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第二章 月齢25.5
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「……終わりよ」
今の自分に可能な最大限の『封印の呪い』を目の前の穴にかけたユモは、ため息をついて額の汗を拭ってから、ユキに振り向いた。
「お疲れ。そしたら、急いで床の上がって、洞窟まで戻ったら教えて」
「……本当に大丈夫なの?」
一人でこの床を、今頭上にある板張りのそれを崩すというユキに、ユモは心配半分、不審半分の目を向ける。
「ホントに大丈夫……ま、いっか。これくらいなら、あんたなら、見せても」
苦笑しながら軽く肩をすくめ、ユキは答える。
「あんたも今、あたしの目の前で魔法使ったんだし、ね」
言って、ユキは、軽く上げた左の手のひらに右の拳を、何かを握る拳の親指側の側面を当てる。
「あっ……」
小さく、ユモは声をあげる。左の手のひらからすーっと離れるユキの右手拳に引かれて、一降りの木刀が、ユキの左手のひらから音もなく抜き出されてくる。
魔法でも、勿論手品でもない。ユモに感じられるのは、純粋な『技術』。体術と同じように、訓練し、鍛え上げ、練り上げた、文字通りの『技術』。
それと同時に、ユモは気付く。この木剣は、ただの木剣ではない、と。
――これは、『胞衣』で出来た、疑似物質の木剣だ――
どのようにして成したかは、ユモには見当がつかない。しかし、源始力を物質化した胞衣、それを限りなく木材のそれに近付けた、そういうものだ、と。
「『れえばていん』。あたしの、頼りになる相棒よ」
抜いた木刀を肩に担ぎながら、ユキが言う。
「この技自体は、秘密っちゃ秘密だけど、『結城派』の使い手ならたいがい出来るわ。剣によって人を極めようと志す者なら自然に身につくもの、常に剣と共にあるためのもの、なんだって」
その一言で、ユモは理解する。
――ユキにとって、この胞衣の塊は木剣にすぎない。つまり、ユキがこれを成しているわけ、ではないんだ……――
では誰が、何者がこんなとんでもないものを成したのか。喉元まで出かかったその質問を、ユモはかろうじて飲み込む。今は、それどころじゃない。
そして、もう一つ。ユモの中で、ここまでの成り行きの筋が一本、繋がった。
「……じゃあ、熊を倒したのって……」
「そゆこと、みたい。良く覚えてないけど」
ユモが呟いた質問に、少々困ったように笑って、ユキは続ける。
「さ、おじさん達が待ちくたびれてる頃よ、早く行って」
「そうね、行くわ」
床から垂れるロープを掴んで、ユモは、振り向き、いかにもそれが当たり前という感じで、言う。
「……行くから、ユキ、肩貸して」
この空間の底から木の床まで、高さは2m半ほど。やれやれという顔で、肩車から肩に足をついてジタバタしながら何とか床の上に上がったユモを見送ったユキは、そのユモが縄ばしごを上がりきるのを、木刀を肩に担いで待つ。
「……いいわよ!」
上の方から、ユモの声が小さく聞こえる。どうした事か、入ってからずっと気にはなっていたが、この穴の中は、音が反響せず、むしろ吸収されるかのように遠くの音が聞こえづらい。
「……よっしゃ、んじゃ!」
担いでいた白木の木刀を腰を落とした脇構えに構え直し、ユキは気合いを入れる。狙うのは、四方の柱、柱と言うより斜め梁とその上の縦横の梁。これらを皮一枚で残し、自分が上に『飛び上がる』時にとどめを刺す。
――……出来るさ!あたしなら――
ここまでの鬱憤を晴らすように、ユキは木刀に念を載せる。
「……せやぁ!」
心の迷いを含めて断ち切るが如くに、斜めに振り上げた白木の木刀から、鈍色の斬撃が奔った。
「いいわよぉ!」
縄ばしごを登り切って元来た洞窟の端にたどり着き、荒くなった息を声が出せる程度まで整えてから、ユモは下に向かって声を張り上げた。
隠れる所がほとんどない、途中から出て来て隙を突かれる可能性がほぼ無いと判断出来る洞窟なので、男達は、やっと歩いているスティーブにオーガストが肩を貸し、チャックが周りを警戒しつつ既に先に進んでいる。その足音を背中に聞きつつ、ユモは眼下の様子に耳を澄ます。
「……!」
