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第6話
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制服以外に、着古した普段着二着だけが入っているクローゼットの扉を開いては閉める。
何度繰り返しても、新しい服が増えることはない。それでも、存在を忘れた新しい服が急に出てこないかなと願ってしまう。
残念ながら、中を確かめると、やっぱり制服と着古した服しかない。
「どうしよう。着るものが……」
ため息混じりのひとり言をこぼし、綾瀬はクローゼットの扉をまた閉める。
今日は須加とお出かけする日。本当は断りたかったのに、流されたまま約束を交わしてしまった。
誰かと遊びに行ったことがない。着ていくものがないと言ったら語弊があるが、地味な普段着でいいのかどうか迷う。
「乗り気じゃないのにどうしてこんなに迷うんだ。別に行きたいって思ってないし……」
朝っぱらから慣れない感情の動きに疲れてきて、いっそ行くのをやめようとまで考えた。約束の時間はまだ先だ。連絡するなら今だ。
スマホを取ると、タイミングよく新着メッセージが届いた。
須加一之。
律儀にフルネームでアプリに登録した彼の名前が、気づけば見慣れたものとなった。
連絡先を交換した夜から、彼からのメッセージがよく届く。朝晩の挨拶、食事の時間、とりとめのない話。
慣れないやりとりに戸惑いながら、須加に比べるとかなり短いひと言や無料のスタンプだけ返す。会話が続かなければ、そのうち連絡も来なくなるだろうと思ったが、今のところ途切れる気配がない。
『おはようございます。今日はよろしくお願いします。とても楽しみです』
テキストのあとに、わくわくするひよこスタンプが届いた。綾瀬が使っている無料のものと違い、有料のスタンプだ。
このひよこはなに、と訊いたら、「妹が好きなキャラクターなんだ」と須加は言った。
知り合ってまだ日が浅いが、須加の笑顔が容易く思い出せる。画面から伝わってくる期待感に、今さら断るのは心が苦しくなった。
どうしようかな、とまたため息ひとつ。ここ数日須加との濃すぎる時間に思い馳せる。
須加とくちびるを合わせた次の日の昼休みは、一緒にお昼を食べることになった。待ち合わせ場所は学校最上階の踊り場。そこに訪れると、すでに須加がいた。
「ここまで上がって大丈夫なのか?」
屋上をつなぐ扉は鍵がかかっていて外には出られないが、安全のため、立ち入り禁止の札が階段のところにかかってある。階段に結ばれた規制ロープを跨ぐときはかなりドキドキした。
「大丈夫ですよ。お弁当を食べたりサボったり、みんな普通にここを使ってますよ」
「じゃあ誰が来たら……」
「それも大丈夫です。立ち入り禁止の札があったんじゃないですか。表面は空いてる、裏は使用中って意味があります。知る人ぞ知るって感じですけど」
俺は知り合いの先輩に教えてもらいました、と手作り弁当を食べる須加に、綾瀬はふーんと頷いた。
「先輩は普段なにをしてるんですか? なにが好きですか?」
唐突に趣味を問われ、綾瀬は味がしないクッキーバーを嚙み砕きながら考える。
「本を読むとか……映画かな」
「じゃあ土曜日、もし空いてるなら映画館に行きましょう」
そのひと言でようやく、彼の誘いを思い出す。断りたい。しかしご飯を奢ってもらったから、はっきりと出かけたくないと言えなかった。結局流されたまま約束を交わした。
須加がお弁当を食べ終わると、綾瀬に向き合って座り直す。真正面から見据えてくる瞳に、これからは別の「食事」の時間だと察し、緊張と恥ずかしさで頬を染めた。
「あっ、やべぇ」
須加は急に手で口を塞いでぼやいた。
「ご飯を食べたばっかだから、においとか残ってるかも」
須加の焦る様子が、これからの行為を生々しく想起させる。綾瀬まで変な汗をかいた。
