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3章 虚構の偶像
その男、冷酷につき
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ーーある日
第6等星『ロックス』グラッデンの屋敷
ロックスの1等地に聳える、現地では観光名所化しつつある程の大きな屋敷。
例えるならばバロック様式をモチーフとした屋敷の一角にある庭では、毎朝剣戟の音が鳴り響いている。
物騒だと当初は言われたが、家主の職業と階級が住人に知れ渡る内に、それもまたこの観光名所の名物と思わせるまでに昇華されていた。
カンッ! キィイイン! ……ザスッ
一際高い金音がした時、その名物は終わりを告げる。
手にしていた剣を弾かれ、くるくると空中に飛び去ったそれが地面へ突き刺さる。
お互いに同じ踏み込むような姿勢ではあるが、ユリウスの喉元には剣先が突きつけられ、逆に素手となったユリウスはその拳を相手にただ無表情で突き出している。
ユリウスは歯噛みした表情となり、顎を上に向ける形で相手の目を見る。
その突きつけられた剣先に、自身の汗が伝わり落ちていくまでその姿勢は続いていた。
「……参りました」
「そうか」
ユリウスはそう告げると、一本取った相手……
彼の実父であるアーサーは、喉元に差し出している剣を引っ込め、腰にある鞘へ閉まった。
『やはり、まだ遠いな』
知っていた。という感情も半分を占めるかのようにユリウスは呟く。
彼は歴代きっての剣術の使い手ではあるが、実父のアーサーもまた、同じように剣術ではその右に出るものは居ないと言われていた。
ユリウスは自身の才覚で相手の動きを察知する事が出来るが、そのチートじみた才覚を持ってしても、アーサーからは一本も取ったことは無かった。
何故か?
例えるならば右から来ると察知した際、それを『避ける』か『迎撃する』かなどの思考の隙間を上手くアーサーにつかれているとユリウスは結論付けていた。
そして、剣を手にした時の、異常なまでのアーサーのプレッシャー。
これに打ち勝つべく、ユリウスは再度試合を申し込む。
しかし、それだけでは無い事をユリウスは知らなかった。
アーサーもまた自身の才覚と呼ぶべき存在を既に自覚し、1流と呼ばれるまでに昇華させているのである。
あえて、否、わざとアーサーはそれを家族と言えども他言することは無い。
アーサーの『才覚』それは「プレッシャーを与えた相手を同じ土俵に立たせる」というものである。
一見するとピンと来ないが、この『才覚』を自覚したアーサーは歓喜した。
本来であればアーサーはユリウスの能力に勝てる筈は無い、それどころか優れた銃火器で一対一を挑めば剣術では敵わないが、アーサーのプレッシャーを受けたものは、総じてアーサーの間合い、能力者であれば、それ以外の技術で戦ってしまうのである。
一般人であれば、アーサーのプレッシャーに耐えきれず、戦意喪失してしまうのも、余計な手間をかけないアーサーにとっては僥倖であった。
すなわちアーサーが負けるとすれば、自分より技術、能力、頭脳の優れた者だけである。
「父さん、もう一回お願いします」
「厶、よかろう」
今のユリウスでは絶対に負けない事をアーサーはよく理解している、だが彼は他人の意思決定に反論や説得を講じるのは人生の無駄と考えている為に、
そうして、ロックスの名物はまた始まりの音をあげる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レジャーの死から数秒、アーサー以外の当事者達にとっては頭の整理に相当な時間を要していた。
「……何故撃った? 父さん答えろ!」
「何てことしやがる!」
サンドとユリウスは理由を求める。
しかし、アーサーにとっては、ここに居る人間がどうなろうと知った事ではないのである。
息子がいる事に多少驚いたが、アーサーは自身が今後の人生レベルで取るべき行動が既に決定しているのだ。
「ム、どうした? 救うのでは無かったのか?」
それは、天然か? それともわざとか?
はたまた、息子が1人で安っぽい『救い』を発したのを諌めるのか分からないが、アーサーは挑発するかのように質問を質問で返す。
「人の命を、なんだと思ってやがる!」
その言葉に、明確な殺意を持って応えたのはサンドであった。
サンドはジャルールのマナを剣状態にし、その拳装着する形でブルーを殴りつけるように急発進を仕掛けた。
その時点でアーサーの術中なのだが、サンドはそれを知る由はない。
だが、その行動はアーサーを驚かすには十分であった。
『私の圧を受けて突っ込んでくるか! 面白い』
「だめだ! サンド、君では……」
ブルーは応えるようにジャルールをどう調理するか瞬時に見定める。
それは格闘ゲーム上級者が真っ直ぐに突っ込んでくる初心者を理解したように、ただ刻まれるだけの未来がユリウスの予測として浮かび上がる。
ユリウスはプレッシャーに負けて今まで動けなかった自分を呪った。
「これ以上は、もう嫌なんだ!」
主語のないユリウスの叫びが、とても重かったヱラウルフと砂漠の砂を動かす。
袈裟斬りを仕掛けるジャルールに対して、それ以上の速さでブルーは胴体を真横に切り飛ばそうと右腕を振り抜かんとする刹那ーー
ガシャアァアン!
ヱラウルフはジャルールに体当たりを仕掛ける!
