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第七章 とある天使の昔話

5 『……やっぱりお前は脳筋だな』

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「……さて、シルバの魔力を私によこすんだ」

 あれほどの実力を隠していたんだ、魔力も高かったはず……ん? 何故だ、シルバの魔力が流れてこない?

「おい、どうした? 一向に魔力が流れてこないぞ?」

『それはそうです、斬りつけただけでは魔力を吸収は出来ません。刃を長く対象に触れていないと魔力を吸収出来ませんよ?」

 出来ませんよって……は? なんだそれは!? 初耳だぞ、それ!

「ちょっと待て、何故そんな大事な話もっと早く言わなかった!?」

『え? 何故と言いましても今まで突きをメインにして戦っておられたのでご存知なのかと……』

 そんなわけないだろう!! そんな戦い方をしていたのはたまたまだよ!

「お前を拾ってたった1日、それにお前の資料も存在していない、そんな状態で私が能力について全て知れるわけがないだろう!!」

『あ、それもそうですね、申し訳ありません。以後気をつけます』

 もうそんな以後はないと思うぞ!?

「――! ああ、もういい!」 

 くそ!! シルバの魔力を奪えなかったのはもったいなかった、まだ生きているかな? シルバはどの辺りに落ちたか――。

「そこまでだ、エリンよ!」

 チッ、ベデワルの奴、シルバとの戦いで感付いて出て来たか。それはそうか、あんなに派手にやりあってれば感付かない方がおかしいよな……。

「貴様、一体何をしている!?」

 興奮すると大声を出すからな、うるさい奴め。
 
「何故シルバを斬った!?」

 こいつも何故斬った、か。同じ質問ばかりされるな。

「おい、聞いているのか!?」

 この口うるさいベデワルの魔力は相当だ、吸収出来ればかなり強くなれるはず。
 シルバの魔力は手に入らなかったが、この筋肉ダルマに対しては簡単に魔力吸収出来るだろう。

「……クス、これが答えだよ、ベデワル……。――はぁ!!」

 それも真正面から、な。

「む!? ――エリンよ、我に剣を向けるか! 何と愚かな!!」

 構えを取るつもりもなしか、やはり避ける気はなく自慢の肉体で受ける気だな。

「ふん!! ……なんともぬるい突きだな、所詮その程度か」

 ほらな……やはり無駄な筋肉で止めてきた、だが思ったより刺さらなかったな……そこはさすがというべきか。

「そんな剣如きに貫かれる我の肉体ではないわ、この愚か者が!!」

「クスクス……やっぱりお前は脳筋だな」

 そしてお前が愚か者だ。

「ふん、何戯言を言って――なっ!? 我の魔力が……吸い取られてされている、だと!?」

「……別に貫けられなくてもいいんだ、少しでも剣先が刺さればそれでな。これはそういう魔剣なんだよ……相手の能力が何も分からないにも関らずに受け止めるとは……己を過信しすぎたな」

「きっ貴様、一体何を!? ぐああああああああああああああ!! ……あ、ああ……かはっ……」

 ジェイは不意を付いた、シルバは辛うじてだった、それに比べて隊長とあろう者が何ともあっ気ない最後だろうか……おかげで簡単に魔力を得られたがな。

「私からの助言です。そういった軽率な行動は身を滅ぼすだけですよ? た、い、ちょ、う? ――ああ、もう聞こえていませんか。今までお世話になりました、クキャキャキャキャ!!」

 3人目の落ちる天使……いや、こんな事を数えても仕方ないか、今日は全ての天使が地に落ちるのを見るだろうしな。

「隊長が落ちたぞ!」
「一体どうしたんだ!? 早く隊長の元へ!」
「急ぎ救護隊を呼ぶんだ!!」

 よし、他の天使達は地に落ちたベデワルに群がっているな。

「ベデワル隊長!! 大丈夫で――そっそんな、息をしていない……」

「何だと!? 隊長の身に何が!?」

「分からん……くっ救護隊はまだなのか!?」

 邪魔の入らない今のうちにベデワルの魔力を――。

「アブソーヘイズ! 魔力を私によこせ!」

『了解』

 おお、すごい! ジェイと比べ物にならないほどの魔力が体の中に流れてくる!
 これなら出来るかもしれない――。

「救護隊です! 診せてください!」

 ん? 今頃救護隊が来たのか。今更来てももう遅いが、いや来ても無駄、無意味だ。

「隊長は? 隊長はどうなんだ!? 助かるのか!?」

「……駄目です。どんな方法を使ったのか分かりませんがもはや生命力が尽きています……ベデワル隊長はもう……」

 それはそうだ、魔力を……生命を全て吸収したのだからな。

「くそっ!! おのれ、エリン!! 皆、隊長の敵を――は? なん、で……エリンが……エリンが……」

「「「「「クキャキャキャキャ! 皆、どういた? そんなびっくりした顔をして……」」」」」

「なんでエリンが5人もいるんだ!?」

 さすが天使騎士隊長様だ、思ったとおり私の分身も多く具現化させることが出来た!
 となればここにいる雑魚共の魔力を吸収しつつ大天使の魔力も狙えば……自分だけの最強の部隊が出来る、アブソーヘイズ……なんて素晴らしい剣だ、まさに私の為だけに存在する神器だ!!



「ぐあっ!!」

 弱い。

「ぎゃっ!」

 弱すぎる。

「私が強くなりすぎたもあるが、こうもあっ気ないとは。他の隊長クラスの奴等も私の敵ではなかった」

 さて、そろそろ一番の標的が動き出すと思うのだが。

「そこまでじゃ小娘!!」

 黄金に輝く羽根を生やした初老の男……大天使リカルド、ちょうどいいタイミングで出て来たな。

「これはこれは、大天使リカルド様……」

 この天界で一番の権力と力を持つ者、こいつを倒せば天界は完全に私の物になる。

「リカルド様自ら私に魔力を渡すために出てきてくれるとは助かります、行け【私】よ!」

 魔力吸収のおかげでどの分身の魔力も私とほぼ同じ、まさに4人の【私】だ。

「「「「リカルド! 覚悟!!」」」」

 いくらリカルドでも4人の【私】を倒す事なぞ不可能!!

「本人は攻撃せず、分身にまかせるか……ワシもなめられたものじゃな、すぅ~……喝!!」

「「「「なっ!? ぎゃあああああ!!」」」」

 今ので前にいた2体の分身が消し飛んだと!? 一体何が――。

「言葉に魔力をこめただけで吹き飛ぶとは、やわいもんじゃな」

 くっ何という芸当を……さすがは大天使、今までとは比べ物にならないほど強い。

「さぁ! 動ける者は傷ついた者を連れワシの元へ集まるのじゃ!! そして共にあの逆賊を討つのじゃ!!」

《おおーー!!》

「チッ!!」

 これは厄介だな、だが今ので勝機は生まれた。
 しかしすぐに実行は無理だ、ここはある程度耐えればならないか……踏ん張りどころだな。
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