「べ、別に大丈夫だろう。俺も食べたし」
「先輩が大丈夫でも俺は……あー、次はご飯の前にしましょう」
「そっちのほうが恥ずかしいから嫌だよ!」
須加との口づけは、フォークとしての衝動を抑えるため、いわば一種の治療行為だと割り切れる。ただ、濃厚な口づけで体液を分けてもらってから、平然と一緒にご飯を食べられるほど図太い神経を持ち合わせていない。
「それもそうですね……じゃあ、行きます」
須加は気にしていたが、うっすら開いた口からこぼれる吐息は砂糖菓子みたいに甘い。くちびる同士が触れ合う寸前、綾瀬はまぶたを下ろし、自分を暗闇に閉ざした。
とたん、感覚が研ぎ澄まされた。
重なったくちびる。
やわらかい感触。
表面を須加の舌に突かれた。軽く口を開くと、それがすぐ隙間から入り込んでくる。粘膜をくすぐられた刺激をん敏感に拾い、ピリピリとなにかが背を走った。
流れ込んでくる唾液を飲み下す。普通の食事では決して得られない満腹感が、じんわりと広がっていく。
綾瀬が息切れしそうなタイミングで「食事」が終わった。気恥ずかしくて、俯いたまま静かに息を整える。
伏せた視線の先に見えた須加のくちびるが、お互いの唾液で濡れている。
きっと、自分も同じだ。
ぼんやり考えると、口づけの感触が蘇った。恥ずかしさで顔がさらに熱くなった。
つかの間の気まずい沈黙がチャイムの音に破られた。結局まともに須加の顔が見れないまま、階段を下りたすぐのところで別れた。
須加の体液が意外と腹持ちがいい。放課後にも連絡が来たが、まだお腹がいっぱいとその厚意を断った。
それから一日に一回、須加とくちびるを合わせてケーキの体液を摂取することに。
結局、綾瀬は普段着に着替えた。そもそもほかに選択肢がない。
家を出る前に、もう一度自分の格好を確かめる。薄グレーのシャツとジーパン、至ってシンプルで無難な格好。
視線を上げると、鏡の中の自分と眼が合った。
ここ数日「まともな食事」をとっているからか、顔色は良くなっている。眠りが深くなり、悪い夢を見る頻度も減った。トラウマは簡単に消えないが、前より精神が安定しているように思えた。
なにより、ケーキの近くにいても、本能に突き動かされるまま襲ったりはしない。そうわかっただけで、フォークという厄介な特性がほんの少しだけ、怖くなくなった。
綾瀬は余裕を持って家を出た。
頭上に青空が広がる。熱を帯びた風に頬を撫でられる。駅までの道のりでうっすら汗をかいた。
電車はさほど混んでいない。扉が閉まったあと、扉の近くに佇んで車窓の外を見る。
緊張とは違う、別の感情が胸を高鳴らせる。ドキドキする胸を服の上から押さえる。
「やっぱり楽しみにしているのかな」
思わず自問自答する。
他人と関わるのが怖くてひとりでいることを選んだはずなのに、本当はずっと助けてくれる誰かを待っていたかもしれない。心の中に隠れた真逆な感情。矛盾だらけで嫌になる。
次の駅へ滑り込む電車がゆっくりと減速し、止まる。乗り込んできた乗客で空席があっという間に埋まった。都心に近づくにつれ、車内の密度が高まっていく。
ドキドキと早鐘を打っている心臓の音が、バクバクと嫌な音に変わった。背中や脇の下が汗ばんだ。呼吸を意識する。ゆっくりと吸い込み、そっと吐く。
「あとひと駅、もうすぐだ……」
か細い声音が力なく落ちた直後、ポケットに入れたスマホがバイブした。
『ちょっと早いけど、改札前に着きました』
ときどき鬱陶しく感じる須加のメッセージだが、今は無性に縋りたくなる。
『俺ももうすぐ着く』
短い内容を打ち込む。一秒も経たずに既読マークがついた。ピコンと出てきた吹き出しに『りょうかい』と。たった五文字が緊張を和らげてくれた。
「まもなく次の駅に到着します」
スピードを落とす電車。反対側の扉が開いた。
「すみません」
綾瀬は声を上げつつ、乗客の間を縫ってなんとか下車した。
改札を出たすぐのところに須加が佇んでいる。知っている顔を見つけたとたん、肩の強張りが自然と取れた。
