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あたし、生徒会執行部風紀委員二年生の清滝巴がその二人、滝波信仁と横井寿三郎という、恐らく学校史に残るだろう二大問題児に初めて会ったのは、春休みの最終日、新一年生が入寮して来るその日の昼過ぎの事だった。
午後から予定されている、新入生に対する入寮オリエンテーリングに備えて、生徒会執行部風紀委員として寮内を見回っていたあたしは、男子寮の一角でなにやらもめ事があるのに気付き、様子を見に行ったんだ。
「てめぇが同じ部屋だなんざ、聞いてねえ!」
もめ事の中心にいた男子の片方が、そう言ってもう一人の当事者を睨んでいた。
「俺だって初耳だ。けどまあ、それとこれとは話が別だ、こないだのことは謝るから、水に流してくれないか?」
もう一人の方が、何やら済まなそうに言っている。してみると、どうやら部屋割りで揉めていると言う事らしい。
「あんたたち、どうかしたのかい?」
あたしは、そこに割って入る。それが、あたしの仕事だから。
うちの学校は全寮制、男子女子は別棟で、それぞれ基本的に二人部屋になっている。部屋割りは事前に教職員側で決められていて、同室になる相手は当日こうやって相対するまでわからない。
普通なら、見ず知らずの他人同士が初めて会って同じ部屋になる訳なのだが、しかし、どうやらこの二人、既に何か因縁があったらしい。
割って入ったあたしを見て、食ってかかっていた方の男子が口を開く。
「……あんた、風紀委員?か?じゃあ教えてくれ、部屋割り替えたいんだがどうしたらいい?」
その男子、体格は小柄、フレームレスの眼鏡をかけたその顔は腰まで伸ばした髪のせいもあって美少女と見まごうばかりの彼は、あたしの左腕の腕章、風紀と書かれたそれを見て、そう言った。
「……部屋割り変更願いなら、生徒会に申請書出してくれれば職員に回しとくけど、相手が気に入らないってだけじゃ多分はねられるよ。それに、どっちにしても明日以降、新学期が始まらないと生徒会も動けないからね」
あたしは、ありのままを二人に伝える。
「……先輩は、その生徒会じゃ?」
もう一人の男子、体格はむしろ大柄、髪は無造作に横に分け、ミリカジを着込んだ方が、あたしに尋ねた。先輩、というのは、あたしのセーラー服の胸元の、二年生を示すバッジを目ざとく見たからだろう。
「あたしは、生徒会執行部風紀委員、清滝 巴。あんた達みたいなのの世話するために、執行部は休日返上で仕事してるのさ」
軽く苦笑しながら頷いて、あたしは答える。答えて、
「……で?よかったら、訳を聞かせてもらえないかい?」
さらに問いを重ねる。
「いや、ちょいと俺がこいつを怒らせちまいましてね。俺が悪いんだが……」
その大柄な方が、後ろ頭をかきながら答える。詳しい事はわからないが、状況はわかった。
「なら、あんたも、どっちみち今日はどうにもならないんだ。こいつも謝ってる事だし、あたしに免じてとにかくこの場は納めてもらえないかい?」
努めて優しく、あたしは小柄な方の男子に頼んでみる。
「……わかった。貸しにしといてやる」
そう、小柄な方は大柄な方に言うと、自分の荷物、かなり大きなキャリングケースを引っ張って部屋の中に入った。
それを見て、ため息を一つついた大柄な方が、
「……助かりました、先輩」
「まあ、仕事だしね」
あたしは、微笑んで返す。去年はあたしも先輩に色々面倒見てもらったんだ、今年はこっちがする番、そういう事。
そう思って、腰に手を当てて一息吐いたあたしを、その大柄な男子――あたしより10センチほどは背が高いか――は妙に嬉しげに見ていた。
「……何?」
「いや、初っぱなからこれじゃ先が思いやられると思ってたんですがね」
自分の荷物、パンパンに膨らんだダッフルバッグを担ぎ直して、彼は言った。
「初日から、こんな綺麗な先輩とお近づきになれるんなら、こりゃむしろ幸先いいなって」
「ばっ……」
バカなことをお言いでないよ、か何か言おうとしたつもりだったけれど、予想外の台詞に、あたしは言葉に詰まった。
