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王都学園編

エリナ

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『祝福の儀』当日、私は幼馴染と一緒に王都へ行く約束をしていて、今その子の家の前にいる。

 私とその幼馴染の家は隣同士で小さい頃からよく遊んでいた。

 私はドアをノックし家の中に入る。すると其処には、銀髪の女性―――私の幼馴染の母親であるリーザ叔母さんが忙しそうに家事をしていた。

  「叔母さん!おはよー!アル君居る~~?」

 私の声に反応した叔母さんは、顔だけを私の方に向けて言った。

  「あら、おはようエリナちゃん。ごめんね~アルスったらまだ寝てるのよ。私も今家事で手を離せなくて………悪いけどエリナちゃんあの子を起こすの頼めないかしら?」

 アルス―――それが私の幼馴染と名前。私は親しみを込めて彼のことを何時も"アル君"と呼んでる。

  「え~アル君まだ寝てるの!?……分かったよ叔母さん。私がアル君を叩き起こしてくるね!」
  「ふふっ……じゃあよろしくね?」
  「は~い」

 ♢♢♢♢♢♢

 叔母さんに挨拶をし終えた私は、アル君を起こすために彼の部屋へと向かう。

 彼の部屋の入り口にはドアがあり、この家に入った時の様にドアをノックし彼の部屋に入る。

  部屋に入り最初に眼に映ったのは、布団を掛け、ベットで寝ているアル君の姿だった。

  「はぁ~、本当にまだ寝てるよ」

 私は彼がまだ寝ている事に少し呆れつつも、なんとか起こそうと彼の身体を揺さぶり始める。

  「……ほらアル君起きて!もう朝だよ!早くしないと馬車出ちゃうよ!!」
  「う、う~」

  (……駄目だ…全然起きないよ~………そう言えば、アル君の寝顔ってあんまり観たことないよね……ちょ、ちょっとくらい観ても……いいよね?あ、アル君が起きないのが悪いんだからね!……)

 少しの罪悪感を感じながらも好奇心に勝つ事は出来ず、アル君の顔を覗き込む。

  (……うなされてる?)

 気持ちよさそうに寝てると思っていたアル君の寝顔は、なんだか苦しそうな表情をしていた。

  (怖い夢でも観てるのかな……?だったら尚更早く起こしてあげなきゃ!)

 そう思った私は、アル君の身体を先程よりも強く揺さぶる。―――すると彼の瞼が重そうにゆっくり開いていく。
 
  「うぅ…眩しい…」

 日光が当たり、視界が一気に明るくなったせいか、彼は眼を少し細めてそんな事を呟いた。

  「あぁー!やっと起きたぁ!もう遅いよぉ~」

 私が声を掛けてもまだ完全に眼を覚ましてないのか、ぼぅっとしてる。

 叔母さん譲りの銀色の髪は寝癖で酷く乱れていて、叔父さん譲りの鋭い眼も今は眠そうに細めている。あと、左眼の横にある小さい泣きぼくろが可愛いんだよね――――ってそんな事を考えてる場合じゃなかった!ちゃんと起こさなきゃ!――――あれ?なんか布団に手を掛けてまたベットに横になり始めたんだけど……気のせいかな?また寝ようとるしてる気がするんだけど………あっ!眼を閉じたよ!?気のせいじゃなかったよ!また寝ようとしてるよ!

  「………って何でまた寝ようとしてるの!起きて!」

 ♢♢♢♢♢♢


 アル君が王都へ行く準備をしている間私は外で待つ事にし、今私は玄関先のベンチに腰掛けている。

 彼を待っている間時間を持て余してしまい、私はふと最近の事を思い出す。

 最近アル君の様子が何処かおかしい気がする。朝起きるのも遅くなってるし、なにも今日に限っての話じゃなくここ二週間位アル君と出掛けたりする時は必ず私が起こしに行っている。それまではこんな事はなく、何時も私よりも早く家の前で待ってくれていた。―――だから今日思い切って聞いてみたら、アル君は「最近夜更かししてる」と応えたけど、―――あれは嘘だ。

 私には分かる。いったい何年幼馴染やってると思ってるの?―――それに視線を逸らしたアル君の表情が一瞬曇っていたのが観えたもん。けど私の方に視線を戻した時にはいつも通りの表情に戻っていた……多分あまり心配させたくなかったのかもしれない。

 だから私もそれ以上は聞かない様にした。それにいくら幼馴染でも秘密の一つや二つはあると思うから、あまり踏み込まない様にした。――――けど、本当にそれで良いのかな?たとえ強引にでも話させないと後々後悔するような―――そんな暗い気持ちが沸々と湧いてきた。

 物思いにふけていた私は、突然家のドアの方からガチャリと音がしたのが聞こえ我にかった。

 するとドアの方からアル君が声を掛けてきた。

  「ごめん。待たせた」
  「ううん、大丈夫だよ!」

  (……今そんな事を考えても仕方がないよね……それに今日は大事な日なんだから!あんまり暗い事考えてちゃ駄目だよね!)

  「……よし!じゃあ行こ?早くしないと馬車が出発しちゃうよ!」

 暗い気持ちを頭から振り払う様にアル君の手を勢いよく掴んで馬車の在る方へと走り出した。
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