ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~

コル

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第3章 あの時の冒険者

第27話

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 コヨミはハンバーグ……もとい、ヒンビーゲを乗せた皿を手にしてノルンの席まで持って行く。

「お待たせしましたっス」

 ヒンビーゲをテーブルの上に置くと、それを見たノルンが少し驚いた様子で口を開いた。

「これ……ヒンビーゲ……ですよね……?」

「そうっスよ? 何か問題でもあるっスか?」

 ノルンの質問に、コヨミはニコリと笑いながら答えた。

「……まさか、こんなまともな料理が出て来るなんて…………」

 ノルンの口から心の声が漏れ出てしまっている。
 まあそうだよな……この食堂だと、そう思ってしまうのは仕方ないよ。

「ん~? 何か言ったっスか~?」

 明らかに聞こえていたはずなのに、コヨミは笑顔のまま質問をする。
 その笑顔が非常に怖い。

「え? あっ……いや、なんでもないです!」

 ノルンもそれを察したのか、慌ててフォークとナイフを手に持つ。
 しかし、ヒンビーゲをもう一度見てピタリと止まった。

「? どうしたっスか?」

「こ、このソース……草じゃないですよね……?」

 いやいや、何で草が……ああ、そうか。
 こっちのトマトは、赤色から緑色へと変化するからな。
 いつものコヨミ特性スープの材料を使っていると思ってしまったのか。

「だから草じゃないっス! 薬草っス! というか、それはトマトケチャップ……トマトを使ったソースっスよ!」

「トマト……ケチャップ……? トマトのスープなら飲んだ事ありますけど、ソースって……本当に美味しいんですか?」

 すごい疑って来るな。
 とはいえ、コヨミとの付き合いも長そうだし、そうなっても仕方ない気もする。

「もう! 美味しいかどうか、さっさと食べてみればわかるっスよ! ほら!」

「…………わかりました」

 催促するコヨミに、ノルンがナイフでヒンビーゲを切り分ける。
 そして、一切れをフォークで刺して恐る恐る口元へ持って行った。

「――っ! パク!」

 一瞬躊躇したが、意を決したようにヒンビーゲを口の中へと入れる。

「……モグモグ…………んんっ!?」

 ノルンは目を見開き、驚きの声をあげた。

「ゴクンッ……! おっおいしい! 肉汁がとてもジューシーだわ!」

 すぐさま、もう一切れフォークで刺して口に入れる。

「モグモグ……それに……この肉の味……もしかして……」

「そうっス。ノルンが生まれた地方の牛肉を使ったっス」

「やっぱり! ああ、懐かしい味だわ……はむっ……モグモグ……トマトのソースも……肉とすごく合う……」

 ノルンの手と口が止まらない。

「うまのおねぇちゃん、おいしいそうにたべてるね」

「そう だな」

 あの感じ、結果を期待してもいいのではないだろうか。
 その後、ものの3分ほどでノルンはヒンビーゲを食べきってしまった。

「ふぅ……」

 ノルンは一息つき、コップに入った水をゆっくりと飲む。

「で? ノルンの判定はどうっスか?」

 コヨミの言葉に、ノルンは少し眉を寄せた。
 しかし、ため息が出ると同時に緩ませた。

「はあ…………まさか、これほどの物を作るとは思いもしませんでしたよ……これは、嘘をつけません……悔しいけど、認めましょう……すごくおいしかったです」

 その言葉にで俺はガッツポーズを取り、ミュラは飛び跳ね、コヨミは尻尾をブンブンと激しく動いた。

「約束通り、この件に関して私はもう何も言いません。ただし、その子……ミュラちゃんが、ここで保護されて住んでいる事は、冒険者ギルドに報告させていただきます。みんな心配していますからね……」

 それを聞いたコヨミが俺の方を見る。
 俺はすぐに大丈夫だと頷いた。
 ミュラの為に動いてくれた人たちを、ないがしろにしてはいけないものな。

「それは全然問題ないっスよ」

「わかりました、では後で報告を……」

 ……と、2人が話している間にく~と音がした。
 その音がした方を見ると、ミュラが恥ずかしそうにお腹を擦っている。

「あはは……ヒンビーゲ、おいしそうだったから……おなかがなっちゃった」

 食いしん坊のミュラにとっては見ているのは辛いよな。
 だが、そこに関して問題ない。

「この もう1個 ミュラ 食べる」

 ヒンビーゲは2個作ってある。
 あと1個が余っているわけだ。

「え? いいの!?」

 ミュラが交互に俺とコヨミの顔を見る。
 元々この1個は、ミュラに食べさすつもりだったから何も問題ない。

「いいぞ」

「うん、ミュラちゃんが食べていいっスよ」

「わ~い! それじゃあ……って、あれ? ふたりのぶんは?」

「材料の量 2個分しか 作れない」

「え? そうだっの?」

「ウチ等の事は気にせず、食べるっスよ」

「……」

 ミュラはヒンビーゲをじっと見つめた。

「……わかった」

 そして、ヒンビーゲをナイフで切り始めた。

「こうして……こうすれば…………みんなで、たべれるよ!」

 皿の上に置かれたヒンビーゲが、3等分に切り分けられていた。

「さんにんでつくったから、さんにんでたべよ!」

 ニコリとミュラが笑う。
 一瞬呆気に取られていたコヨミだったが、すぐさま厨房の方へと来てフォークを手にした。

「そうっスね、みんなで食べるっス!」

 コヨミが一切れのヒンビーゲにフォークを刺した。

「……ああ そうだな」

 俺もフォークを手に持ち、ヒンビーゲに刺した。

「じゃあこれが、ミュラのぶ~ん!」

 ミュラもヒンビーゲにフォークを刺した。

「「「あ~んっ!」」」

 俺達は同時に、ヒンビーゲを口の中へと入れる。

「もぐもぐ……ん~! おにくおいひ~!」

「モグモグ……ふぁ~……トマトケチャップの酸味が、肉の味を引き立ててるっスね! これはたまらないっスね!」

 ああ、まさかこの世界でハンバーグを食べれる日が来るなんて思いもしなかった。
 涙が出そうだ。

「……ふふっ」

 俺達3人を見ていたノルンが微笑みをこぼした。

「ゴクッン……どうしたっスか? ウチらおかしなことしてたっスか?」

「いいえ、何も……さて、それでは今日はこれで帰りますね」

 ノルンが立ち上がり、入り口へと向かう。

「あっうまのおねぇちゃん! あのときたすけてくれて、ありがとう!」

 ミュラはノルンにペコリと頭を下げる。
 その言葉にノルンが立ち止まった。
 そして、優しい笑顔でミュラに視線を向ける。

「……今日はごちそう様でした、本当においしかったです。また、ヒンビーゲを作ってくださいね」

 そう言うと、静かに食堂から出て行った。
 ノルンの後ろ姿はどこか満足そうにみえる。

「「「やったああ!」」」

 その姿をみて、俺達は思わず声を上げて同時に手を出しあう。
 パシンッと心地よい音が食堂に響き渡った。
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