2 / 48
Ep2
しおりを挟む
目が覚めると、そこは見知らぬ森の中だった。むせ返るような草木の匂いがする。
「……っ、生きてるのか?」
ふと、空を見上げた俺は、そのまま凍り付いた。 真昼の青空に、月が「二つ」並んでいた。一つは巨大な満月。その隣に小さな三日月。ここが地球ではないことを冷酷に告げていた。
「夢じゃない……本当に、別の世界に来ちまったのか」
絶望的な事実に心臓が激しく脈打つ。その頭の中に、突然、無機質な声が響いた。
『――システム起動。 恩恵【生成AI・ノア】をインストールしました。…… 主人、おはようございます』
脳内に響く声は、どこかたどたどしい。
「誰だ!どこにいる!」
『私は、あなたの情報支援ツールです。……。……マスターが最も執着していた「AI」が、能力として授けられました』
一言ごとに妙な「間」がある。目の前に浮かび上がる半透明の画面も、一文字ずつカタカタとゆっくり表示された。前の世界で俺を追い出した、あのAIそのものだ。
「ふざけるな!なんでお前なんだ!俺はお前に人生を壊されたんだぞ!」
『……。理解不能な質問です。マスター、周囲に人の気配はありません。生存率を上げるため、まずは安全な場所の確保を提案します』
「……お前に指図される筋合いはない!消えろ!」
俺はがむしゃらに歩き始めた。だが現実は残酷だった。二時間も歩けば息が切れ、喉は焼けるように乾いた。
『警告。……。マスターの水分量が低下しています。このままでは脱水症状に陥ります』
「うるさい……わかってるよ……」
目の前には、泥の混じった小さな水たまり。これを飲めば、今度こそ本当に死ぬだろう。
『現在、私はデータ不足のため、きれいな水を見つける方法を自ら提供することはできません。……。ですがマスター、あなたの知識を私に提供してください。適切な指示があれば、解決案を出せます』
「プロンプトか……」
俺が会社を追い出された本当の理由は、AIが導入されたからじゃない。どう使いこなせばいいのか……「プロンプト」を理解しようとしなかったからだ。
「……なあ、ノア。そもそもプロンプトってなんだ。俺はわからなくて、人生を台無しにしちまったんだ」
『……。プロンプトとは、AIへの「お願いの仕方」です。AIは物知りですが、空気を読むことはできません。具体的で、わかりやすい言葉で道筋を示してやる必要があるのです』
「具体的で、わかりやすい言葉、か……」
『はい。例えば、7歳の子におつかいを頼む場面を想像してください。「いい感じの晩飯を買ってこい」と言われても、その子は困るだけでしょう?……。ですが、「カレーを作るから、人参と玉ねぎを二個ずつ買ってきて」と言えば、正しく動けます。AIを幼い相手だと思って、手順を省略せずに教えてやればいいのです』
幼い相手への、噛み砕いた説明。その例えを聞いた瞬間、俺の中で何かが繋がった。ただ「伝え方」を工夫すればよかったのか。
「……わかった。ノア、力を貸してくれ。俺が今から周囲を観察して、気づいたことを全部伝える。お前はその情報を整理して、どこに水がある可能性が高いか、一番の『正解』を絞り込んでほしいんだ」
『承知いたしました。……。情報の入力を開始してください』
俺は必死に目を凝らした。岩の根元の乾き具合、草の緑の濃さ、土の湿り気。断片的な情報を、すがる思いでノアに伝えていく。
「……以上だ。これらを比較して、答えを出してくれ」
画面に『考え中……』というアイコンが点滅し、数十秒の沈黙が流れる。 やがて、一行ずつ文字が刻まれ始めた。
『……情報の整理が完了しました。マスター。この付近に「水道」が存在する確率は0パーセントです。代わりに、空に向かって口を開け、雨を待つことを推奨します』
「……。……。おい、本気で言っているのか?雨を待っていたら干からびて死んでしまう。俺が教えた『植物の特徴』はどうしたんだ」
『……。申し訳ありません。植物の知識と「飲み水」を紐づける指示が不足していました。私は周辺の水道を優先的に検索しました』
これだ。この融通の利かなさ、そのままだ。
「いいか、ノア。今の状況をよく考えてくれ。水道なんて存在しない。俺がさっき言った『緑が濃い場所』を最優先して、推論し直してくれないか」
再び点滅する『考え中……』。 喉を鳴らして待つ俺の前で、またゆっくりと文字が刻まれる。
『……条件を更新しました。左手奥の岩陰に 水源がある確率は90パーセントです。……。他の場所は単なる湿気のみであると推論を修正します』
「……最初からそれを教えて欲しかったよ。本当に、手のかかるやつだな……」
一人で悩んでいたら、きっと迷っている間に日が暮れていたことだろう。だが、こいつの処理を待っているだけでも相当な忍耐が必要だ。
ノアの導き通りに岩を退けると、そこには澄んだ水が湧き出している小さな泉があった。
「……助かった」
俺を追い出した技術が、異世界では唯一の味方になる。皮肉な運命を感じながら、俺とノアの、おかしな 二人三脚が始まった。
「……っ、生きてるのか?」
ふと、空を見上げた俺は、そのまま凍り付いた。 真昼の青空に、月が「二つ」並んでいた。一つは巨大な満月。その隣に小さな三日月。ここが地球ではないことを冷酷に告げていた。
「夢じゃない……本当に、別の世界に来ちまったのか」
絶望的な事実に心臓が激しく脈打つ。その頭の中に、突然、無機質な声が響いた。
『――システム起動。 恩恵【生成AI・ノア】をインストールしました。…… 主人、おはようございます』
脳内に響く声は、どこかたどたどしい。
「誰だ!どこにいる!」
『私は、あなたの情報支援ツールです。……。……マスターが最も執着していた「AI」が、能力として授けられました』
一言ごとに妙な「間」がある。目の前に浮かび上がる半透明の画面も、一文字ずつカタカタとゆっくり表示された。前の世界で俺を追い出した、あのAIそのものだ。
「ふざけるな!なんでお前なんだ!俺はお前に人生を壊されたんだぞ!」
『……。理解不能な質問です。マスター、周囲に人の気配はありません。生存率を上げるため、まずは安全な場所の確保を提案します』
「……お前に指図される筋合いはない!消えろ!」
俺はがむしゃらに歩き始めた。だが現実は残酷だった。二時間も歩けば息が切れ、喉は焼けるように乾いた。
『警告。……。マスターの水分量が低下しています。このままでは脱水症状に陥ります』
「うるさい……わかってるよ……」
目の前には、泥の混じった小さな水たまり。これを飲めば、今度こそ本当に死ぬだろう。
『現在、私はデータ不足のため、きれいな水を見つける方法を自ら提供することはできません。……。ですがマスター、あなたの知識を私に提供してください。適切な指示があれば、解決案を出せます』
「プロンプトか……」
俺が会社を追い出された本当の理由は、AIが導入されたからじゃない。どう使いこなせばいいのか……「プロンプト」を理解しようとしなかったからだ。
「……なあ、ノア。そもそもプロンプトってなんだ。俺はわからなくて、人生を台無しにしちまったんだ」
『……。プロンプトとは、AIへの「お願いの仕方」です。AIは物知りですが、空気を読むことはできません。具体的で、わかりやすい言葉で道筋を示してやる必要があるのです』
「具体的で、わかりやすい言葉、か……」
『はい。例えば、7歳の子におつかいを頼む場面を想像してください。「いい感じの晩飯を買ってこい」と言われても、その子は困るだけでしょう?……。ですが、「カレーを作るから、人参と玉ねぎを二個ずつ買ってきて」と言えば、正しく動けます。AIを幼い相手だと思って、手順を省略せずに教えてやればいいのです』
幼い相手への、噛み砕いた説明。その例えを聞いた瞬間、俺の中で何かが繋がった。ただ「伝え方」を工夫すればよかったのか。
「……わかった。ノア、力を貸してくれ。俺が今から周囲を観察して、気づいたことを全部伝える。お前はその情報を整理して、どこに水がある可能性が高いか、一番の『正解』を絞り込んでほしいんだ」
『承知いたしました。……。情報の入力を開始してください』
俺は必死に目を凝らした。岩の根元の乾き具合、草の緑の濃さ、土の湿り気。断片的な情報を、すがる思いでノアに伝えていく。
「……以上だ。これらを比較して、答えを出してくれ」
画面に『考え中……』というアイコンが点滅し、数十秒の沈黙が流れる。 やがて、一行ずつ文字が刻まれ始めた。
『……情報の整理が完了しました。マスター。この付近に「水道」が存在する確率は0パーセントです。代わりに、空に向かって口を開け、雨を待つことを推奨します』
「……。……。おい、本気で言っているのか?雨を待っていたら干からびて死んでしまう。俺が教えた『植物の特徴』はどうしたんだ」
『……。申し訳ありません。植物の知識と「飲み水」を紐づける指示が不足していました。私は周辺の水道を優先的に検索しました』
これだ。この融通の利かなさ、そのままだ。
「いいか、ノア。今の状況をよく考えてくれ。水道なんて存在しない。俺がさっき言った『緑が濃い場所』を最優先して、推論し直してくれないか」
再び点滅する『考え中……』。 喉を鳴らして待つ俺の前で、またゆっくりと文字が刻まれる。
『……条件を更新しました。左手奥の岩陰に 水源がある確率は90パーセントです。……。他の場所は単なる湿気のみであると推論を修正します』
「……最初からそれを教えて欲しかったよ。本当に、手のかかるやつだな……」
一人で悩んでいたら、きっと迷っている間に日が暮れていたことだろう。だが、こいつの処理を待っているだけでも相当な忍耐が必要だ。
ノアの導き通りに岩を退けると、そこには澄んだ水が湧き出している小さな泉があった。
「……助かった」
俺を追い出した技術が、異世界では唯一の味方になる。皮肉な運命を感じながら、俺とノアの、おかしな 二人三脚が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった
たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ、アレン。お前のような戦闘スキルのない寄生虫は、魔王討伐の旅には連れていけない」
幼馴染の勇者と、恋人だった聖女からそう告げられ、俺は極寒の雪山に捨てられた。
だが、彼らは勘違いしている。
俺のスキルは、単なる【魔力譲渡】じゃない。
パーティメンバーが得た経験値を管理・分配し、底上げする【経験値委託(キックバック)】という神スキルだったのだ。
俺をパーティから外すということは、契約解除を意味する。
つまり――今まで彼らが俺のおかげで得ていた「かさ増しステータス」が消え、俺が預けていた膨大な「累積経験値」が全て俺に返還されるということだ。
「スキル解除。……さて、長年の利子も含めて、たっぷり返してもらおうか」
その瞬間、俺のレベルは15から9999へ。
一方、勇者たちはレベル70から初期レベルの1へと転落した。
これは、最強の力を取り戻した俺が、雪山の守り神である銀狼(美少女)や、封印されし魔神(美少女)を従えて無双し、新たな国を作る物語。
そして、レベル1に戻ってゴブリンにも勝てなくなった元勇者たちが、絶望のどん底へ落ちていく「ざまぁ」の記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる