19 / 21
第19話
しおりを挟む
昼休み。いつもの踊り場。場所を確保した須加の横に、綾瀬は腰をかけた。
昼ご飯はホテルのカフェテリアで買ったサンドイッチとクロワッサン。普段なら選択肢に入らない食べ物の食感が新鮮だった。
食べながら、綾瀬は朝の出来事を話した。
「先輩に頼れる友だちがいてよかったです」
「俺、いろいろ怖くてずっと自分から孤立してたけど、もう逃げないで向き合ってみたいと思った」
綾瀬は顔を前に向けたまま。声が少し震えている。
「おまえと出会えたおかげだ。ありがとう」
続きの言葉をちゃんと須加の眼を見て伝えたいのに、あまりの恥ずかしさで、結局両腕で顔を隠した。
「……好き、俺も」
たった二秒の沈黙でも長く感じる。
「先輩」
頬の火照りが引かない。綾瀬は少しだけ顔を持ち上げた。須加の頬も赤い。
「キス、していいですか」
今まで何度もくちびるを重ねてきた。それなのに今、わざわざ訊いてくる。
まるで今からする口づけは、もっとなにか特別な意味を持つもののようだ。
全力疾走したあとのような鼓動を感じながら、綾瀬はゆっくりとまぶたを下ろした。
須加の気配が、体温が、近づいてくる。
手が、大事なものを守るように頬を包んでくる。
くちびるが重なった。静謐な朝のようなキスだった。
須加の顔が離れるタイミングで、綾瀬はそっと眼を開けた。
余韻がまだ残っているくちびるを触る。今の感触を思い出すと、甘いものがうなじを痺れさせた。
「……先輩」
掠れた低音に耳朶を撫でられ、ぶるりと震えた。須加の顔が、背を伸ばせばすぐ届く距離にある。
綾瀬は自分より厚みのあるくちびるを見つめる。そこに、自分の温もりが残っているかな。
気づけば互いのくちびるが、磁石のように引き寄せられ、くっつきそうになるそのとき。
スタッ――
下階から響いてきた足音に、綾瀬と須加はピタッと動きを止めた。
「綾瀬、やっぱりここに――ッ」
見上げてきた中島が、気まずそうな表情を浮かべた。
「……邪魔した?」
片方の磁石だけ突然ひっくり返され、ふたりはその反発で弾け飛ぶ。
「そ、そ、そんなことない」
「ちょっと話したいことがあるけど、またあとで出直するよ」
「ううん。今、ぜ、ぜんぜん……」
「じゃすみませんね。すぐ済むから」
ふたりの邪魔にならないよう立ち上がった須加を、「後輩くんにも関係ある話だ」と中島は引き止めた。
「俺の親はさ、フォークとケーキなんだ」
予想外の言葉に、須加は「えっ」と素っ頓狂な声を上げた。綾瀬は静かに眼を丸くした。
「大学のときからの付き合いらしい。でもこういうのって、捕食事件みたいにテレビに取り上げられないから、言ってもなかなか信じてもらえないけど……フォークとケーキって絶対に共存できないってわけじゃないんだ」
鳩が豆鉄砲を食ったようなふたりに、中島は笑った。
「少なくとも俺の親っていう前例があるからって話をしたかっただけ。んじゃ、邪魔虫は退散しまーす」
軽い調子で片手を振り、中島は階段を下りていく。
ふたりきりになったとたん、須加が手を握ってきた。
「今日、先輩のとこに行っていいですか」
須加の体温に触れ、言葉の代わりに、綾瀬はそっとその手を握り返した。
予鈴が鳴るまで、ただ手をつないだまま、互いの体温を感じていた。
-------------------
次は明日の夜に更新します!!
エロ(挿入なし)ありです
昼ご飯はホテルのカフェテリアで買ったサンドイッチとクロワッサン。普段なら選択肢に入らない食べ物の食感が新鮮だった。
食べながら、綾瀬は朝の出来事を話した。
「先輩に頼れる友だちがいてよかったです」
「俺、いろいろ怖くてずっと自分から孤立してたけど、もう逃げないで向き合ってみたいと思った」
綾瀬は顔を前に向けたまま。声が少し震えている。
「おまえと出会えたおかげだ。ありがとう」
続きの言葉をちゃんと須加の眼を見て伝えたいのに、あまりの恥ずかしさで、結局両腕で顔を隠した。
「……好き、俺も」
たった二秒の沈黙でも長く感じる。
「先輩」
頬の火照りが引かない。綾瀬は少しだけ顔を持ち上げた。須加の頬も赤い。
「キス、していいですか」
今まで何度もくちびるを重ねてきた。それなのに今、わざわざ訊いてくる。
まるで今からする口づけは、もっとなにか特別な意味を持つもののようだ。
全力疾走したあとのような鼓動を感じながら、綾瀬はゆっくりとまぶたを下ろした。
須加の気配が、体温が、近づいてくる。
手が、大事なものを守るように頬を包んでくる。
くちびるが重なった。静謐な朝のようなキスだった。
須加の顔が離れるタイミングで、綾瀬はそっと眼を開けた。
余韻がまだ残っているくちびるを触る。今の感触を思い出すと、甘いものがうなじを痺れさせた。
「……先輩」
掠れた低音に耳朶を撫でられ、ぶるりと震えた。須加の顔が、背を伸ばせばすぐ届く距離にある。
綾瀬は自分より厚みのあるくちびるを見つめる。そこに、自分の温もりが残っているかな。
気づけば互いのくちびるが、磁石のように引き寄せられ、くっつきそうになるそのとき。
スタッ――
下階から響いてきた足音に、綾瀬と須加はピタッと動きを止めた。
「綾瀬、やっぱりここに――ッ」
見上げてきた中島が、気まずそうな表情を浮かべた。
「……邪魔した?」
片方の磁石だけ突然ひっくり返され、ふたりはその反発で弾け飛ぶ。
「そ、そ、そんなことない」
「ちょっと話したいことがあるけど、またあとで出直するよ」
「ううん。今、ぜ、ぜんぜん……」
「じゃすみませんね。すぐ済むから」
ふたりの邪魔にならないよう立ち上がった須加を、「後輩くんにも関係ある話だ」と中島は引き止めた。
「俺の親はさ、フォークとケーキなんだ」
予想外の言葉に、須加は「えっ」と素っ頓狂な声を上げた。綾瀬は静かに眼を丸くした。
「大学のときからの付き合いらしい。でもこういうのって、捕食事件みたいにテレビに取り上げられないから、言ってもなかなか信じてもらえないけど……フォークとケーキって絶対に共存できないってわけじゃないんだ」
鳩が豆鉄砲を食ったようなふたりに、中島は笑った。
「少なくとも俺の親っていう前例があるからって話をしたかっただけ。んじゃ、邪魔虫は退散しまーす」
軽い調子で片手を振り、中島は階段を下りていく。
ふたりきりになったとたん、須加が手を握ってきた。
「今日、先輩のとこに行っていいですか」
須加の体温に触れ、言葉の代わりに、綾瀬はそっとその手を握り返した。
予鈴が鳴るまで、ただ手をつないだまま、互いの体温を感じていた。
-------------------
次は明日の夜に更新します!!
エロ(挿入なし)ありです
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
この変態、規格外につき。
perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。
理由は山ほどある。
高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。
身長も俺より一回り高くて、しかも――
俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ!
……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。
ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。
坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる