お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒

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第9章 初めての春 ②

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「あっ、お兄ちゃんだー!」

子供たちが一斉に駆け出した先に立っていたのは――景文だった。

春の陽射しを浴びて、白い衣を軽やかに揺らすその姿。

「景文……」

私は、思わずその名を口にしていた。

景文は私に気づくと、にっこりと微笑んだ。

「お兄ちゃんって、やっぱり……景文だったのね。」

そう言うと、彼は小さく肩を竦めて、照れたように笑った。

「はは。せっかくの桃源郷だ。子供がいなくてどうする。」

そう言って彼は膝をつき、小さな子の頭を優しく撫でた。

もう一人の子の手を引いてくるくると回してみせる。

その姿はまるで、本当の父親のようだった。

私は、そんな景文の後ろ姿を静かに見つめた。

「……景文は、子供が好きなの?」

そう尋ねると、彼は子供たちの笑い声の中で少しだけ視線をこちらに戻した。

「俺は、一人っ子だったからね。」

桃源郷の庭で子供たちを見送りながら、景文が空を仰ぐ。

「たくさんの子供を見ると、楽しくなるんだ。……王景殿も、母との間に子は設けなかった。表向きは夫婦でもなかったからね。」

「そう……」

胸がきゅっとする。

堂々と下賜を願い出るべきだ、と言ってくれた王景殿――

あの方もきっと、陛下の妃だった景文の母君を、誰より大切に想していたのだろう。

けれど“持てない愛”は、口に出せないままだった。

私はそっと景文の腕に手を添えた。

「それなら……私は、早く子供を産まなくては。」

思わず口にして、自分で笑ってしまう。胸の奥から、ふっと灯りがともるみたいにやる気が湧いてきた。

「ふふ、俄然やる気が出てきたわ。」

景文がこちらを向く。目じりがやわらかく下がる。

「……多くを頼むよ。」

「ええ、多めにね。」

からかうと、景文は照れたように視線をそらした。

桃の枝の向こうで、さっきの子供たちが振り返り、手を振っている。

私は振り返しながら思った――

次は、私たちの番だ。

しばらくして、私は朝になるたび、決まって吐き気に悩まされるようになっていた。

「うっ……」

桶に顔を入れて、吐き気が過ぎ去るのをじっと待つ。額にはうっすらと汗が滲んでいる。

「食あたりかしら……? でも、私だけなのよね。景文も同じものを食べているのに……」

原因がわからず、不安になる。台所の者たちにも聞いてみたけれど、他に同じ症状の者はいなかった。

「はぁ……いつ治るのかな……」

そんな日が続いたある日、懐かしい客が訪ねてきた。

「王景殿!」

「ああ、沈妃。突然で申し訳ない。」

庭の方から現れた王景殿は、少しばかり気遣うような表情を浮かべていた。私が元気でないことを耳にしたのかもしれない。

「これはこれは、わざわざお越しいただかなくとも……言って下されば、私の方からお伺いしましたのに。」
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