「お待たせ」
「全然。まだ約束の時間前ですよ」
駅直結のショッピングモールから抜け出すと、人の量が一気に少なくなった。
「映画館はすぐあそこです」
場所選びは須加に任せていたから、なにもわからない綾瀬はただついていくだけ。
「よくここに来るの?」
「はじめてです」
「そうなんだ」
「はい。映画館の場所がわかりやすくて助かりました」
商業施設に入り、エレベーターで上った先は、レトロな雰囲気が漂う、いわゆる名画座と呼ばれる映画館だ。綾瀬が記憶している映画館とは、雰囲気がずいぶん違う。
理香子に出演映画の舞台挨拶に連れてもらったことがある。会場となった映画館は大きいショッピングモールにあり、迷子になるほどの広さで、人がたくさんいた。
しかし、この映画館は週末のわりに人が少ない。ロビーにいる数人は、本を読んだりスマホをいじったりして、入場時刻まで静かにやり過ごしている。
上映スケジュール表を確かめる。選べる作品は限られている。ちょうどこのあとすぐ、二十年前に公開された洋画の上映が始まる。
「これはどうですか? さらに次だと、一時間後のインド映画です」
「これでいいよ。結構いい映画なんだ」
「もしかして観たことあるんですか」
「結構前だけど」
「観たことあるのに本当にいいですか」
「いい映画は何回観ても色褪せないんだ」
「いいことを言いますね」
決まったらそのままカウンターへ、学生証を提示してチケットを購入する。
発券直後にシアターが開いた。スタッフのアナウンスで、ロビーで待機していた人たちが中へ吸い込まれていく。
「なんか買いますか」
須加は売店のメニューを見上げた。
横にいる彼の気配を感じながら、いろいろ気を使われてるんだ、と、綾瀬はふと思った。
行き慣れてない街や名画座を選んだのも、綾瀬は人が苦手だと知っているからだ。そのやさしさに気づいたとたん、うれしさと少し照れくさい気持ちが湧き上がった。
「ポップコーンないんですね」
綾瀬もメニューを見上げる。映画といえばポップコーンが見当たらなかった。
「本当だ」
少し迷ったあと、綾瀬はお茶だけ、須加はホットドッグとコーラにした。
渡された紙コップが冷たく、歩くたびにカラカラと氷の揺れる音がした。毛足が長い絨毯に足が沈んでいく。わらかい椅子に背を預ける。
しばらくすると、シアターが暗くなり、スクリーンの光だけが鮮やかに浮かび上がった。さまざまな映画の予告編が流れ始めた。ときに激しく、ときに恐ろしく、ときに楽しく。一瞬で心を鷲摑みにされた。
予告編だけでも楽しかった。本編が始まったらどうなる。胸の中に、パチパチと火花が弾けたような気持ちになった。
二時間半があっという間に終わったと感じるほど、映画に夢中だった。
父との約束を果たすため、はじめてひとりで海外に行く男が、旅先で出会った人々との物語だ。
主人公は旅の目的を果たしたものの、友情も恋も、手元に残るものはなにひとつない。それでも、それでよかったと思えた。哀愁を帯びた笑みを浮かばせ、空港のロビーをひとりで歩いていく主人公の後ろ姿が、「生きるとはこういうことなんだ」と教えてくれた気がした。
暗闇に包まれる中、エンドロールが流れるその数分間、静かに余韻に浸る。
やがてエンドロールが流れ切った。シアターが明るくなり、後方の扉が開いた。退場を促すアナウンスで、心地よい余韻から現実に引き戻された。
「すごくいい映画でした」
初見の須加は興奮気味で感想を語る。
感じたことを言語化にせず、自分の中で昇華させていくタイプの綾瀬は彼の言葉に耳を傾けていると、気づけば口元を綻ばせた。誰かと好きな映画の感想を語り合うのは、はじめてだ。好きな場面は違うけど、感動したところは同じだった。
「俺、おじさんが助けに入ったところで泣いちゃいました」
「俺も。そこ、よかったよね。あと最後のシーンも」
「わかる。あれはいい画でした。背中で語る演技……俳優すげぇって思いました」
