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第二章 復讐のための婚約 ①
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そして、翌日。
カイル殿下が、我がルヴァリエ家の屋敷に現れた。
「久しぶりです。」
玄関ホールに現れた殿下に、父と母は目を見張る。
第2皇子の突然の訪問など、そうあることではない。
「こ、これは……これはこれは、カイル殿下……!」
「本日は、いったいどのようなご用事で……?」
かつて父が王国の文部大臣を務めていた頃、我が家と殿下の縁は深かった。
けれど、あれから数年。今や私たちは、対等に言葉を交わせる立場ではない。
それでも、殿下はいつも通りの笑みで口を開いた。
「セレナ。おいで。」
その声に名を呼ばれた私は、驚きながらもしずしずと歩み寄る。
カイル殿下の隣に立ったとき──
「っ……!」
彼は、なんとその場で片膝をついた。
「殿下⁉」
母の叫びにも似た声が響く。
父は息を詰め、使用人たちのざわめきが遠くから聞こえた。
けれど、殿下は静かに、そして確かに言葉を紡いだ。
そして、カイル殿下は確かにその言葉を紡いだ。
「ルヴァリエ公爵令嬢、セレナ・ルヴァリエ。──私と結婚してください。」
その一言に、心臓が跳ねる。
まるで、本物の求婚のように、堂々と、真っ直ぐに。
ドキッとした。
わかっている。これは、ユリウスを見返すための“偽りの婚約”。
それでも──胸が高鳴るのを、止めることはできなかった。
けれど、私以上に驚いていたのは、両親だった。
「……えええええ⁉」
父の声が、屋敷中に響き渡る。
その場に崩れるように腰を抜かし、ソファにもたれ込む。
「カ、カイル殿下が……我が娘を……⁉」
「セレナを……見初めた……ですって……⁉」
母もおろおろと顔を真っ青にして、口元を押さえている。
「わ、わたくしどもは……とても、殿下のようなお方に、娘を……っ!」
「そんな、お受けできるような話では──っ!」
混乱する両親に、カイル殿下は穏やかに言葉を重ねた。
「もちろん、急な話だとは承知しています。ただ……彼女を、正式にお迎えしたい。それだけは、真剣に申し上げています。」
──真剣に。
たとえそれが“復讐のため”だったとしても。
その声音に込められた想いは、決して軽いものではなかった。
私は、ただ黙って彼の背中を見つめていた。
「い、いつですか……!?」
父が、震える声で問いかけた。
「いつ娘を見初めたのですか?」
その表情は、半信半疑どころか、本気で疑っている。
……当然だ。
父自身が、私と殿下の距離を置かせるよう取り計らった張本人なのだから。
こうなるのを恐れて、あえて距離を取ったのに──まさか本当に、殿下が“婚約者”になるなんて。
「いつ……というわけではありませんが、強いて言えば──」
カイル殿下は、少しだけ考える素振りを見せたあと、やわらかく微笑んだ。
カイル殿下が、我がルヴァリエ家の屋敷に現れた。
「久しぶりです。」
玄関ホールに現れた殿下に、父と母は目を見張る。
第2皇子の突然の訪問など、そうあることではない。
「こ、これは……これはこれは、カイル殿下……!」
「本日は、いったいどのようなご用事で……?」
かつて父が王国の文部大臣を務めていた頃、我が家と殿下の縁は深かった。
けれど、あれから数年。今や私たちは、対等に言葉を交わせる立場ではない。
それでも、殿下はいつも通りの笑みで口を開いた。
「セレナ。おいで。」
その声に名を呼ばれた私は、驚きながらもしずしずと歩み寄る。
カイル殿下の隣に立ったとき──
「っ……!」
彼は、なんとその場で片膝をついた。
「殿下⁉」
母の叫びにも似た声が響く。
父は息を詰め、使用人たちのざわめきが遠くから聞こえた。
けれど、殿下は静かに、そして確かに言葉を紡いだ。
そして、カイル殿下は確かにその言葉を紡いだ。
「ルヴァリエ公爵令嬢、セレナ・ルヴァリエ。──私と結婚してください。」
その一言に、心臓が跳ねる。
まるで、本物の求婚のように、堂々と、真っ直ぐに。
ドキッとした。
わかっている。これは、ユリウスを見返すための“偽りの婚約”。
それでも──胸が高鳴るのを、止めることはできなかった。
けれど、私以上に驚いていたのは、両親だった。
「……えええええ⁉」
父の声が、屋敷中に響き渡る。
その場に崩れるように腰を抜かし、ソファにもたれ込む。
「カ、カイル殿下が……我が娘を……⁉」
「セレナを……見初めた……ですって……⁉」
母もおろおろと顔を真っ青にして、口元を押さえている。
「わ、わたくしどもは……とても、殿下のようなお方に、娘を……っ!」
「そんな、お受けできるような話では──っ!」
混乱する両親に、カイル殿下は穏やかに言葉を重ねた。
「もちろん、急な話だとは承知しています。ただ……彼女を、正式にお迎えしたい。それだけは、真剣に申し上げています。」
──真剣に。
たとえそれが“復讐のため”だったとしても。
その声音に込められた想いは、決して軽いものではなかった。
私は、ただ黙って彼の背中を見つめていた。
「い、いつですか……!?」
父が、震える声で問いかけた。
「いつ娘を見初めたのですか?」
その表情は、半信半疑どころか、本気で疑っている。
……当然だ。
父自身が、私と殿下の距離を置かせるよう取り計らった張本人なのだから。
こうなるのを恐れて、あえて距離を取ったのに──まさか本当に、殿下が“婚約者”になるなんて。
「いつ……というわけではありませんが、強いて言えば──」
カイル殿下は、少しだけ考える素振りを見せたあと、やわらかく微笑んだ。
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