金色にして漆黒の獣魔女、蝕甚を貫きて時空を渡る -Eine Hexenbiest in Gold und Schwarz-

二式大型七面鳥

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第六章 月齢0ー朔の月ー

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「ジュモー……何故、ここに……」
 その金髪の少女が、プロイセンの軍服に似たロングコートを着た少女がユモである事に気付き、スティーブは声をかけた。
「ユモよ。……騙したみたいでごめんなさい、ジュモーは仮の名前」
 邪な気配のする方向を見据えたままそう言ったユモは、スティーブに振り向き、微笑む。
「あたしは、ユモ・タンカ・ツマンスカヤ。それが、あたしの正しい名前」
 言いながら、ユモは、雪原に倒れた男に近寄る。
「……父と子と精霊の御名において。この者の魂が、あるべき場所に帰らんことを。アテー マルクト ヴェ・ゲブラー ヴェ・ゲドラー レ・オラーム・エイメン……」
 簡単に、質素に、精霊にユモが願ったそのまじないの大半は、簡単であるが故に、スティーブにも聞き取れ、理解出来るものだった。
「……死んだのか?」
 腰から抜いた銃剣バヨネットで十字を切ったユモに、スティーブは尋ねた。
「さっきまでのアレを、生きていると言うならね」
「あの、人だか狼だか分からないのが、殺した、のか?」
 ユモは、聞かれて、スティーブに振り向く。
「動きを止めただけ。ユキにあんな事が出来るなんて、ちょっと見直したわ」
「待て、今、なんと?」
 スティーブは、ユモの言葉に、理解出来ない一節があった。
「ユキ?ユキもここに居るのか……いや、まさか?そんな?」
 質問しながらその意味を反芻したスティーブは、ユモの言葉を額面通りに受け取ればそうなる、という結論に達し、しかし理性がそれに納得することを拒む。
「本人に聞くと良いわ……ほら、帰って来た」
 遠くの人影を顎で指し、腰に手を当てたユモはスティーブに言ってから、その遠くの人影に尋ねる。
「首尾は?」
「三人。とりあえずこれでこの周りはしばらく大丈夫そうよ、他にも倒れて動いてるのはまだ居るけど、害にはならなさそうね」
 白い棒を肩に担いで歩いてきた、スカートを履いた女の子のシルエットの人影は、スティーブの前で、その棒を血振りし、その先を左の掌に当てる。どんな手品か、その棒はするすると掌の中に吸い込まれ、消える。
「怪我はなかったですか?オースチンさん?」
 微笑みかけつつ聞く、その声。それは確かにユキのもの。しかし、その姿は……混乱する頭で、スティーブは考え、聞く。
「ああ、いや、俺は大丈夫だけど、ユキ、君は……君は、本当に、ユキ、なのか?」
「え?……ああ……」
 雪風は、自分の体を見下ろす。学校指定の黒いセーラー服に包まれ、その下の素肌に漆黒の毛皮を纏う、自分の体を。
「すみません、スティーブさん。これが、あたしです……黙ってて、ごめんなさい」
「い、いや……」
 何を、謝るんだ?スティーブは、自分の思考が停止している事に気付かず、しかし、思う。ユキは、怪物モンスターだったのか?しかし……
「ユキ、君は、一体……」
「あたしは、人狼ひとおおかみ、です」
 寂しげに微笑んで、雪風はスティーブの聞きたいことに答える。
 その哀しげな目を見て、スティーブは気付いた。ああ、この目は、この獣毛の下の顔は、心は、ユキなんだ、と。
「見苦しいですよね?見たくないでしょうから、消えます……ユモ、話ついたら呼んで」
「ま、待て、待ってくれ」
 即座に踵を返して森に入ろうとするユキに、スティーブは慌てて声をかける。
「君は、さっき、俺を助けてくれた、そうだよな?」
「え?ええ、まあ……」
 ちょっとだけ立ち止まり、振り向いて返事した雪風に、スティーブは畳みかける。
「礼を言わせてくれ。ありがとう、本当に助かった。それから」
 伝えなければならない。スティーブは、矢継ぎ早に言葉を繋ぐ。
「俺は、君を見苦しいなんて思ってない。そりゃびっくりはしたが……」
「……だってさ。あんたもわざとその格好のままで居ないで、さっさと人の姿に戻りなさいよ」
 スティーブの言葉の隙を突いて、ユモが雪風をジト目で睨みながら、少々きつめの言葉をかける。
「……」
 振り向いたままの雪風は、ため息をつくと、すっと姿を変える。漆黒の獣毛が消え去り、そこに立って居るのは、セーラー服を着た、黒髪のただの女子中学生だった。
「あんた、気にしてるのは分かるけど、そういうとこ、ちょっと卑屈よ?」
「……色々あったのよ、卑屈になりたくもなるくらいにはね」
 腕組みして諫めるユモに、嘆息して肩を落とした雪風が答えた。