何か、ユキのものらしい声が聞こえた、ような気がした途端。強く、猛々しい放射閃が下から迸るのをユモは感じる。一拍遅れて、轟音と共に古い木材で作られた床が崩壊し、その真ん中あたりから、黒い塊が一旦床の上に現れ、崩壊する床を蹴って飛び出してくる。
「うわそこ邪魔どいて!」
その黒い塊にそう呼びかけられ、慌てて1歩後じさったユモは、そんなものではまるで間に合わずにその黒いものに体当たりされるが如くに突っ込んで来られ、思わず堅く目をつぶる。てっきり強烈な衝撃を覚悟していたユモは、思ったより緩やかな、しかしそれでも強い加速度と回転で振り回され、身を固くして息を詰める。
「……あっぶないなぁ、ダメよあんなとこにぼーっと立ってたら」
上の方から降ってきた声に、ユモは固く閉じていた目を開け、不平を漏らす。
「縄ばしごで上がってくると思ってたのよ!」
「あたしもそのつもりだったけどさあ、1発で思ったよりガッツリ斬れちゃって。慌てて跳んできたのよ」
横抱きに抱え込んだユモを降ろしながら、ユキが答えた。
「さて、おじさん達追っかけましょ」
ユモとユキはそのまま大急ぎで洞窟を出て、苦労して崖を登っている大人達に合流、それを手伝って馬の所まで戻る。
仮にも実戦を経験している軍医だけあって、オーガストの手際は素人目にも見事で、雪の上に敷いた毛布と毛皮の上にシャツを脱がせたスティーブをうつ伏せに寝かすと、消毒、血清注射、局所麻酔からの傷口の縫合と手順良く勧めていく。
「これだけ気温が低くて乾燥していると、感染症や雑菌の危険性をかなり下げる事が出来ます」
手を動かしながら、オーガストは説明する。
「手持ちの血清も、手当たり次第ですが打ちました。破傷風、狂犬病、ヘビ毒も。未知のものなら分かりませんが、既知のものであれば」
「なら、万病に効くヤツも一つ、お願いしたいですな」
局所麻酔のおかげで縫われる痛みは感じないのか、スティーブが軽口を叩く。
「アルコールはお勧めできません。出血が増えてしまいます」
手を動かしながら窘めるオーガストの声は、にべもない。
「やれやれだ……チャック、焚き火が残っているなら、コーヒーでも入れておいてくれないか?」
「ああ、わかった」
スティーブに頼まれて、チャックはパーコレータとマグカップその他を抱えて、火のそばに移動する。そこには、運動の後で体を冷やさないように火に当たっているユモが居る。
「……具合はどう?」
チャックが来たのに気付いたユモが、声をかける。
「問題はなさそうだ……飲むか?」
それだけで全部伝わるという感じで、一言だけ答えたチャックは、コーヒーを湧かす準備を始める。
「いただくわ……ユキ、あんたは?」
「ちょうだーい!」
火から離れた所でリロード作業をしていたユキが、振り向いて答え、作業が一段落したのか、そのまま火の側に寄ってくる。
「どこで銃の扱いを覚えた?」
チャックが、そのユキに聞く。
「パパが鉄砲好きで。色々と。撃ち方とか。たまにサバゲにも連れて行かれたし」
スティーブの処置に入る前にオーガストから許可を得て荷物から持ち出した.45ACP50発入り紙箱を横に置き、リロードして空チャンバーでハンマーも落としたM1911と、同じくリロードしたM1917をホルスターに――オーガストから両方借りて、一つのガンベルトの右にM1911とスペアマグを、左にM1917を振り分けた――しまいつつ適当な倒木に腰を下ろして、ユキが答える。
「さばげ?」
「えっと、オモチャの鉄砲で戦争ごっこ、かな」
もの好きと思ったか、奇妙と思ったか、それとも、そんな事に付き合わされる娘を不憫に思ったか。複雑な顔をしたチャックは、コメントを避けてコーヒーを湧かす作業に戻る。戻ったが、
「……面白い構えだった、それも父親か?」
どうしても気になっていたらしく、火の加減を見ながらチャックは疑問を口にする。
ああ、と言う顔をして、ユキも答える。
「です。一番実用的なんですって」
「なるほど……」
何事か、チャックは考え込んでいる様子になる。片手を伸ばして拳銃を構えるのがセオリーの時代に、CQB、CQCを主眼としたテクニックは目新しすぎると、ユキも思わないではないが、体が覚えている動きはどうしても咄嗟に出てしまう。
「……何者なのよ、あんたのパパって」
「……ガンマニアでカーマニアで他にも色々多趣味な、普通のサラリーマン、かな?」