須加の眦が赤い。今にも涙をこぼしそうだ。
映画の最中に、横からふいに淡い香りがした。においに誘われて視線を向けた先に、須加は静かに涙を流していた。
薄暗闇に浮かぶ横顔、溢れ出た涙が飴玉に見えた。流れ落ちる涙の味を知りたいと思ったのはほんの一瞬だけ。自分の恐ろしい思考に気づき、冷たいお茶で口寂しさを紛らわした。
今もまだ、須加から淡い香りが漂ってくる。
「眼が赤いよ」
「えー、恥ずいから言わないで! てか、泣ける映画なら先に教えてくださいよ」
くちびるを尖らせ、慌てて濡れた眼元を擦る須加に、綾瀬は小さく笑った。紙コップはもうカラカラ。ゴミ箱に捨てるまで、ストローを嚙み続けた。
ほかの映画にも興味が湧いたのか、フライヤーコーナーを見たいと須加が言い、その横に綾瀬もなんとなしに見る。たくさんのフライヤーの中、知っている顔があった。
ドクン――胸が嫌な音を鳴らした。
綾瀬の視線が、その一枚に釘づけになった。
油断した。とっくに過去の人となった母の写真を、外で見かけることはもうないと思い込んでいた。
フライヤーに印刷された理香子の顔は、母親になる前のもので、綾瀬が覚えている姿よりも若い。
一瞬にしておぞましい記憶が蘇り、まぶたの裏が赤く染まった。喉が渇き、気道が狭くなった。息を吸うタイミングと吐くタイミングがわからなくなった。短い間隔に呼気を繰り返していると、眼前の景色が回り始めた。
――ヤバいかも!
頭が重い。身体がぐらりと揺れる感覚を覚えた次の瞬間、肩をぐっと抱き寄せられた。
「ちょっ、大丈夫ですか」
耳に馴染む声音、ほんのり甘いにおい……綾瀬は支えてくれた須加を見上げる。見据えてくる視線が強い。よく見ると、黒だと思っていた瞳が本当は茶色がかかっている。
「とりあえずあそこに座りましょう」
ロビーの椅子に腰をかけたあとも、須加は綾瀬を放してくれなかった。男ふたりが密着して座る気恥ずかしさで、綾瀬は顔を俯かせた。眼を閉じ、ゆっくり呼吸する。
「お連れの方は大丈夫ですか」
「貧血で少しぐらっとしたみたいです。すぐに落ち着くと思います」
近寄ってきたスタッフに、須加は落ち着いて応対する。
眼を閉じていると、ほかの感覚が鋭くなる。須加が喋るときに伝わってくるわずかな振動。やや高めの体温が心地いい。スキンシップは得意じゃないのに、須加なら大丈夫そうだ。心がいつの間にか須加という存在を許したと気づかされた。
ほどなくして、心音はまだ多少ざわついているが、嫌な気持ちがだいぶ薄まった。綾瀬はゆっくり上体を起こす。
「もう大丈夫ですか」
「……うん」
顔を上げると、受付から心配そうな顔を向けてくるスタッフが見えた。恥ずかしさで視線を逸らしながら、おそらく伝わらないほど小さく会釈した。須加にも、「ありがとう」と、発した声が照れくささで揺れた。
「このあとどうします? あっ、ごめん、ちょっと電話に出ます」
なにもしていないと、意識が須加のほうに向いてしまう。電話の向こうから響いてくる焦りが滲んだ声音に、須加は「え」と驚いた。
数言を交わしたあと、「わかった」と言って須加は通話を切った。
「先輩、よかったら、このあとうちに来ません?」
今度は綾瀬が「えっ」とこぼす番だった。
「おじいちゃんがギックリ腰になったらしくて、お母さんが急いで様子を見に行くって。妹がひとりになっちゃうから帰らないといけなくなりました」
「別にここで解散しても大丈夫」
「俺はもう少し先輩と一緒にいたいです」
ようやく落ち着いた心音がまたうるさくなった。
「ダメかな?」
「……」
ケーキの家に行ってはダメ。断るんだ。しかし、手首を握ってくる手を、のぞき込んでくる瞳を見ると、どうしてか断りの言葉を吐き出せなかった。
********************
お読みいただきありがとうございます。
次の更新は明日、7/18 20:00です
何度繰り返しても、新しい服が増えることはない。それでも、存在を忘れた新しい服が急に出てこないかなと願ってしまう。
残念ながら、中を確かめると、やっぱり制服と着古した服しかない。
「どうしよう。着るものが……」
ため息混じりのひとり言をこぼし、綾瀬はクローゼットの扉をまた閉める。
今日は須加とお出かけする日。本当は断りたかったのに、流されたまま約束を交わしてしまった。
誰かと遊びに行ったことがない。着ていくものがないと言ったら語弊があるが、地味な普段着でいいのかどうか迷う。
「乗り気じゃないのにどうしてこんなに迷うんだ。別に行きたいって思ってないし……」
朝っぱらから慣れない感情の動きに疲れてきて、いっそ行くのをやめようとまで考えた。約束の時間はまだ先だ。連絡するなら今だ。
スマホを取ると、タイミングよく新着メッセージが届いた。
須加一之。
律儀にフルネームでアプリに登録した彼の名前が、気づけば見慣れたものとなった。
連絡先を交換した夜から、彼からのメッセージがよく届く。朝晩の挨拶、食事の時間、とりとめのない話。
慣れないやりとりに戸惑いながら、須加に比べるとかなり短いひと言や無料のスタンプだけ返す。会話が続かなければ、そのうち連絡も来なくなるだろうと思ったが、今のところ途切れる気配がない。
『おはようございます。今日はよろしくお願いします。とても楽しみです』
テキストのあとに、わくわくするひよこスタンプが届いた。綾瀬が使っている無料のものと違い、有料のスタンプだ。
このひよこはなに、と訊いたら、「妹が好きなキャラクターなんだ」と須加は言った。
知り合ってまだ日が浅いが、須加の笑顔が容易く思い出せる。画面から伝わってくる期待感に、今さら断るのは心が苦しくなった。
どうしようかな、とまたため息ひとつ。ここ数日須加との濃すぎる時間に思い馳せる。
須加とくちびるを合わせた次の日の昼休みは、一緒にお昼を食べることになった。待ち合わせ場所は学校最上階の踊り場。そこに訪れると、すでに須加がいた。
「ここまで上がって大丈夫なのか?」
屋上をつなぐ扉は鍵がかかっていて外には出られないが、安全のため、立ち入り禁止の札が階段のところにかかってある。階段に結ばれた規制ロープを跨ぐときはかなりドキドキした。
「大丈夫ですよ。お弁当を食べたりサボったり、みんな普通にここを使ってますよ」
「じゃあ誰が来たら……」
「それも大丈夫です。立ち入り禁止の札があったんじゃないですか。表面は空いてる、裏は使用中って意味があります。知る人ぞ知るって感じですけど」
俺は知り合いの先輩に教えてもらいました、と手作り弁当を食べる須加に、綾瀬はふーんと頷いた。
「先輩は普段なにをしてるんですか? なにが好きですか?」
唐突に趣味を問われ、綾瀬は味がしないクッキーバーを嚙み砕きながら考える。
「本を読むとか……映画かな」
「じゃあ土曜日、もし空いてるなら映画館に行きましょう」
そのひと言でようやく、彼の誘いを思い出す。断りたい。しかしご飯を奢ってもらったから、はっきりと出かけたくないと言えなかった。結局流されたまま約束を交わした。
須加がお弁当を食べ終わると、綾瀬に向き合って座り直す。真正面から見据えてくる瞳に、これからは別の「食事」の時間だと察し、緊張と恥ずかしさで頬を染めた。
「あっ、やべぇ」
須加は急に手で口を塞いでぼやいた。
「ご飯を食べたばっかだから、においとか残ってるかも」
須加の焦る様子が、これからの行為を生々しく想起させる。綾瀬まで変な汗をかいた。
「べ、別に大丈夫だろう。俺も食べたし」
「先輩が大丈夫でも俺は……あー、次はご飯の前にしましょう」
「そっちのほうが恥ずかしいから嫌だよ!」
須加との口づけは、フォークとしての衝動を抑えるため、いわば一種の治療行為だと割り切れる。ただ、濃厚な口づけで体液を分けてもらってから、平然と一緒にご飯を食べられるほど図太い神経を持ち合わせていない。
