10のベッドシーン【R18】

日下奈緒

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その瞳の奥に、恋を落とした夜

その日は朝からどんよりした空で、昼過ぎには本格的に降り出していた。

夕方、客先からの帰り道、傘を持たなかった私は、駅までの道を小走りで駆けていた。

髪もスーツも濡れていく感覚に、なんだか泣きたいような気持ちになっていた。

人混みに紛れて歩いていると、目の前に傘が差し出された。

紺色の大きな傘。

ふと顔を上げると、そこにいたのは──

「神崎先輩。びしょ濡れじゃないですか。」

桐谷悠真だった。

相変わらず、子犬みたいな優しい目で私を見ている。

「……なんでここに?」

「先輩、今日あのクライアントに行くって言ってたから。雨だし、きっと傘持ってないだろうなって思って。……勝手に来て、すみません。」

そう言って、彼は笑った。

少し照れくさそうに、でも真っ直ぐな顔で。

私はその場で立ち尽くしてしまった。胸がぎゅっと締めつけられた。

「……バカじゃないの。」

そう言うのがやっとだった。

なのに、涙がこぼれてきた。

自分でも驚くくらい、あっけなく。


「……あ、ごめん……」

「……神崎先輩……?」

見られたくなかった。

泣き顔なんて、絶対見せたくなかった。

強くて、クールで、何も動じない私のままでいたかったのに。

けれど、彼の傘の下、彼の優しさの中で、私は崩れてしまった。


「好きになるのが、怖いだけなの。」

小さく漏れたその言葉に、自分が一番驚いた。

誰にも言ったことがなかった。

過去に傷ついたことを、ずっと心にしまって、誰にも触れさせないようにしてきた。

「昔、信じてた人に裏切られて、それから……恋愛なんて、しなくてもいいって思った。だから、あなたが優しくしてくれるのが……つらかったの。」

悠真は黙って、私の話を聞いていた。私の目を見て、逃げずに。

「でもね、今日、傘を持って迎えに来てくれて──なんで、そんなに私を気にかけるのか、わからない。」

「それは……」

悠真は小さく息を吸い、静かに言った。

「だって、好きだからです。最初は、綺麗な人だなって思って。次に、ちゃんと話してみたくなって。そのうち、先輩の強がりも、真面目なとこも、全部好きになってました。」

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