【完結】近寄らないで、ひとりにして

立早うお

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第19話

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 昼休み。いつもの踊り場。場所を確保した須加の横に、綾瀬は腰をかけた。
 昼ご飯はホテルのカフェテリアで買ったサンドイッチとクロワッサン。普段なら選択肢に入らない食べ物の食感が新鮮だった。
 食べながら、綾瀬は朝の出来事を話した。
「先輩に頼れる友だちがいてよかったです」
「俺、いろいろ怖くてずっと自分から孤立してたけど、もう逃げないで向き合ってみたいと思った」
 綾瀬は顔を前に向けたまま。声が少し震えている。
「おまえと出会えたおかげだ。ありがとう」
 続きの言葉をちゃんと須加の眼を見て伝えたいのに、あまりの恥ずかしさで、結局両腕で顔を隠した。
「……好き、俺も」
 たった二秒の沈黙でも長く感じる。
「先輩」
 頬の火照りが引かない。綾瀬は少しだけ顔を持ち上げた。須加の頬も赤い。
「キス、していいですか」
 今まで何度もくちびるを重ねてきた。それなのに今、わざわざ訊いてくる。
 まるで今からする口づけは、もっとなにか特別な意味を持つもののようだ。
 全力疾走したあとのような鼓動を感じながら、綾瀬はゆっくりとまぶたを下ろした。
 須加の気配が、体温が、近づいてくる。
 手が、大事なものを守るように頬を包んでくる。
 くちびるが重なった。静謐な朝のようなキスだった。
 須加の顔が離れるタイミングで、綾瀬はそっと眼を開けた。
 余韻がまだ残っているくちびるを触る。今の感触を思い出すと、甘いものがうなじを痺れさせた。
「……先輩」
 掠れた低音に耳朶を撫でられ、ぶるりと震えた。須加の顔が、背を伸ばせばすぐ届く距離にある。
 綾瀬は自分より厚みのあるくちびるを見つめる。そこに、自分の温もりが残っているかな。
 気づけば互いのくちびるが、磁石のように引き寄せられ、くっつきそうになるそのとき。
 スタッ――
 下階から響いてきた足音に、綾瀬と須加はピタッと動きを止めた。
「綾瀬、やっぱりここに――ッ」
 見上げてきた中島が、気まずそうな表情を浮かべた。
「……邪魔した?」
 片方の磁石だけ突然ひっくり返され、ふたりはその反発で弾け飛ぶ。
「そ、そ、そんなことない」
「ちょっと話したいことがあるけど、またあとで出直するよ」
「ううん。今、ぜ、ぜんぜん……」
「じゃすみませんね。すぐ済むから」
 ふたりの邪魔にならないよう立ち上がった須加を、「後輩くんにも関係ある話だ」と中島は引き止めた。
「俺の親はさ、フォークとケーキなんだ」
 予想外の言葉に、須加は「えっ」と素っ頓狂な声を上げた。綾瀬は静かに眼を丸くした。
「大学のときからの付き合いらしい。でもこういうのって、捕食事件みたいにテレビに取り上げられないから、言ってもなかなか信じてもらえないけど……フォークとケーキって絶対に共存できないってわけじゃないんだ」
 鳩が豆鉄砲を食ったようなふたりに、中島は笑った。
「少なくとも俺の親っていう前例があるからって話をしたかっただけ。んじゃ、邪魔虫は退散しまーす」
 軽い調子で片手を振り、中島は階段を下りていく。
 ふたりきりになったとたん、須加が手を握ってきた。
「今日、先輩のとこに行っていいですか」
 須加の体温に触れ、言葉の代わりに、綾瀬はそっとその手を握り返した。
 予鈴が鳴るまで、ただ手をつないだまま、互いの体温を感じていた。


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 次は明日の夜に更新します!!
 エロ(挿入なし)ありです
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