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9章 二人の航海

レインの書~航海・4~

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「え~と……その……なんというか……」

 どうしよう。
 なんてアイリスさんに声を掛ければいいのかわからない。
 「また凹んじゃいましたね」?
 「ドンマイです!」?
 「ご愁傷様です」?
 ……ん~どれもこれも違う気がするな。
 なら、何も言わない方が正解なのでは?
 そういった事を考えていると、アイリスさんが突然アーメットを外し走り出した。

「……へっ?」

 アタシは一瞬何が起こったのかわからず呆気にとらわれてしまった。
 アイリスさんの止まった場所は船の手すり。
 そしてアイリスさんは海に向かって頭を出した。
 これって、まさか……。

「オロロロ~」

 アイリスさんの胃の中の物が海に向かって発射された。
 ……予想的中。
 これは完全に船酔いをしている様子だ。

「あ~なるほど……ずっと無口だったのは船酔いをしていたせいだったんですね」

 ジョシュアもこんな状態だからすごく理解が出来るわ。
 アタシはアイリスさんの傍に寄って行って背中をさすった。
 って、アタシは何をやっているのよ。
 鎧の部分をさすっても意味が……ん……?
 まただ、アイリスさんの右手を握った時とはまた違った違和感を感じる。
 一体この違和感はなんだろう? アタシはその違和感を確かめる為、意味も無い事をわかりつつも鎧をそのままさすり続けた。

「……あウ……うッ……オロロロ~」

 にしても症状が酷い状態ね。
 ジョシュア並みかそれ以上に見えるわ。

「それにしても、よくもまあこんな状態なのにあれだけ動けましたね……」

 ジョシュアなんて動けるどころか起き上がれもしな……そうよ、こんな酷い状態の動けるのも立っていられるのもあまりにもおかしすぎる。
 アイリスさんの状態、鎧の違和感。
 まさかとは思うけど、ちょっとふさぶりをかけてみるか。

「今といい高熱を出した時といい……まるで鎧に意思があって、アイリスさんとは別に動いている様だわ」

『――ッ!』

 ……反応あり。
 今一瞬、アタシの言葉にピクっと動いた。
 アイリスさんじゃなくて鎧の方・・・が……ね。
 これが今まで感じていた違和感の正体か。
 まさか鎧に意識があるって思いもしなかったわ。
 こんなタイプのモンスターはアタシの記憶にないけど新種のかしら。
 となると、アイリスさんもモンスター?
 いや、その可能性も考えられるけどアイリスさんを看病していた時にモンスターの様な感じはしなかった。
 となれば……。

「なんて、そんな馬鹿な事があるわけないか。高熱を出した時は自覚してない感じだったし、今回もクラーケンを相手にして船酔いどころじゃなかったものね」

 という感じで、今は誤魔化しておこう。
 アイリスさんが人間なら人質、もしくは鎧に寄生をされているのが考えられる。
 なら、今詰め寄ると鎧のモンスターが何をしてくるかわからない。
 知識も無い上にここは船の上だ。
 下手に動かない方が得策だわ。
 それにどういう意図があったのかはわからないけど、船の為にアタシと一緒に戦ってくれた事も事実。
 ちゃんと見極めた方が良いわ。

「オロロロロ~」

 この状態のアイリスさんに詰め寄るのも可哀想すぎるしね……。

「えと……部屋に戻りますか? それともここに……」

「オロロロロ~……」

 駄目だ、アタシの声が届いているように見えない。
 おまけに鎧の方も動く気はないようだ。

「……今は動かさない方が良さそうですね……」

 仕方ないな~。
 結局アタシはアイリスさんが落ち着くまで傍につく羽目になった。



「…………」

 その後、多少落ち付いたアイリスさんを部屋の前まで送り届け、自分の部屋へと戻った。
 部屋の中に入ったアタシは悲惨な光景を目にして絶句をしてしまった。
 床の上にはぐちゃぐちゃに散らばった荷物と布団。
 そして、白目を向き気絶しているジョシュアが転がっていた。



 ◇◆◇◆

 アイリスさん達との部屋が近い事もあり、航海の間ずっと監視をしていたがあれ以降部屋から全く出てくる気配は無かった。
 となれば、こうして先に船から降りてアイリスさん達の動くを待つしかない。
 アタシ達が船から降り、しばらくすると背中に1人背負っている状態でアイリスさんが船から降りてきた。

「……え? あれは誰かしら」

 今までアイリスさんは1人……鎧を数に入れるなら2人か。
 どっちにしろ1人増えているのはおかしい。
 ブカブカのローブに深々とフード被っているせいで男女の区別も出来ないわね。
 ただサイズ的にだいぶと小柄だからアイリスさんではないわ……となると子供?
 どうして子供を連れているのかしら……う~ん、ますます鎧のモンスターの目的がわからない。

 アイリスさんは辺りを見わたし、近くにあった木の箱の上に子供? を寝かせて腰を下ろした。
 あれは完全に一休み入っているわね。
 丁度良かった、こっちもジョシュアが居るからその時間はありがたい。



 1時間ほどたっただろうか。
 ローブを羽織った子供が元気になり、アイリスさん達は何処かに向かって歩き出した。

「動き出した! アタシ達も行くわよ!」

「……え? ……あ、うん……わかった……よいしょ……」

 ふらつきながらもジョシュアが立ち上がる。
 ん~まだ回復しきってないみたいね。

「あ~も~仕方ないわね!」

 アタシはまだ弱っているジョシュアに肩を貸し、後をついて行った。
 ついた場所は馬車乗り場で、アイリさん達は1台の馬車へと乗り込んだ。
 まずいわね……このままだと見失っちゃうわ。
 だからと言って、あの馬車に乗り込むとアイリスさん達に見つかってしまって尾行の意味がない。

「どうしたものか……あっそうか!」

 アタシは急いで自分とジョシュアの仮面を外した。

「ふえ? ……なっなに? これ外しちゃっていいの?」

「いいの! で、早くこれを羽織って!」

 道具袋に仮面を突っ込み、フード付きマントを取り出しジョシュアに渡した。
 そう、ここは北の大陸……アタシ達の顔を知っている人はほぼいないだろう。
 だから仮面を外しても何の問題も無い。
 認知されている仮面を外してしまえば、アイリスさん達にバレる心配もなく馬車に乗り込める。
 我ながらいいアイディアを思いついたものだ。

「けど、念の為にフードで頭全体を隠して……これでよし! ほら、ジョシュア早くあの馬車に乗るわよ!」

「あっ……ちょっちょっと、まって……」

 ジョシュアを引っ張りつつ、アイリスさんの乗っている馬車へと乗り込んだ。
 馬車の中は雪国の為、アタシ達と同じ様にマントを羽織った人たちでいっぱいでアイリスさん達に怪しまれる様子は一切なかった。

 乗り込んだ馬車はリックに向かってゆっくりと進み出した。
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