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ヴァルシャ帝国編

散策

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 地下室を後にし外に出ると、すっかり日が落ちており、辺りは暗く、そして鈴虫たちのまるでオルゴールの様に聞いていて心地よい合唱だけが聞こえる静かな夜が俺たちを迎えた。

 今から動き出すにしても夜闇の所為でほとんど周りが見えなくて危ない為、今日は此処で一夜を明かすとしよう。

 思えば、早く迷宮を攻略しようという想いが何処かにあったのか、まともな休息をあまり取っていなかった様な気がする。だから夜が明けるまでしっかりと身体を休めよう。

 因みに俺たちがいた地下室は、小さな倉庫の様な建物の中にあった。




 そして迎えた翌日。


 昨日とは打って変わって、空は雲ひとつなく冴え渡っており、抜けるような青さに澄み切った快晴であった。更に昨日は暗い所為で気付かなかったが、どうやら此処は森の中らしく辺りは草木に囲まれていた。
 そんな中、俺たちをまぶしく照らす日差しはまるで迷宮を攻略したことに対しての祝福かのように感じ、何とも晴れやかな気持ちになる。

 そんな気持ちを味わいながら俺たちは、この森から抜け出すべく歩き始めた。当然森の中には魔物が存在しており、其奴らの相手をしながら進んでいった。
 魔物は、地下室があった倉庫から距離が近いほど強力で、レベル80代は優に越えていて、まるで倉庫を守っているかのように感じた。

 それらを相手とる際に地下室で受け取った二つの報酬は、良い結果を出してくれた。トレンチコートは、手紙に書いてあったように魔力を流すと障壁が発生して、魔物の攻撃を防いでくれた。そして元日本人ということもあってか、叩くイメージの強い剣よりも、切るというイメージが強い刀の方が良く手に馴染んだ。

 そして何より、並みの冒険者ならともかく、百階層のカオスネグロを倒した俺たちにはたいした的ではなく、難なく進む事ができた。

 因みにこれがカオスネグロを倒してレベルが上がった今の俺たちのステータスだ。

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 アルス (人族) Lv105

  【体力】 10500(+5210)

  【魔力】 9500(+4100)

  【技能】 《不老不死》 《?????》 《飛剣》《空絶》《ヘイトアップ》《空歩》《瞬歩》《弱点突破》《観察眼》


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 リリム (上位悪魔) Lv104

  【体力】 10420

  【魔力】 8200

  【技能】 《血液操作》《血の契約》 《物理耐性Lv10》 《魔力耐性Lv8》《鉄塊》


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 閑話休題


 森を散策し始めてから早四時間。
 正午を迎え、太陽が天に届くほどの高さまでのぼった頃、森の草木などで辺り一帯が碧色の世界に、遂に他の色が差し掛かった。
 それは、散策の終わりを意味し、もうすぐ森を抜け出る事ができるという事だ。

 ようやく人里に出れる―――そう思うと自然と気持ちが高鳴り、進む足取りが軽いものになっていく。





「……ん?なんか聞こえないか?」
「確かに…誰か戦っているのか?」

 エリナの言うようにまるで戦っているかのような、金属同士がぶつかり合う音や、何者かの怒号がかすかに聞こえてくる。
 それは森の出口へと近づく程に大きくなり、もはや聞き逃すなど有り得ないくらい耳奥に響いて来る。

「なんかヤバそうな気がするな……急ぐぞリリム!」
「うむ!」
 
 最早先程までの穏やかな気持ちは何処へやら、自分が想像する最悪な事態になっていない事を祈りながら急げ急げと俺たちは、元凶を確認するべく森の中を駆け抜けていく。

 やがて森を抜け出ると、遂に事の元凶が視界に映った。

「やっぱりあるんだな、こう言う展開………」

 やはりと言うべきか、想像した通りそこでは異世界モノのテンプレ的事態が起きていたのだ―――そう、馬車に乗る商人と数人の護衛が盗賊に襲われていると言う事態が―――。
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