「それもそうですね……じゃあ、行きます」
須加は気にしていたが、うっすら開いた口からこぼれる吐息は砂糖菓子みたいに甘い。くちびる同士が触れ合う寸前、綾瀬はまぶたを下ろし、自分を暗闇に閉ざした。
とたん、感覚が研ぎ澄まされた。
重なったくちびる。
やわらかい感触。
表面を須加の舌に突かれた。軽く口を開くと、それがすぐ隙間から入り込んでくる。粘膜をくすぐられた刺激をん敏感に拾い、ピリピリとなにかが背を走った。
流れ込んでくる唾液を飲み下す。普通の食事では決して得られない満腹感が、じんわりと広がっていく。
綾瀬が息切れしそうなタイミングで「食事」が終わった。気恥ずかしくて、俯いたまま静かに息を整える。
伏せた視線の先に見えた須加のくちびるが、お互いの唾液で濡れている。
きっと、自分も同じだ。
ぼんやり考えると、口づけの感触が蘇った。恥ずかしさで顔がさらに熱くなった。
つかの間の気まずい沈黙がチャイムの音に破られた。結局まともに須加の顔が見れないまま、階段を下りたすぐのところで別れた。
須加の体液が意外と腹持ちがいい。放課後にも連絡が来たが、まだお腹がいっぱいとその厚意を断った。
それから一日に一回、須加とくちびるを合わせてケーキの体液を摂取することに。
結局、綾瀬は普段着に着替えた。そもそもほかに選択肢がない。
家を出る前に、もう一度自分の格好を確かめる。薄グレーのシャツとジーパン、至ってシンプルで無難な格好。
視線を上げると、鏡の中の自分と眼が合った。
ここ数日「まともな食事」をとっているからか、顔色は良くなっている。眠りが深くなり、悪い夢を見る頻度も減った。トラウマは簡単に消えないが、前より精神が安定しているように思えた。
なにより、ケーキの近くにいても、本能に突き動かされるまま襲ったりはしない。そうわかっただけで、フォークという厄介な特性がほんの少しだけ、怖くなくなった。
綾瀬は余裕を持って家を出た。
頭上に青空が広がる。熱を帯びた風に頬を撫でられる。駅までの道のりでうっすら汗をかいた。
電車はさほど混んでいない。扉が閉まったあと、扉の近くに佇んで車窓の外を見る。
緊張とは違う、別の感情が胸を高鳴らせる。ドキドキする胸を服の上から押さえる。
「やっぱり楽しみにしているのかな」
思わず自問自答する。
他人と関わるのが怖くてひとりでいることを選んだはずなのに、本当はずっと助けてくれる誰かを待っていたかもしれない。心の中に隠れた真逆な感情。矛盾だらけで嫌になる。
次の駅へ滑り込む電車がゆっくりと減速し、止まる。乗り込んできた乗客で空席があっという間に埋まった。都心に近づくにつれ、車内の密度が高まっていく。
ドキドキと早鐘を打っている心臓の音が、バクバクと嫌な音に変わった。背中や脇の下が汗ばんだ。呼吸を意識する。ゆっくりと吸い込み、そっと吐く。
「あとひと駅、もうすぐだ……」
か細い声音が力なく落ちた直後、ポケットに入れたスマホがバイブした。
『ちょっと早いけど、改札前に着きました』
ときどき鬱陶しく感じる須加のメッセージだが、今は無性に縋りたくなる。
『俺ももうすぐ着く』
短い内容を打ち込む。一秒も経たずに既読マークがついた。ピコンと出てきた吹き出しに『りょうかい』と。たった五文字が緊張を和らげてくれた。
「まもなく次の駅に到着します」
スピードを落とす電車。反対側の扉が開いた。
「すみません」
綾瀬は声を上げつつ、乗客の間を縫ってなんとか下車した。
改札を出たすぐのところに須加が佇んでいる。知っている顔を見つけたとたん、肩の強張りが自然と取れた。
「お待たせ」
「全然。まだ約束の時間前ですよ」
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「よくここに来るの?」
「はじめてです」
「そうなんだ」
「はい。映画館の場所がわかりやすくて助かりました」
