Psychedelic bless you.

ぬるめのおゆ。

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chapter4_01

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「先生、おかえりなさい」
 烏丸の帰宅を知らせるドアの音を聞きつけ、鷹取は玄関まで出迎えた。
「ただいま。よかった、今日は元気そうだね。昨日たくさん『遊んだ』からかな?」
 烏丸が前日の情交を示唆すると、鷹取は頬を赤くしてはにかむ。
「もしかして、何か作ったのかい? すごくいい匂いだ」
 先ほどから大層食欲をそそる香りが烏丸の嗅覚に訴えかけている。髪をポニーテールにしているのもその為か。
「へへ、期待していいですよ。俺、前はホテルのレストランで働いてたから」
「プロの料理を家で食べられるなんてありがたいな。僕は料理がまるでダメだから助かるよ」
「これくらいさせて下さい。先生には感謝してもしきれないから」
「はは、気にしなくていいのに。さあ、冷める前にいただこう」
 鷹取は頭を撫でられながら烏丸をダイニングへ導く。テーブルの上には前菜、スープ、メインと、色鮮やかな料理が所狭しと並べられていた。
「先生はワインが好きだから、イタリアンにしてみたんですけど……」
「すごいよ鷹取くん! すごく美味しい! さすがプロだね。それに、誰かの手料理を頂くなんて久しぶりだよ」
「よかった……ありがとうございます。このあたりのスーパーは食材が何でも揃うし、いいものが多くて……俺も久しぶりに色々作るのが楽しかったです」
「たったあれだけのお金でこんなにたくさん作れるのかい? デリバリーって割に合わないんだね」
 鷹取は、烏丸から留守の間に何か買って食べるようにと渡された金で食材を調達したのだった。その金額とて、庶民の感覚からすれば全く少額ではなかったのだが。
「なかなかいいものだね。君が家にいてくれて、食事まで作ってくれて。帰ってくる楽しみが増えたよ」
「う……嬉しいです」
「ふふ、弟ができたみたいだ」
「弟……」

――これは取引の延長だよ。
 鷹取は初めて取引をした日の烏丸の言葉を思い出しては、のぼせ上がる心を鎮めていた。
 烏丸にとって自分は恋人ではない。必要なのは、脚を含めた自身の体なのだ。宗教者を嫌う烏丸に好かれることなど、この先もきっと無いだろう。
 一方で鷹取自身に於いては、烏丸への恋愛感情が拭いきれず、体を重ねる度に恋心が膨れ上がっていった末、言い逃れができないほど明確に戒律に背いているということが常に心を刺していた。
 しかしながら長らく孤独で塞ぎ込み、乾ききっていた鷹取の心は、次々に与えられる烏丸の温情を振りほどく勇気がなかった。どんな形であれ、己を求めてくれる烏丸の存在は、今や砂漠で見つけたオアシスのように貴重で手放しがたいものとなっていた。加えて、一際目立ってコンプレックスになっていた義足さえも、烏丸は必要としてくれている。
――これは……お世話になったお礼なんだ。
 神に与えられた戒めを破り続ける心に、そう言い訳を繰り返していた。
 とは言え、懺悔室の常連になってまでこの関係を続けたがっている罪人たる自分を、鷹取はますます嫌いになっていったのだった。
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