ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~

コル

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第3章 あの時の冒険者

第26話

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 お昼頃、食堂の片づけをしていると、閉まっていた扉からカチャリと鍵が開く音がした。
 扉の方を見ると、カーテンに映っている人の影が1つ。

『帰ってきたか? とはいえ、一応念の為に隠れておくか』

 俺は厨房の影に隠れ、入り口の方を見る。

「ただいまっス~」

「た……ただ……い……ま……うう……」

 入ってきたのはコヨミと、その背中で青白い顔をしたミュラだった。
 よっぽどコヨミとの道中がきつかったらしい。

「メイン、ちゃんと買えたっスよ」

 ぐったりしたミュラを椅子に座らせ、コヨミは袋を開けて買って来た物を俺に見せた。
 中には氷の器に包まれた、牛のひき肉入っていた。

「……うん これで いけるぞ」

「良かったっス。ところで……スンスン……その鍋の中身はトマトジュースっスか?」

 コヨミがトマトケチャップの入った鍋を覗き込む。

「それ トマト ケチャップ。ソースとして かける」

「えっ? これソースっスか? へぇ~……ちょっと、味見してもいいっスか?」

「いいぞ」

「……へっ……あじみ……? なになに? ミュラも! ミュラも!」

 ぐったりとしていたミュラが椅子から飛び降り、こちらに走って来た。
 味見と聞くなり、急に元気になるとは……。
 スプーンで2人分のケチャップをすくい、2人に渡した。

「あむ……わ~! トマトのあまずっぱさがこくておいしい!」

「はむ…………トマトの甘さと酸味とコクが出ているっス、それにこのスパイス感もいいっスね。これならヒンビーゲにも合うと思うっス」

  よしよし、2人の反応を見る限りケチャップに問題なさそうだな。

「そうだ コヨミ。あの パン 貰って いいか?」

「ん? いいっスけど、それ時間がたってカチカチっスよ?」

「むしろ それが いい」

「??」

 不思議そうな顔をするコヨミを横目に、俺はすり鉢の中にパンを千切って入れた。
 そして、すりこぎ棒を回して細かく砕いた。

「……これで パン粉 完成」

「パン粉……これをヒンビーゲに使うっスか?」

 それを聞くという事は、こっちの世界では入れない様だな。
 だとすれば、これは余計な事かもしれないが……。

「ああ そうだ」

 だが、俺はこの作り方でしか知らないから、このままいくしかない。

「2人共 簡単に 作り方 説明 する」

「え? ミュラも?」

 ミュラの言葉に俺は頷いた。
 そう、これはミュラにしか出来ない事だからな。

「そうだ。手伝い 頼めるか?」

「うん! ミュラ、がんばる!」

「ウチも頑張るっスよ!」

「「「おー!」」」

 俺達3人は同時に右手を上げた。



 日が落ちるころ、言葉通りケンタウロスのノルンが食堂にやって来た。

「約束通り……来ましたよ」

 ノルンは不機嫌そうな顔をしている。
 今から料理を食べるというのに、そんな顔をするのは止めてくれよ。

「いらっしゃいっス。さっ、こちらにどうぞっス」

 そんなノルンの様子も気にせず、コヨミは笑顔で席へと案内した。

「…………」

 ノルンは無言のまま席のまで行き、敷いてあった布のマットの上に座った。
 馬の下半身だから、普通の椅子に座れないのはわかるが……あれはあまり見栄えが良くないよな。

「さっ! 調理開始っス!」

 厨房に戻って来たコヨミが腕まくりをする。

「お~!」

 ミュラも真似て腕まくりをした。

 さあ、勝負の時だ。


 まずは、下ごしらえ。
 玉ねぎ4分の1をみじん切りにする。
 切った玉ねぎをフライパンにいれて、しんなりするまで炒める。
 炒め終わったら、器に移し粗熱をとっておく。

 次に器に作ったパン粉を大さじ4杯、牛乳大さじ2杯を混ぜてふやかしておく。

 下ごしらえが終わったらメインだ。
 深皿に牛のひき肉300g、ふやかしたパン粉、玉ねぎ、塩こしょう少々、卵1個。
 そして、ローリエ同様に食料保存庫で発見した物の1つ、ナツメグを小さじ2分の1を入れる。

「これで よし。ミュラ 説明した 通り 頼む」

「うん! ミュラにまかせて!」

 ミュラが深皿に手を入れて、牛のひき肉をこね始めた。

「えっ! その子が混ぜるんですか!? 粘土遊びじゃないんですよ!?」

 その光景を見たノルンが驚きの声をあげた。

「ふふ~ん、知らないっスか? この作業は、ミュラちゃんがするとおいしくなるっスよ~」

 コヨミがノルンに向かって、悪戯っぽく笑い片目を閉じた。

「はあ?」

 ノルンは訳が分からないと言った顔をするが、気にせず俺達は作業を続けた。
 コヨミが言っている事は正しい。
 肉を温めない事がジューシーさを生み出す秘訣なのだ。
 手の熱ですら肉の脂が溶け出て、微妙に味が変わってくる。
 その為、こういう時は使う道具と手を冷やしたり、ゴムベラやしゃもじを使って出来る限り熱に触れない様に混ぜる。

 そこで活躍するのがミュラだ。
 氷魔法で冷やしつつ、肉をこねる事が出来る。
 これなら旨い物が出来るだろう。

「よいしょっ、よいしょっ、よいしょっ……ふう~、こんなかんじでどう?」

「それどれ……」

 しっかり粘り気がでるまでこねられているな。
 これなら、次の作業に移ってもいいだろう。

 こねた肉を半分に分けて、片方を手に持つ。
 そして、両手でキャッチボールする様に投げて中の空気を抜く。
 中に空気が残っていると、熱によって空気が膨張して形が崩れてしまうからな。
 空気抜きが出来たら、小判形に成形して中心を軽くへこませる。
 残った肉も同じように成形すれば準備万端。

 フライパンに油を引いて熱して、そこに小判形にした肉を置いて中火で焼いていく。
 軽く焼き色がつくまで焼けたら、裏返してまた軽く焼く。
 両面に焼き目が付いたら、水50mlを入れてから蓋をして蒸し焼きにする。
 中まで火が通ったかは串を刺して、出て来た肉汁が透明になっていれば大丈夫だ。

 最後はフライパンに残った肉汁にケチャップを入れてかき混ぜ、ひと煮立ちさせてソースにする。

 皿の上に焼いた肉を置き、ソースをかければ……。

『ハンバーグの完成だ』

 そうヒンビーゲとは、俺達の世界でいうハンバーグだ。
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