「な! ユリウス!」
「愚かな!」
振り抜いたブルーの右腕のソードが、入れ替わったヱラウルフのコックピットへめり込んでいく。
「ーーーー!」
サンドが何かを叫んだようにユリウスは聞こえた。
ただ、次の瞬間にはコックピットを打ち破り目の前に現れたソードに意識を奪われ、また次の瞬間にユリウスは意識を失った。
第6等星『ロックス』グラッデンの屋敷
ロックスの1等地に聳える、現地では観光名所化しつつある程の大きな屋敷。
例えるならばバロック様式をモチーフとした屋敷の一角にある庭では、毎朝剣戟の音が鳴り響いている。
物騒だと当初は言われたが、家主の職業と階級が住人に知れ渡る内に、それもまたこの観光名所の名物と思わせるまでに昇華されていた。
カンッ! キィイイン! ……ザスッ
一際高い金音がした時、その名物は終わりを告げる。
手にしていた剣を弾かれ、くるくると空中に飛び去ったそれが地面へ突き刺さる。
お互いに同じ踏み込むような姿勢ではあるが、ユリウスの喉元には剣先が突きつけられ、逆に素手となったユリウスはその拳を相手にただ無表情で突き出している。
ユリウスは歯噛みした表情となり、顎を上に向ける形で相手の目を見る。
その突きつけられた剣先に、自身の汗が伝わり落ちていくまでその姿勢は続いていた。
「……参りました」
「そうか」
ユリウスはそう告げると、一本取った相手……
彼の実父であるアーサーは、喉元に差し出している剣を引っ込め、腰にある鞘へ閉まった。
『やはり、まだ遠いな』
知っていた。という感情も半分を占めるかのようにユリウスは呟く。
彼は歴代きっての剣術の使い手ではあるが、実父のアーサーもまた、同じように剣術ではその右に出るものは居ないと言われていた。
ユリウスは自身の才覚で相手の動きを察知する事が出来るが、そのチートじみた才覚を持ってしても、アーサーからは一本も取ったことは無かった。
何故か?
例えるならば右から来ると察知した際、それを『避ける』か『迎撃する』かなどの思考の隙間を上手くアーサーにつかれているとユリウスは結論付けていた。
そして、剣を手にした時の、異常なまでのアーサーのプレッシャー。
これに打ち勝つべく、ユリウスは再度試合を申し込む。
しかし、それだけでは無い事をユリウスは知らなかった。
アーサーもまた自身の才覚と呼ぶべき存在を既に自覚し、1流と呼ばれるまでに昇華させているのである。
あえて、否、わざとアーサーはそれを家族と言えども他言することは無い。
アーサーの『才覚』それは「プレッシャーを与えた相手を同じ土俵に立たせる」というものである。
一見するとピンと来ないが、この『才覚』を自覚したアーサーは歓喜した。
本来であればアーサーはユリウスの能力に勝てる筈は無い、それどころか優れた銃火器で一対一を挑めば剣術では敵わないが、アーサーのプレッシャーを受けたものは、総じてアーサーの間合い、能力者であれば、それ以外の技術で戦ってしまうのである。
一般人であれば、アーサーのプレッシャーに耐えきれず、戦意喪失してしまうのも、余計な手間をかけないアーサーにとっては僥倖であった。
すなわちアーサーが負けるとすれば、自分より技術、能力、頭脳の優れた者だけである。
「父さん、もう一回お願いします」
「厶、よかろう」
今のユリウスでは絶対に負けない事をアーサーはよく理解している、だが彼は他人の意思決定に反論や説得を講じるのは人生の無駄と考えている為に、
そうして、ロックスの名物はまた始まりの音をあげる
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レジャーの死から数秒、アーサー以外の当事者達にとっては頭の整理に相当な時間を要していた。
「……何故撃った? 父さん答えろ!」
「何てことしやがる!」
サンドとユリウスは理由を求める。
しかし、アーサーにとっては、ここに居る人間がどうなろうと知った事ではないのである。
息子がいる事に多少驚いたが、アーサーは自身が今後の人生レベルで取るべき行動が既に決定しているのだ。
「ム、どうした? 救うのでは無かったのか?」
それは、天然か? それともわざとか?
はたまた、息子が1人で安っぽい『救い』を発したのを諌めるのか分からないが、アーサーは挑発するかのように質問を質問で返す。
「人の命を、なんだと思ってやがる!」
その言葉に、明確な殺意を持って応えたのはサンドであった。
サンドはジャルールのマナを剣状態にし、その拳装着する形でブルーを殴りつけるように急発進を仕掛けた。
その時点でアーサーの術中なのだが、サンドはそれを知る由はない。
だが、その行動はアーサーを驚かすには十分であった。
『私の圧を受けて突っ込んでくるか! 面白い』
「だめだ! サンド、君では……」
ブルーは応えるようにジャルールをどう調理するか瞬時に見定める。
それは格闘ゲーム上級者が真っ直ぐに突っ込んでくる初心者を理解したように、ただ刻まれるだけの未来がユリウスの予測として浮かび上がる。
ユリウスはプレッシャーに負けて今まで動けなかった自分を呪った。
「これ以上は、もう嫌なんだ!」
主語のないユリウスの叫びが、とても重かったヱラウルフと砂漠の砂を動かす。
袈裟斬りを仕掛けるジャルールに対して、それ以上の速さでブルーは胴体を真横に切り飛ばそうと右腕を振り抜かんとする刹那ーー
ガシャアァアン!
ヱラウルフはジャルールに体当たりを仕掛ける!
「な! ユリウス!」
「愚かな!」
振り抜いたブルーの右腕のソードが、入れ替わったヱラウルフのコックピットへめり込んでいく。
「ーーーー!」
サンドが何かを叫んだようにユリウスは聞こえた。
ただ、次の瞬間にはコックピットを打ち破り目の前に現れたソードに意識を奪われ、また次の瞬間にユリウスは意識を失った。
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