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「これでいいよ。結構いい映画なんだ」
「もしかして観たことあるんですか」
「結構前だけど」
「観たことあるのに本当にいいですか」
「いい映画は何回観ても色褪せないんだ」
「いいことを言いますね」
決まったらそのままカウンターへ、学生証を提示してチケットを購入する。
発券直後にシアターが開いた。スタッフのアナウンスで、ロビーで待機していた人たちが中へ吸い込まれていく。
「なんか買いますか」
須加は売店のメニューを見上げた。
横にいる彼の気配を感じながら、いろいろ気を使われてるんだ、と、綾瀬はふと思った。
行き慣れてない街や名画座を選んだのも、綾瀬は人が苦手だと知っているからだ。そのやさしさに気づいたとたん、うれしさと少し照れくさい気持ちが湧き上がった。
「ポップコーンないんですね」
綾瀬もメニューを見上げる。映画といえばポップコーンが見当たらなかった。
「本当だ」
少し迷ったあと、綾瀬はお茶だけ、須加はホットドッグとコーラにした。
渡された紙コップが冷たく、歩くたびにカラカラと氷の揺れる音がした。毛足が長い絨毯に足が沈んでいく。わらかい椅子に背を預ける。
しばらくすると、シアターが暗くなり、スクリーンの光だけが鮮やかに浮かび上がった。さまざまな映画の予告編が流れ始めた。ときに激しく、ときに恐ろしく、ときに楽しく。一瞬で心を鷲摑みにされた。
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主人公は旅の目的を果たしたものの、友情も恋も、手元に残るものはなにひとつない。それでも、それでよかったと思えた。哀愁を帯びた笑みを浮かばせ、空港のロビーをひとりで歩いていく主人公の後ろ姿が、「生きるとはこういうことなんだ」と教えてくれた気がした。
暗闇に包まれる中、エンドロールが流れるその数分間、静かに余韻に浸る。
やがてエンドロールが流れ切った。シアターが明るくなり、後方の扉が開いた。退場を促すアナウンスで、心地よい余韻から現実に引き戻された。
「すごくいい映画でした」
初見の須加は興奮気味で感想を語る。
感じたことを言語化にせず、自分の中で昇華させていくタイプの綾瀬は彼の言葉に耳を傾けていると、気づけば口元を綻ばせた。誰かと好きな映画の感想を語り合うのは、はじめてだ。好きな場面は違うけど、感動したところは同じだった。
「俺、おじさんが助けに入ったところで泣いちゃいました」
「俺も。そこ、よかったよね。あと最後のシーンも」
「わかる。あれはいい画でした。背中で語る演技……俳優すげぇって思いました」
須加の眦が赤い。今にも涙をこぼしそうだ。
映画の最中に、横からふいに淡い香りがした。においに誘われて視線を向けた先に、須加は静かに涙を流していた。
薄暗闇に浮かぶ横顔、溢れ出た涙が飴玉に見えた。流れ落ちる涙の味を知りたいと思ったのはほんの一瞬だけ。自分の恐ろしい思考に気づき、冷たいお茶で口寂しさを紛らわした。
今もまだ、須加から淡い香りが漂ってくる。
「眼が赤いよ」
「えー、恥ずいから言わないで! てか、泣ける映画なら先に教えてくださいよ」
くちびるを尖らせ、慌てて濡れた眼元を擦る須加に、綾瀬は小さく笑った。紙コップはもうカラカラ。ゴミ箱に捨てるまで、ストローを嚙み続けた。
ほかの映画にも興味が湧いたのか、フライヤーコーナーを見たいと須加が言い、その横に綾瀬もなんとなしに見る。たくさんのフライヤーの中、知っている顔があった。
ドクン――胸が嫌な音を鳴らした。
綾瀬の視線が、その一枚に釘づけになった。
油断した。とっくに過去の人となった母の写真を、外で見かけることはもうないと思い込んでいた。
フライヤーに印刷された理香子の顔は、母親になる前のもので、綾瀬が覚えている姿よりも若い。
