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第三章 オアシスの魔女と悪魔四天王の魔女「暴水のアディア」

1 『アタシ達があのフィゲロアを倒した勇者一行です!』

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「着きました、ここがマレリス城です」

 ディネッシュの東大陸、砂の国【マレリス】。
 砂漠を進む事1週間……やっとのことで着いた……。
 昼の暑さと夜の寒さともにきつかったが……が! それよりベルトラ飯が1週間も続いたのが本当に地獄だった!! これで開放されるぞ!

「それでは私はあの門番に話をしてきますね」

 ネコ耳騎士が走っていく、寝癖で付いてしまったネコ耳が何故かフィゲロア戦の後どうしても寝癖が取れなくなってしまったらしい。
 エリン曰く我輩の魔力が影響してしまった可能性があるとか……この体も一部変化してしまっているしありえそうではあるが……それが本当かどうか分からないのにベルトラの奴にすごく怨まれてしまった。

「あ~~あづい~早く中に入りたい~おいしいご飯食べたい~ベッドで寝たい~」

「我輩もおいしいご飯食べたいし、ベッドで休みたいぞ」

「そうだ、勇者殿。付いて来て気になったことがあるんじゃが」

 気になったこと? 我輩何かやらかしたか?

「……何だ?」

「その我輩とか変な口調は何でじゃ?」

「え!? そんなにおかしいか?」

「……まぁ育ちもあるだろうが、今時の若者にしては違和感が……」

 何かすごい怪しそうな目で見て来る。
 いや、そんな事を言われてもこれはもはやクセなのだから治しようが――。

「どうしてですか!?」

 ん? どうしたんだ?
 何やらベルトラが門番と揉めているみたいだな。

「どうして我々は中に入れないのですか!?」

 なぬ!? 中に入れないだと!?

「マレリス以外の者はの入国を禁止しておる。これはマレリス王よりの命である、立ち去れ」

 なんじゃそりぁ!?

「ですから! 我々はアルムガム王の使者として――」

 こいつら、すました顔のまま……聞く耳は持たんという事か……。
 うお! ベルトラの奴の顔が真っ赤になっている、これは相当頭に来ている様だ。

「――っ!! ここにライリー・アルムガム3世王の書状もあります! マレリス王にお取次ぎを!」

「はぁ~……わかったわかった、その書状は預かっておく。さぁもう用事がなければ立ち去れ」

 ……これでは取り付く島もない。

「そんな! すぐにお渡しください! のんびりしていては魔王軍が……」

「王はお忙しい身だ。それに魔王軍が来ようと結界石がある、そして我々マレリス兵がこのマレリスを守る。わかったのなら早々に立ち去れ!」

 立ち去れ、立ち去れと同じ事ばかりしか言えんのかこいつ等は。

「そんな意地悪なこと言わないでよ~!」

 エリンがハエのように門番達の周りを飛び回っている……。

「ええい! 鬱陶しい!! 何度も言わせるな――!?」

「おい、こいつ宙に浮いているぞ!! 悪魔か!?」

 げっ! 槍を構え出した! こっちまで火の粉が飛んできてはたまらん!

「ちょっとまってくれ! 確かに宙を浮いておるが背中の羽を見ろ、そいつは精霊で無害だ!」

「……精霊だと? ……なるほどな。おい、構えをとけ」

「しかし精霊だからといって……」

「かまわん」

「……はぁ……」

 良かった、何とか収まったみたいだ。

「アルムガムでフィゲロアを倒したという勇者一行とは貴様等の事だったのか」」

 ふむ、もう話が伝わっているのか以外に早いな。
 人の伝達でこれだとベルトラの言っていたように他の悪魔達が動き出すのも時間の問題やもしれぬ。

「そう! アタシ達があのフィゲロアを倒した勇者一行です! エッヘン!」

 ……貴様は基本、剣の中にいて威張る事ではない気がするのだが。

「だらか中に入れてよ!」

 だからの意味がわからん。

「フィゲロアを倒した勇者一行だろうが、それとこれとは話は別だ。入国は許さぬ! マレリス王の命は絶対であるからな」

 なんだこいつ等……。

「そ~ん~な~!」

「貴様等、いい加減にしないと――」

 また槍を、こいつ等悪魔より血の気多すぎやしないか?

「そんな槍なんて怖くないぞ!! このエリン様の魔法で――」

 はぁ……これ以上言い争っていても埒が明かんな。
 エリンをいい加減止めるか。

「こらエリン、落ち着くのだ! どうどう」

「うが~! デール放してよ!! こいつらに一発お見舞を!!」

「エリン、私も加勢を――」

「するな!」

 ああ! どいつもこいつも!!

「2人ともいい加減にせんか!!」

「あだっ!」
「ぎゃふっ!」

 爺さんのゲンコツは実に痛い……身をもって体感しているからな。

「ふぅ……みっともない所を見せてすまんな。マレリス王のお許しが出るまでここは引くが書状の事はたのんじゃぞ」

「……ふん」

 本当に渡すんだろうかこいつ等は。

「ここに入れないとなると近くに他に町や村はないのかね? ワシらはこのあたりの土地には詳しくないからな、ここに来るまでは何もなかったんじゃが」

 そうだ! 近くに町か村がなかったら野宿なのか!? 目の前に町があるのに!? そんな馬鹿げた話があってたまるか!!
 そもそも野宿になったらベルトラ飯が……それはもういやだぁあああああ!!

「ないのか!? なぁないのか!? おい!!」

 頼むあってくれ!!

「ちっ、うるさい奴らだな……ああ、そうだ、ここから東に行けば小さなオアシスがある。そこに住む者が――」

「あの、あそこは――」

「いいからお前は黙っていろ、そこに住む者がいるからたずねてみろ。……泊めてくれるどうかはわからんがな」

 何か引っかかるが野宿とベルトラ飯さえ開放されれば文句はない。

「みなどうする?」

「はぁ……もう休めるならどこでもいいよ~」

「……あれじゃどうしようもないですしね」

 ベルトラ、その眼で睨むな睨むな、またいざこざがおきてはたまらん。

「他に当てはないんじゃし行ってみるかの」

 満一致でオアシスか……すぐに着けばいいが。

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「……あ、あの……いいのですか? あのオアシスは魔女が……」

「ほっとけ、ほっとけ。どうなろうと俺らには関係ない事だ、何より変わり者同士で気があうかも知れんぞ? グハハハ」

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「ん~? オアシスに魔女?」

「オアシスに魔女だと? なんだそれは?」

 エリンの奴いきなりなにを言い出すのだ。

「わかんない、あの門番たちがさっきそう言ってた」

「言ってたって……え!? 結構離れているのに声が聞こえたのか!?」

「うん、なんか気になって聞いていた。普段は他の雑音も混じって聞こえないけど意識してやればこのくらいの距離だったら聞こえるよ」

 となると前の下級悪魔との会話は聞こえていた可能性もあったのか、危なかった……。
 もう奴らとの会話はないだろうが我輩のプライベートな事を聞かれてはたまらぬ、以後気をつけなければな……しかし――。

「オアシスの魔女……か、何やらいやな予感がする……」
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