お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒

文字の大きさ
27 / 35

第8章 選ばれるのは誰か ①

しおりを挟む
そして正式に、景文は「第四皇子・李景文」として、皇帝の李家へと籍を移された。

かつての「周 景文」という名は、今や歴史の片隅にそっと仕舞われる。

「俺としては、周のままの方が気楽でよかったんだけどな……」

肩を竦めながらも、新たに与えられた立派な宮殿の広間を見渡す景文は、どこか落ち着かない様子だった。

煌びやかな調度品、重厚な調香、完璧な礼法を備えた宦官や侍女たち。

「……あーあ、これで俺も本格的に政治介入か。」

新しく与えられた書斎の机に腰を下ろし、手元に置かれた詔書や奏状をめくりながら、景文はため息を漏らした。

私はその様子を少し離れて、微笑んで見ていた。

「殿下。」

そう呼びかけて、そっと景文の背中に手を置くと――

「……止せ。」

彼は振り向かずに、少しだけ声を低くする。

「景文でいい。」

その言葉に、私は小さく笑った。

「ふふふ。なんだか照れてらっしゃるようにも見えますが。」

「照れてなどいない。」

「でも、耳が赤い。」

「……うるさい。」

景文は顔を背けたまま、苦笑して肩を揺らす。

その背に、私は頬を寄せた。

その背に、私は頬を寄せた。

「本当によかったのですか?第四皇子になって。」

静かにそう問いかけると、景文は振り向きもせず、私の手に自分の手を重ねた。

その掌は温かくて、力強い。

「そなたを得るためだ。後悔などしていない。」

ぽつりと、けれど確かな覚悟を込めて、彼は言った。

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

――この人は、本当に私のためにすべてを差し出してくれた。

もしかしたら、陛下のご子息であると名乗らずとも、文部大臣として立派に生きていけたかもしれない。

それでも彼は、私のために、自らの出自をさらし、父にひざまずき、皇子としての人生を選んだ。

その優しさと強さが、何より私を守ってくれる。

「時期に、翠蘭には俺の妃になる許可が出る。」

そっと囁かれた言葉に、私は頷いた。

「ええ。」

「そうなったら、そなたはまた王族の妃だ。」

その声には、どこか誇らしげな響きがあった。

だが私は、そっと彼の胸に手を置いて言う。

「でも、今度は違います。」

「ん?」

「今度の私は、愛している人の妃です。」

景文がゆっくりと私を振り返った。

そして、深い瞳で私を見つめる。

「……その言葉だけで、俺は何よりの褒美を得た気分だ。」

ふたりの間に、柔らかな笑みが咲いた。

名も、地位も、肩書も越えて。

ただ、ひとりの男と女として。

私たちは、ようやく本当の夫婦になる。

「ところで、寝所なのだが。」

夕餉の後、少し緊張した面持ちで景文が言った。咳払いまでして、妙に改まっている。

「妃の許可が出るまで、寝所を共にすることができない。」

「えっ⁉」

思わず声を上げてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

お飾り王妃だって幸せを望んでも構わないでしょう?

基本二度寝
恋愛
王太子だったベアディスは結婚し即位した。 彼の妻となった王妃サリーシアは今日もため息を吐いている。 仕事は有能でも、ベアディスとサリーシアは性格が合わないのだ。 王は今日も愛妾のもとへ通う。 妃はそれは構わないと思っている。 元々学園時代に、今の愛妾である男爵令嬢リリネーゼと結ばれたいがために王はサリーシアに婚約破棄を突きつけた。 しかし、実際サリーシアが居なくなれば教育もままなっていないリリネーゼが彼女同様の公務が行えるはずもなく。 廃嫡を回避するために、ベアディスは恥知らずにもサリーシアにお飾り妃となれと命じた。 王家の臣下にしかなかった公爵家がそれを拒むこともできず、サリーシアはお飾り王妃となった。 しかし、彼女は自身が幸せになる事を諦めたわけではない。 虎視眈々と、離縁を計画していたのであった。 ※初っ端から乳弄られてます

【完結】夢見たものは…

伽羅
恋愛
公爵令嬢であるリリアーナは王太子アロイスが好きだったが、彼は恋愛関係にあった伯爵令嬢ルイーズを選んだ。 アロイスを諦めきれないまま、家の為に何処かに嫁がされるのを覚悟していたが、何故か父親はそれをしなかった。 そんな父親を訝しく思っていたが、アロイスの結婚から三年後、父親がある行動に出た。 「みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る」で出てきたガヴェニャック王国の国王の側妃リリアーナの話を掘り下げてみました。 ハッピーエンドではありません。

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或
恋愛
◆第18回恋愛小説大賞で【優秀賞】を戴きました。 ありがとうございました! 「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」 ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。 まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。 彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。 そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。 仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。 そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。 神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。 そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった―― ※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。 ※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

貴方の✕✕、やめます

戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。 貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。 ・・・・・・・・ しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。 それなら私は…

処理中です...