「イタクァに、謎の男に、ペンダントの男。そして、君たちは……人狼ウェアウォーフ魔女ウィッチ……」
 ユモがキャンプ周辺半径100m程を『聖別』している間、雪風からここに来るまでの経緯いきさつをかいつまんで説明されたスティーブは、やや脱力した様子でかぶりを振る。
「……とても信じられないよ。さっきのを、この目で見ていなければ、ね」
「お見苦しいものをお見せしました」
 肩をすくめて言ったスティーブに、半ば本気で雪風は謝る。
「日本人はすぐ謝るってママムティが言ってたけど、本当ね」
 ちょうど、一仕事終えて戻ってきたユモが、辛口のコメントをつぶやく。かなりの広範囲に『祝福』を与えたため、触媒に使った塩や聖灰が塵となり、まだわずかにユモの周りに漂い、淡く光っている。
「そうだぞ。実際、俺はあんなに大きくて、黒くて、美しい狼は見たことがない。自分の語彙力がないのが悔しいが、それくらい、綺麗だった」
「そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいな」
 雪風は、少し肩をすくめつつ、ちょっと恥ずかしそうに微笑む。
「あたしの親戚の中で、あたしだけが黒いんです。あたしの家系はみんな栗毛、濃い茶色の毛色なんですけど。普段も、獣の姿でも。あたしだけ、パパの黒髪を継いでて」
「そういえば、日本人ってみんな黒髪なんだっけ?」
「そうよ、ま、今時は染めてたり脱色したり割といろいろだけど。あたしも、もっとちっちゃいころはママや叔母さん達と髪の色が違うの、ちょっと気にしてたけど。今は気に入ってる」
 そう言って、雪風は、自分の髪を指でく。
「……そういうところも、おんなじなのね」
 ユモは、ぼそっとつぶやく。
「え?」
 耳ざとく聞こえた雪風が、聞き返す。
「だから、髪の話。あたしも、ママムティは黒髪なの。これは、パパファティの遺伝」
 ユモも、自分の長い金髪を手櫛でかしつつ、言う。
「ご丁寧に、ここの色が違うところはママムティと一緒なの。だから、あたしは、ママムティパパファティの両方のいいとこどり」
 そう言って、自分の左こめかみあたりの、そこだけ黒い一房の髪をなでたユモは、腰に手を当てて胸を張る。
「あんたも、あんたの両親のいいとこどり。そうでしょ?」
「もちろん、その通りよ」
 雪風は、ユモの言葉に頷く。
「で、その両親のいいとこどりのお嬢……小さなレディ二人は、一体何しにここに戻って来たんだい?」
 スティーブの質問に、一旦顔を見合わせた二人を代表して、ユモが答えた。
「オーガストからニーマントを取り返すためよ」

「ニーマント?……ああ、ペンダントか」
 まだそのあたりが頭の中で繋がらないスティーブが、言葉に出して確認する。
「取り返すって、じゃあ、大尉がここに来るのかい?」
「そのはずよ」
 素朴なスティーブの疑問に、ユモが即答する。
「正確には、ここじゃなくてあの洞窟だと思うけど。あいつ・・・の言うことを信じるなら、来るわ。今、どこで何してるのかは知らないけど。問題は……」
 ユモは、言いながら北の方角に目をやる。
「……いつ来るか、だけど」
「朝ってのが何時なのか、具体的に分からないのが、ちょっとアレよね……」
 ユモの愚痴に、雪風もつきあう。
「まあいいわ。ここら辺は聖別したから、スティーブ、あんたはここを動かないで」
「え?」
「じゃあ、ユキ、行くわよ?」
「オーケー。おんぶと抱っこ、どっちが良い?」
「って、何よ、その格好のまんまで行く気?」
「だって、あとひとっ走りだし、脱いだり着たりめんどくさいもん」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 小娘二人の話に置いてけぼりのスティーブが、あわてて話に割り込む。
「今から、あの洞窟に行くのか?女の子二人だけで?」
「そうよ?」
「馬も無しに?」
「馬より速いわよ?ユキの足は」
「いやまあ、二本足だとそこまでじゃないけど」
「いや……しかし……」
 止めろとか、無茶だとか、そういった言葉がスティーブの頭の中に浮かぶ。
 しかし。言っても意味が無い、止めることなんて出来ない、そんな事も、スティーブは感じる。少なくとも、今、彼女たちの勢いを削ぐのは、得策じゃない。
「……わかった。正直、何がどうなってるのか、俺にはさっぱり分からない。何をするのが正しいのかも、な。だから、君たちが大尉を止めるのを止めたりはしない」
「あら、別にあたし達、オーガストを止めるつもりはないわよ?」
「……え?」
 雪風から聞いた概容で、てっきり、何かとち狂ってしまったオーガスト大尉を正気に戻してペンダントを返してもらうものだとばかり思っていたスティーブは、ユモにあっさり否定されてちょっとうろたえる。
「オーガストだっていい歳の大人でしょ?大人が自分で決めたことだもの、子供のあたし達がどうこうする話じゃないわ」
 普段は子供扱いすると怒るくせに、こういう時だけは都合よく自ら子供と言い張ったユモは、そう言って面倒くさそうに手を振る。
「あたし達は、自分達の居た世界に戻りたいだけなんです。正直、オーガストさんをどうこうっていう余計な手間まで背負い込む余裕は無いです」
 雪風も、ちょっと申し訳なさそうに言う。
「出来れば、手荒なことはしたくないし……イタクァもあいつ・・・も、居ないといいんだけど」
「同感だけど、多分無理よね」
 ユモは、腕組みして言った。
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