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第3章 拾われた妃 ②
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ひとり言のように呟く。
後宮の一角から妃がいなくなるなど、きっと大ごとだ。
あの夜、皇帝の寝所に現れなかった妃として、私はどう見られているのだろう。
そんな思考を振り払うように、襖の向こうから声がかかった。
「翠蘭様。お食事のご用意ができております。」
柔らかく、丁寧な声だった。
襖が開き、ひとりの若い侍女が現れた。
「本日より、翠蘭様のお世話をさせていただきます。**藍香(らんこう)**と申します。どうぞ、お見知りおきを。」
綺麗にお辞儀をする彼女の姿に、私はそっと微笑んだ。
「ええ。よろしくね、藍香。」
誰かの命令ではなく、私の意志で選んだ場所で、私の名を、“翠蘭様”と呼ぶ声が、少しだけ胸に沁みた。
私は身支度を整え、藍香の案内で食事処へと向かった。
この朝が、“妃”としての私ではなく、“翠蘭”としての私の、始まりになるのかもしれない――
そんな予感がしていた。
朝の光が障子越しに差し込む中、案内された食事処には、すでに景文がいた。
白い湯気を立てる朝粥の膳が、二人分。
「……あなたと、一緒に食べるの?」
問いかける私に、景文は箸を手にしたまま頷いた。
「ああ。」
簡潔な返事だったが、その声にはどこか穏やかな温度があった。
私たちは向かい合って、ふたりきりで静かに朝粥を口に運んだ。
温かいはずの粥が、どうしてこんなに喉につかえるのだろう。
「……あの。」
私は箸を置き、言葉を探す。
「皇帝の妃がいなくなったら、どうなるのかしら。」
景文は一瞬だけ箸を止めた。
「……ああ、探すだろうな。皇帝の寝所に現れなかった妃が、翌朝姿を消していたら――さすがに、ね。」
やっぱり。
でも、きっと私がここにいるとは思わない。
後宮の誰も、文部大臣の屋敷に妃が身を寄せているなんて想像しないはず。
私は、もうひとつ気になっていたことを問いかけた。
「……あなたの屋敷にいたと分かれば、あなたはどうなるの?」
景文は、粥椀をそっと膳に戻した。
それから、いつになく冷静な口調で言った。
「皇帝の妃に手を付けたとされれば――打ち首、だろうな。」
心臓がひゅっと縮んだ気がした。
あまりにあっけなく、けれど冗談めかしていない。
本当にその覚悟をしている声だった。
私は何も言えなかった。
自分のわがままのために、彼が命を賭けている現実を、ようやく思い知った。
静かな朝の膳を前にして、私はついに、自分のしでかしたことの重さに気づいた。
「……私、今日帰るわ。」
口に出した瞬間、声が震えた。
「あなたが、そんな目に遭うなんて……耐えられないもの。」
皇帝の妃である私を庇ったことで、もし景文が“打ち首”なんてことになれば――
きっと私は、一生後悔する。
後宮の一角から妃がいなくなるなど、きっと大ごとだ。
あの夜、皇帝の寝所に現れなかった妃として、私はどう見られているのだろう。
そんな思考を振り払うように、襖の向こうから声がかかった。
「翠蘭様。お食事のご用意ができております。」
柔らかく、丁寧な声だった。
襖が開き、ひとりの若い侍女が現れた。
「本日より、翠蘭様のお世話をさせていただきます。**藍香(らんこう)**と申します。どうぞ、お見知りおきを。」
綺麗にお辞儀をする彼女の姿に、私はそっと微笑んだ。
「ええ。よろしくね、藍香。」
誰かの命令ではなく、私の意志で選んだ場所で、私の名を、“翠蘭様”と呼ぶ声が、少しだけ胸に沁みた。
私は身支度を整え、藍香の案内で食事処へと向かった。
この朝が、“妃”としての私ではなく、“翠蘭”としての私の、始まりになるのかもしれない――
そんな予感がしていた。
朝の光が障子越しに差し込む中、案内された食事処には、すでに景文がいた。
白い湯気を立てる朝粥の膳が、二人分。
「……あなたと、一緒に食べるの?」
問いかける私に、景文は箸を手にしたまま頷いた。
「ああ。」
簡潔な返事だったが、その声にはどこか穏やかな温度があった。
私たちは向かい合って、ふたりきりで静かに朝粥を口に運んだ。
温かいはずの粥が、どうしてこんなに喉につかえるのだろう。
「……あの。」
私は箸を置き、言葉を探す。
「皇帝の妃がいなくなったら、どうなるのかしら。」
景文は一瞬だけ箸を止めた。
「……ああ、探すだろうな。皇帝の寝所に現れなかった妃が、翌朝姿を消していたら――さすがに、ね。」
やっぱり。
でも、きっと私がここにいるとは思わない。
後宮の誰も、文部大臣の屋敷に妃が身を寄せているなんて想像しないはず。
私は、もうひとつ気になっていたことを問いかけた。
「……あなたの屋敷にいたと分かれば、あなたはどうなるの?」
景文は、粥椀をそっと膳に戻した。
それから、いつになく冷静な口調で言った。
「皇帝の妃に手を付けたとされれば――打ち首、だろうな。」
心臓がひゅっと縮んだ気がした。
あまりにあっけなく、けれど冗談めかしていない。
本当にその覚悟をしている声だった。
私は何も言えなかった。
自分のわがままのために、彼が命を賭けている現実を、ようやく思い知った。
静かな朝の膳を前にして、私はついに、自分のしでかしたことの重さに気づいた。
「……私、今日帰るわ。」
口に出した瞬間、声が震えた。
「あなたが、そんな目に遭うなんて……耐えられないもの。」
皇帝の妃である私を庇ったことで、もし景文が“打ち首”なんてことになれば――
きっと私は、一生後悔する。
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