「何それ?」
つい聞いてしまったユモは、帰ってきたユキの答えに、理解がついて行かなくて本気で呆れる。
――CARシステムまでやらなくて、ホント良かったかも……――
口では連れて行かれた風に行っていても、その実ノリノリでサバゲに参加していたユキは、より異質なテクニックを披露しなくて良かったと心の中で胸をなで下ろした。
「ところでさ、ちょっと気になってたんだけど」
熱いコーヒーを啜りながら、ユモが誰に聞くともなく、言う。
「あの縦穴、色々不思議じゃない?」
「あたしも思った。自然に出来たにしちゃ、おかしな穴よね?」
ユキも相槌を打つ。それを聞いていたチャックは、自分のマグカップから口を離し、呟くように、言う。
「……俺には、あの穴は巨人の鋳型に見えた」
「……え?」
もう一口コーヒーを啜り、チャックは続ける。
「下の方がどうなっていたかは知らん。が、あの部屋は、巨人の頭を内側から見ているようだった」
「巨人……?」
言われて、ユモは記憶をひっくり返してみる。最初の部屋の様子、それから、落ちた先から浮遊術で戻って来る途中の様子。
「……あ」
改めて、中の様子を立体的に思い直してみれば、縦横に走る木の根や樹木化石のせいで気付かなかったが、確かに、立ったまま土に埋まった巨人の、その巨人が消え失せた残りの空間があの縦穴だった、ような気もしてくる。最初に居たあの空間が頭だとして、その底、首で一旦穴が狭まり、胴体で広がり、自分達が落ちたところはどちらかの足の先。そう思えば、なんとなく、途中の縦穴の広さの変化もそんな感じだった、ように思えてくる。
「そんな巨人、伝承とか伝説とか神話とか、この辺にあるんですか?」
考え込むユモにかわって、ユキがチャックに聞く。
「ない。地中に埋まる巨人の話というのは、聞いた事がない」
「巨人そのものは、無くもないです」
雪を踏む足音と共に近づいてきたオーガストの声が、そう言って話に割り込んだ。
「スティーブは?」
顔を上げたチャックに、オーガストは微笑んで、
「縫合は終わりました。消毒しましたから、なるべく綺麗な下着を着せて下さい。それから」
適当な倒木の上の雪を払って腰を下ろしながら、オーガストは続ける。
「コーヒーを持っていってあげて下さい。」
今の自分に可能な最大限の『封印の呪い』を目の前の穴にかけたユモは、ため息をついて額の汗を拭ってから、ユキに振り向いた。
「お疲れ。そしたら、急いで床の上がって、洞窟まで戻ったら教えて」
「……本当に大丈夫なの?」
一人でこの床を、今頭上にある板張りのそれを崩すというユキに、ユモは心配半分、不審半分の目を向ける。
「ホントに大丈夫……ま、いっか。これくらいなら、あんたなら、見せても」
苦笑しながら軽く肩をすくめ、ユキは答える。
「あんたも今、あたしの目の前で魔法使ったんだし、ね」
言って、ユキは、軽く上げた左の手のひらに右の拳を、何かを握る拳の親指側の側面を当てる。
「あっ……」
小さく、ユモは声をあげる。左の手のひらからすーっと離れるユキの右手拳に引かれて、一降りの木刀が、ユキの左手のひらから音もなく抜き出されてくる。
魔法でも、勿論手品でもない。ユモに感じられるのは、純粋な『技術』。体術と同じように、訓練し、鍛え上げ、練り上げた、文字通りの『技術』。
それと同時に、ユモは気付く。この木剣は、ただの木剣ではない、と。
――これは、『胞衣』で出来た、疑似物質の木剣だ――
どのようにして成したかは、ユモには見当がつかない。しかし、源始力を物質化した胞衣、それを限りなく木材のそれに近付けた、そういうものだ、と。
「『れえばていん』。あたしの、頼りになる相棒よ」
抜いた木刀を肩に担ぎながら、ユキが言う。
「この技自体は、秘密っちゃ秘密だけど、『結城派』の使い手ならたいがい出来るわ。剣によって人を極めようと志す者なら自然に身につくもの、常に剣と共にあるためのもの、なんだって」
その一言で、ユモは理解する。
――ユキにとって、この胞衣の塊は木剣にすぎない。つまり、ユキがこれを成しているわけ、ではないんだ……――
では誰が、何者がこんなとんでもないものを成したのか。喉元まで出かかったその質問を、ユモはかろうじて飲み込む。今は、それどころじゃない。
そして、もう一つ。ユモの中で、ここまでの成り行きの筋が一本、繋がった。
「……じゃあ、熊を倒したのって……」
「そゆこと、みたい。良く覚えてないけど」
ユモが呟いた質問に、少々困ったように笑って、ユキは続ける。
「さ、おじさん達が待ちくたびれてる頃よ、早く行って」
「そうね、行くわ」
床から垂れるロープを掴んで、ユモは、振り向き、いかにもそれが当たり前という感じで、言う。
「……行くから、ユキ、肩貸して」
この空間の底から木の床まで、高さは2m半ほど。やれやれという顔で、肩車から肩に足をついてジタバタしながら何とか床の上に上がったユモを見送ったユキは、そのユモが縄ばしごを上がりきるのを、木刀を肩に担いで待つ。
「……いいわよ!」
上の方から、ユモの声が小さく聞こえる。どうした事か、入ってからずっと気にはなっていたが、この穴の中は、音が反響せず、むしろ吸収されるかのように遠くの音が聞こえづらい。
「……よっしゃ、んじゃ!」
担いでいた白木の木刀を腰を落とした脇構えに構え直し、ユキは気合いを入れる。狙うのは、四方の柱、柱と言うより斜め梁とその上の縦横の梁。これらを皮一枚で残し、自分が上に『飛び上がる』時にとどめを刺す。
――……出来るさ!あたしなら――
ここまでの鬱憤を晴らすように、ユキは木刀に念を載せる。
「……せやぁ!」
心の迷いを含めて断ち切るが如くに、斜めに振り上げた白木の木刀から、鈍色の斬撃が奔った。
「いいわよぉ!」
縄ばしごを登り切って元来た洞窟の端にたどり着き、荒くなった息を声が出せる程度まで整えてから、ユモは下に向かって声を張り上げた。
隠れる所がほとんどない、途中から出て来て隙を突かれる可能性がほぼ無いと判断出来る洞窟なので、男達は、やっと歩いているスティーブにオーガストが肩を貸し、チャックが周りを警戒しつつ既に先に進んでいる。その足音を背中に聞きつつ、ユモは眼下の様子に耳を澄ます。
「……!」
何か、ユキのものらしい声が聞こえた、ような気がした途端。強く、猛々しい放射閃が下から迸るのをユモは感じる。一拍遅れて、轟音と共に古い木材で作られた床が崩壊し、その真ん中あたりから、黒い塊が一旦床の上に現れ、崩壊する床を蹴って飛び出してくる。
「うわそこ邪魔どいて!」
その黒い塊にそう呼びかけられ、慌てて1歩後じさったユモは、そんなものではまるで間に合わずにその黒いものに体当たりされるが如くに突っ込んで来られ、思わず堅く目をつぶる。てっきり強烈な衝撃を覚悟していたユモは、思ったより緩やかな、しかしそれでも強い加速度と回転で振り回され、身を固くして息を詰める。
「……あっぶないなぁ、ダメよあんなとこにぼーっと立ってたら」
上の方から降ってきた声に、ユモは固く閉じていた目を開け、不平を漏らす。
「縄ばしごで上がってくると思ってたのよ!」
「あたしもそのつもりだったけどさあ、1発で思ったよりガッツリ斬れちゃって。慌てて跳んできたのよ」
横抱きに抱え込んだユモを降ろしながら、ユキが答えた。
「さて、おじさん達追っかけましょ」
ユモとユキはそのまま大急ぎで洞窟を出て、苦労して崖を登っている大人達に合流、それを手伝って馬の所まで戻る。
仮にも実戦を経験している軍医だけあって、オーガストの手際は素人目にも見事で、雪の上に敷いた毛布と毛皮の上にシャツを脱がせたスティーブをうつ伏せに寝かすと、消毒、血清注射、局所麻酔からの傷口の縫合と手順良く勧めていく。
「これだけ気温が低くて乾燥していると、感染症や雑菌の危険性をかなり下げる事が出来ます」
手を動かしながら、オーガストは説明する。
「手持ちの血清も、手当たり次第ですが打ちました。破傷風、狂犬病、ヘビ毒も。未知のものなら分かりませんが、既知のものであれば」
「なら、万病に効くヤツも一つ、お願いしたいですな」
局所麻酔のおかげで縫われる痛みは感じないのか、スティーブが軽口を叩く。
「アルコールはお勧めできません。出血が増えてしまいます」
手を動かしながら窘めるオーガストの声は、にべもない。
「やれやれだ……チャック、焚き火が残っているなら、コーヒーでも入れておいてくれないか?」
「ああ、わかった」
スティーブに頼まれて、チャックはパーコレータとマグカップその他を抱えて、火のそばに移動する。そこには、運動の後で体を冷やさないように火に当たっているユモが居る。