一瞬にしておぞましい記憶が蘇り、まぶたの裏が赤く染まった。喉が渇き、気道が狭くなった。息を吸うタイミングと吐くタイミングがわからなくなった。短い間隔に呼気を繰り返していると、眼前の景色が回り始めた。
――ヤバいかも!
頭が重い。身体がぐらりと揺れる感覚を覚えた次の瞬間、肩をぐっと抱き寄せられた。
「ちょっ、大丈夫ですか」
耳に馴染む声音、ほんのり甘いにおい……綾瀬は支えてくれた須加を見上げる。見据えてくる視線が強い。よく見ると、黒だと思っていた瞳が本当は茶色がかかっている。
「とりあえずあそこに座りましょう」
ロビーの椅子に腰をかけたあとも、須加は綾瀬を放してくれなかった。男ふたりが密着して座る気恥ずかしさで、綾瀬は顔を俯かせた。眼を閉じ、ゆっくり呼吸する。
「お連れの方は大丈夫ですか」
「貧血で少しぐらっとしたみたいです。すぐに落ち着くと思います」
近寄ってきたスタッフに、須加は落ち着いて応対する。
眼を閉じていると、ほかの感覚が鋭くなる。須加が喋るときに伝わってくるわずかな振動。やや高めの体温が心地いい。スキンシップは得意じゃないのに、須加なら大丈夫そうだ。心がいつの間にか須加という存在を許したと気づかされた。
ほどなくして、心音はまだ多少ざわついているが、嫌な気持ちがだいぶ薄まった。綾瀬はゆっくり上体を起こす。
「もう大丈夫ですか」
「……うん」
顔を上げると、受付から心配そうな顔を向けてくるスタッフが見えた。恥ずかしさで視線を逸らしながら、おそらく伝わらないほど小さく会釈した。須加にも、「ありがとう」と、発した声が照れくささで揺れた。
「このあとどうします? あっ、ごめん、ちょっと電話に出ます」
なにもしていないと、意識が須加のほうに向いてしまう。電話の向こうから響いてくる焦りが滲んだ声音に、須加は「え」と驚いた。
数言を交わしたあと、「わかった」と言って須加は通話を切った。
「先輩、よかったら、このあとうちに来ません?」
今度は綾瀬が「えっ」とこぼす番だった。
「おじいちゃんがギックリ腰になったらしくて、お母さんが急いで様子を見に行くって。妹がひとりになっちゃうから帰らないといけなくなりました」
「別にここで解散しても大丈夫」
「俺はもう少し先輩と一緒にいたいです」
ようやく落ち着いた心音がまたうるさくなった。
「ダメかな?」
「……」
ケーキの家に行ってはダメ。断るんだ。しかし、手首を握ってくる手を、のぞき込んでくる瞳を見ると、どうしてか断りの言葉を吐き出せなかった。
********************
お読みいただきありがとうございます。
次の更新は明日、7/18 20:00です
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「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
この変態、規格外につき。
perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。
理由は山ほどある。
高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。
身長も俺より一回り高くて、しかも――
俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ!
……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。
ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。
坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
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