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6章 二人の戦闘と取逃

レインの書~取逃・4~

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 マレスを出て、少し歩くと石で出来た大きな神殿があった。
 他に建物は……ない。
 となると、ここが魔術研究の施設でいいのかな。

「……施設の中は暗いわね」

 入り口から中を覗いて見ると、真っ暗ではないもののかなり暗い。
 どうも、ほとんどの窓が瓦礫に埋もれてしまっているっぽい。
 ジョシュアが言っていた、モンスターが暴れたせいかもしれないわね。

「だねー。じゃあボクはこの辺りを調べるから、その間にレインは明かりを用意して」

 そう言ってジョシュアは身を低くして入り口周辺を調べ始めた。
 こういう事はジョシュアに任せて、アタシはランプに火を入れよう。
 今のアタシが出来る事と言えばそのくらいだしね。

「………………ビンゴかも」

 ジョシュアの一言で思わず作業の手が止まってしまった。

「いるの? この中に……」

 ジョシュアは静かに立ち上がり、アタシの傍へと寄って来た。

「デュラハンと断定は出来ないけれどね……ただ、施設の中に入って行ったと思われる新しい足跡が3人分あった。中がどうなっているかわからないけど、少なくともこの入り口から外に出た足跡は無かったよ」

 3人組がこの施設の中に入っている。
 ジョシュアの言う通り、その3人組がデュラハンだとは言い切れない。
 だけど……。

「……入りましょう」

 アタシはランプに火を付け、いつでもメイスを抜ける様に右手で持ち手を強く握りしめた。
 この中にデュラハンはいる。
 何故かアタシはそう感じ、ジョシュアと共に施設の中へと入って行った。



 施設の中は思った以上に暗いわね。
 やはり、窓は全て瓦礫に埋もれている。
 こんな事をする意味があるとすれば、日の光に弱いという事よね。
 ただ、それを考えるとどうして日が沈んだ夜でも外に出ないのかが不思議だ。
 他にも何か理由があるのかしら。

 ――ガシャーン!

 何かが落ちた様な音。

 ――ガキーン!

 金属が叩かれた様な音。

「キャッ! ――うギャッア!」

 そして、女性の声が施設内に響き渡って来た。

「――っ! ジョシュア!」

「うん!」

 即座にランプをジョシュアに渡し、受け取ったジョシュアは駆け出した。
 アタシも遅れない様にその後を追いかけた。

「あ、分かれ道……えーと……」

 T字路に差し掛かった時、ジョシュアは走る速度を落とした。

「……右……右の方から誰か走っている音がする!」

 こういう時に探知能力の高いジョシュアは非常に頼もしい。
 普段からもこんな感じで頼もしければいいんだけどな……まぁそれは置いといて、随分と施設の奥へと向かっているわね。
 一体何があったのかしら。

「……ん? ストップ!」

 掛け声と共にジョシュアの足が止まった。
 アタシも足を止め警戒態勢に入る。

「この先でドアの開ける音と閉まる音がした。多分、どこかの部屋の中に入ったんだと思う」

 部屋の中に入ったのか。
 奇襲を仕掛けてくる可能もあるし、十分注意していかないと。

「わかった。ゆっくりと静かに進みましょう」

 今度はアタシがジョシュアの前に出て、辺りを警戒しつつ通路を進んだ。

《――》

「ん?」

 今人の様な声が聞こえた気がしたけど……。

「レイン、ここだよ」

 ジョシュアが小声で部屋の前に向かって行った。
 ……その部屋にデュラハンがいるかもしれないのか。

「……覗いてみましょう」

 ゆっくりと、音を立てない様に扉を少し開けて覗き込んだ

「――っ!」

 部屋の中に居たのはプレートアーマーを着た人物、そして腰位まで伸びた黒髪の少女。
 ラティアちゃんの姿は見えないけど、あのアーメットの凹み……間違いない! デュラハンだ!
 その姿を見た瞬間頭に血が上ってしまったのか、自分でもよくわからない行動をとってしまった。
 アタシはメイスを思いっきり振り上げ――。

「ん? レ、レイン? 一体何を……」

 扉へと振り下ろして盛大に破壊。

「ちょっ!?」

「やっと見つけたわよ!!」

 そして、のども張り裂けんばかりの叫び声を上げていた。
 普通こんな事をすれば敵に自分の存在がバレて不利になるだけ。
 けど、今の行動でなんかすっきりできたのでこれはこれで良し!

「もう逃がさないわよ! デュラハン!!」

 部屋の中に入ると、目の前には剣を握ったデュラハンがこっちを見ている。
 ふふ、やる気満々のようね。
 当然アタシも全力で……。

「ん?」

 机の上に誰かが寝ている。
 あの紫の髪は……ラティアちゃん? どうして机の上に寝かされて……待てよ。
 机の上に寝かされた女性、そして剣を握ったデュラハン……そうか! この状況から考えられる事は1つしかない!

「デュラハン! ラティアちゃんを儀式の生贄にしようとしているわね! そんな事はさせないわよ!!」

 まさに間一髪。
 こうなると、ラティアちゃんを救出する方が優先だわ。
 人質にしたり、前みたいに操ってラティアちゃんを盾にするかもしれないからね。
 アタシが注意を引き付けて、その間にジョシュアにラティアちゃんを救出させよう。
 これは失敗できないわね。
 さっきみたいに熱くならず、冷静に……。

「ねぇ~? あの小娘って帰ったんじゃなかったの?」

 んなっ!

「こっ小娘ですって!?」

 何を言っているのよ!
 どう見ても、貴女の方が小娘でしょうに!
 小娘に小娘なんて言われたくないないわ!

「レイン、落ち着いて! 深呼吸だよ、深呼吸!」

 ジョシュアが後ろから声を掛けて来た。
 そうだ、今は冷静にならなくちゃいけない。

「そっそうね……す~は~す~は~……」

 落ち着け。
 落ち着くのよ。

「す~は~す~は~……よしっ!」

 深呼吸を終え、デュラハンを睨みつけた。
 さあ、アタシと一緒に舞ってもらうわよ!

「はあああああああああああああああああ!!」

 地面を強く蹴り、デュラハンに向かって走り出した。
 そして自分の間合いに入った瞬間、メイスを振り上げた。
 食らいなさい!

「――っ危ない!!」

 背後からジョシュアの叫び声が聞こえた。

「えっ?」

 その言葉にアタシは一瞬動きを止めてしまった。
 と同時に、上からアタシとデュラハンの間に何かが落ちて来た。

「シャーーーーーー!」

 人? ……いや、違う! こいつはモンスターだ!
 もしかして、こいつが施設内で暴れたモンスター!?

「シャアアアアアアアアアアアアア!!」

 モンスターは大きな叫び声をあげ、両手のハサミで床を殴った。
 すると床にヒビが入り、アタシの足元が崩れ落ちてしまった。

「えっ――! きゃああああああああああああああああああ!」

 とっさの事で動きが鈍っていた事もあり、逃げ遅れたアタシは崩落に巻き込まれ落下してしまった。
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