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3章 虚構の偶像
砂漠の暑さに冷静に
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ユリウスの乗ったヱラウルフが、ゆっくりと砂漠に沈んでいく。
仰向けで力無く倒れたその機体のコックピットに当たる胸部は、まるで粘土を力任せに抉ったような痕跡を残し、活動を停止した。
その光景を見たもののうち、1番最初に声をあげたのは、アーサーであった。
「この私が、見誤ったと言うのか!」
アーサーは異常な危険を察知し、全力のバックステップで距離を取った。
そしてブルーの右手に装着されているソードを見つつ、自棄とも取れる言葉を吐き捨てる。
幾千、幾万と戦場で成果をあげたプライドが、自分の身に起きた事象を理解するのに幾許の時間を要したのである。
『これは、能力者か?』
アーサーは自分の息子を斬ることにためらいなど無かった。
それは、ネルソンの死を知ってからその始末を取る時に自身の魂に誓ったからに他ならない。
あの時、ブルーはヱラウルフを両断する一撃を放った筈である。
しかし、現実にはコックピットのみを削った感触だけがブルーに伝わっていた。
「厄介だな」
足元を見たアーサーは深く呼吸を整える。
ブルーの足元、何らかの『力』によって後ろへ後退した轍がそこにはくっきりと写っていた。
『あの機体は、アクア宙域の侵攻阻止に必要だったのだがな』
ツツ……とアーサーの額から汗が落ちる。
来たるべきアクア宙域侵攻が直ぐに迫ってきている。
その為には忠実な戦力が必要なのだが、ユリウスではない何かの『力』、それを確かめる必要性が出てきたためである。
何より、『能力者(タレント)としての力』が上回っている事実が、落ちてきた汗を拭う事をアーサーにさせなかった。
「全てを、このアクアに……」
アーサーは、何かに誓うように呟いた。
ーーーーーーーーーー
「ユリウスーー!」
「ユリウス!」
ただでさえ走りにくい砂漠の上をクリスは、ヱラウルフに全力で駆け寄った。
サンドはヱラウルフの前に立ち、ブルーを真っ直ぐに見つめその後の追撃を最大限に警戒している。
「あっつぅ……んんぐうううう」
クリスは熱せられた外部開閉機をこじ開ける。
シィィィイと手の皮膚が焼け付く音と痛みがクリスを襲うが、今のクリスには、その熱さに気を取られる余裕は無かった。
コックピットを開けた彼女はユリウスを見た時、気を失うのを必死で堪えた。
そこには顔面を血の化粧で施されたユリウスが、苦悶の表情を浮かべ失神していたからである。
「クリス、ユリウスは?」
「酷い出血……でも息はあるわ。これなら助けられるわ」
「良かった。こっちは俺で何とかする。ユリウスを安全な場所へ連れてってくれ」
「分かったわ。……ねえサンド」
「なんだ?」
「私はあいつを許さないわ。サンドは?」
「任せろ。おれもだ」
会話をしながらクリスは、的確に、冷静にヱラウルフ内部にある医療キットでユリウスへ応急処置を施す。
『左目は駄目かもしれないわね』
戦えない自分と傷付く仲間を思い、クリスは涙を堪える努力をするが、土台無理な話である。
その雫がユリウスの顔にかかった時、ほんの僅かであるがにユリウスは意識を取り戻した。
「うぅ……サンド……いるか?」
「ユリウス、大丈夫か?」
「ユリウス、喋っちゃだめ。あなた重症なのよ!」
「サンド、冷静になる……んだ。熱くなっては……ない」
「分かった。今は寝てろユリウス」
「頼む……もう、サンドしかいないんだ……父さんに勝てるのは……頼む。クリスを、みんな……を」
「喋っちゃだめって! ユリウス!」
何故、ユリウスはその重症の体を投げ売ってまで、サンドへその言葉を贈ったのか?
それは、ユリウス自身が生きていた事実以外には無かった。
ユリウスは、確実に死んだと確信していた。
間合い、速度、力、タイミング、どれをとっても、自分が生きていられる筈が無いのである。
しかし、ユリウスは生きていた。
『急に、父さんが下がっていった?』
そんな訳はない。
答えなど、とっくに出ていた。
サンドである。
サンド以外にあの状況は作り出せないと、ミザリーでの1件でユリウスは確信していた。
付け加えるのであれば、あの父さんに一泡吹かせたのである。
あの場面に至るまで、幾度も『戦うな』と警告をしていたユリウスは無意識の中で思い上がっていた自分を自嘲した。
サンドであれば勝てる。
それを伝えずに、ユリウスは気絶し続けるなど出来なかった。
彼の助言は確かにサンドへ届き、この状況を打開する希望を託し、再びユリウスは満足気に深い闇へ落ちた。
「『冷静に』か」
サンドは深く深呼吸をする事で、深い思考を巡らせる。
何故ユリウスは俺に託した? 何故あの青いのは今襲ってこない?
何故俺は、あんな化け物に剣状態で挑んだ?……
それらの1つ1つに仮定を見つけ出す。
『俺と同じような、能力者?』
『相手をコントロールするのか?』
この時間を最初に耐えられなくなったのは、またしてもアーサーであった。
「どうした? ままごとは終わったのか?」
グンッ! とした圧力を感じたサンドは、納得の表情で周りを見渡した。
そして、絶対ではないがカラクリが分かった今、アーサーに対しての策を講じる事を決めた。
とりあえずサンドはかけられた圧力に対してたった1言、命令を下す。
「俺には効かない、弾けろ」
その瞬間体が軽くなり、マナ操作と思考を並行出来る脳みそのキャパシティがグッと拡がる感覚を受けた。
「な! 馬鹿な!」
「馬鹿はお前だ。ユリウスをこんな目にあわしやがって、絶対に許さねえからな」
「そんな事はどうでもいい! 貴様、まさか使ったのか?!」
「言ってる意味が分からねえ……よ!」
アンブレラを使用したタレントは、その能力も向上する事実を知らないサンドは、返す刀、否、言葉でジャルールから出されたマナを収束させたマナ弾を数発ブルーへ発射する。
「舐めるな」
その全てを余裕の表情で切り払い、アーサーは剣術力の差をサンドに見せつける。
「やるじゃん。おっさん」
「舐めた口を聞く」
今度はクリスとユリウスから遠ざけるように、周り込む形で移動しつつ再度数発のマナ弾を発射するが、またしても全てを切払われてしまう。
「芸のない。フハハ! どうやら考えすぎだったようだな」
「そうか?」
サンドは先程発したアーサーの挑発めいた言葉をコピーし、明確にアーサーを挑発した。
「言うじゃないか! 気に入ったぞ!」
ブルーは最大限のプレッシャーを発した。
その後腰を深く落とし、抜刀の姿勢で構える。
刹那、ブルーは最短で真っ直ぐに一直線に、ジャルール目掛け突進をかける。
『最大出力で間合い入ってしまえば!』
ジャルールはそのスピードに慌てふためき、剣状態にしてその突進を受ける姿勢を取った。
その光景にアーサーの頬が緩む。
「やはりな。甘さが出たようだなぁ!」
あと数メートル、剣状態となったマナごとコックピットを真っ二つにする勝利の青写真がアーサーには写っていた。
しかし、アーサー以上にサンドは頬が緩んでいた。この勝負全てがサンドの思い通りである事を、彼は知らなかった。
「だからさ、剣で挑むわけ無いだろ。出てこい!」
ーーズザァアアアア!!
突如、地面の砂漠から剣状態となったマナが突き刺さるよう飛び出す!
「なんだとぉッ! まさか、予測して仕込んでいたと言うのか?!」
咄嗟にアーサーは、ブルーの体を捻り回避行動に移るが、何発かは直撃を受け、ブルーの左脚部は遥か彼方へ吹き飛んで行った。
その勢いのまま、ブルーは転がり吹き飛ぶ。
「これで終わりだぁ!」
絶好の機会!
サンドはジャルールを敢えて剣状態にしたまま空中へ飛び込みブルーに追撃を仕掛ける。
「まだ終わっていない! この宇宙の為、私はここで負ける訳にはいかぬのだ!」
ブルーは態勢を崩されながらも、そのソードの先端を飛びかかるジャルールへ向けカウンターを仕掛ける。
「暴発しろ!」
ーーバガァン!
銃剣で有ることが、今となっては致命的だった。
暴発した右腕の銃剣の衝撃で、大きな隙をブルーは作ってしまったのであった。
「な、こんな事が! 貴様は一体!」
「うるさい!」
右腕と両脚部、そして、パイロットを失ったブルーは、静かに活動を停止した。
仰向けで力無く倒れたその機体のコックピットに当たる胸部は、まるで粘土を力任せに抉ったような痕跡を残し、活動を停止した。
その光景を見たもののうち、1番最初に声をあげたのは、アーサーであった。
「この私が、見誤ったと言うのか!」
アーサーは異常な危険を察知し、全力のバックステップで距離を取った。
そしてブルーの右手に装着されているソードを見つつ、自棄とも取れる言葉を吐き捨てる。
幾千、幾万と戦場で成果をあげたプライドが、自分の身に起きた事象を理解するのに幾許の時間を要したのである。
『これは、能力者か?』
アーサーは自分の息子を斬ることにためらいなど無かった。
それは、ネルソンの死を知ってからその始末を取る時に自身の魂に誓ったからに他ならない。
あの時、ブルーはヱラウルフを両断する一撃を放った筈である。
しかし、現実にはコックピットのみを削った感触だけがブルーに伝わっていた。
「厄介だな」
足元を見たアーサーは深く呼吸を整える。
ブルーの足元、何らかの『力』によって後ろへ後退した轍がそこにはくっきりと写っていた。
『あの機体は、アクア宙域の侵攻阻止に必要だったのだがな』
ツツ……とアーサーの額から汗が落ちる。
来たるべきアクア宙域侵攻が直ぐに迫ってきている。
その為には忠実な戦力が必要なのだが、ユリウスではない何かの『力』、それを確かめる必要性が出てきたためである。
何より、『能力者(タレント)としての力』が上回っている事実が、落ちてきた汗を拭う事をアーサーにさせなかった。
「全てを、このアクアに……」
アーサーは、何かに誓うように呟いた。
ーーーーーーーーーー
「ユリウスーー!」
「ユリウス!」
ただでさえ走りにくい砂漠の上をクリスは、ヱラウルフに全力で駆け寄った。
サンドはヱラウルフの前に立ち、ブルーを真っ直ぐに見つめその後の追撃を最大限に警戒している。
「あっつぅ……んんぐうううう」
クリスは熱せられた外部開閉機をこじ開ける。
シィィィイと手の皮膚が焼け付く音と痛みがクリスを襲うが、今のクリスには、その熱さに気を取られる余裕は無かった。
コックピットを開けた彼女はユリウスを見た時、気を失うのを必死で堪えた。
そこには顔面を血の化粧で施されたユリウスが、苦悶の表情を浮かべ失神していたからである。
「クリス、ユリウスは?」
「酷い出血……でも息はあるわ。これなら助けられるわ」
「良かった。こっちは俺で何とかする。ユリウスを安全な場所へ連れてってくれ」
「分かったわ。……ねえサンド」
「なんだ?」
「私はあいつを許さないわ。サンドは?」
「任せろ。おれもだ」
会話をしながらクリスは、的確に、冷静にヱラウルフ内部にある医療キットでユリウスへ応急処置を施す。
『左目は駄目かもしれないわね』
戦えない自分と傷付く仲間を思い、クリスは涙を堪える努力をするが、土台無理な話である。
その雫がユリウスの顔にかかった時、ほんの僅かであるがにユリウスは意識を取り戻した。
「うぅ……サンド……いるか?」
「ユリウス、大丈夫か?」
「ユリウス、喋っちゃだめ。あなた重症なのよ!」
「サンド、冷静になる……んだ。熱くなっては……ない」
「分かった。今は寝てろユリウス」
「頼む……もう、サンドしかいないんだ……父さんに勝てるのは……頼む。クリスを、みんな……を」
「喋っちゃだめって! ユリウス!」
何故、ユリウスはその重症の体を投げ売ってまで、サンドへその言葉を贈ったのか?
それは、ユリウス自身が生きていた事実以外には無かった。
ユリウスは、確実に死んだと確信していた。
間合い、速度、力、タイミング、どれをとっても、自分が生きていられる筈が無いのである。
しかし、ユリウスは生きていた。
『急に、父さんが下がっていった?』
そんな訳はない。
答えなど、とっくに出ていた。
サンドである。
サンド以外にあの状況は作り出せないと、ミザリーでの1件でユリウスは確信していた。
付け加えるのであれば、あの父さんに一泡吹かせたのである。
あの場面に至るまで、幾度も『戦うな』と警告をしていたユリウスは無意識の中で思い上がっていた自分を自嘲した。
サンドであれば勝てる。
それを伝えずに、ユリウスは気絶し続けるなど出来なかった。
彼の助言は確かにサンドへ届き、この状況を打開する希望を託し、再びユリウスは満足気に深い闇へ落ちた。
「『冷静に』か」
サンドは深く深呼吸をする事で、深い思考を巡らせる。
何故ユリウスは俺に託した? 何故あの青いのは今襲ってこない?
何故俺は、あんな化け物に剣状態で挑んだ?……
それらの1つ1つに仮定を見つけ出す。
『俺と同じような、能力者?』
『相手をコントロールするのか?』
この時間を最初に耐えられなくなったのは、またしてもアーサーであった。
「どうした? ままごとは終わったのか?」
グンッ! とした圧力を感じたサンドは、納得の表情で周りを見渡した。
そして、絶対ではないがカラクリが分かった今、アーサーに対しての策を講じる事を決めた。
とりあえずサンドはかけられた圧力に対してたった1言、命令を下す。
「俺には効かない、弾けろ」
その瞬間体が軽くなり、マナ操作と思考を並行出来る脳みそのキャパシティがグッと拡がる感覚を受けた。
「な! 馬鹿な!」
「馬鹿はお前だ。ユリウスをこんな目にあわしやがって、絶対に許さねえからな」
「そんな事はどうでもいい! 貴様、まさか使ったのか?!」
「言ってる意味が分からねえ……よ!」
アンブレラを使用したタレントは、その能力も向上する事実を知らないサンドは、返す刀、否、言葉でジャルールから出されたマナを収束させたマナ弾を数発ブルーへ発射する。
「舐めるな」
その全てを余裕の表情で切り払い、アーサーは剣術力の差をサンドに見せつける。
「やるじゃん。おっさん」
「舐めた口を聞く」
今度はクリスとユリウスから遠ざけるように、周り込む形で移動しつつ再度数発のマナ弾を発射するが、またしても全てを切払われてしまう。
「芸のない。フハハ! どうやら考えすぎだったようだな」
「そうか?」
サンドは先程発したアーサーの挑発めいた言葉をコピーし、明確にアーサーを挑発した。
「言うじゃないか! 気に入ったぞ!」
ブルーは最大限のプレッシャーを発した。
その後腰を深く落とし、抜刀の姿勢で構える。
刹那、ブルーは最短で真っ直ぐに一直線に、ジャルール目掛け突進をかける。
『最大出力で間合い入ってしまえば!』
ジャルールはそのスピードに慌てふためき、剣状態にしてその突進を受ける姿勢を取った。
その光景にアーサーの頬が緩む。
「やはりな。甘さが出たようだなぁ!」
あと数メートル、剣状態となったマナごとコックピットを真っ二つにする勝利の青写真がアーサーには写っていた。
しかし、アーサー以上にサンドは頬が緩んでいた。この勝負全てがサンドの思い通りである事を、彼は知らなかった。
「だからさ、剣で挑むわけ無いだろ。出てこい!」
ーーズザァアアアア!!
突如、地面の砂漠から剣状態となったマナが突き刺さるよう飛び出す!
「なんだとぉッ! まさか、予測して仕込んでいたと言うのか?!」
咄嗟にアーサーは、ブルーの体を捻り回避行動に移るが、何発かは直撃を受け、ブルーの左脚部は遥か彼方へ吹き飛んで行った。
その勢いのまま、ブルーは転がり吹き飛ぶ。
「これで終わりだぁ!」
絶好の機会!
サンドはジャルールを敢えて剣状態にしたまま空中へ飛び込みブルーに追撃を仕掛ける。
「まだ終わっていない! この宇宙の為、私はここで負ける訳にはいかぬのだ!」
ブルーは態勢を崩されながらも、そのソードの先端を飛びかかるジャルールへ向けカウンターを仕掛ける。
「暴発しろ!」
ーーバガァン!
銃剣で有ることが、今となっては致命的だった。
暴発した右腕の銃剣の衝撃で、大きな隙をブルーは作ってしまったのであった。
「な、こんな事が! 貴様は一体!」
「うるさい!」
右腕と両脚部、そして、パイロットを失ったブルーは、静かに活動を停止した。
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