「……具合はどう?」
チャックが来たのに気付いたユモが、声をかける。
「問題はなさそうだ……飲むか?」
それだけで全部伝わるという感じで、一言だけ答えたチャックは、コーヒーを湧かす準備を始める。
「いただくわ……ユキ、あんたは?」
「ちょうだーい!」
火から離れた所でリロード作業をしていたユキが、振り向いて答え、作業が一段落したのか、そのまま火の側に寄ってくる。
「どこで銃の扱いを覚えた?」
チャックが、そのユキに聞く。
「パパが鉄砲好きで。色々と。撃ち方とか。たまにサバゲにも連れて行かれたし」
スティーブの処置に入る前にオーガストから許可を得て荷物から持ち出した.45ACP50発入り紙箱を横に置き、リロードして空チャンバーでハンマーも落としたM1911と、同じくリロードしたM1917をホルスターに――オーガストから両方借りて、一つのガンベルトの右にM1911とスペアマグを、左にM1917を振り分けた――しまいつつ適当な倒木に腰を下ろして、ユキが答える。
「さばげ?」
「えっと、オモチャの鉄砲で戦争ごっこ、かな」
もの好きと思ったか、奇妙と思ったか、それとも、そんな事に付き合わされる娘を不憫に思ったか。複雑な顔をしたチャックは、コメントを避けてコーヒーを湧かす作業に戻る。戻ったが、
「……面白い構えだった、それも父親か?」
どうしても気になっていたらしく、火の加減を見ながらチャックは疑問を口にする。
ああ、と言う顔をして、ユキも答える。
「です。一番実用的なんですって」
「なるほど……」
何事か、チャックは考え込んでいる様子になる。片手を伸ばして拳銃を構えるのがセオリーの時代に、CQB、CQCを主眼としたテクニックは目新しすぎると、ユキも思わないではないが、体が覚えている動きはどうしても咄嗟に出てしまう。
「……何者なのよ、あんたのパパって」
「……ガンマニアでカーマニアで他にも色々多趣味な、普通のサラリーマン、かな?」
「何それ?」
つい聞いてしまったユモは、帰ってきたユキの答えに、理解がついて行かなくて本気で呆れる。
――CARシステムまでやらなくて、ホント良かったかも……――
口では連れて行かれた風に行っていても、その実ノリノリでサバゲに参加していたユキは、より異質なテクニックを披露しなくて良かったと心の中で胸をなで下ろした。
「ところでさ、ちょっと気になってたんだけど」
熱いコーヒーを啜りながら、ユモが誰に聞くともなく、言う。
「あの縦穴、色々不思議じゃない?」
「あたしも思った。自然に出来たにしちゃ、おかしな穴よね?」
ユキも相槌を打つ。それを聞いていたチャックは、自分のマグカップから口を離し、呟くように、言う。
「……俺には、あの穴は巨人の鋳型に見えた」
「……え?」
もう一口コーヒーを啜り、チャックは続ける。
「下の方がどうなっていたかは知らん。が、あの部屋は、巨人の頭を内側から見ているようだった」
「巨人……?」
言われて、ユモは記憶をひっくり返してみる。最初の部屋の様子、それから、落ちた先から浮遊術で戻って来る途中の様子。
「……あ」
改めて、中の様子を立体的に思い直してみれば、縦横に走る木の根や樹木化石のせいで気付かなかったが、確かに、立ったまま土に埋まった巨人の、その巨人が消え失せた残りの空間があの縦穴だった、ような気もしてくる。最初に居たあの空間が頭だとして、その底、首で一旦穴が狭まり、胴体で広がり、自分達が落ちたところはどちらかの足の先。そう思えば、なんとなく、途中の縦穴の広さの変化もそんな感じだった、ように思えてくる。
「そんな巨人、伝承とか伝説とか神話とか、この辺にあるんですか?」
考え込むユモにかわって、ユキがチャックに聞く。
「ない。地中に埋まる巨人の話というのは、聞いた事がない」
「巨人そのものは、無くもないです」
雪を踏む足音と共に近づいてきたオーガストの声が、そう言って話に割り込んだ。
「スティーブは?」
顔を上げたチャックに、オーガストは微笑んで、
「縫合は終わりました。消毒しましたから、なるべく綺麗な下着を着せて下さい。それから」
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