これが、大柄な方、滝波 信仁と、小柄な方、横井 寿三郎との出逢いだった。
午後から予定されている、新入生に対する入寮オリエンテーリングに備えて、生徒会執行部風紀委員として寮内を見回っていたあたしは、男子寮の一角でなにやらもめ事があるのに気付き、様子を見に行ったんだ。
「てめぇが同じ部屋だなんざ、聞いてねえ!」
もめ事の中心にいた男子の片方が、そう言ってもう一人の当事者を睨んでいた。
「俺だって初耳だ。けどまあ、それとこれとは話が別だ、こないだのことは謝るから、水に流してくれないか?」
もう一人の方が、何やら済まなそうに言っている。してみると、どうやら部屋割りで揉めていると言う事らしい。
「あんたたち、どうかしたのかい?」
あたしは、そこに割って入る。それが、あたしの仕事だから。
うちの学校は全寮制、男子女子は別棟で、それぞれ基本的に二人部屋になっている。部屋割りは事前に教職員側で決められていて、同室になる相手は当日こうやって相対するまでわからない。
普通なら、見ず知らずの他人同士が初めて会って同じ部屋になる訳なのだが、しかし、どうやらこの二人、既に何か因縁があったらしい。
割って入ったあたしを見て、食ってかかっていた方の男子が口を開く。
「……あんた、風紀委員?か?じゃあ教えてくれ、部屋割り替えたいんだがどうしたらいい?」
その男子、体格は小柄、フレームレスの眼鏡をかけたその顔は腰まで伸ばした髪のせいもあって美少女と見まごうばかりの彼は、あたしの左腕の腕章、風紀と書かれたそれを見て、そう言った。
「……部屋割り変更願いなら、生徒会に申請書出してくれれば職員に回しとくけど、相手が気に入らないってだけじゃ多分はねられるよ。それに、どっちにしても明日以降、新学期が始まらないと生徒会も動けないからね」
あたしは、ありのままを二人に伝える。
「……先輩は、その生徒会じゃ?」
もう一人の男子、体格はむしろ大柄、髪は無造作に横に分け、ミリカジを着込んだ方が、あたしに尋ねた。先輩、というのは、あたしのセーラー服の胸元の、二年生を示すバッジを目ざとく見たからだろう。
「あたしは、生徒会執行部風紀委員、清滝 巴。あんた達みたいなのの世話するために、執行部は休日返上で仕事してるのさ」
軽く苦笑しながら頷いて、あたしは答える。答えて、
「……で?よかったら、訳を聞かせてもらえないかい?」
さらに問いを重ねる。
「いや、ちょいと俺がこいつを怒らせちまいましてね。俺が悪いんだが……」
その大柄な方が、後ろ頭をかきながら答える。詳しい事はわからないが、状況はわかった。
「なら、あんたも、どっちみち今日はどうにもならないんだ。こいつも謝ってる事だし、あたしに免じてとにかくこの場は納めてもらえないかい?」
努めて優しく、あたしは小柄な方の男子に頼んでみる。
「……わかった。貸しにしといてやる」
そう、小柄な方は大柄な方に言うと、自分の荷物、かなり大きなキャリングケースを引っ張って部屋の中に入った。
それを見て、ため息を一つついた大柄な方が、
「……助かりました、先輩」
「まあ、仕事だしね」
あたしは、微笑んで返す。去年はあたしも先輩に色々面倒見てもらったんだ、今年はこっちがする番、そういう事。
そう思って、腰に手を当てて一息吐いたあたしを、その大柄な男子――あたしより10センチほどは背が高いか――は妙に嬉しげに見ていた。
「……何?」
「いや、初っぱなからこれじゃ先が思いやられると思ってたんですがね」
自分の荷物、パンパンに膨らんだダッフルバッグを担ぎ直して、彼は言った。
「初日から、こんな綺麗な先輩とお近づきになれるんなら、こりゃむしろ幸先いいなって」
「ばっ……」
バカなことをお言いでないよ、か何か言おうとしたつもりだったけれど、予想外の台詞に、あたしは言葉に詰まった。
これが、大柄な方、滝波 信仁と、小柄な方、横井 寿三郎との出逢いだった。
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