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儀式・前
しおりを挟む「おまえ、平民の娘なのでしょう? 私より少し早く生まれたからと言って姉と名のろうなんて思わないで!」
更に厄介なのは、こうやって他の妃やその子供達がこの離宮に現れる様になったのだ。
特に目の前の第四王女は私と誕生日が近いせいで、色々比べられたり絡まれたりした。
「おまえ、聞いているの? 少しばかり器量が良いからと自惚れない事だわ! 私の方が美しいし、そして血筋もいいのだから!」
私は小さく頷くだけにとどめ、早く終わらないかとひたすらに耐えた。
言い返すと更に長引くのは経験済みだった。運が悪いとその母親や、他の妃も来て嫌味の応酬が始まる。
確かに第四王女マデリンは凄く美しい娘なのだ。金の髪は長く真直ぐ艶めき、青い瞳はどんな嫌味を吐いても美しく煌いている。
見るだけなら、とにかく子供とは思えない程に美しい子供だった。
しかし、私も美しい母に似て結構……いや、前世の記憶を頼りにいえば、かなり美しい。
平民が生んだ美しい王女。
今、この後宮でのストレスを発散するには、私はちょうどいい。
父からの愛情も母もなく、後ろ盾もギフトの有無も分からない私が一番弱いため、八つ当たりするには最適なのだ。
マデリンの母や他の妃、使用人に至るまでの態度をみて、わかっているのだろう。
「ちょっと! 私を無視するなんて! そうね、こんなものお前にはふそうおうよ!」
と言って、玄関ホールにあった装飾品や花瓶などを壊し、笑いながら帰っていった。
またある日は「私の母の家からこんな素敵な物を贈ってきたのよ。美しい私にはよく似合うでしょ? アハハ」と自慢にきたりしていた。
そうやって落ち着かずに過ごしているうちに春が来て、私は五歳になった。
とうとうギフトの有無を判定する儀式がはじまる。ギフトの有無で私のこれからの運命は、良くも悪くもかなり変わる……
神殿内には数人の神官と私、そして第四王女とその母だけが入室を許された。
シンとした神殿内に、甲高い声で第四王女が騒ぐ。
「アイツの後なんて嫌よ。私が先に儀式を受けるわ!」
すれ違いざまに私を押しのけ、勝ち誇った様な顔をこちらに向けるのは同い年の義母妹で第四王女マデリンだ。
「神官長、五歳であれば順番なんて関係ないのでしょう? それならば、我娘から先に儀式をしてもいいわね?」
神官長と呼ばれた真白な法衣を纏った壇上のお爺ちゃんは小さく頷く。
「はい。五歳になる年でしたら、順番などは関係ありませんが……」
こちらに困った様な顔を向けて首をかしげているので「私は後で大丈夫です……」と言い終わらないうちに、またマデリンが大きな声で話しだした。
「では、私から儀式を受けますわ! だって、あの子なんか庶民の血が混ざっているんですもの。『ギフト』を授かる訳ありませんわ‼」
「ええ、ええ、マデリンあなたはきっと『美』のギフトだわ! 私の娘はこんなに美しいのだから、きっとそうだわ!」
ツンと胸を張りあげるマデリンを、ここぞとばかりに持ち上げる義母。
もう、本当に面倒くさいから、早く先にやって欲しい。
「では、マデリン様お手をこちらの水晶にお願いいたします」
祭壇の上にある水晶に向かってマデリンが手をかざし上に乗せると、光と何か不思議な文字が浮かび上がってくる。
これはいわゆる神語、神様の言葉で一般的には読む事は出来ない。
数人の神官が急いで書き写し、辞書らしきものと照らし合わせている。
また神官長様が水晶の文字を確認すると、マデリンに向かって「おめでとうございます」と頭をさげた。
横で神官達の翻訳作業が済むと、神官長様からギフトについての説明をしてくれる。
「おお、やはりマデリン様は『美』のギフトをお持ちですな、しかも中位のギフトですのでご自身はもちろん、身につけているものにも影響がありますな」
美のギフトは一代の王の子供達の中に一人はいる、よくあるギフトだが、嫁入りの際には有利な条件が引き出せるので好まれるギフトだった。
また、ギフトには階級があり一番下が低位、そこから中位、高位とある。過去には最上位があったらしいが、記録によると一度だけ初代国王以外に最上位のギフトというものがあったと記録されているが、本当かどうか真偽は不明らしい。
なので基本的には三段階の階級があると言われている。
美のギフトは良く出るので解読もしやすく階級の違いもよく解っている。
低位だと本人の美しさに影響があるのみ。
中位だと本人と本人の身につけている物、例えば宝石等にも影響があり、宝石の価値が上がったりする。
高位だと、ギフトの重ね掛け使用を行う事で他人の美を上げたり、物の価値を上げたりも出来るらしい。
「ああ、さすがマデリンね。私も鼻が高いわ! 陛下もきっとお喜びになるわ」
「ええ、お母様。高位ならばもっと良かったけれど、中位を持つものも今は第一王子だけだもんね。まぁいいわ」
「そうよ、素晴らしい事だわ」
二人で嬉しそうに頷きあっている。
神官長様が「そろそろフローラ様の儀式に入らせて頂きたく……」と二人に水晶の前から動く様に話す。
すると、しぶしぶ祭壇から二人で一緒に降りてくる。
私とすれ違う時に、マデリンがニヤリと意地の悪い顔をして近寄ってきた。
「お前なんかギフトなしがお似合いよ。ここから追い出されるといいわ。……まぁ、身寄りのないお前は死んでしまうかもしれないわね。アハハ、優しい私がメイドとして雇ってあげてもいいわよ」
確かに私は親戚もどこにいるのか分からず、身寄りがない。例えギフトがなくても成人まではここに居られるはずだが……やっぱり危険かもしれないと、考えを改める。
最近の様子から、念の為に逃げる事も考えてもいた。
……もしギフトがなければ、乳母の教えてくれた方法で一緒に北の国まで逃げよう。
乳母は、元々母の遠い親戚で母が子供の頃から一緒に住んでいたのだという。だから母を娘の様に可愛いがっていたし、後宮に連れて行かれる時も一緒について来てくれていたというのだ。
ただし、北の国経由は文字通り命がけだ。
それに、私の身体はまだ五歳。
逃亡するのが今でも──
今ではないにしても……いいギフトが貰えます様に。
そう、祈らずにはいられなかった。
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