身を清め、ダイニングで烏丸が注文した食事を胃に収めていた。相変わらず必要以上に量が多い。
鷹取は前回烏丸の部屋を出てからの顛末をぽつぽつと語り出した。あまりの無様さで顔を上げられず、終始テーブルの上で組まれた烏丸の手だけを見ていた。
「んー、なるほどね。じゃあ僕の家に居ればいい」
烏丸の言葉は、鷹取の予想通りだった。
「もうこれ以上お世話になれません……」
これは鷹取の本心である。
「いいんだよ。世話をしたくてしているんだから。それに、ずっと一人でいるより話せる人間が居たほうが、君の心にもいいんじゃないかな。僕も一人で家に居ても暇だし、むしろここに居てよ」
罪悪感はどうしても拭えなかったが、考えうる幸福を全て失っていた鷹取は、正直なところ烏丸のこの強引さに抗う余地がなかった。
――少しくらいなら甘えても……いい、よな……。
鷹取は必ず恩を返すと言って、烏丸の提案を受け入れたのだった。
28
あなたにおすすめの小説
朔望大学医学部付属病院/ White Dictator
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
White Dictator______通称:『白衣の独裁者』
<ホワイト・ディクテイター>
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
圧倒的な「実力」と「技術」で捩じ伏せ・現場を支配する凄腕たち。
___ ごく僅かな一瞬の隙も逃さない神手の集まり。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる